料理対決で見事優勝したソウタのごほうび企画。それは「会いたい人に会う」こと。
彼が希望したのは、こいこと。界隈で一部に熱狂的ファンをもつ謎の詩人・ナツメ。
正直、編集部も「なぜ?」という反応だった。
だがソウタはまっすぐに言った。「あの人のことば、心に残ってるんです」
こうして、ソウタとナツメの“詩的遭遇”が始まった。
謎の詩人・ナツメ現る
「よう来たな。スーハー、空気がプリン味や」
駅前で待ち合わせたソウタに、開口一番ナツメがそう言った。
帽子はカエル柄、手には乳酸菌飲料。足元はなぜか上履きだった。
「今日って寒くない?いや、心があったかいから服いらんかもしれん」
「あ、いや、いりますよね?」
ソウタは戸惑いながらも、どこか楽しそうに笑った。
カフェで語らう、ふたりのポエム魂
ナツメの指定したカフェは、名前も看板もない謎の店。
店内は畳とビーズクッション、BGMは牛の鳴き声だった。
「ここのコーヒー、飲むと記憶がちょっと戻るねん」
「何の記憶ですか?」
「前世でゴリラやった頃の」
ソウタは笑ってしまった。
「ナツメさんって、なんで詩を書くんですか?」
「生きてると、変な気持ちになるやん。スーパーでカブトムシ売ってたり」
「はい」
「でも変って、ええことやろ?詩はその変を育てる温室や」
ソウタの目が真剣になった。
「わかる気がします……。ぼくも、好きな人の声聞いたあと、言葉が頭にわぁって溢れるんです」
「それは恋やな。恋は脳みそに生えたタンポポや」
「え、はい」
ナツメは小さく頷いた。
こいことば、ふたりで紡いでみた
「最後に、一緒に“こいことば”紡いでくれませんか?」
「よかろう。こいの奥にある、アレを出そうか」
ナツメは目を閉じ、深呼吸した。
「恋とは……ニラ玉の、ニラ抜きや」
ソウタは唸った。「わかるような、わからないような……」
「つまり、恋しとるときって、大事なものを見落としてるってことや。ニラ玉にニラ入ってないのに、ウマいって思ってる状態や」
「なるほど……いや、わからないかも」
ふたりは笑い合った。
そして紙ナプキンに、ふたりでひとつのことばを書いた。
恋ってさ、
プリンを箸で食べるみたいなもんだね。
ぐちゃぐちゃだけど、なんかしあわせ。
帰り道、ソウタの心の中
ナツメは別れ際、真剣な表情でこう言った。
「ソウタくん、きみは天然だけど、悪くない。君の詩は心を打つよ。詩をバカにされて恥ずかしいときは僕を思い出せ。僕よりは恥ずかしくないだろう」
ソウタは心から笑って言った。
「ナツメさん……。マイスター……!」
ごほうび企画‥‥。ソウタはかけがえのない物を得られたのかもしれない。
それは“意味不明な幸せ”──
だけど、ちゃんと心に届く、ことばの贈り物だった。