ある初夏の日、編集部のチャイムが鳴った。
訪ねてきたのは、20代後半の女性・リサさん。やや緊張した面持ちで、「マリさんに相談があるんです」と、まっすぐな眼差しを向けてきた。
マリは少し驚きつつも、紅茶を用意しながら微笑む。「もちろん、話してくれるかしら?」
リサさんの悩み「愛されていない気がする」
リサさんの話を聞いてみると、彼とは交際2年目。同い年で、社会人になってから付き合い始めたという。
「優しいんです。でも、最近は会ってもスマホを見てばかりで、好きって言葉も減って…。私、愛されてないのかなって…」
と声を落とすリサさん。
マリは紅茶を差し出しながら、やさしくうなずいた。
「“愛されている”って、言葉より行動で分かることもあるわ。でも…」
そこまで言ったところで、
ドンッ。
編集部のドアが勢いよく開いた。
ナツメ、突如登場。
「恋に不安はつきもんやでぇぇぇ!!」
タコ焼きの袋を片手に現れたのは、界隈では人気の詩人(?)ナツメ。
「えっと…どちら様…?」
リサさんが戸惑うのも当然だ。
「ワイはナツメ。たまたまここ通りかかっただけやけど、悩んどる顔見たら、ほっとけへんやろがい。」
と言いながら、さりげなくリサさんの紅茶をすする。残りは床にばら撒く。
マリは小さくため息をつきながらも「まぁ、座って」とナツメに椅子を差し出す。
不条理カウンセリング、開幕。
「好きって言ってくれへんのやろ?でもな、それって“好き”って言わんでも安心しとる証拠やったりするんよ」
「でも…私ばっかり不安になって、勝手に期待して、勝手に傷ついてるみたいで…」
「せやせや、自家発電タイプやな。あったかいけど、火傷もするやつや」
ナツメのたとえはよく分からないが、リサさんは少しだけ笑った。
マリが補足するように語る。
「誰かと一緒にいる時間が“安心できない”なら、それはサインかもしれない。でも、“安心させてほしい”って気持ちは、ちゃんと相手に伝えてもいいのよ」
「愛されとるか不安やって? ならこう聞いてみ、『私のこと、どう思ってる?』ってな」
「でも、重いって思われないかな…?」
「ほんならこう言うたれ、『この間、夢にマグロが出てきてん。恋愛運が下がるらしいわ』って。そんで『最近どう?』って話題をシフトするんや」
マリが吹き出しながらも、「それ、アプローチとしては…まぁ斬新ね」と笑う。
リサさんの決断
紅茶が冷めてきた頃、リサさんは少しだけ表情を変えて言った。
「もう一度、ちゃんと向き合って話してみようかなって思います。今日、来てよかったです」
マリは静かにうなずいた。
「言葉にするのは勇気がいる。でも、あなたの気持ちは、あなたにしか守れないから」
ナツメはチョコレートを口に放り込みながら、
「恋は、うまくいかんときほど味が深まるんや。煮込みすぎ注意やけどな!」そう言うと、そのままでんぐり返しをしながらどこかへ行ってしまった。
リサさんは最後に深く頭を下げて、編集部をあとにした。
まとめ:不条理な風も、どこかで背中を押す
まっすぐな助言と、不条理な風。
正反対のようでいて、どちらもリサさんの心に何かを残したはず。
「正しさ」や「普通」が通じない恋の悩みに、寄り添うだけじゃない何か。
そんな風に、今日も『こいこと。』編集部には、ちょっと変わった風が吹いている。