──編集部にふらりと現れたナツメと、話し相手になったユウトの会話
【編集部。ある晴れた午後】
ナツメ「こんにちは。僕は三点倒立で現れるナツメです。こんにちは。」
ユウト「わ、びっくりした……いきなり三点倒立って。あぶないですよ?」
ナツメ「安心してください。この世界では重力がナツメに優しい。」
ユウト「今日は関西弁じゃないんですね、ナツメさん?」
ナツメ「今日は“言語”の気分じゃないのです。つまり、風。」
ユウト「風、便利すぎません?ていうか、今日は何しに編集部に?」
ナツメ「結婚について考えていたら、編集部にたどり着いたんです。」
ユウト「それ、まるで“風に吹かれて”みたいに言いますけど。で、結婚について?」
ナツメ「そう、結婚生活。そもそもそれは“生活”なのか、それとも“儀式の延長線”なのか。」
ユウト「うーん、難しい問いですね……僕も、結婚して数年経ちますけど、正直まだ手探りです。」
ナツメ「手探り……ならば手を繋いで歩く迷路かもしれない。誰かと一緒に、壁にぶつかっては笑う道のり。」
ユウト「……なんか、詩的ですね。けど、確かにそうかもしれない。喧嘩もするし、すれ違うときもある。でも、戻ってこれる場所があるって思えるのが“家庭”なのかなって。」
ナツメ「戻ってこれる場所か。では結婚とは、“一緒に還る場所”をつくる行為かもしれない。」
ユウト「……言い方が深いですけど、妙にしっくりきますね。家族って、何があっても“帰っていい”って思わせてくれる存在ですもんね。」
ナツメ「でも帰れないときもある。駅がなくなったり、カバンが鳩になったりして。」
ユウト「カバンが鳩になるって、何ですかその比喩……あ、でもわかる気がします。変わりゆくもののなかで、変わらないものを探すのが結婚生活かも。」
ナツメ「なるほど。では、変わらないものが一つもなかったとしても、それを笑える二人なら、結婚は成立する。」
ユウト「うん、それすごくいいな。正しさじゃなくて、同じ方向を見て笑えるって、夫婦に大事なことだと思います。」
ナツメ「じゃあ僕も誰かと結婚してみようかな。まずは指輪を作らねば。カレーで。」
ユウト「溶けますよ、それ。」
ユウト、ナツメに質問してしまう
ユウトは、そっと湯呑を置いた。
「ナツメさん……ひとつ聞いてもいいですか」
「ええよ。たこ焼きでもバナナでもない質問ならな」
「結婚って、“ずっと一緒にいること”なんですかね?」
ナツメは目を閉じて、しばらく沈黙した。
そして突然、立ち上がり、天井の方を指さした。
「空には雲があるやろ?」
「……ありますね」
「でも、雲はいつか流れていく。それでも空は、空のまんまや。結婚もそういうもんや」
ユウトは一瞬黙って、それから笑った。
「つまり……一緒にいなくても、関係は変わらないってことですか?」
「せやせや。時に消えたと思った雲が、冷蔵庫から出てくることもある。要は“思い出し方”の問題や」
「冷蔵庫!?」
「冷蔵庫のドア開けたら、あの人の好きなプリンが入ってる。その瞬間、愛はふたたび目を覚ますんや」
「はあ……奥が深いんだか浅いんだか……」
ナツメは満足げに頷いた。
「結婚生活はな、プリンみたいなもんや。賞味期限はあるけど、捨てんと、また食べたらええんや」
ユウトは大きく頷きながら、湯呑を持ち上げた。
「……参考に、なったような気がします。ていうか関西弁に戻ってるし」
ナツメは再び三点倒立を始めた。
【まとめ:編集部より】
突如現れたナツメと、真面目に受け止めたユウト。
不条理と誠実が交錯するとき、結婚生活への視点にも、思わぬ奥行きが生まれました。
“帰る場所がある”ということ。
“笑える相手がいる”ということ。
それこそが、結婚の本質なのかもしれません。
