実家と元カレと親友と。ロックな母に癒された日

久しぶりに実家に帰る電車の中、うちはずっとぼーっとしてた。

最寄りの駅に降りた瞬間、ふわっと昔の空気に包まれる。

見慣れた駅のホーム。少しだけ変わった商店街の看板。

「変わったな〜」って思うけど、どこか懐かしい。なんか、地元の空って、色がやわらかい。

「……なんか、うちって今どこに向かってんやろ」

そんなことを考えながら、うちは足取りも重たく実家への道を歩いてた。

目次

再会とモヤモヤ

商店街の角を曲がったとき、ふと懐かしい声が聞こえた。

「……あれ? アカリ?」

振り向くと、そこに立っていたのは高校時代の元カレだった。

少し背が伸びたみたいで、大人っぽくなってたけど、笑ったときの目の感じは昔のままだった。

「久しぶり。帰ってきてたんだ」

その優しい言い方に、ほんの一瞬、心が揺すぶられた。

でも、すぐにその隣にいる女の子に気づく。

…それは、親友だった。

「あ、紹介するね。いま付き合ってるんだ」

二人が手をつないでいるのを見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

「あ、アカリ……」

親友だったその子が、気まずそうに目を伏せながら声をかけてくる。

「言ってくれればよかったのに」

思わず口をついて出た言葉に、彼女は言葉を探すように一瞬黙った。

「…ごめん、なんか、タイミングわかんなくて…」

元カレも、どこか居心地悪そうに視線をそらしていた。

「そっか。ま、二人とも元気そうでよかったじゃん」

笑って言ったけど、その笑顔がうまく張りついているだけなのは、自分でもわかっていた。

立ち止まってた時間と、ちゃんと向き合ってなかった気持ちが、急に動き出したみたいだった。

落ち込みの帰宅

家に着いてすぐ、自分の部屋にこもった。

「ただいま」って言ったのに、なんとなく空気がスルーしてった感じ。

ベッドに倒れ込んで、天井をぼーっと見つめる。

久しぶりの自分の部屋。懐かしい匂い。ちょっと甘くて、昔のまんま。

古いラジカセで、なんとなく地元のラジオを流してみた。

昔よく聞いてたパーソナリティの声が、ちょっと変わってたけど…それもなんか落ち着く。

「別にさ、元カレのことなんて、引きずってたわけじゃないんだけど」

声に出してみる。でも、自分に言い聞かせてるっぽくてちょっと笑えた。

元カレと親友が付き合うのって、別に悪いことじゃない。よくあることだし。

ちゃんと話してくれてたら…たぶん、こんなにモヤモヤしてなかったと思う。

あの感じ、ふたりだけでこっそり進んでたっぽくて、ちょっとショックだった。

なんか、うちだけ置いてかれてたみたいで。

「…こういう気持ちって、名前つけられるのかな」

悲しいのか、悔しいのか、寂しいのか。よくわかんない。

ただ、胸のあたりがぐるぐるしてて、静かに目を閉じた。

そんな顔、似合わないよ

どのくらい寝てたんだろ。

ふと目を開けたら、部屋のドアがちょっとだけ開いてて、そこにママが立ってた。

「…アンタ、そんな顔、似合わないわよ」

いつもの軽い口調。でも、ちゃんとわたしの顔、見てた。

ママって、ああいうとこズルい。

心配そうな顔ひとつしないで、するっと心の奥に入ってくる。

わたし、何も言ってないのに、バレてる感じ。

「見透かされてる」ってこういうこと言うんだろうなって思った。

「なんかあった?」じゃなくて、「そんな顔、似合わない」って言ってくれるの、なんか救われた。

わたしの気持ち、ちゃんと見てくれてる人がいるんだって、ちょっとだけホッとした。

ママの人生哲学

「“みんなを明るく照らす存在になりなさい”って、昔からママよく言ってたよね」

アカリは、天井をぼんやり見ながらつぶやいた。

ケイは笑いながらも、少しだけまっすぐな声で返す。

「そう、それ、わたしの人生哲学」

アカリはちょっとだけ声のトーンを落として聞く。

「うちの名前の由来なんでしょ?」

「そうよ。明るく、あたたかく、周りを照らせる子になってほしかったの」

それは、いつもの冗談交じりの口調じゃなかった。

「人の幸せにざわついちゃうときってね、自分の幸せがちょっと見えなくなってるときなのよ」

ゆっくりと、でも確かに心に届く声だった。

ママの“口癖”ってやつ

ママの言葉は、まっすぐ刺さるときと、あとからジワジワくるときがある。

「……ママって、そういうとこ、ずるいくらいカッコいいよね」

「そうよ、わたしはロックな女なのよ」

「あっ、それママの口癖」

うちのママ、若い頃にバンドのボーカルやってたらしい。なんか想像つかないけど。

本人いわく「趣味の延長線みたいな気楽なノリ」だったらしいけど、なにかっていうと「ロックな女」って使うのが可愛い。

あの頃のママ、どんな感じだったんだろ。たまにふと、そんなことを思う。

少しだけ、まっすぐ歩けそうな気がした

その夜は、ひさびさに深く眠れた。

朝起きて、カーテンを開けたら、空はうっすらとオレンジがかってた。

「…ちょっとだけ、元気出たかも」

そうつぶやいて、鏡に映った自分に、少しだけ笑ってみた。

ママの言葉が、心のどこかに残ってる。

ロックな女には、なれないかもしれないけど。

でも——

「みんなを明るく照らせるかな、私」

そう思えた朝は、ほんの少しだけ世界がやさしく見えた。

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