真夏の河原でBBQスタート
カンカン照りの真夏。澄んだ川の流れが見える河原に、ミカコ、ソウタ、ミユ、リクの4人が集まった。
「よし、じゃあ炭起こすよ」
軍手をはめたミカコが手際よく着火剤を並べる。
「お〜、さすが。アウトドア慣れしてる感じする」
ソウタが感心しながら肉の入ったクーラーボックスを開ける。
「ソウタくん、肉めっちゃ仕入れてきたね!」
ミユが袋からカラフルな野菜串を取り出す。
「肉は主役だからな。野菜は……まあ、彩り担当かな」
「ちょっと! 野菜もちゃんと食べなさいよね」
ミユが笑いながら野菜串を網に並べる。
「リクくんは飲み物係だっけ?」
「そうそう。ほら、全員分の冷えたやつ」
リクがクーラーバッグから缶を配る。
「ありがと。夏の河原で飲むジュースって、なんでこんな美味しいんだろ」
「多分、汗かいたあとだからだよ」
ソウタがうちわで炭をあおぎながら答える。
炭がいい感じに白くなり、肉がジュウジュウと音を立て始める。香ばしい匂いが、真夏の空気と混ざり合って広がった。
「うわ〜、もう最高……」
ミユが目を細める。
「こういうときってさ、なんか“夏だな〜”って実感するよね」
「確かに。忙しいと忘れるけど、こういう時間って大事だよな」
リクも同意し、冷たい缶を口に運んだ。
恋バナ1「夏って恋したくならない?」
「ねえねえ、こうやって川の音聞きながらBBQしてるとさ……夏って恋したくならない?」
ミユが野菜串を返しながら、ふと口にする。
「え、いきなり恋バナ?」
ソウタが肉をひっくり返しながら笑う。
「でもわかる。夏って空気が軽くなるっていうか、人の心も軽くなる感じあるよね」
「お、詩人モード入った?」
ミカコがニヤリと笑う。
「いや、なんか……夏の風って、心の窓をちょっと開けちゃう感じするじゃん」
「ほら出た。ふわっとしてるのに妙にわかるやつ」
ミユが吹き出す。
「リクくんは? 夏に恋したくなる派?」
「うーん……正直、季節で気持ちが変わるってあんまりないかな。でも、夏ってみんな笑顔になるから、そういうのはいいなって思う」
「誠実か!」
ミユがすかさず突っ込む。
「いやでもさ、笑顔って恋のきっかけになるじゃん」
リクが真面目に返す。
「ミカコさんは?」
「私は……夏って暑いし汗かくし、恋どころじゃないってタイプ。でも夜に浴衣で出かけるとか、そういうシチュエーションはちょっと惹かれるかもね」
「浴衣ね〜。あれはずるいよね」
ソウタが頷きながら、「炭の火って、星みたいだな」なんて意味不明なことを呟く。
「ちょっと! 急に何それ(笑)」
「ほら、燃えてるの見てると時間忘れる感じが、星見てるときと似てない?」
「……あ〜、なんかわかるかも」
ミユが少し黙って笑った。
恋バナ2「恋の温度差」
「恋ってさ、温度差あるとむずくない?」
ミユが焼けた野菜を皿に移しながら話を振る。
「温度差って?」
リクが首をかしげる。
「片方はめっちゃ会いたいのに、もう片方は“週1で十分”みたいなやつ」
「あ〜、それはある」
ソウタが肉をひっくり返しながら、ふわっと笑う。
「昔それでフラれたことあるかも。向こうは毎日連絡くれてたけど、俺はちょっと間あけたい派で……でも別に冷めてたわけじゃないんだよね」
「わかる、それ。“距離がちょうどいい”って人それぞれだからね」
ミカコがトングを置いて同意する。
「リクくんは?」
「俺はできるだけ合わせたいと思う。温度差って、歩み寄れば埋められることもあるし」
「真面目だな〜」
ミユが笑いながら肉をひと切れつまむ。
「でも、歩み寄りすぎて自分がしんどくなるパターンもあるよね」
ミカコが冷静に指摘する。
「うん……確かに、それで疲れちゃったこともある」
リクは少し苦笑する。
「恋って、炭火みたいだよな」
突然ソウタが言う。
「お、きた詩人」
「最初は一気に火が上がるけど、ずっと燃やし続けるにはゆっくり空気送ってやらなきゃ。急にあおぎすぎても、燃えすぎてすぐ灰になるし」
「……それ、めっちゃわかる!」
ミユが声を上げ、リクも頷く。
「つまり、温度差って火加減の違いみたいなもんだね」
ミカコがまとめると、全員が「うまい!」と笑った。
恋バナ3「夏の思い出、忘れられない一日」
「じゃあさ、みんなの“夏の忘れられない一日”ってある?」
ミユがジュースを飲みながら問いかける。
「私は大学の時の花火大会かな」
ミカコが少し懐かしそうに笑う。
「浴衣で行ったんだけど、相手が浴衣の帯の結び方知らなくて。友達呼んで直してもらったら、その友達とくっついたっていうオチ」
「えー! そっち!?」
ミユが吹き出す。
「まあ、そういうこともある」
「俺は……高校のとき、海で好きな子に告白しようと思ってたのに、日焼けで熱出して帰った」
ソウタが笑いながら話す。
「それ、告白の温度差どころか体温差じゃん!」
ミユがツッコミ、全員笑いに包まれる。
「でも、後からその子が『あのとき心配だった』って言ってくれて、それはちょっと嬉しかった」
ソウタが昔を懐かしんでいるのか、遠くを見るような目をした。
「ミユは?」
「中学のとき、友達と海に行ったら、クラスの男子も偶然来ててさ。砂浜でバレーやったりして……帰りに『来年も一緒に来よう』って言われたんだけど、高校別になっちゃって叶わなかったやつ」
「お〜青春だな〜」
リクがうなずく。
「リクくんは?」
「俺は大学時代、友達グループでキャンプ行ったとき。夜、星を見ながら隣に座ってた子と何気ない話をして……それがきっかけで付き合った」
「おお〜、ロマンチック!」
ミユが目を輝かせる。
「まあ、付き合いは短かったけど、あの星空の時間は今でも覚えてる」
それぞれの夏の思い出に、炭火の煙と川風が混ざる。笑い声と少しのしんみりが、BBQの空気に溶けていった。
まとめ──夏と恋、そしてBBQの煙
空は少しずつオレンジ色に染まり、川面がきらきらと揺れている。
「そろそろ片付けるか」
ミカコがトングを置き、炭に水をかけると、じゅっと煙が上がった。
「夏の恋って、やっぱり特別なんだなって思った」
ミユがクーラーボックスを閉めながらぽつりと言う。
「まあ、暑さでテンション上がるのもあるけど……」
ソウタが空を見上げて続ける。
「短い季節だからこそ、思い出が濃くなるんじゃない?」
リクが笑顔で返す。
「結局さ、恋のきっかけってバーベキューの煙みたいなもんだよね」
ミカコがふと口にする。
「どういうこと?」
「予想外の方向から来て、ちょっと泣かされるけど……気づくと笑ってる」
「うわ〜、それいい!」
ミユが拍手し、ソウタも「詩人だね」と笑った。
肉の匂いと煙が消え、残ったのは夕暮れの涼しい風。
また来年も、このメンバーで夏を味わえるといい──そんな予感を残しながら、4人はゆっくりと河原を後にした。