新人時代に誰もがつまずく壁
新人の頃って、本当に「何も分からない」状態からスタートします。仕事内容はもちろん、職場の空気感、上司の好み、報告・連絡・相談のタイミングまで手探り状態。しかも厄介なのは、「自分が何を分かっていないのか」さえ分からないこと。だから余計に失敗するんです。
私自身も、入社してすぐに痛い目を見ました。例えば、上司に報告をあげるタイミングを逃して「なんで早く言わなかったんだ」と叱られたこと。本人としては「もう少し状況を整理してから伝えよう」と思っていただけ。でも上司からすれば「報告が遅い」という判断になる。結果、信頼を損ねかけました。
ほかにも、ビジネスメールの宛名を間違えて送ってしまい、取引先から冷たい返事が来たこともあります。敬語の「させていただく」を多用してぎこちなくなったり、電話応対で相手の会社名を聞き間違えたり。どれも小さなことですが、積み重なれば「大丈夫なの?」と思われてしまう。
振り返れば、「そんなことも知らないの?」と突き放されるよりも、「こういうときは先に言っておいた方がいいよ」と一言教えてもらえたら、どれほど救われただろうと思います。新人が最初に直面する壁は「知識不足」そのものよりも、「気づけないことが多すぎる」という現実なのかもしれません。
優れたトレーナーとは?
こうした経験を経て後輩を教える立場になったとき、強く感じたのは「聞かれたことだけ答える先輩」と「まだ聞かれていないことまで伝えられる先輩」の差です。
「分からないことがあったら、なんでも聞いてね」と言うのは一見優しい。でも新人は、そもそも“分からないことすら分からない”。だから本当に必要なのは、「この場面で困りやすいことはこれだよ」「こういう癖に注意してね」と、あらかじめ伝えてあげることなんです。
たとえば資料作成。数字を揃えて表を整えるのは基本ですが、「上司によって好むフォーマットが違うから、過去の資料を確認しておくといいよ」と教えてあげれば無駄な修正を避けられる。メール一通にしても「送信前に声に出して読んでみると誤字脱字に気づきやすいよ」とアドバイスするだけで、失敗を防げる。
新人がつまずきやすい“見えない落とし穴”を照らしてあげられるかどうか。そこにトレーナーの力量が表れます。先回りの一言が、新人の自信や安心感を支える。私が尊敬する先輩は、そういう人でした。逆に「聞かれたら答える」だけの人の下についた新人は、常に不安そうな顔をしていたのを覚えています。
恋愛にも通じる「先回り」
この「先回りして気づいてあげる」という姿勢は、恋愛でもそのまま活きます。
よく「言ってくれなきゃ分からない」と口にする人がいます。確かに一理ある。でも、それだけでは“待ち”の姿勢になりがちで、相手の寂しさや不安を取りこぼしてしまう。仕事でいう「聞かれたら答える先輩」と同じ構図です。
例えば、LINEの返信が急に遅くなったり、デート中にスマホを見てばかりいたり。相手は「寂しい」とか「もっとかまってほしい」と直接言うとは限りません。でも、その小さなサインに気づけるかどうかで、関係の温度は変わるんです。
「最近疲れてない?」「なんか元気なさそうだね」と一歩先に声をかけられる人は、ただ優しいだけじゃなく、信頼される存在になります。恋愛は言葉にされる前の“気配”を拾って動けるかどうか。仕事と同じく、先回りができるかどうかが大きな分かれ目です。
恋愛相談の場面でも同じ
恋愛相談を受けるときも、この考え方は当てはまります。
友達が「彼氏とうまくいかなくて」と言ったとき、表面的な「別れたら?」という返答だけでは、ほとんど意味がありません。本当に必要なのは「その言葉の裏にある感情」を探ること。例えば「大切にされていない気がする」とか「もっと自分を理解してほしい」という気持ち。
相手自身がまだ気づいていない想いを、こちらが言葉にしてあげることで初めて相談は意味を持ちます。新人教育と同じで、本人がまだ見えていない部分を照らしてあげる行為なんですよね。
私自身、相談を受けたときに「結局どうしたいの?」と突き放したことがあります。でも後から「そうじゃなくて、気持ちを分かってほしかっただけ」と言われて反省しました。恋愛相談は解決策を出す場であると同時に、本人が自分の気持ちに気づくプロセスでもあるんです。
まとめ──「先回りの思いやり」が人間関係を強くする
仕事も恋愛も、人との関わりに大きな違いはありません。「分からないことがあったら聞いてね」だけでは、相手は孤独に放り出された気持ちになる。大切なのは、相手がまだ言葉にできていない不安や疑問を汲み取り、先回りして寄り添うこと。
新人教育における優れたトレーナーは、失敗を未然に防ぐアドバイスをくれる人。そして恋愛における頼れるパートナーも、同じように“まだ言葉になっていない気持ち”に気づいてくれる人です。
先回りの思いやりは、信頼を築く力。関係を長続きさせる土台であり、安心感を与える最大の要素でもあります。
「言われたら答える」──それも大事。
「言われなくても気づく」──それはもっと大事。
ドライに見えるかもしれないけど、人間関係を強くするのは結局この一言に尽きる。私が新人時代の失敗から学んだのは、そんなシンプルな真理でした。