「恋愛はリスク?BAR恋古都で語る女の本音──ミカコ×ミサキ女子会」

目次

BAR恋古都、夜の乾杯から

扉を開けると、琥珀色のライトがふたりを迎えてくれた。
「BAR恋古都」は、大人の隠れ家みたいな場所。カウンターには古いジャズが静かに流れていて、グラス越しに街の灯りがにじんでいる。

「こういう店、ミカコさん似合いますね」
隣に腰を下ろしたミサキが、軽く笑った。
「あなたも、だいぶ板についてきたんじゃない?」と、ミカコが無駄のない動作でグラスを掲げる。

カランと氷の音が重なり、ふたりはグラスを合わせた。
「乾杯。今日は先輩後輩じゃなく、女同士で話す夜にしましょうか」

しばらく沈黙のあと、ミサキがふっと口を開く。
「恋って、リスクと似てますよね。……大きく賭けるほど、当たったときの快感も大きい」
「へえ、最初から勝負の話?」ミカコは片眉を上げて、口元だけで笑った。

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恋愛におけるリスクとは

「恋愛ってね、時間も気力も持っていかれるものなのよ」
ミカコはグラスの縁を指でなぞりながら言った。
「コスパで考えたら、正直わりに合わない。仕事や趣味に投資した方が、自分にちゃんと返ってくるもの」

「確かに……合理的に考えたらそうですよね」
ミサキは頷きながらも、少し意地悪そうに笑う。
「でも、ミカコさん。リスクを避けた恋って、そもそも恋じゃないんじゃないですか?」

「ふふ、強気ね。じゃあ聞くけど、あなたにとって“リスクを取る恋”ってどんなの?」

「そうですね……自分が壊れるくらい人にのめり込むこと。
痛みも嫉妬も含めて、全部飲み込んで相手を求める。
リスクが大きいほど、手に入れたときに女は“主役”になれるんですよ」

「主役、ねぇ」ミカコはくすっと笑う。
「私はむしろ、脇役のままでも平和ならそれでいいって思うタイプ。
安定してる方が楽だから」

ミサキはわざと肩をすくめて見せる。
「安定を選んだ人が、ほんとは一番リスクを恐れてるんです。
……あ、別にディスってるわけじゃないですよ。可愛いと思ってます」

「はいはい、後輩のくせに遠慮ないわね」
ミカコは笑いながらも、どこか楽しそうだった。

具体的なリスクの種類をほどいてみる

「リスクって言っても、内訳を出してみるとわかりやすいのよ」
ミカコはナプキンにボールペンで小さく枠を書き、四つに区切った。

「精神・時間・お金・信用。まずはこの四本柱」

「プレゼン始まった」ミサキは笑ってグラスを回す。「でも、嫌いじゃないです」

精神リスク。
「いちばん大きいのはこれ。浮き沈み。嫉妬、不安、期待外れ。
相手の一言で気分が全部持っていかれる。睡眠も食欲もブレる」

「はい、それは最高です」
ミサキは即答した。「心が荒れるほど、恋は本物に寄る。痛みは税金。払ってこそ所有できる、みたいな」

ミカコは肩をすくめる。「私は無税で生きたいタイプね」

時間リスク。
「会う時間、返信の待ち時間、移動時間。
一日24時間の配分が崩れると、仕事や勉強の締め切りが後ろ倒しになる」

「それは確かに厳しい。でも、“待つ時間”って、女の色気をつくるんですよ」
ミサキはストローの先を見つめる。「間を抱える練習。間があるから、言葉が効く」

「言葉より納期が効くのよ」ミカコはドライに笑った。

お金のリスク。
「デート代、プレゼント、交通費。
あと見落としがちなのが“機会費用”。たとえば土曜の半日を恋に使えば、その分スキル投資はゼロになる」

「うーん、でも愛っていつも赤字スタートだから甘くて尊いんですよ」
ミサキは片目を細める。「黒字化を目指す恋って、どこか味が薄い」

「味が濃いと翌日むくむのよ」

信用(レピュテーション)リスク。
「SNS。ストーリーの足跡、既読、匂わせ、スクショ。
別れたあとに『あの人こうだった』って軽く言われるのも地味にダメージ」

「そこは同意です」ミサキはすっと表情を引き締めた。
「恋の終わり方は、次の始まり方。美しく閉じれば、次の扉は勝手に開く」

「それ、メモっとく」ミカコがナプキンの角に小さく書く。

番外:キャリアと境界線。
「同僚恋愛は“バレる・別れる・働きづらい”の三重苦があり得る。
一方で、職場を恋のマーケットにしないと、出会いが減るのも事実」

「境界線の引き方でリスクは操作できます」
ミサキは艶っぽく微笑む。「社内は“恋の予告編”まで。本編は職場の外で。簡単でしょ?」

「あなた、言うほど簡単にやってないでしょ」

「ふふ。わたしは“上映時間延長タイプ”ですから」

嫉妬と独占欲。
「これは相手の問題にも自分の問題にもなる。
コントロール不能な感情が一番コスト高い」ミカコはグラスの輪を指でなぞる。

「嫉妬って、愛の副作用じゃなくて“証拠”ですよ」
ミサキは静かに言う。「ただ、服用量を間違えると中毒になる。だから処方は自分でする」

「自己責任の世界ね」

「はい。恋はいつも“免責事項に同意する”から始まるんです」

ふたりはそこで一旦、グラスを合わせた。氷の音が涼しく弾む。

「まとめると」ミカコがナプキンを指で折る。
「精神・時間・お金・信用。ここを“守る”か“賭ける”かでスタイルが分かれる」

「そして、賭けた人間だけが見る景色がある」ミサキの声は甘く低い。
「落ちる瞬間の眩しさ。ねぇ先輩、あれは一度は見といた方がいい」

「高所恐怖症なのよ、わたし」ミカコは淡々と笑い、バーテンダーに「同じの、もう一杯」と合図した。

リスクを取る女 vs 管理する女

「わたしはね、なるべく傷つかないように恋愛してるつもり」
ミカコは氷を口に含んでから、淡々と吐き出した。
「深入りせず、適度な距離感で。相手が消えても自分が壊れないように」

ミサキは首を傾げ、笑いながらグラスを傾ける。
「それって、恋愛してるふりをしてるだけじゃないですか?
安全第一の恋なんて、つまらない映画の延長線。
スリルがなきゃ観客は眠ります」

「あいにく私は観客じゃなく、演者じゃなくてもいい。
舞台袖で静かに見守る立場で十分」

「でも、主役じゃなきゃ意味ないんですよ」
ミサキは瞳を強くして言い切る。
「愛されるより必要とされたい。代わりがいない女になりたい。
そのためにはリスクを抱えてでも舞台に立つしかない」

ミカコはわざと大げさにため息をついた。
「強欲と書いて、ミサキと読むってわけね」

「はい、そうです」ミサキは即答し、少し笑う。
「でも、欲張る女の方が結局は面白い人生を生きるんです」

「確かに、あなたみたいなタイプを見てると、ちょっと羨ましくもあるわ」
ミカコは素直にそう漏らした。
「私には真似できないけどね」

「真似しなくていいんです。
ミカコさんは“守る女”。わたしは“攻める女”。
どっちも、リスクにどう向き合うかの違いですから」

ふたりは視線を合わせて、また小さく笑い合った。
バーの奥でジャズが流れ、時間がゆっくりと沈んでいった。

お互いの弱さを見せる

ふたりの会話が一巡して、静かな間が落ちた。
グラスの氷が、カランと音を立てて溶けていく。

「……正直に言うとね」
ミカコは視線をカウンターに落とした。
「冷静ぶってるけど、ほんとは恋に逃げたい時もある。
仕事や自分の強さでごまかしてるけど、誰かに寄りかかりたい気持ちがゼロなわけじゃない」

ミサキは目を細め、意外そうに笑った。
「ミカコさんからそんな言葉、なかなか聞けませんね。
……じゃあ、わたしも正直に言います」

「強欲なわたしだって、本当は失うのが怖い。
全部欲しいって口では言っても、心の奥では“なくなる痛み”を想像して震えるときがあるんです」

ふたりは一瞬、言葉を失い、グラスを同時に持ち上げた。
琥珀色の液体が光にゆらめく。

「結局、誰だってリスクに怯えてるのよね」
ミカコが苦笑する。
「はい。だからこそ人は恋に落ちるんでしょう」
ミサキが軽やかに返す。

ふたりはカランとグラスを合わせた。
その音はどこか、弱さを肯定する合図みたいに響いた。

リスクがあるから恋は面白い

「リスクって、結局は人生のスパイスかもしれないわね」
ミカコは残りわずかなウイスキーを一口で飲み干した。
「なくても生きていけるけど、あった方が物語は濃くなる」

「そうです。わたしにとって恋は、その最たるもの」
ミサキは唇に微笑を浮かべる。
「リスクを恐れて何も選ばないくらいなら、壊れる覚悟で飛び込みたい。
だって、主役は安全地帯から生まれませんから」

「ふふっ。やっぱりあなた、強欲ね」
「ミカコさんも、そろそろ舞台に上がってきませんか?」
「考えとくわ」


ジャズが小さくフェードアウトして、店内は心地よい沈黙に包まれる。

「じゃあ、もう一杯飲みましょうか」
ミサキがそう言うと、ミカコは笑いながら首を横に振った。
「ほどほどが一番。恋も酒も、ね」

BAR恋古都の夜は、氷の音とともに静かに更けていった。

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