ナツメ式──嫉妬まんじゅうと逆さまの図書館

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嫉妬まんじゅうの朝

目を覚ましたら、わたしの胸に熱々のまんじゅうが埋め込まれていた。
皮は桃色で、蒸気が立ちのぼっている。かじってみると──餡は苦い。
そうか、これが「嫉妬まんじゅう」か。
甘いと錯覚した瞬間、奥歯にざらついた妬みが張りつく。

周りを見渡すと、路地裏に屋台が並んでいた。
「嫉妬まんじゅう、一個百円! 恋人の心と同じ値段!」
声を張り上げているのは、顔が半分スマホ、半分カエルの店主だった。

わたしは笑った。
「安売りやなぁ。けど、みんな買うんやろ?」
見ると行列ができている。人々の手には嫉妬のまんじゅう。
噛むたびに目が血走り、スマホの画面を覗き込み、心がざわついていく。

わたしは胸の中のまんじゅうをそっと撫でながら思った。
──今日もまた、境界をさまよう一日の始まりや。

ムームードメイン

嫉妬まんじゅうの効能

わたしが街を歩いていると、嫉妬まんじゅうを手にした人々が奇妙な姿に変わっていた。

ユウトは、いつの間にかガラスの人形になっていた。
胸にまんじゅうを押し当てると、細かなひびが広がり、涙のようにガラス片がぽろぽろ落ちる。
「信じてるのに、比べてしまうんだ」
彼の声は鈴の音みたいに震えて、床に散った。

ナナは、背中から無数の舌が生えていた。
まんじゅうを頬に当てるたび、舌が次々と過去の男の名前を叫ぶ。
「タケシ! ユウジ! リョウ!」
叫ぶたびに舌はちぎれて落ち、路地に積もっていく。
それを拾った子どもたちは、まるでキャンディのように舐めていた。

ワニオは、嫉妬まんじゅうを背中に貼りつけていた。
「ふむ。嫉妬とは姿勢矯正の補助具ですね。背筋がまっすぐになります」
彼は哲学者めいた顔で言い、通行人が吹き出していた。
まんじゅうの湯気が立ちのぼるたび、周囲の広告看板の文字が「コスト」「効率」「収支」に書き換わっていく。

わたしは笑った。
嫉妬まんじゅうは、人によっては涙を、怒声を、あるいは経済用語すら生み出す。
どうやら、ただの菓子やなく「心を拡声する装置」らしい。

逆さまの図書館

嫉妬まんじゅうの煙をくぐり抜けると、視界の先に巨大な建物が現れた。
逆さまに宙吊りになった図書館。屋根が地面を突き、入り口は空に浮かんでいる。

はしごをのぼって扉を開けると、内部も逆さまだった。
天井に机、本棚は下から垂れ下がり、椅子は空中で逆立ちしている。
ページをめくると、すべて「誰かの嫉妬日記」で埋め尽くされていた。

「今日は隣の子に笑顔を見せていた」
「返信が5分遅い、きっと浮気してる」
「飲み会で隣に座ったのが許せない」

文字はインクではなく、真っ赤な血で書かれている。
触れると脈打ち、紙から這い出して床を走り回った。

通路を進むと、ミユが逆さまに吊られていた。
「だって、推しが他の子とコラボしたら、胸がキュッてなるんだよ♡」
彼女の髪からは無数の小さなハートが落ちてきて、ページに貼りついて剥がれなくなる。

さらに進むと、ケンジが逆さまの机に腰かけていた。
「恋はな、ビールと一緒だ。冷えてるときは最高だけど、
ぬるくなったら途端に文句が増える!」
彼が笑うたびに、周囲の本が泡を吹いて弾けていった。

わたしは思わずつぶやいた。
「嫉妬って、本になると読みにくいなぁ。
ほんまは声に出さんほうが、まだ甘いのに」

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嫉妬の怪物との遭遇

図書館の最奥、本棚の影が揺れた。
ずるり、と本が崩れ落ち、その隙間から巨大な存在が現れた。

顔は百の瞳でできていた。
一つひとつが赤く充血し、恋人を監視する視線の集合体。
吐く息は熱を帯び、言葉になる前のため息が煙となって渦を巻く。

「お前は……嫉妬を食う側か、それとも書く側か?」
怪物はわたしに問いかけた。

わたしは肩をすくめた。
「どっちでもあらへん。わたしは、嫉妬を歌に変える側や」

怪物の百の瞳が一斉に瞬きをした。
その瞬間、図書館全体が震え、天井に貼りついた机や椅子が一斉に拍手を始めた。
ページから飛び出していた文字たちも、楽譜のように並んで旋律を奏でる。

怪物はしばらく黙っていたが、やがてひとつの目を閉じ、微笑むように頷いた。
「ならば、お前に託そう。わたしらの妬みを、笑いに変えてくれ」

その声は、血よりも甘く、涙よりもしょっぱかった。
不思議と、耳に残るメロディになって消えていった。

嫉妬の定義、ナツメ流

図書館を出るころには、嫉妬まんじゅうの湯気もすっかり消えていた。
夜風が頬を撫で、わたしはようやく人間の形に戻った気がした。

ふとポケットに手を入れると、未練キャンディの包み紙が一枚だけ残っていた。
「また、持ち越しか」わたしは笑って空に放り投げた。
紙は星のひとつになって、淡く瞬いた。

──嫉妬は、透明なインクや。
見えへんうちは優しい。けど、熱を加えると文字が浮かび上がる。
そして、それを読んでしまった瞬間、誰もが少しだけ狂う。

けれど狂気もまた、恋の証拠や。
だからわたしは、今日も境界を歩き続ける。
笑いながら、泣きながら、でんぐり返しの途中で。

──ナツメ式「嫉妬まんじゅうと逆さまの図書館」 了。

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