ミユが持ってきた新しい“ネタ”──それは恋の紹介話
前回の“盛り全開男子”は、なかなか笑わせてくれたわね。
もうあのプロフィール詐欺は、現代アートの域だったわ。
──おかげでアクセス数、絶好調。ありがとう、加工フィルター。
さて、今回のテーマはどうしようかしら。
恋活アプリも一周したし、そろそろ違う角度で攻めたいところ。
恋を追うより、恋の「構造」を解体する方がミサキ様っぽいでしょ?
そんなことを考えていた矢先、
編集部の休憩スペースでミユがペットボトルを片手にニコニコしていた。
「ねぇミサキ、だったらさ、うちの知り合い紹介してみようか?」
「紹介? 恋活ネタに?」
「うん。別メディアで一緒に書いてるライターでね。
最近“彼女ほしい”ってうるさいのよ。だから一回会ってみたら?」
……ふふ、面白いわね。
こいこと。の恋活記事を“現場取材”でやってきたこのわたし。
ついに、ライター間の恋愛交流企画に発展するとは。
「ミユが紹介する男子」って、それだけで記事一本書けそう。
だって読者のみんな、気になるでしょ?
“恋愛コラムの天使”ミユちゃんが、どんな男を“いい人”って言うのか。
ミユは「優しいし、話しやすいよ」と言っていたけれど──
この手の“優しい男”が一番厄介なの、わたしは知ってる。
でもまぁ、今回はあのミユがセレクトした男。
素材としては信頼できるってことで、受けて立つわ。
「じゃあ、取材がてら行ってみようかしら。
“こいこと。ライターの紹介で恋活”──これ、キャッチーじゃない?」
ミユが「ミサキ、ほんとブレないね〜」と笑う。
はい、その通り。
恋も仕事も、全部“ネタ”として捉える女。
それがわたし、ミサキ様よ♡
会ってみたら悪くない──でも、話題が全部ミユってどういうこと?
待ち合わせ場所は、落ち着いた雰囲気のカフェ。
正直、こういう初対面の場はもう慣れっこ。
でも今日は“ミユ推薦の男子”という肩書きが、少しだけスパイスになっていた。
やって来たのは──俊(しゅん)くん。
第一印象は、悪くない。
いかにも「恋愛コラムも書けそうな顔」をしている。
つまり、ちょっと神経質そうで、目が真面目。服も清潔感あり。
──可もなく不可もなく。いわゆる「中間管理職系モテ男子」ってやつ。
「はじめまして、俊です。ミユさんの紹介で……」
「えぇ、どうも。ミサキです。ミユの“紹介枠”って聞いてたから、楽しみにしてたわ」
そう言って笑うと、俊も穏やかに笑い返した。
──ふむ。悪くない。
この“緊張しつつも誠実に見せようとする努力”は、嫌いじゃない。
……だったんだけど。
会話が進むにつれ、妙な違和感が増していった。
「ミユさんってほんと明るいですよね」
「ミユさんの記事、読んでて元気出るんですよ」
「ミユさんって、誰とでも仲良くなれる感じがして──」
あのね、あなた。
“ミユさん”しか語彙ないの?
さっきから、ミユ・ミユ・ミユ。
ミユ連呼三段活用、完成してるじゃない。
「へぇ〜、ミユのこと、よく見てるのね」
「えっ?いや、そんな……」
慌てる姿を見ながら、わたしは確信した。
──この男、ミユが好きね。
思わず心の中でクスッと笑う。
“ミユちゃんの紹介で会ってみたら、ミユちゃん狙いの男でした”
……こんな面白い展開、ある?
どう料理してやろうかしら。
恋愛ライターとしての血が、じわじわと騒ぎ始める。
恋活の場で恋が生まれなくても、ネタは生まれる。
それが、ミサキ様の得意分野。
──さて、この“ミユ依存男子”から、どんな真理を引きずり出してやろうかしら♡
まさかの告白──本命はミユ!?
カフェラテを飲み干したころ、俊がやたら真面目な顔で口を開いた。
「……あの、ミサキさん」
「なに?急に改まって」
「実は今日、どうしても誰かに相談したくて」
──おや、これは何か出るわね。
内心、記事タイトルを考える準備に入る。
「正直、ミユさんのことが気になってて……」
来た。
ほら、やっぱり。
わたしは一瞬、表情を変えずにストローを軽く回す。
氷の音が、ちょうどいい間を作ってくれた。
「なるほどね。じゃあ今日は恋活じゃなくて、“恋愛相談”ってわけね?」
「すみません……なんかミユさんの前で“彼女欲しい”とか言ってたら、
『じゃあミサキさん紹介してあげる』って流れになっちゃって」
「ふふっ、あの子らしいわね」
苦笑しながらも、心の中でニヤリ。
──つまり、わたしは“実験材料”だったわけね。
普通ならムカつくところだけど、ミサキ様は違う。
むしろ燃える。
“この状況をどう面白く料理してやろうか”って。
「で?どうしたいの?」
「どうしたいって……その、ミユさんに好かれたいです」
「なるほど。つまり“こいこと。の天使”を落としたいわけね。
いいわ、わたしが特別レッスンしてあげる」
俊の目がぱっと開く。
「えっ、本当ですか?」
「ただし、タダじゃないわ。あなたの“失恋ネタ”は、記事に使わせてもらうから」
「え……失恋って、まだしてませんけど」
「うふふ、それはあなた次第よ♡」
ミサキ流アドバイスはシンプル。
“ミユみたいな子には、近づくよりも一歩引くこと”。
「追う男より、見守れる男に弱いのよ。
あの子は“愛される”ことに慣れてるから、
逆に“尊重される”とグラッとくるタイプ」
俊は真剣にうなずいていた。
えらい子。こういう素直さ、嫌いじゃない。
でもね、俊くん。
あなたが今ドキドキしてるの、もしかしてミユじゃなくて“わたし”じゃない?
──なんてね。冗談よ。たぶん。
「ふふっ。あなたの恋、応援してあげる。
でも、その代わり“恋がうまくいかなかった話”も、ちゃんとわたしに報告してね」
「……はい」
“取材対象”の了承、いただきました。
わたしはカップを置き、にっこり笑った。
「これで今日の恋活は、大成功よ」
恋活デート終了──でも、ネタは最高の出来♡
カフェを出るころには、空がすっかりオレンジ色に染まっていた。
隣で俊くんが「今日はありがとうございました」と丁寧に頭を下げる。
──ほんと、礼儀正しいのよね。
恋はまだまだ未熟でも、取材対象としては100点満点。
「こちらこそ。いい話、聞かせてもらったわ。
これでひと記事書けるくらいには充実してたもの」
俊はきょとんとした顔をしていたけれど、気にしない。
“恋活デートが恋愛相談に変わる”──そんな展開、
普通の女子には悲劇でも、ミサキ様には大好物。
駅までの帰り道、街灯が一つずつ灯る。
ネオンが反射するガラス窓に映る自分を見ながら、少しだけ笑った。
「恋活をしてるつもりが、いつの間にか人生のフィールドワーク。
わたしってほんと、仕事に真面目すぎて笑えるわ」
スマホを取り出して、すぐにメモを開く。
タイトル案をいくつか打ち込んでみる。
> ◆タイトル案
> 「恋活デートが恋愛相談に変わった日」
> 「彼女欲しい男、全員“取材対象”説」
> 「恋活=社会実験のススメ」
うん、どれも悪くない。
“ミユ現象男子”の恋の行方? まあ、それはそれで続報待ちね。
ミユに聞いたらきっと「もう〜、ミサキってば!」って笑うだろうけど。
でもわたしは知ってる。
この世界でいちばん面白いのは、自分の恋より他人の恋。
──そしてそれを記事にできる自分。
「恋活を記事にするのが『ミサキ様が通る!』のコンセプト。
でも、たまに“恋の相談に乗る女”ってのも悪くないわね」
そうつぶやいて、髪をかきあげる。
夜風が指先をすり抜けて、ヒールがコツンと響いた。
次はどんな男と出会うのか。
恋か、取材か、どちらに転んでもネタになる。
そんな最高の舞台が、今日も広がっている。
次回も乞うご期待♡

