見た目で選ばれるのはもう飽きたの
「ミサキ様が通る!」新作のテーマ? そうねぇ……そろそろ “美人の悩み” を一度くらい語ってもいい頃じゃない?
なにせ、わたし──顔で選ばれるのはもう飽きたの。
もちろん美人であることに文句はないわよ? 神様の采配に拍手喝采よ。でもね、恋活の場に行けば決まってこうよ。
「写真よりキレイですね!」
「絶対モテるでしょ? 彼氏いそう!」
はいはい、感想文はもういいわ。
そんなセリフは十代で卒業したの。いま欲しいのは“中身が刺さる”男。
というわけで今回は──顔が分からないタイプのマッチングアプリに登録してみたのよ。
アイコンは風景写真、プロフィールは控えめ。これで「見た目だけで寄ってくる男」はふるい落とせるってワケ。
すると来たのが、感じのいいメッセージ。
丁寧で、話のテンポも合うし、妙な下心もない。
──フフフ、これは当たりの気配。
「じゃあ、一度会ってみませんか?」
そんな流れで、週末のカフェでデートすることになった。
さて、今回はどんな“ネタ”……じゃなくて、“恋”が転がってるのかしらね?
感じのいい男、そして“あの顔”
待ち合わせ場所は駅近くのカフェ。
わたしは5分前に到着。もちろん遅刻はしない主義よ。美人は時間にも正確なの。
そして、向こうから歩いてきたのは──
「あら、悪くないじゃない」
そう、第一印象は合格。
清潔感ある服装、落ち着いた歩き方、妙な自信家でもない。
“美人が来ると知ってテンション爆上がりするタイプ”でもなさそう。
……のはずだったのに。
彼、わたしの顔を見た瞬間──
一瞬で表情が曇った。
ちょっと待って。
なんでそこで“はぁ……”みたいな顔するのよ?
普通、こういう場面は「初めまして、よろしくお願いします!」でしょ?
なぜか彼のリアクションは、
「うわ、厄介なの来た」
みたいな、謎の困惑顔。
……失礼にもほどがあるわね?
でも、わたしミサキ。そこで怒らないのが品のある美人というものよ。
笑顔をキープして席に座る。さぁ、言い訳を聞かせてもらおうじゃない。
注文を済ませたところで、彼がしどろもどろに口を開いた。
「あの……えっと、その……想像より、その……キレイで……」
はぁ? 何その“気まずい褒め方”。
彼の言葉は続いた。
「僕……美人が……苦手で……緊張しすぎてしまうというか……」
──はい出ました。
美人恐怖症男子。
いや、分かるけど? でもあなたが萎縮してどうするのよ。
わたしは別に噛まないし、殴らないし、金も取らないわよ。
内心ツッコミながらも、外では微笑みをキープするわたし。完璧。
「へぇ……そうなのね。珍しいタイプ」
とだけ返したけど、心の中ではこうよ。
(なるほどね……これは絶対、記事にしたら、おもしろいやつだわ)
怯えないでよ、食べたりしないわよ?
彼の警戒心は、もはやデートのそれじゃなかった。 完全に“野生動物が天敵を察知したとき”の目。
いやいや、わたしそんなに牙むき出しじゃないわよ? 今日はかきあげも控えめで、優しげなメイクなのに。
「あ、あの……その……近くで見ると余計に……その……」
近くで見ると余計に? 何よそのホラー映画みたいな言い方。
「余計に……なんです?」 わざと近づいてみた。
彼は息を呑んだ。 ほんとに怯えてる。かわいいじゃない。
「……美人……すぎて……攻撃されそうというか……」
なにそれ、美人攻撃的理論。 誰がそんな風潮植え付けたのよ。
「攻撃しないわよ。 引っ掻いたりもしないし、肩を噛んでマーキングしたりもしないわ」
冗談っぽく言ったら、彼は一瞬で青ざめた。
あ、冗談が通じないタイプね。 ほんとに“怯える”のね。
でも、そんな彼の反応が可愛くて仕方ないのよ。
だって今までの男たちは、
- 美人だ〜!とぺこぺこするか、
- 話を盛りに盛ってマウントを取ろうとするか、
- 「俺でもいける?」みたいな不審な自信を出すか、
……その三択だったもの。
“怯える”なんてレアイベントよ? わたしの恋活ガチャ、またもやSSR出たわね。
「ねぇ」 わたしは彼の真正面に座り直す。
「美人が怖いのは慣れないとして…… わたしのどこがそんなに“襲ってきそう”なの?」
彼はしばらく黙ったあと、ぽつりと言った。
「……強そうで……ちゃんと見透かされそうで…… 僕のダメなところ全部、分かっちゃいそうで……」
あら、ちょっと刺さるじゃない。
(まぁ、見透かせるけどね。)
わたしは微笑んだ。 優しく、でも少し意地悪なやつをね。
「大丈夫よ。 あなたのダメなところなんて、そんなに興味ないもの」
そう言った瞬間、彼の表情がふっと軽くなった。
……あら、かわいいじゃない。
怯えた子犬タイプって、見てると情が湧くのよね。 (でも恋愛対象になるかは別問題よ。)
説教タイムから美人3連コンボ逃走事件へ
彼の表情は、だんだん柔らかくなってきていた。 わたしの質問攻めで緊張もほぐれてきたのか、ようやく目を見て話せるようになってきた。
そろそろいいわね──と、わたしはグラスを置いた。
「じゃ、説教タイム行くわね」
彼は一瞬だけビクッとしたけど、逃げなかった。 えらいえらい。褒めてつかわす。
◆ 美人に対する決めつけ、偏見すぎるわよ?
「まずね、“美人は◯◯だ!”って決めつけるの、あれ偏見よ?」 わたしはニコッと微笑みながら告げた。
「美人は傲慢とか、美人はイケメンを選ぶとか、美人は攻撃的とか…… 逆ルッキズムみたいなもんよ?」
彼は「……たしかに」と小さくうなずく。
「美人にもいろんなタイプがいるの。 わたしみたいに強い美人もいれば、お淑やかな美人だっている。 みんながわたしみたいに牙むき出しなわけじゃないのよ」
彼はクスッと笑った。 よしよし、冗談が通じるようになったわね。
◆ イケメン好きかどうかなんて、美人かどうか関係ないのよ
「それにね、イケメン好きかどうかと美人かどうかは全然関係ないのよ」
「え?」
「わたしの元カレなんて、フツメンよ?」
ふっと、彼の目が丸くなる。
(ごめんねチョロ助(リク)、褒めてるわよ?)
「だから、“美人=フツメンを見下す” とか、あなたが勝手に怖がってただけ」
「……そうかもしれないです」
◆ “あなた自身”を見るところから始めなさい
「大事なのは外見じゃなくて、中身。 あなたはちゃんと話せば普通に優しいし、面白いし、気を使える男よ」
「……そんなふうに言われたの、初めてです」
彼の声が、さっきより落ち着いていた。
うん、よくできました。
◆ 仕切り直しの食事へ
「じゃあ、仕切り直しに……ごはんでもどうですか?」 彼が照れくさそうに誘ってくる。
さっきまで怯え散らしてたのに、かわいいじゃない。
「いいわよ。軽く食べて帰りましょ」
そう言って近くの定食屋へ向かった。
◆ そして地獄の3連コンボへ
店に入って数秒──背筋が伸びる。
「あっ、ミサキちゃーん♡」 アカリが全力スマイルで手を振っている。
「うわっミサキ!その人なに!?デート!?彼氏!?やだ気になるぅ〜!!」 ミユは今日も元気に声量5割増し。
……はい、出ました。
無自覚に男心を破壊する可愛い女子×2、追加されました。
彼は一瞬で青ざめた。 せっかくほぐれた緊張が“最大強化”で戻っていく。
「す、すみません……お水を……」
そして、トイレに立ったきり戻ってこなかった。
◆ 逃げたわね。音速で。
店員に聞けば、 「先ほどお会計済ませてお帰りになりました」とのこと。
ミユ「なんか……ごめん?」 アカリ「えっ!?帰ったの!?なんで!?(純粋すぎる)」
わたしは笑って言った。
「いいのよ。今日のネタ、最高級だったわ♡」
美人恐怖症男子 → 美人3連コンボ → 消失。
……これ、ネタ的には最高よね。
「またどこかで会えたら面白いけど…… まぁ、ミユとアカリもセットなら秒で逃げるでしょうね」
そう思いながら、 わたしはふたりと定食を楽しんだ。
恋は不発でも、物語は大収穫。 今日もミサキ様はしっかり“通った”わよ。

