嫌いな人との付き合い方|避けられない仕事の現場でどうする?

サヨは、打ち合わせに行く準備をしながら、ため息をついた。

服装は問題ない。 メモも資料も揃っている。 時間にも余裕がある。

それなのに、気持ちだけがついてこない。

サヨ「……正直、行きたくないな」

独り言は、部屋の中で小さく消えた。

今日の打ち合わせ先の相手。 仕事として関わらなければいけない人。 でも、どうしても苦手な人。

サヨ「なんかさ、言い方がきついんだよね。 こっちが悪いみたいな言い回しするし」

理由ははっきりしている。 意地悪をされたわけでも、トラブルがあったわけでもない。

ただ、

サヨ「……合わない」

それだけだ。

嫌い、という言葉を使うほど大げさじゃない。 でも、好きになれる要素も見つからない。

サヨ「こういうのって、 “自分が大人になれば平気になる”って言われがちだけどさ」

鏡の前で、バッグを肩にかける。

サヨ「……ならないよね。普通に」

むしろ年齢を重ねるほど、 「合わない人」がはっきりしてくる気がする。

サヨはスマホを手に取って、こいこと。編集部のグループチャットを開いた。

サヨ「すみません。 ちょっと相談してもいいですか」

打ち合わせまで、まだ少し時間がある。 サヨは深呼吸をして、メッセージを送った。

サヨ「今日の打ち合わせ先の人が、正直ちょっと苦手で…… みなさん、嫌いな人と仕事するときって、どうしてます?」

既読が、ひとつ、またひとつと増えていく。

サヨはスマホを握りしめながら、返事を待った。

目次

嫌いな人と、どうしても関わらなきゃいけないとき

スマホを見つめながら、サヨは思った。

サヨ「嫌いって思っちゃいけないのかな」

仕事なんだから。 大人なんだから。 割り切らなきゃ。

そう言われることは多い。

でも、割り切れないから困っているのだ。

サヨ「別に、意地悪されたわけじゃないし、 仕事を邪魔されたわけでもないんだけど……」

言葉の選び方。 間の取り方。 こちらを試すような視線。

そういう小さな違和感が、積み重なっている。

サヨ「会う前から、ちょっと疲れる感じ」

これは、甘えだろうか。

サヨは首を振った。

嫌いな人がいること自体は、珍しくない。 むしろ、自然なことだ。

全員と相性がいい人なんて、存在しない。

サヨ「好き嫌いをなくす、っていうのも無理だよね」

問題は、嫌いなまま、どう関わるかだ。

逃げられるなら、それが一番楽だ。 でも、仕事ではそうもいかない場面がある。

サヨ「打ち合わせだし……今日だけ我慢すれば終わる、 って分かってるんだけど」

分かっているからこそ、 気持ちが追いつかない。

嫌いな人と関わるとき、 一番しんどいのは“会っている時間”よりも、 会う前の想像だったりする。

サヨ「またああ言われるかも、とか、 変な空気になったらどうしよう、とか」

頭の中で、何度もシミュレーションしてしまう。

でも、それはサヨが真面目だからだ。 仕事をちゃんとやろうとしているから、 気になってしまう。

サヨ「……ちゃんとやりたいだけなんだけどな」

嫌いな人と関わることは、 自分の人間性を試されているわけでも、 成長テストでもない。

ただの現実だ。

サヨは、スマホの画面を見つめ直した。 編集部のメンバーから、返信が届き始めている。

どうやら、 「嫌いな人との付き合い方」には、 いろんな考え方があるらしい。

こいこと。ライターたちのアドバイス

ミカコの場合:「好き嫌いと、仕事は分けて考える」

最初に返ってきたのは、ミカコからだった。

ミカコ「嫌いなら嫌いでいいと思うよ。 ただ、仕事では“人”じゃなくて“役割”を見る」

サヨは、その言葉をゆっくり読み返す。

ミカコ「相手がどういう人か、じゃなくて、 今日の打ち合わせで“何を決める人か”だけ意識するの」

感情を消す、というより、 感情の置き場を変えるイメージだ。

ミカコ「好かれなくてもいいし、 分かり合わなくてもいい。 ちゃんと決まるものが決まれば、それでOK」

サヨ「……なるほど」

嫌いな相手を無理に好きになろうとしない。 でも、必要以上に引きずらない。

ミカコらしい、割り切り方だった。


マリの場合:「分かり合おうとしなくていい」

次に届いたのは、マリからのメッセージ。

マリ「サヨちゃん、 嫌いな人と“分かり合おう”とすると、余計につらくなるのよ」

サヨは、少しハッとした。

マリ「価値観が違う人は、 どれだけ話しても違うまま。 それは失敗じゃないの」

無理に理解し合おうとしなくていい。 ただ、尊重だけはする。

マリ「挨拶して、必要な話だけして、 それ以上踏み込まない距離感も、立派な付き合い方よ」

サヨ「……距離を取ってもいいんですね」

マリ「もちろん。 “大人”って、近づくことだけじゃないから」


ケンジの場合:「若い頃、俺にも嫌いな上司がいた」

少し遅れて、ケンジからも返信が来た。

ケンジ「俺な、若い頃どうしても合わねぇ上司がいてさ」

急に始まる昔話に、サヨは思わず笑ってしまう。

ケンジ「正直、顔見るだけで腹立つタイプだった」

でも、とケンジは続ける。

ケンジ「逃げなかったけど、 近づきすぎないようにはした」

必要な報告はする。 雑談はしない。 感情は持ち込まない。

ケンジ「全部を我慢しようとすると壊れる。 でも、線を引けば案外やれる」

サヨ「線を引く……」

ケンジ「そう。 我慢じゃなくて、調整な」


ミユの場合:「終わったあとの楽しみを決める」

最後に、ミユからのメッセージが届いた。

ミユ「サヨちゃん、それ終わったら何する予定?」

サヨ「え?」

ミユ「嫌な人と会う日はさ、 “そのあとにいいこと”入れとくの大事だよ」

例えば。

ミユ「好きなカフェ寄るとか、 コンビニでちょっと高いスイーツ買うとか」

サヨ「……確かに」

ミユ「嫌な時間をゼロにはできないけど、 “一日全部嫌”にはしなくていいんだよ」

ミユらしい、やさしい現実策だった。


ワニオの場合:「嫌いな人は、環境の一部です」

そして最後に、ワニオから短い一文が届いた。

ワニオ「嫌いな人は、環境の一部です」

サヨ「……環境?」

ワニオ「天気や気温と同じです。 好みではありませんが、 存在する前提で行動します」

感情を否定もしない。 正当化もしない。

ワニオ「感情を使いすぎないことが、 長く働くコツです」

サヨは、思わず息を吐いた。

ワニオの言葉は、いつも少し変だ。 でも、不思議と肩の力が抜ける。

それでもしんどいときの、現実的な対処法

スマホを置いて、サヨは少し考えた。

どのアドバイスも、正しい。 でも、今日は全部を完璧に実践できそうにない。

サヨ「……全部やらなくていい、よね」

嫌いな人との付き合い方に、 “理想形”はない。

だからサヨは、 今日の自分にできそうなことだけを選ぶことにした。

たとえば、

  • 会話は必要最低限で終わらせる
  • 相手の言動を「性格」ではなく「癖」として処理する
  • 無理に好印象を持たれようとしない

そして、もうひとつ。

サヨ「……終わったら、甘いもの買って帰ろ」

ミユの言葉が、ふっと頭に浮かぶ。

嫌な時間があるからこそ、 そのあとに“自分を取り戻す時間”を用意する。

それだけで、一日全部が嫌な日にならずに済む。

サヨはバッグを持ち直して、玄関に向かった。


打ち合わせに向かう途中、 気持ちが劇的に軽くなったわけではない。

嫌いな人が、急に好きになったわけでもない。

でも。

サヨ「……ちゃんとやれそう」

そう思えた。

嫌いな人と付き合うことは、 自分を押し殺すことでも、 我慢大会でもない。

ただ、距離と気持ちを調整しながらやり過ごすこと。

それができるだけでも、 十分“大人の付き合い方”だ。

サヨは一度深呼吸をして、 打ち合わせ先のビルを見上げた。

サヨ「よし。行こう」

嫌いな人がいても、 仕事はできる。

そして、 嫌いな人がいる自分も、 別に間違っていない。

そう思えたまま、 サヨは中へ入っていった。

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