その後、ハルノとは何回かデートしている。
悪くなかった。
優しかったし、会話も成立してた。
LINEの頻度も、距離感も、たぶん「正解」。
でもね。
ピンとこなかった。
ミサキ様がハマる男じゃなかったみたいね。
……まぁ、そういうこともあるわよね。
恋が始まらない理由を、いちいち悲劇にするほど、わたしもヒマじゃない。
というわけで今日は、恋の続きを探す代わりに、もっと面白い素材を取りに行くことにした。
――10代の恋愛事情。
相手は、アカリ、ハルキ、シュウ。
よくしゃべって、よく笑って、たぶんまだ自分たちがどれだけ騒がしいか気づいていない三人組。
……青春って、うるさい。
でも、こういう「未編集の感情」って、記事になるのよね。
さて。ミサキ様、取材に行ってきます。

10代トリオ、集合。――空気が軽すぎる
待ち合わせ場所に着いた瞬間、わかった。
あ、今日の現場、うるさいやつだ。
(※褒めてる)
「え、ミサキさん今日ガチで来たんですか!?」
アカリが一番に気づいて、目を丸くする。
テンションがそのまま声量に変換されるタイプ。
わたしは軽く手を振った。
「来たわよ。青春の市場調査にね」
「市場調査って言い方がもう大人~!」
大人、というより、職業病よ。
ハルキは“礼儀”、シュウは“距離感”で場を保つ
ハルキは、ちゃんと会釈してくる。
こういうところが、妙に誠実でめんどくさい。
「こんにちは。今日は…なんか、すみません」
「何が?」
「いや…話、聞かれるって、ちょっと恥ずいっす」
うん。恥ずいは正しい。
青春って、基本、恥ずい。
シュウは、少しだけ姿勢を正してから口を開いた。
「今日は、よろしくお願いします。
あ、何聞いてくれても大丈夫ですけど」
丁寧だけど、よそよそしくはない。
この“一歩引く距離感”、同い年の中で身につけたやつね。
「で、今日はどういう感じですか?」
「取材も兼ねた、ただの雑談」
「なるほど。じゃあ、気楽にいきます」
サバサバしてるけど、ちゃんと空気は読む。
シュウは、そういうタイプ。
わたしは“先生”じゃない。今日はただの観察者
3人が並ぶと、空気が軽い。
軽いのに、会話の端っこにだけ、妙に“本音”が混ざる。
……なるほど。
「ねえ、三人とも。今日はさ」
わたしは、わざと軽いトーンで切り出した。
「10代の恋愛って、どんな感じなのか教えて。
大人の恋はね、だいたい“編集”が入るの。
でも、あなたたちのは、まだ未編集でしょ?」
アカリが笑って、ハルキが「うわ…」って顔をして、
シュウが小さく息を吐いた。
「未編集というか…
考える前に、気持ちが先に出ちゃう感じです」
うん。いい回答。
――これは、いい素材が取れそう。
10代の恋は、気持ちが先に走る
「で、恋愛の話って、どこからいく?」
シュウがそう言うと、アカリが即答した。
「好きかどうかわかんないのに、会いたくなるやつ!」
……はい、来ました。
未編集の代表例。
アカリ「好きじゃないって言い切れないのが一番しんどい」
「なんかさ、ドキドキはするんだけど、
“この人が好きです!”って胸張って言える感じでもなくて」
アカリはストローをくるくる回しながら言う。
「でも会わないと落ち着かないし、
LINE来ないと気になるし。
これって、好きなの?」
質問の矢印は、わたしじゃなくて空に向いてる。
……うん。
この感じ、10代。
ハルキ「気持ちが固まる前に、関係が動く」
ハルキは少し考えてから口を開いた。
「俺は、好きって自覚する前に、
一緒にいる時間が増えちゃうタイプかも」
「え、それ一番ややこしいやつじゃん」
アカリが笑う。
「そうなんだよ。
気づいたら“よく一緒にいる人”になってて、
周りに聞かれて初めて考える」
恋の主語が、自分じゃなくて“状況”。
これも、青春あるある。
シュウ「名前をつけるのが、ちょっと怖い」
シュウは、少しだけ間を置いてから言った。
「私は……
好きって言葉を使うと、
その関係が変わりそうで、ちょっと怖いです」
丁寧だけど、迷いははっきりしている。
「好きって言った瞬間、
期待されるし、期待もしちゃうじゃないですか」
「わかる~!」
アカリが即うなずく。
「だから、今の距離がちょうどいいなら、
あえて名前つけないのもアリかなって」
……なるほど。
3人とも、言ってることはバラバラ。
でも根っこは同じ。
感情が先に走って、言葉が追いついてない。
未編集。
でも、熱は一発目で伝わる原稿。
――青春って、やっぱり騒がしい。
ミサキ様的・10代恋愛の見方
三人の話を聞きながら、わたしはコーヒーを一口飲んだ。
……うん。
やっぱり、想像通り。
10代の恋って、感情が主語。
理由はあとからついてくる。
正解は言わない。構造だけ見る
「ねえ」
わたしは、わざと軽いトーンで言った。
「別に、どれも間違ってないと思うわよ」
アカリが目を丸くする。
「え、アドバイスとかないんですか?」
「あるけど、いらないでしょ」
「即答!?」
だって、今の三人に必要なのは、
“正解”じゃなくて“経験”だもの。
10代の恋は、まだ完成させなくていい
「好きかどうかわからない」
「名前をつけるのが怖い」
「でも、会いたい」
それって全部、
感情がちゃんと動いてる証拠なのよ。
わたしは続ける。
「大人になるとね、
恋はもっと静かになるの。
気持ちより、条件とか、タイミングとか、将来とか」
「うわ、急に現実」
シュウが苦笑いする。
「でしょ?」
「だから今は、
うるさいくらいでちょうどいいのよ」
自分の過去は、ちゃんと棚に置いてある
……とはいえ。
内心では、こうも思っている。
わたしがもう、
このフェーズに戻れない理由も、よくわかる。
感情が動いた瞬間に、
「これ、どこが面白い?」って考えてしまう。
――完全に、職業病。
でも、それでいい。
今のわたしには、
未編集の恋を生きる役目はない。
その代わり、
こうして観察して、言葉にする。
それが、わたしの仕事。
青春は、編集しないほうがうまい
話し終わったあと、三人はまたいつものテンポに戻っていた。
アカリは笑って、ハルキは照れて、
シュウは「まぁ、そんなもんか」と肩をすくめる。
……いい空気。
10代の恋って、やっぱりうるさい。
感情が先に走って、言葉が追いつかなくて、
勝手に盛り上がって、勝手に落ち込む。
でもね。
たぶん、あれは――
静かになったら終わるやつなのよ。
だから今は、あの騒がしさでいい。
完成させなくていいし、
無理に名前をつけなくてもいい。
青春の原稿は、
推敲前がいちばんうまい。
帰り道、ふと思った。
ハルノに、どうしてピンとこなかったのか。
たぶん理由は簡単で、
最初から“完成形”に見えてしまったから。
……それはそれで、悪くない恋。
でも今のわたしが欲しいのは、
安心じゃなくて、ネタ。
恋愛運は、相変わらずイマイチ。
でも記事運は、今日も最強。
さて。
次はどんな感情が転がってくるのかしら。
ミサキ様が通る!
――次回も、面白いところだけ拾っていきます。

