大晦日、ただ喋ってるだけ。──こいこと。年越し雑談会

大晦日。

こいこと。編集部は、仕事納めとか関係なく、
なんとなく人が集まってしまう場所になっていた。

机の上にはお菓子と飲み物。
テレビはついているけど、誰もちゃんと見ていない。

ミユ「ねえ、これってさ……
なに目的で集まってるの?

ミカコ「知らない。
気づいたら来てただけ

ミサキ「ふふ。
予定がない人間が集まる日、それが大晦日よ」

ケンジ「最高じゃねえか。理由なんていらねえ」

ソウタ「年末って、
ただ喋ってるだけで許される空気ありますよね」

その横で、ワニオは静かにお茶を飲んでいる。

ワニオ「本日は目的不明の集合ですね」

ミユ「うん。正解」

目次

とりあえず集まったけど、特に話すことはない

ミユ「じゃあさ、
誰か今年を一言で振り返って

ミカコ「え、急」

ミサキ「大晦日ってそういう無茶振りが許される日よ」

ケンジ「俺は……酒がうまかった一年だな」

ミカコ「毎年それじゃない?」

ケンジ「毎年正解ってことだ」

ソウタ「俺は……
怖いものをたくさん見た年かも」

ミユ「あー、ホラー」

ソウタ「うん。
もういいかなって思ってる

ミサキ「“もういいかな”って言う人ほど、また巻き込まれるのよ」

ミカコ「それ、完全にフラグ」

テレビの音が少し大きくなる。
誰かがリモコンを触ったけど、結局そのまま。

ミユ「ねえワニオは?
今年どうだったの

ワニオ「観察対象が多く、
非常に刺激的でした

ミユ「それ、褒めてる?」

ワニオ「事実です」

誰もまとめないまま、
会話はゆっくり、どうでもいい方向へ流れていく。

年末っぽい話をしようとして、すぐ脱線する

ミユ「ねえ、年末といえばさ、
みんな何食べる予定?」

ケンジ「俺はもう決まってる。
酒」

ミカコ「食べ物じゃない」

ミサキ「でも分かるわ。
大晦日って、ちゃんとしたもの食べなくても許される感じあるもの」

ソウタ「僕、年越しそばって毎年食べるけど、
正直、意味よく分かってないです」

ミユ「え、じゃあなんで食べてるの?」

ソウタ「“そういうもの”だから、ですかね」

ワニオ「儀式ですね」

ミカコ「ワニに言われると急に説得力出るのやめて」

ミユ「でもさ、年末ってさ、
“ちゃんとしなきゃ”が一気に緩むよね」

ミサキ「分かる。
連絡返さなくても、部屋散らかってても、
“まぁ年末だし”で済む魔法の期間」

ケンジ「一年で一番、人間が人間でいられる日だな」

ミカコ「重いこと言う割に、顔が赤い」

ケンジ「それは酒のせいだ」

テレビから流れるカウントダウン特番の音を、
誰もちゃんと聞いていない。

ミユ「ねえ、これさ、
来年の抱負とか言う流れ?

ミカコ「やめよ。
言った瞬間、嘘になるやつ」

ソウタ「僕も、今日は言いたくないです」

ワニオ「未設定でも問題ありません」

ミサキ「ほら、ワニもそう言ってるし」

ミユ「じゃあ今日は、
何も決めない大晦日でいこ」

誰も反対しなかった。

来年の話をすると、急に静かになる

ミユ「でもさ……
来年って、どうなるんだろうね」

さっきまでの賑やかさが、ほんの一瞬だけゆるむ。

ソウタ「急に静かになりましたね」

ミカコ「“来年”って言葉、ちょっと重いから」

ミサキ「分かるわ。
来年どうする?って聞かれると、
ちゃんとしなきゃいけない気がしてくるのよね」

ケンジ「俺はもう決めてる。
来年も、たぶん同じように飲んでる」

ミユ「それ目標じゃなくて現状維持じゃん」

ワニオ「現状維持は、立派な選択です」

ミカコ「またワニが良いこと言ってる」

ミユ「でもさ、
来年どうなるか分からないけど、
今年ここにいるメンバーが、今こうして喋ってるのは事実だよね」

ソウタ「それ、ちょっといいですね」

ミサキ「未来の保証はないけど、
今の事実はちゃんと残ってる、って感じ」

ケンジ「こういうのを、酒がうまくなる理由って言うんだ」

ミカコ「結局そこ」

時計を見ると、年越しまであと少し。

ミユ「ねえ、これさ、
特別なこと何もしなくても、もう十分じゃない?

ワニオ「同意します。
イベント性は最低限でも、満足度は高いです」

ソウタ「じゃあ、このまま何も決めずに年越しましょう」

ミサキ「それが一番、こいこと。っぽいわね」

そして、特に何も起きないまま年は明ける

テレビの音量が少しだけ上がる。

ミユ「あ、もうすぐだ」

ケンジ「早いな。今年」

ミカコ「早いっていうか、
気づいたら終わってた感じ」

ソウタ「でも、悪くなかったですよね」

ミサキ「ええ。
ちゃんと楽しかったわ」

ワニオ「評価基準が“楽しかった”であるなら、
本日は高得点です」

ミユ「年末に点数つけるのやめて」

カウントダウンが始まる。

10、9、8――

ケンジ「来年も飲むぞー」

ミカコ「それ目標じゃないって」

3、2、1――

テレビの向こうで歓声が上がる。

ミユ「……あ、明けた」

ソウタ「明けましたね」

ミサキ「特に何も変わらないけど」

ワニオ「時間が一区切りしただけです」

ケンジ「それでもさ、
なんかちょっと、いいよな」

誰も大きな抱負は言わない。

でも、誰も帰ろうともしない。

ミユ「来年もさ、
たぶんこんな感じでいこ」

ミカコ「うん、それが一番ラク」

ソウタ「また集まれたらいいですね」

ミサキ「集まれるうちは、ね」

ワニオ「その“うち”を、
あまり急がなくていいと思います」

静かで、ゆるくて、少しだけあたたかい。

そんな空気のまま、
こいこと。の一年は、次のページへ進んでいった。

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