話せるのに話しかけられない男──ミサキ様が通る!恋が動かない理由を解体してみた

ネタが欲しい。

正確に言うと、
恋愛としては微妙だけど、
記事としては美味しいやつ。

そんなことを考えながら、
編集部のメールボックスを開いた、そのとき。

一通の相談メールが届いていた。

差出人は、ヒロ。

年齢、職業、
いわゆるスペックは、特別なことは書いていない。

ただ、やけに丁寧で、
やけに遠慮がち。

内容を要約すると、こう。

話しかけられれば、普通に話せる。
でも、自分から話しかけるのが苦手。

好きな人はいる。
でも、その人も大人しい。

だから、
「自分から話しかけられるようになりたい」らしい。

……なるほど。

さらに、こう続いていた。

「ミサキさんみたいに、
話しかけてくれる人とは、ちゃんと話せます」

はい、出ました。

この一文。

わたしは、スマホを机に置いて、
小さく息をついた。

「つまり……」

あなたは話せない人じゃない。
ただ、最初の一歩を、
いつも他人に任せてるだけ。

そして、こういうタイプは、
恋愛ではよくある。

でも。

ネタとしても、
かなり使える。

――というわけで。

わたしは、ヒロに返信した。

「一度、直接お話ししましょうか」

恋の行方は知らない。

でも、
記事になる未来は、もう見えている。

ミサキ様が通る!

今回は、
“話せるのに始められない男”の話。

目次

まずは、素材としてのヒロを分解してみる

直接会う前に、
わたしはもう一度、ヒロのメールを読み返した。

こういうとき、
恋愛相談として読むと、
だいたい失敗する。

大事なのは、
人としてどうか。
ネタとしてどうか。

順番を間違えないこと。

まず、ヒロはこう言っている。

「話しかけられれば、普通に話せます」

ここ、重要。

これはつまり、
コミュ障ではない。

会話ができないわけでも、
人が嫌いなわけでもない。

ただ、
自分から始めないだけ。

次。

「自分から話しかけるのが苦手です」

はい、出ました。

この言葉、
本当に便利。

なぜなら。

努力してないことを、
性格のせいにできるから。

苦手。
不得意。
向いてない。

どれも、
行動しない理由としては、
かなり優秀。

そして、極めつけ。

「ミサキさんみたいに、
話しかけてくれる人とは話せます」

……うん。

これはもう、
素材として満点。

つまりヒロは、
自分を助けてくれる人とは話せる。

でも、
自分が助けに行く役は引き受けない。

ここで、
よくある勘違いが生まれる。

「自分は大人しいから、
積極的な人と合う」

違う。

あなたは、
“積極的な人に寄りかかっている”だけ。

安心してほしい。

これは、
ヒロだけの問題じゃない。

このタイプ、
恋愛市場に山ほどいる。

嫌われない。
問題も起こさない。
でも、選ばれにくい。

理由は簡単。

始まらないから。

恋愛は、
続けるより、
始めるほうが、圧倒的に難しい。

だからこそ、
ここに価値がある。

ヒロは、
ダメな男じゃない。

でも、
このままだと、
何も起きない男だ。

……うん。

会ってみる価値は、
十分ある。

恋のため?

いいえ。

ネタのために。

ミサキ様、
素材を確保しに行きます。

実際に会ってみたら、普通に話せた

待ち合わせは、
駅から少し離れたカフェ。

ヒロは、時間ぴったりに来た。

遅れない。
慌てない。
この時点で、印象は悪くない。

席に座って、
向かい合う。

少しだけ、間。

だから、
わたしから声をかける。

「今日は来てくれてありがとう。
こういう相談、ちょっと緊張するわよね」

ヒロは、
すぐに頷いた。

「はい。
でも、思ってたより落ち着いてます」

……ほら。

ちゃんと話せる。

注文を終えて、
コーヒーが来る。

「このカフェ、よく来るの?」

「いえ、初めてです。
でも、雰囲気いいですね」

受け答えは、
丁寧で、自然。

わたしが話を振れば、
会話はちゃんと続く。

仕事の話。
休日の過ごし方。
最近見た映画。

どれも、
無難だけど、
つまらなくはない。

ときどき、
ヒロのほうから、
笑いも出る。

「それ、ちょっとわかります」

「あ、それ自分も同じです」

……ね。

会話は、弾む。

ただ。

ひとつだけ、
はっきりしていることがあった。

わたしが黙ると、
ヒロも黙る。

数秒。
十秒。

ヒロは、
考えている。

でも、
踏み出さない。

話題を探しているのは、
伝わる。

視線が少し泳いで、
口が、わずかに開く。

――けれど、
言葉は出てこない。

だから、
また、わたしが話す。

「ちなみに、
好きな人とは、どんな会話してるの?」

ヒロは、
少し照れたように笑ってから答えた。

「……向こうが、
話しかける内容に合わせてます」

「でも静かな人なので、自分からも話しかけたいと思って」

「でも上手く話せないんです」

はい。

答えとしては、
完璧に正直。

ヒロは、
話せない人じゃない。

むしろ、
ちゃんと相手を聞くし、
空気も読める。

ただ、
最初の一手を、
自分から出せない。

それだけ。

わたしは、
コーヒーを一口飲みながら、
思った。

――なるほど。

これは、
恋が始まらない理由として、
とてもわかりやすい。

そして同時に。

ちゃんと、
記事になる。

ミサキ様、
素材の質を、
静かに確認した瞬間だった。

話せるのに始められない人が、恋で詰まる理由

ヒロと話して、
はっきりしたことがある。

この人は、
話せない人じゃない。

会話は、
ちゃんと成立する。

笑うし、
相づちも打つし、
考えも持っている。

ただひとつ。

自分から、
場を動かそうとしない。

これ、
本人が思っているより、
ずっと大きな差になる。

恋愛って、
会話の上手さより、
始めた回数で決まる。

うまい一言より、
雑な一言のほうが、
場を動かすことも多い。

ヒロは、
話題を考えていた。

沈黙のあいだ、
視線が少し泳いで、
言葉を探していた。

でも、
出さない。

なぜか。

理由は、
とてもシンプル。

失敗したくないから。

嫌われたくない。
変に思われたくない。
空気を壊したくない。

だから、
一番安全な選択をする。

何もしない。

でもね。

恋愛において、
何もしないは、
かなり攻撃力の低い戦略。

好かれもしないけど、
嫌われもしない。

ただ、
印象が残らない。

ヒロは、
悪い印象を与えない。

でも、
選ばれる理由も、
まだ足りない。

ここで、
大事なことを言うわ。

話しかけるって、
好かれるための行為じゃない。

自分が、
そこに参加していると示す行為。

だから、
言葉は雑でいい。

天気。
コーヒー。
「今日は寒いですね」

それだけで、
場は、少し動く。

動いた場には、
次の言葉が、
入り込む余地が生まれる。

ヒロに、
ひとつだけ伝えるなら。

話しかけることは、
評価をもらうためじゃない。

自分が、
その場に存在していると、
名乗るための行為。

失敗してもいい。

変でもいい。

恋は、
綺麗な始まり方より、
始まった事実のほうが重要。

ヒロは、
一歩出れば、
ちゃんと話せる人だ。

だからこそ。

出ないまま終わるのは、
少し、もったいない。

……さて。

ここまで書いたら、
もう十分。

あとは、
ヒロにどう伝えるか。

最後に、ひとことだけ

カフェを出る前、
わたしはヒロに、
ひとつだけ聞いた。

「ヒロ。
話しかけるとき、
何が一番怖い?」

ヒロは、
少し考えてから答えた。

「……変に思われること、ですかね」

やっぱり。

わたしは、
少し笑って言った。

「安心して。
恋愛なんて、
だいたい最初は変よ」

ヒロは、
きょとんとした顔をした。

「ミサキさんも、ですか?」

「もちろん」

「わたしなんて、
だいたい最初は、
印象悪いわ」

「必死に猫かぶることもある」

ヒロが、
少しだけ笑った。

そこで、
わたしは続ける。

「ヒロね。
話しかけるって、
会話を盛り上げることじゃないの」

「“ここにいます”って、
名乗るだけでいい」

「名乗らない人は、
いないのと同じになっちゃう」

ヒロは、
静かに頷いた。

「……確かに」

「失敗したら、
どうしようって思ってました」

「うん。
でもね」

「失敗しない人って、
だいたい、
何もしてない人よ」

少しだけ、
強めに言った。

でも、
声は柔らかく。

ヒロは、
視線を落としてから、
また顔を上げた。

「……次は、
自分から話しかけてみます」

それは、
大きな決意じゃない。

でも、
十分。

わたしは、
コートを羽織りながら、
言った。

「完璧じゃなくていいわ」

「雑でいいし、
下手でもいい」

「それでも、
始めた人のほうが、
恋には近い」

ヒロは、
深く頷いた。

たぶん、
今日で、
人生が激変するわけじゃない。

でも。

“何もしないまま終わる未来”からは、
一歩、ずれた。

それで、十分。

恋が始まるかは、
わからない。

でも、
記事は、できた。 

ミサキ様が通る!

今回も、
ネタと余韻、
どちらも、
きれいに回収。

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