こいこと。編集部で、リクがノートをめくりながら小さく首をかしげていた。
リク「最近多い相談なんですけど……“恋の駆け引きって、やっぱり有効なんでしょうか?”って」
LINEの返信を遅らせる。 わざとそっけなくする。 一度引いて、相手の出方を見る。
恋愛記事でもよく見かけるし、 「押すな」「いや、引け」「いやいや、今は押せ」 と、意見はいつも割れている。
リク「理論的に考えると、駆け引きって“戦略”として語られがちなんですが……
実際は、成功例と失敗例の差がかなり激しいんですよね」
向かいの椅子に座っていたワニオが、静かにコーヒーを置いた。
ワニオ「恋愛に興味はありませんが。
人間が回りくどくなる瞬間としては、駆け引きはとても分かりやすいです」
リク「回りくどい……」
ワニオ「ええ。
本音を出すのが怖いとき、人は“操作”に走ります」
リク「なるほど……。
つまり今日は、恋の駆け引きが有効かどうかを、感情論じゃなくて、少し分解して考えてみよう、という回ですね」
ワニオ「はい。
結論を急ぐと、だいたい失敗しますので」
――というわけで今回のテーマは、「恋の駆け引きは本当に有効なのか」。
やったほうがいいのか。 やらないほうがいいのか。 それとも、そもそも考え方がズレているのか。
理論派のリクと、恋愛をしない観察者ワニオが、
少し距離を取って、この話題を解体していく。
そもそも「恋の駆け引き」って、何を指してる?
リク「まず整理したいんですが、“恋の駆け引き”って言葉、かなり幅が広いですよね。
返信を遅らせるのも、素っ気なくするのも、あえて誘わないのも、全部まとめてそう呼ばれている」
ワニオ「人間は、直接言えないことを一括で“駆け引き”と呼びます」
リク「たしかに……。
“好き”と言えない、“会いたい”と言えない、その代替行動が駆け引きになる」
ワニオ「はい。分類するとシンプルです。
①距離を操作する、②反応を操作する、③期待を操作する。だいたいこの3つです」
リク「返信速度、態度の温度差、急に引く……全部そこに入りますね」
ワニオ「共通点はひとつ。
相手の気持ちを“確認せずに動かそうとする”こと」
リク「なるほど。確認しないから、安全そうに見えるんですね」
ワニオ「はい。
拒否されるリスクを直接負わないための行動です」
リク「理論的に見ると、駆け引きは“情報を伏せたまま影響を与えようとする手法”ですね。
成功すれば楽だけど、失敗したときの誤解も大きい」
ワニオ「しかも、人は自分の駆け引きを“無意識”だと思いがちです」
リク「無意識……」
ワニオ「はい。
“なんとなく返さなかった”
“なんとなく冷たくした”
だいたい、なんとなくではありません」
リク「つまり、駆け引きって特別なテクニックじゃなくて、
不安や迷いが表に出た行動でもある」
ワニオ「その通りです。
なので、有効かどうかを考える前に、なぜそれをしたくなるのかを見る必要があります」
リク「なるほど……。
次は、その“有効に働く場合”を見てみましょうか」
恋の駆け引きが「うまくいく」ケースは、かなり限られている
リク「ここが一番誤解されやすいところなんですが……
駆け引きが“成功した例”が存在するのも事実なんですよね」
ワニオ「はい。
ただし、それは条件付きです」
リク「まず大前提として、相手側にすでに好意がある場合ですね」
ワニオ「重要です。
駆け引きは、ゼロをプラスにする行為ではありません」
リク「あ、なるほど。
“好意がある状態を動かす”ことはできても、好意そのものを生み出すわけじゃない」
ワニオ「はい。
相手がすでに気にしている場合にだけ、距離の変化が刺激になります」
リク「たとえば、もともと連絡を取り合っている関係で、
少し返信を遅らせると“あれ?”と意識される、みたいな」
ワニオ「それは、関係が前提として存在するから成立します」
リク「逆に言うと、関係が浅い段階で引くと……」
ワニオ「ただの離脱です」
リク「はっきり言いますね」
ワニオ「観察結果です。
相手は“追わなかった”のではなく、存在を認識していないだけのことが多い」
リク「つまり、駆け引きがうまくいく条件としては、
①すでに好意がある
②関係性が安定している
③一時的な変化である。この3つが揃っている必要がある」
ワニオ「そして、常用しないこと」
リク「たしかに。頻繁にやると、不信感のほうが強くなりますね」
ワニオ「駆け引きは、刺激ではなく違和感になった瞬間に終わります」
リク「成功例だけを見て真似すると、
失敗する人が多い理由がよく分かります」
ワニオ「はい。
再現性が低いからです」
リク「次は、その逆。
“ほぼ確実に失敗するケース”を見てみましょうか」
恋の駆け引きが「ほぼ確実に失敗する」ケース
リク「じゃあ逆に、やらないほうがいいケースを整理したいですね」
ワニオ「こちらのほうが多いです」
リク「まず一つ目は、好意がまだ伝わっていない段階」
ワニオ「はい。
相手が“気づいていない”状態で駆け引きしても、何も起きません」
リク「“押してダメなら引いてみる”って言葉、
そもそも押していない人が使ってしまうことも多いんですよね」
ワニオ「その場合、引くのは戦略ではなく消失です」
リク「二つ目は、相手が不安になりやすいタイプ」
ワニオ「はい。
安心を求めている人に距離操作をすると、警戒されます」
リク「“追ってくれる人が好き”と思われがちですけど、
実際は不安にさせる人から離れるケースも多い」
ワニオ「不安が刺激になるのは、余裕がある人だけです」
リク「三つ目は、駆け引きを長期間続けること」
ワニオ「これは観察していて一番多い失敗です。
態度が一貫しない人という評価になります」
リク「相手からすると、“本音が分からない”“信用しにくい”ですよね」
ワニオ「恋愛で一番避けられるのは、敵より不明瞭です」
リク「強い言葉ですね」
ワニオ「曖昧さは、安心を奪います」
リク「まとめると、駆け引きが失敗するのは、
①関係が浅い
②相手が不安型
③一貫性がない。このどれかに当てはまる場合ですね」
ワニオ「はい。
そして多くの人は、全部当てはまった状態で実行します」
リク「……それは失敗しますね」
ワニオ「失敗というより、誤解が積み重なる」
リク「次は、じゃあどう考えればいいのか。
“駆け引きをするかしないか”以外の視点を話しましょう」
結論:恋の駆け引きより大切なのは「一貫した好意」
リク「ここまで整理すると、恋の駆け引きが有効かどうかという問い自体が、少しズレている気がしますね」
ワニオ「はい。
有効かどうかではなく、必要かどうかです」
リク「たしかに。
関係が安定していて、好意がすでに伝わっているなら、
わざわざ駆け引きに頼らなくても進める」
ワニオ「駆け引きが必要な時点で、安心が足りていない可能性があります」
リク「理論的に見ると、恋愛で一番効くのは、
態度と行動が一貫していることなんですよね」
ワニオ「好意は、操作より継続で伝わります」
リク「連絡の頻度、会う姿勢、言葉の温度。
それが安定していれば、相手は安心する」
ワニオ「安心は、好意を育てる土壌です」
リク「もちろん、軽い間や余白としての距離感は大切ですけど、
それは“引くための技術”じゃなくて、関係を保つための調整ですよね」
ワニオ「はい。
調整と操作は、似ていますが別物です」
リク「まとめると、恋の駆け引きは――
使うものではなく、起きてしまうものに近いのかもしれません」
ワニオ「そして、多くの場合。
使おうとしている時点で、関係はまだ整っていない」
リク「だからこそ、悩んでいる人に伝えたいのは、
“押すか引くか”よりも、自分の好意をどう扱うかを考えてほしい、ということですね」
ワニオ「恋は、戦略ではなく信号です」
リク「信号……」
ワニオ「一貫して出ていれば、相手に届きます」
駆け引きがうまくいくかどうかを悩むより、
自分がどんな態度で相手に向き合っているかを見直してみる。
それだけで、恋はずっとシンプルになるのかもしれない。



