最近の編集部は、なんとなく穏やかだった。
特に理由があるわけじゃないけれど、ソウタが少しだけ機嫌がよさそうだったからかもしれない。
ソウタ:
最近、よく連絡とる人がいてさ。なんか、いい感じなんだよね。
ナナ:
ほう。で、その「いい感じ」は、どの辺がいいの?
ソウタ:
LINEはわりと続くし、たまに会えるし。向こうからも連絡くるし。
ミカコ:
……たまに、ね。
ソウタ:
うん。まあ……たまに。
少し間が空いた。
ナナ:
聞いていい?
ソウタ:
うん。
ナナ:
それ、進んでる?
ソウタ:
……進んでは、ないかも。
ミカコ:
じゃあ、止まってる。
リク:
止まってるかどうかは、まだ判断早いかな。ただ、違和感はありそうだね。
ワニオ:
失礼します。
今のお話、少しだけ別の角度から見てもよろしいでしょうか。
ソウタ:
あ、はい。
ワニオ:
冷蔵庫に入っている食材を想像してください。
すぐ使う予定はないけれど、捨てるほど傷んでもいない。
そういうものは、だいたい棚の奥に置かれます。
ナナ:
……ちょっと待って。
それ、ソウタが「食材」扱いされてるってこと?
ワニオ:
評価の話ではありません。
「今すぐ使う予定ではないが、無くなると困る位置」です。
ソウタ:
……それ、めっちゃ微妙じゃない?
ミカコ:
微妙だね。しかも自分では腐ってるか分かりにくいやつ。
リク:
ソウタが感じてるモヤっとした感じ。
それ自体が、ひとつのサインかもしれない。
ワニオ:
人間関係において、
安心より先に「確認したい気持ち」が増えている場合、
立ち位置が曖昧になっていることが多いです。
ナナ:
つまりさ。
キープされてるかどうか、気になり始めてるってことだよね。
ソウタ:
……キープ、か。
ワニオ:
言葉は強いですが、
棚の奥に置かれている状態かどうかを、
一度確認したくなる段階には見えます。
編集部の空気が、少し静かになった。
これはソウタだけの話ではなく、
「もしかして自分、キープされてる?」と感じたことのある男性なら、
誰でも一度は立ち止まる感覚だった。
男性がキープされていると感じやすい状況
ソウタの話を整理していくうちに、いくつか共通点が見えてきた。
リク:
まず前提として、キープされているかどうかって、はっきり線が引けるものじゃないんだよね。
ミカコ:
そう。だから余計にややこしい。
ナナ:
でもさ、「あれ?」って思う瞬間はだいたい似てるでしょ。
ソウタ:
……うん。思い当たるの、あるかも。
リク:
よくあるのは、連絡自体は続いているのに、関係が一段階も進まないケースだね。
ソウタ:
それ、まさに今。
ミカコ:
連絡は来る。でも次の約束は曖昧。
会えるけど、決定権は向こうにある。
ナナ:
で、断られるわけでもないから期待しちゃう。
ワニオ:
お皿に盛られた料理ではなく、
キッチンに置かれたままの食材に近い状態ですね。
ソウタ:
また食材……。
ワニオ:
加熱もされない。
しかし捨てられてもいない。
扱いとしては、非常に中途半端です。
リク:
他にも、好意を匂わせる言葉はあるけど、言葉だけで行動が伴わないことも多い。
ミカコ:
好きそうだけど、付き合う話は出ない。
未来の話になると急にぼやける。
ナナ:
それでさ、「今は忙しい」とか「タイミングじゃない」とか言われるやつ。
ソウタ:
……言われた。
リク:
忙しい自体は本当かもしれない。
でも大事なのは、その状態がどれくらい続いているかなんだ。
ワニオ:
期限のない保留は、人を消耗させます。
特に、期待して待つ側を。
ミカコ:
キープかどうかって、相手の気持ちより、
自分の不安が増えているかどうかで気づくこと多いよね。
ソウタ:
あ……それは、増えてるかも。
ナナ:
じゃあもう、「何も起きてない」って言い切るのも違うよね。
リク:
うん。
キープかどうかを決めつける前に、
違和感が積み重なっている状態かどうかを見るのが大事だと思う。
ここまでの話で、
ソウタの状況は
安心が増えていく関係ではなく、不安が積み重なっていく関係に近いことが分かってきた。
それは本当にキープなのか?判断が難しい理由
ここまでの話を聞くと、
ソウタの状況は「キープっぽい」と感じる人も多いかもしれない。
ただ、このテーマが厄介なのは、すべてがキープとは限らないところだった。
リク:
キープって言葉、便利だけど強いんだよね。
だから当てはめる前に、少し整理したい。
ミカコ:
雑に使うと、自分が余計に混乱するやつ。
ナナ:
まあでも、甘い期待だけで引き延ばされるのも違うけどね。
リク:
判断が難しい理由のひとつは、相手に悪意がないケースも多いことだと思う。
ソウタ:
悪意がない……?
リク:
うん。
相手も迷っていたり、決めきれなかったり、
単純に恋愛の優先度が低い場合もある。
ミカコ:
キープしてやろう、って考えてる人ばっかりじゃない。
ワニオ:
人は往々にして、
自分の立ち位置を明確にしないまま、関係を続けるものです。
ナナ:
それ、言い換えると無自覚ってこと?
ワニオ:
はい。
無自覚なまま、相手を棚に置いてしまう。
結果は意図的なキープと似ていても、動機は別です。
ソウタ:
じゃあ、相手が悪いって決めつけるのも違うのか。
ミカコ:
そう。でも、だからって我慢し続ける理由にもならない。
リク:
もうひとつ難しいのは、自分の期待が判断を曇らせることだね。
ソウタ:
期待……。
リク:
本当は不安なのに、
「もう少ししたら変わるかも」って希望を足してしまう。
ナナ:
それでズルズルいくと、しんどくなる。
ワニオ:
曖昧な関係は、
時間が経つほどコストが増える契約に似ています。
ソウタ:
……なんかリアルだな。
ミカコ:
気づいたら、感情だけ先払いしてる感じね。
リク:
だから大事なのは、
キープかどうかを即断することよりも、
自分が今、納得してその関係にいられているかを見ることだと思う。
ナナ:
納得できてないなら、名前が何でも問題だよ。
ここで一度、視点が切り替わった。
「キープされているかどうか」を決める前に、
この関係が、自分をすり減らしていないか。
そこを見る必要がありそうだった。
キープされているか確認するための視点
キープかどうかを感覚だけで考え続けると、
どうしても不安が増えてしまう。
そこでここでは、
男性が自分の立ち位置を確認するための視点を整理していく。
相手の言葉ではなく、行動を見る
リク:
まず大事なのは、言葉より行動を見ることだと思う。
ミカコ:
好きそうなこと言う人、正直いくらでもいるからね。
ソウタ:
優しい言葉は多いんだけどさ……。
リク:
それに対して、
時間を使ってくれているか、
予定を具体的に決めようとしてくれるかを見る。
ナナ:
行動が伴わない好意は、安心材料にはならないよ。
ワニオ:
口約束だけで更新される契約は、
現実では信用されません。
会える頻度より、決定権の所在を確認する
ミカコ:
もうひとつ分かりやすいのは、
関係のペースを誰が握っているか。
ソウタ:
あ……それ、向こうかも。
ミカコ:
会えるかどうかじゃない。
会う日を決める主導権がどちらにあるか。
リク:
ずっと相手都合で動いているなら、
対等な関係とは言いにくいよね。
不安が減っているか、増えているかを見る
ナナ:
正直さ、一番分かりやすいのここじゃない?
ソウタ:
不安……。
ナナ:
最初より安心してる?
それとも不安が増えてる?
ワニオ:
良好な関係は、
時間とともに安心が増えるものです。
ミカコ:
逆に、待つ時間が長くなるほど不安が増えるなら、
その関係は何かがおかしい。
確認=問い詰めることではない
リク:
ひとつ補足すると、
キープかどうかを確認するって、
相手を責めることではない。
ソウタ:
聞いたら壊れそうでさ。
リク:
壊れる可能性がある関係かどうかを知る、
という意味では、確認自体に価値はある。
ワニオ:
触れただけで壊れる構造は、
すでに脆いと言えます。
ここまで見てきた視点を使えば、
少なくとも「何となく不安」という状態からは抜け出せる。
大事なのは、
キープかどうかを断定することではなく、 自分がどんな立ち位置に置かれているかを知ることだった。
確認したあと、どうするかは自分で選べばいい
ここまで整理してきた視点を使えば、
ソウタの立ち位置は以前より見えやすくなっていた。
ただ、ここで大事なのは、
確認できたからといって、すぐに答えを出す必要はないということだった。
ソウタ:
じゃあさ。
キープっぽいかもって分かったら、どうすればいいんだろ。
ナナ:
まず、「どうしたいか」を自分で決めるしかないよね。
リク:
うん。
選択肢はいくつかあると思う。
ミカコ:
待つのも、動くのも、やめるのも、全部アリ。
ワニオ:
重要なのは、
無意識に待たされる状態を選び続けないことです。
リク:
もし待つなら、
期待と不安をセットで引き受ける覚悟が必要になる。
ソウタ:
それ、結構しんどいな。
ナナ:
しんどいなら、別の選択を考えてもいい。
ミカコ:
例えば、自分から一歩踏み込んで、
関係をどう考えているか聞いてみるとか。
ソウタ:
怖いけど……。
リク:
でも、聞かずに消耗し続けるよりは、
関係がどうなるかを知るって意味では健全だよ。
ワニオ:
確認とは、相手を追い詰める行為ではありません。
自分の時間と感情の使い道を決めるための行動です。
ナナ:
それで答えがハッキリしたら、
次どうするかも決めやすくなる。
ミカコ:
少なくとも、
「よく分からないまま待ち続ける状態」からは抜けられる。
ソウタ:
……それだけでも、ちょっと楽かも。
リク:
キープされているかどうかを確認する目的は、
相手を裁くことじゃない。
自分が納得できる恋愛を選ぶためなんだと思う。
ワニオ:
立ち位置を知らないまま進む旅は、
目的地より先に疲れてしまうものです。
ソウタは少し考えてから、静かにうなずいた。
答えを急がなくてもいい。
でも、自分の立ち位置から目をそらさないことは、
これからの選択を楽にしてくれるはずだった。
まとめ
キープされているかどうかを見極めることは、
相手を疑うためではなく、自分の立ち位置を知るための行為だった。
大切なのは、
関係が進んでいるかどうかより、安心が増えているか、不安が増えているか。
答えを急がなくてもいい。
ただ、違和感を放置しないことが、次の選択を楽にしてくれる。



