好きなのに、なぜ冷たくなるのか
「好きなのに、うまく話せない」
「目が合うと逸らしてしまう」
「本当は近づきたいのに、なぜか避けてしまう」
いわゆる“好き避け”。
あとから思い返して、「なんであんな態度を取ったんだろう」と後悔する。
冷たくしたいわけじゃない。
嫌いになったわけでもない。
むしろ、好きだからこそ動きがぎこちなくなる。
編集部の静かな午後。
リクがノートを閉じて言った。
リク:好きなら、普通は近づくはずですよね。
なのに、どうして逆の行動になるんでしょう。
単純に見える問いだが、
そこには自分への軽い疑問と、少しの自己嫌悪が混ざっている。
ワニオは少し考えてから、いつもの温度で答える。
ワニオ:感情は一つでも、行動は一つとは限りません。
リク:……どういうことですか。
ワニオ:人間の行動は、複数の欲求の合成です。
好きという感情があっても、同時に別の欲求も存在する。
近づきたい欲求。
傷つきたくない欲求。
ワニオ:どちらも本物です。
そして、どちらも同時に動きます。
好き避けは、感情の裏切りではない。
むしろ、感情が強いからこそ起きる現象かもしれない。
今日は、「好き避けしてしまう心理」を、
矛盾や未熟さとしてではなく、
構造として静かに分解していこう。
好き避けは矛盾なのか
リク:でもやっぱり、どこか矛盾している気がします。
好きなら、素直に近づけばいいのにって。
ワニオ:矛盾に見えるのは、
感情と行動を一対一で結びつけているからです。
リク:好き=近づく、みたいに?
ワニオ:ええ。しかし人間は、
一つの感情だけで動いているわけではありません。
感情は一つ、欲求は二つ
ワニオ:好きという感情があっても、
同時に別の欲求が存在します。
- 近づきたい欲求
- 傷つきたくない欲求
リク:ああ……確かに。
近づきたいけど、拒絶されたら怖い。
ワニオ:この二つは対立しています。
そして衝突した結果、避けるという中間行動が生まれる。
リク:中間行動……。
ワニオ:ええ。
完全に離れるわけでもなく、素直に近づくわけでもない。
半歩引いた位置に留まる。
ワニオは少し間を置いて、例えを出す。
ワニオ:好き避けは、氷の上を歩く人間に似ています。
前に進みたい。しかし転びたくない。
リク:だから、ぎこちなくなる。
ワニオ:ええ。
動きが不自然なのは、進む気がないからではありません。
転倒を警戒しているからです。
好き避けは、感情の不一致ではない。
「好き」が消えたわけではなく、
その瞬間、傷つきたくない欲求のほうが優先されただけだ。
ワニオ:人間は、常に安全を優先します。
恋愛でも例外ではありません。
リク:つまり……好き避けは、
気持ちが弱いからじゃない。
ワニオ:弱さというより、
自己保存の反応です。
矛盾に見える行動も、
欲求の構造を分解すると、
意外と筋は通っている。
好き避けは相手への評価ではない
リク:でも、避けられる側は……
やっぱり「嫌われたのかな」って思いますよね。
ワニオ:当然です。
行動だけ見れば、距離を取られているのですから。
リク:好き避けって、相手にとっては冷たさに見える。
ワニオ:ええ。しかし構造上、それは
相手への評価ではないことが多い。
好き避け=自己防衛
ワニオ:好き避けは、相手を嫌っているからではなく、
自分を守ろうとしている行動です。
リク:守る……。
ワニオ:拒絶されるかもしれない。
気まずくなるかもしれない。
今の距離が壊れるかもしれない。
その「かもしれない」に対する反応です。
リク:実際に何か起きたわけじゃないのに。
ワニオ:ええ。
現実よりも、想像が先に動く。
自己評価が低い人ほど、
「うまくいく可能性」より
「失敗する可能性」を強く見積もる。
ワニオ:好き避けは、攻撃ではありません。
退避です。
拒絶の想像が先走る
リク:拒絶される未来を、
まだ起きていないのに想像してしまう……。
ワニオ:人間の脳は、危険を過大評価する傾向があります。
ワニオは淡々と続ける。
ワニオ:好き避けは、敏感すぎる警報装置のようなものです。
侵入者がいなくても、風で鳴る。
リク:つまり……危険が本当にあるかは別問題。
ワニオ:ええ。
しかし警報が鳴ると、人は一歩引く。
その一歩が、相手からは「冷たい」に見える。
ここで整理できるのは、ひとつ。
好き避けは、
相手を低く評価しているから起きるのではない。
多くの場合、
自分を低く評価していることから起きる。
ワニオ:ですから、「避けられた=嫌われた」とは限りません。
ただし、それが伝わらないのも事実です。
リク:好き避けは優しさでもないし、悪意でもない。
ただの防衛反応。
ワニオ:ええ。
問題は、その防衛が誤解を生むことです。
次は、好き避けを
直すべきかどうか、という問いに進もう。
好き避けは直すべきか

リク:ここまで聞くと……
好き避けって、悪いものとも言い切れないですよね。
ワニオ:ええ。防衛反応ですから。
リク:じゃあ、直さなくてもいいんでしょうか。
リクの問いは、少し慎重だ。
「このままでいい」と言ってほしい気持ちと、
「でもこのままだと進まない」という実感が混ざっている。
完全に消すのは難しい
ワニオ:まず前提として、
恐怖反応は理屈で完全に消せません。
リク:頭で理解しても、体は反応する。
ワニオ:ええ。
好き避けは性格というより、防衛パターンです。
緊張しやすい人が声を震わせるのと同じで、
好きな相手の前で距離を取るのも、ある種の自動反応だ。
ワニオ:自動反応を「ゼロ」にしようとすると、
逆に不自然になります。
リク:無理に明るく振る舞ったり、
急に距離を詰めすぎたり。
ワニオ:ええ。それはそれで別の事故が起きます。
直すより「自覚する」
ワニオ:重要なのは、直すことよりも
自覚することです。
リク:自覚……。
ワニオ:「いま自分は避けている」
「これは嫌いだからではなく、怖いからだ」
そう言語化できるかどうか。
それだけで、行動は少し変わる。
リク:無視と好き避けは違う、ってことですよね。
ワニオ:ええ。
好き避けは距離を取る行動ですが、
無視は関係を切る行動です。
違いを自分で理解していれば、
少なくとも極端な方向には行きにくい。
ワニオ:影は消せません。
しかし、自分が影を踏んでいると知ることはできます。
リク:影をなくすんじゃなくて、
踏んでいると気づく。
ワニオ:ええ。
気づきがあるだけで、事故率は下がります。
好き避けは未熟さの証明ではない。
ただの防衛反応だ。
問題は、それが相手に伝わらない形で出ること。
直すよりも、まず言語化する。
改善よりも、構造を理解する。
最後に、
好き避けされる側の視点も整理しておこう。
好き避けされる側はどう見るべきか
リク:ここまで聞くと……
好き避けする側の事情は分かってきました。
リク:でも、避けられる側はどう考えればいいんでしょう。
正直、かなり混乱しますよね。
ワニオ:当然です。
行動だけを見れば、距離を取られているのですから。
相手は読心術を持っていない
ワニオ:まず前提として、
好き避けは基本的に伝わりません。
リク:好きだから避けている、なんて
言われなければ分からないですよね。
ワニオ:ええ。
人間は行動から判断します。
距離を取る。
目を合わせない。
素っ気ない。
それは多くの場合、冷たさとして受け取られる。
ワニオ:好き避けは、
送信者の意図と受信者の解釈が一致しない現象です。
リク:つまり……好き避けする側は「守っている」つもりでも、
される側は「拒否された」と感じる。
ワニオ:ええ。それが現実です。
推測で動かない
リク:でも、「あれは好き避けかも」って思いたくなることもあります。
ワニオ:それは自然です。
人は、自分にとって都合の良い仮説を採用しがちです。
ワニオ:しかし、推測を前提に恋愛を進めると、
現実とのズレが拡大します。
ワニオは淡々と続ける。
ワニオ:好き避けは存在します。
ですが、それを前提に解釈するのは危険です。
リク:行動ベースで見る、ってことですね。
ワニオ:ええ。
継続的に距離を取られているなら、
それは距離がある関係です。
そこに好意が隠れているかどうかは、
本人にしか分からない。
ワニオ:読心術は、恋愛を不安定にします。
好き避けは悪意ではない。
しかし、伝わらない行動であることも事実だ。
される側は、想像で補完しすぎないこと。
する側は、解釈を丸投げしないこと。
最後に、このテーマを静かにまとめよう。
まとめ|好き避けは未熟か
リク:ここまで整理すると……
好き避けって、未熟さの証明ではないですよね。
ワニオ:ええ。
未熟というより、恐怖の影です。
近づきたい気持ちの後ろに、
拒絶を想像する影がついてくる。
ワニオ:影は消せません。
光がある限り、必ずできるものです。
リク:……なんか、恋愛に興味ないわりに詳しいですね。
ワニオ:観察対象としては、非常に興味深い現象です。
人間は安全と親密さを同時に求める生き物ですから。
リク:当事者にならないからこそ、冷静なんですね。
ワニオ:ええ。
氷の上に立っていなければ、滑り方はよく見えます。
好き避けは、悪ではない。
しかし、それを相手に読み取ってもらう前提で動くと、
誤解が積み重なる。
ワニオ:好き避けは、攻撃ではなく退避です。
ただし、退避は距離を生みます。
リク:つまり……
好き避けする側は、自分が影に反応していると知ること。
される側は、推測で補完しすぎないこと。
ワニオ:ええ。
どちらも、少しだけ構造を理解すればいい。
好き避けは未熟ではない。
ただの防衛反応だ。
影を消す必要はない。
けれど、自分が影を踏んでいると知っていれば、
動き方は変わる。
この分析が、
誰かの恋を急かすものではなく、
少しだけ楽にする材料になれば、それで十分だ。



