ナナの姉御めし②|ジャンクに浸る午後と、逆ギレのヘルシー丼

目次

菓子パンとカップ麺と、余計なお世話

ナナ:あたしはね、今日は好きに食べたいのよ。

編集部のデスクに、コンビニの袋がどん、と置かれる。中身は菓子パンとカップ麺。炭水化物の二段構え。最高じゃない。「THE背徳感♡」

ナナ:甘いのしょっぱいの。これが正義。

菓子パンをかじりながら、カップ麺のフタを開ける。湯気が立つ。幸せの蒸気よ。

リク:……それ、昼ごはんですか?

ナナ:見りゃわかるでしょ。

リク:いや、あの……最近ちょっと、不摂生じゃないですか?

ずるっ、と麺をすする音が止まる。

ナナ:今、それ言う?

ミカコ:私も思ってた。ここ一週間、ナナほぼ炭水化物オンリー。

ナナ:あたしの胃袋、監視カメラついてる?

リク:監視してるわけじゃないです。ただ、栄養バランスって大事で——

ナナ:はいストップ。人がジャンクに浸って楽しんでるときに、栄養の話する人って一番空気読めないわよ。

菓子パンをもう一口。カップ麺をもうひとすすり。

ナナ:ジャンクはね、心の休憩なの。わかる?

ミカコ:理屈はわかるけど、最近それ多くない?

ナナ:……うるさいわね。

ムカムカが、胃より先に膨らむ。

ナナ:いいわよ。そんなに言うなら、夜はヘルシーにしてやるわよ。

そう言って、カップ麺のスープを一気に飲み干した。

ムカムカの帰り道|姉御の逆ギレ理論

ナナ:あたしが何食べようが自由でしょ。

帰り道、コンビニの袋を片手にぶつぶつ言う三十路女。客観視したらちょっと怖い。でも今は気にしない。

ナナ:菓子パンとカップ麺で死ぬなら本望よ。

いや本望ではない。たぶん。でも勢いで言う。

リクの「栄養バランス」って言葉が、頭の中でリフレインする。

ナナ:誠実めしがなんぼのもんじゃい。

あいつはあいつで、鶏むね肉を丁寧に蒸したり、ネギをきれいに刻んだりして整えてる。あれはあれで偉い。わかってる。わかってるけど。

ナナ:人が麺すすってるときに言うなっての。

だいたいね、ジャンクっていうのはね、疲れてるときの特権なのよ。今日は甘いの食べたい。今日はしょっぱいの欲しい。今日は脳みそ溶かしたい。そういう日があるの。

ナナ:それを「不摂生ですね」って。お医者さんか。

横断歩道で立ち止まりながら、ふと思う。

……でも、ちょっとだけ図星だったのが悔しい。

ここ最近、仕事もバタバタ。取材も原稿も詰め詰め。夜は遅い。朝は早い。コンビニが親友になっている。

ナナ:だからって説教される筋合いはないけどね!

空に向かって言い訳する。

その瞬間、妙に意地が湧いた。

ナナ:いいわよ。ヘルシーにしてやるわよ。あたしだってやればできるんだから。

ただし、ナナ流で。

ちゃんと栄養は摂る。でも頑張りすぎない。野菜は食べる。でもテンションは下げない。

ナナ:ヘルシー?上等じゃない。姉御の本気見せてやるわよ。

コンビニの袋をゴミ箱に放り込みながら、戦闘モードに入った。



夜の姉御めし|逆ギレヘルシー丼とハイボール

ナナ:よし、ヘルシーにしてやるわよ。

帰宅して冷蔵庫を開ける。中身は…うん、まぁ、普通。奇跡は起きない。でも十分よ。

炊飯器を開けて、ごはんをよそう。茶碗?使わない。

ナナ:こぼれるの嫌いなのよ。

平皿にどさっと盛る。山というより丘。多少はみ出しても気にしない。

サラダ用カット野菜の袋をバリッと開け、そのままごはんの上へ。

洗わない。だって「洗わなくていい」って書いてあるんだもの。メーカーを信じる女、それがナナ。

ナナ:野菜、摂ってるでしょ?これで文句ある?

次はサラダチキン。包丁?使わない。手で裂く。ワイルドに裂く。

大きさバラバラ?上等。どうせ胃に入れば一緒。

皿の上は、白米・野菜・チキンの三段構え。見た目はそれなりに整っている気がしないでもない。

そこに、マヨネーズをぐるぐる。

ナナ:遠慮しない。ヘルシーは甘えじゃないのよ。

最後に塩こしょうをガリガリ。ちょっと多め。姉御は味を濃いめに決める。

これで完成。

包丁は使ってない。フライパンも使ってない。火も使ってない。丼に盛らない。なのに「ヘルシー丼」と名乗る厚かましさ。

ナナ:見なさいこれ。野菜・タンパク質・炭水化物。完璧な三種の神器。

冷蔵庫から炭酸水とウイスキーを取り出し、氷をガランと入れて、濃いめのハイボールを作る。

ナナ:ヘルシーに酒は含まれない?うるさいわね。

皿をテーブルに置く。ハイボールを横に置く。

完成。姉御の逆ギレヘルシー丼。

実食|「これでいいのよ」と言い切る夜

ナナ:いただきます。

フォークでがっつりすくう。ごはん、野菜、チキン、マヨ。全部まとめて口へ。

……うん、普通にうまい。

シャキシャキの野菜に、サラダチキンの塩気。マヨのコクが全部をまとめてくる。塩こしょうがピリッと効いて、ハイボールがぐいっと進む。

ナナ:ほらね?成立してるじゃない。

誰に言うでもなく、胸を張る。

正直、手の込んだ料理じゃない。でも「ちゃんと食べてる」感じはある。昼の菓子パンとカップ麺とは違う満足感。

ナナ:あたしだって、やればできるのよ。

リクの顔が一瞬よぎる。「栄養バランスって大事で——」のくだり。ああもう、思い出すだけでちょっとムカつく。

でも、完全否定もできないのが悔しい。

最近ちょっと無理してたのは事実。ジャンクに逃げてたのも、まぁ事実。

ナナ:だからって説教はいらないけどね。

もう一口食べる。ハイボールを飲む。

野菜が入ってるだけで、なんとなく自分を許せる。単純?いいのよ、それで。

「ちゃんと整える」のが誠実めしなら、「ちゃんとぶつける」のが姉御めし

今日はそれでいい。

ナナ:ヘルシーもジャンクも、あたしが決めるの。

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「正論禁止」と言った口から正論が飛ぶ

翌日。

編集部の朝はいつも通り静かだ。リクはコーヒーを淹れ、ミカコはキーボードを叩き、あたしはドカッと椅子に座る。

ナナ:聞きなさい。昨日の夜、ヘルシー丼作ったわよ。

リク:……本当ですか?

ナナ:疑うな。ごはんにカット野菜、サラダチキン、マヨ、塩こしょう。皿に盛り付けたから、こぼれない。完璧。

ミカコ:それ、わりとちゃんとしてる。

ナナ:でしょ?だからさ、あんたらも学びなさい。人がジャンク楽しんでるときに正論ぶつけるのは禁止。次やったら、あんたの誠実めしにマヨぶちまけるわよ。

リク:それはやめてください。

ミカコ:平和的じゃない。

その瞬間。

アカリ:おはよ〜!

元気に入ってきたアカリが、なぜか手に持っていたのは…袋麺。

袋麺を開ける。乾麺を取り出す。まさか、鍋?と思った次の瞬間。

アカリは乾麺を、両手でバキバキに折り始めた。バラバラになった乾麺を袋に戻す。

ナナ:……え?

さらに、付属の粉末スープを袋の中にサラサラ〜っと振りかける。

そして。

袋の中に手を突っ込んで、ポリポリ。

アカリ:え、これさ、まじでうまいんだよね〜。

リク:……(固まる)

ミカコ:……(目だけで確認し合う)

あたしは一度、深呼吸した。

いや、まだだ。まだ正論は禁止。まだ耐える。

だがアカリは追い討ちをかけてきた。

ポケットからチューブの練乳を取り出し、迷いなく吸い始めたのだ。

アカリ:ん〜〜〜♡ 糖、染みる〜。

ナナ:……。

リク:……。

ミカコ:……。

編集部に、静寂が落ちる。

ナナ:……ごめん。今のは、正論言わせて。

アカリ:え?なに〜?

ナナ:それはジャンクじゃない。事件よ。

アカリ:え〜?でもさ、粉の塩気とさ、練乳の甘さがさ、ちょうどよくて〜。

リク:ちょうどよくは……ないと思うよ。

ミカコ:それを「ちょうどよい」と感じるの、たぶん疲れてる。

アカリ:え、そう?うち元気だよ?

ナナ:……だめだ。正論ぶつけても効かないタイプだ。

あたしは椅子にもたれた。

ナナ:結論。人がジャンク楽しんでるときに正論は禁止。
でも、アカリが事件起こしてるときは正論解禁

リクが小さく頷いた。ミカコも同意するように無言で頷いた。

アカリだけが、ポリポリと練乳をちゅーちゅーしながら、あっけらかんとしていた。

アカリ:え、みんなもやる?

ナナ:やるか。

即答で断って、あたしは今日も元気に生きていくことにした。

ナナを超えるジャンクな食事をするアカリ。ドン引きのナナ。



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