「恋愛なんていらない?」マリ&ケンジ&ワニオのBAR雑談

夜のBAR恋古都。やわらかな照明とジャズのBGMに包まれたカウンター席に、マリとケンジが並んで座っていた。
「やっぱここのウイスキーは落ち着くね」
「うん、飲みやすいし雰囲気もいい」
そんなやりとりを交わしながら、二人はグラスを軽く合わせる。
この店に来るのは久しぶりだが、どこか懐かしい空気が漂う。仕事の話や日常のあれこれをぽつぽつと語り合い、ゆるやかに時間が流れていく。
しばらくして、ケンジがふと笑いながら言った。
「最近さ、周りが恋愛だ結婚だって騒がしいけど、俺らはもうそういう年齢でもないしな」
マリも苦笑いで返す。「まあ、今さらガツガツもしないけどね」
そんな“中年のまったりモード”が漂う夜に、思いがけない訪問者が現れることになる――。

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マリとケンジの中年まったりトーク

ケンジ:「しかしさ、こうやって落ち着いて飲めるのっていいよな。若い頃は、飲み会ってもっと騒いでた気がする」
マリ:「確かに。あの頃は体力あったし、なんか勢いで夜中までとかね」
ケンジ:「今はもう、勢いよりも座り心地重視だわ」
マリ:「私も。家族と過ごすのも好きだけど、こういう“昔からの知り合い”と飲む時間もいいよね」
ケンジ:「再婚してからも、こうやって来てくれるのはありがたいよ」
マリ:「まあ、ウチの人も別に気にしないし。ケンジとは長い付き合いだから」

ケンジ:「そういう意味じゃ、恋愛って人生の一部ではあるけど、全部じゃないなって最近思う」
マリ:「うん。結婚しても、再婚しても、恋愛以外にも楽しいことはたくさんある」
ケンジ:「昔は『恋愛してないと何か欠けてる』くらいに思ってたけどな」
マリ:「そうそう。でも、今はそういうのに縛られないほうが楽」
ケンジ:「わかるわかる。まあ、縛られないほうが自由に人とも会えるし」
マリ:「…なんか悟りの境地みたいになってない?」
ケンジ:「おう、もう中年だからな(笑)」

そんな他愛ない会話が、グラスの氷が静かに溶ける音とともに続く。
二人の間には、恋愛の温度感を超えた、落ち着いた空気が流れていた。
――そこへ、扉のベルが軽やかに鳴り、新しい客が入ってくる。

ワニオ登場

 扉のベルが鳴った瞬間、マリとケンジは同時に入口を振り向いた。
 そこに立っていたのは、少し場違いな雰囲気をまとった男――ワニオだった。
 真面目そうなスーツ姿に分厚い本を抱えていて、このBARには似つかわしくない格好だ。

ケンジ:「おお…お前、こんなとこに来るタイプじゃないだろ」
ワニオ:「ちょっと聞きたいことがあって来ました」
マリ:「聞きたいこと?」
ワニオ:「はい。あの…このお店、恋愛話が多いって聞いたんですけど、本当ですか?」
ケンジ:「まあ、恋古都って名前だからな。そういう話も多いけど…」
ワニオ:「やっぱり。僕、ずっと思ってたんですよ。恋愛って、本当に必要なんですか?」
マリ:「…来たね、そのテーマ」
ケンジ:「うわ、真面目な顔して爆弾投げてきやがった」

 カウンターのマスターがクスッと笑いながら、ワニオの前にグラスを置いた。
 どうやら、彼もワニオの“独特な質問”に慣れているらしい。

マリ:「じゃあ、今夜はその話、ここでしよっか」
ケンジ:「よし、ワニオ。座れ。恋愛の必要性、たっぷり語ってやる」
ワニオ:「お願いします。ただし僕、意見は曲げませんから」
ケンジ:「面白くなってきたな」

恋愛不要論とその裏側

ケンジ:「で、ワニオ。お前…いや、ワニなのになんでそんなに恋愛否定派なんだ?」
ワニオ:「ワニだからこそですよ。恋愛なんてしなくても生きていけます。狩りと日光浴があれば十分です」
マリ:「いや、人間界のBARでその発言は強いな」
ワニオ:「恋愛って、時間もお金も気力も消費するじゃないですか。その分、本を読んだり資格を取ったり、自分のために使える時間が減る」
ケンジ:「まあ一理あるな。でもな、恋愛でしか得られない経験もあるんだぞ」
ワニオ:「例えば?」
マリ:「人と深く関わることでしか見えない自分の弱さとか、逆に強さとかね」

ワニオ:「でも、それって友情や家族関係でも学べますよね?」
ケンジ:「そりゃそうだ。でも恋愛は“相手も自分を選んでくれてる”っていう、ちょっと特別な関係だから」
マリ:「そう。お互いを意識し合う時間って、けっこう人生を彩ってくれるんだよ」
ワニオ:「彩り…僕にはまだよくわからない感覚です」
ケンジ:「まあ、お前は緑と茶色の世界で生きてるからな」
マリ:「やめなさい(笑)」

ワニオは首をかしげつつも、少しだけ興味を持ったようにケンジとマリの言葉を反芻していた。
カウンターの上では、氷が小さく音を立てて溶けていく。

恋愛以外の人生の楽しみ

ケンジ:「じゃあワニオ、お前が夢中になれることって何なんだ?」
ワニオ:「日光浴、読書、そしておいしい魚を食べることです」
マリ:「めっちゃシンプルだね」
ワニオ:「シンプルなほど、幸福度は安定します」
ケンジ:「でも旅行とかはどうだ?新しい景色見て、美味いもん食べる」
ワニオ:「興味はあります。ただ、長時間の移動は体力的に…」
マリ:「…やっぱりワニなんだなって思う瞬間だわ」

ケンジ:「俺は釣りとかギターとか、ひとりでも楽しめる趣味はあるけど、それを恋人と共有するのも楽しいんだよ」
ワニオ:「共有することで何が変わるんですか?」
マリ:「同じものを見て『きれいだね』って言えることかな。たったそれだけでも、全然違うんだよ」
ワニオ:「ふむ…魚を見て『美味しそう』と共感するようなものですか」
ケンジ:「少しズレてるけど…まあ近いよな」

マリ:「でもさ、恋愛じゃなくても“誰かと気持ちを共有する瞬間”って貴重だと思うよ。友達でも、家族でも、仕事仲間でも」
ワニオ:「そういうのならわかります。僕も昔、一緒に川を泳いだ仲間のことは今でも覚えています」
ケンジ:「ほら、それだって立派な“彩り”だろ」
ワニオ:「…確かに。少しだけ理解できた気がします」

まとめ

マリ:「結局さ、恋愛はしてもしなくてもいい。でも、誰かと気持ちを共有する瞬間は、人生をちょっと豊かにするよね」
ケンジ:「そうそう。恋愛はその一つの形にすぎないってことだ」
ワニオ:「なるほど。では、僕は無理に恋愛しなくてもいいけど、人との関わりは大事にする…ということで」
マリ:「うん、それでいいと思う」
ケンジ:「まあ、また気が向いたら恋バナにも参加してみろよ」
ワニオ:「そのときは、観察記録としてまとめます」
マリ:「やっぱり研究対象なんだ(笑)」

BAR恋古都の夜は、静かな笑い声とともに更けていった。
ワニオは完全には恋愛に興味を持たなかったかもしれない。けれど、マリとケンジとの会話で、人と関わる楽しさを少しだけ実感したようだった。
そして彼は、またふらりと現れては、真面目で少しズレた質問を投げかけるに違いない。

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