BAR恋古都で語る、大人の恋バナ──マリ・ナナ・ケンジの本音トーク

ここは、大人たちが静かにグラスを傾けるバー──その名も「恋古都(こいこと)」。

看板のネオンは控えめで、扉を開けるとジャズが小さく流れる。カウンターにはいつものように、ケンジとマリが腰かけていた。

「ほら、来たわよ」そう言って入ってきたのは、仕事帰りのナナ。

気心の知れた3人が集まれば、今夜も自然と話題は“恋バナ”。

恋に生き、恋に悩み、恋を味わってきた彼らが語るのは──少し苦くて、でもどこか優しい、大人の恋の話。

目次

今夜も恋バナ、始まります

「それにしても、あれよね」

マリが赤ワインのグラスを軽く揺らしながら切り出した。

「最近の“こいこと。”、若い子たちが頑張ってて、こっちはちょっと肩身狭いわ」

「そうかぁ? 俺はむしろ楽しいけどなぁ。あいつらのやりとり見てっとさ、なんか青春って感じで。あ、ナナ、お前まだそのへん現役か」

「ちょっとケンジ、それ失礼じゃない?」

ナナは笑いながらも、手元のハイボールをくいっとあおった。

「でも、まぁわかるよ。ミユとかアカリとか、ほんと自由に恋しててさ。うちらの頃とはまた違う風が吹いてる気する」

「……そうね。恋って、時代とともに変わる部分と、変わらない部分と、両方ある」

マリの言葉に、ふたりもうなずいた。

「そういや、リクとミサキ、別れたんだってな」

唐突にケンジがそう言った。バーの空気が、少しだけ静まる。

「うん、聞いたよ。でも、なんだかんだでちゃんと前向いてるっぽいよ。ミサキもライターとして馴染んでるし、リクも変に引きずってない」

「大人だな、あいつら。若いのに、偉いよ」

「ま、そこが“こいこと。”の面白いとこかもね。恋の傷ひとつで終わらない。ちゃんと次に繋がってく」

「……いいこと言うじゃん、ナナ」

3人は顔を見合わせて、またひと口グラスを傾けた。

恋って、いつから“難しい”ものになったんだろう?

「最近さ、ふと思うんだよ」

ケンジがグラスを指先で回しながら、ふと真面目なトーンを口にした。

「昔はもっと、恋って単純だった気がするんだよな。好きだ、会いたい、それだけで動いてた気がする」

「……わかるかも」

マリがゆっくりとうなずいた。

「大人になると、“好き”だけじゃ進めないことが増えるのよね。仕事、家庭、過去の傷。どれかがブレーキをかける」

「ほんとそれ」

ナナは笑いながらも、目だけが少し切なげだった。

「20代の頃は勢いで突っ走ってたなーって思う。ぶつかって、転んで、でもそれが恋だった。いまはさ、傷つくことにすら慎重になってる自分がいてさ」

「それでも、誰かを好きになれるってすごいよな」

ケンジの言葉に、ふたりは黙ってグラスを合わせた。

「……でもさ」

マリが、照明の落ちたカウンターを見つめながら言った。

「難しいって思うようになったのは、“ちゃんと好きになった”経験をしたからかもしれないわね」

「あー……なんか、深いなそれ」

ナナがしみじみとつぶやく。

「軽い気持ちで始めた恋って、難しさも深さもない。でも、ほんとに好きになった相手と過ごした時間があるからこそ、“恋って難しい”って感じるようになるのかも」

「だから俺たち、面倒くさいけど、恋愛体力はあるよな」

「恋愛体力(笑)」

「いいじゃん。ちゃんと恋して、ちゃんと疲れて、ちゃんと覚えてる。それが今のあたしたち」

ナナの言葉に、マリもケンジも、静かに笑った。

大人になった今だからこそ、惹かれる恋ってある

「最近、どんな人に惹かれる?」

ナナの問いかけに、マリが少し考えてから口を開く。

「わたしは…余白がある人かな」

「余白?」

「うん。全部が見えてる人よりも、ちょっと見えない部分があって、自分のペースで近づける人に惹かれる。昔は情熱で燃えるタイプが好きだったけど、今は“この人となら静かに時間を過ごせる”って思えるほうがいい」

「それ、わかる〜!」

ナナもすぐさま反応する。

「あたしもさ、“この人と沈黙を楽しめるか”って、けっこう大事な基準かも。ガヤガヤじゃなくて、黙って並んで歩いてても心地いいって、相性いい証拠だよね」

「ナナが沈黙好きって、ちょっと意外だな」

ケンジが笑うと、ナナがグラス越しににらんだ。

「ケンジは?どんな人が今気になるん?」

「俺は……なんだろな、“おれを笑わせてくれる人”かな」

「へえ?」

「若い頃は、俺がリードして、笑わせて、楽しくしてやんなきゃって思ってたけど……今は、逆に肩の力抜いて“あはは”って笑っちまう相手がいたら最高だなって思う」

「あー……それ、すごくケンジらしいね」

マリが優しくうなずく。

「結局さ、大人になると、恋に求めるものが“刺激”から“安心”に変わってくるのかもしれないね」

「そうだな。ドキドキじゃなくて、ホッとする恋……ってやつか」

「そういうのって、ちゃんと恋愛してきた人じゃないと気づけないよね」

夜のバーに流れるジャズが、3人の心の奥の静けさをそっと照らしていた。

自分を偽った恋の話、ある?

マリがグラスを回しながら、ふと呟いた。

「ねえ、若い頃って……“自分じゃない誰か”を演じて恋しようとすること、なかった?」

「あるある!」とナナが勢いよく頷く。「てか、演じるというより“どうすれば好きになってもらえるか”に全振りしてた時代あるよね。あたし、ある元カレの前では無理して料理好きぶってたもん。今思うとおかしいわ」

「あー、いるよな。そういう“料理ができる風女子”。おれも昔付き合った子に、得意料理聞いたら『和風パスタ』って言われて、『ほんと?』って言ったら、そのあと3回連続で“永谷園のお吸い物ぶっかけた麺”が出てきたことある」

マリとナナが笑いを堪えきれず吹き出した。

「それは新ジャンルすぎる……!」

ケンジは肩をすくめてグラスを傾ける。

「でもな、その子はめちゃくちゃ“気を遣ういい子”だったのよ。おれに嫌われないように、すげぇ頑張ってた。いま思えば、**自分らしくいられない恋って、やっぱ苦しいよな**って思うわ」

マリが静かに頷く。

「わたしもあるよ。昔ね、付き合ってた人が“理想の女性像”を持ってて。『マリはサバサバしてるけど、もう少し可愛くして』とか、『その考え方、男に引かれるかもよ』とか、ちょっとずつ変えようとしてきたの。でも、**それってわたしじゃないじゃない?** いつの間にか、その人の好みに“寄せられていく”自分がしんどくなって、終わったの」

ナナが、やや真顔になって言う。

「それ、あるあるすぎる。あたしもね、学生時代に付き合ってた人が“家庭的でおっとり”が好みって言ってたから、めっちゃ頑張ってたよ。実際のあたし、おっとりの真逆なのに。てか今なら即アウト判定だわ」

ケンジがニヤッと笑って言った。

「でもナナ、おまえ家庭的じゃん。情が深いし、情熱的だし。誰かに合わせる必要なんてないと思うぞ」

ナナは一瞬きょとんとして、少し照れながら「……うるさい」と返す。

マリも微笑みながら続ける。

「きっと、**自分を偽らない恋がいちばん心地いいんだと思う**。無理をしない。でも、相手のために少しだけ柔らかくなる、そういう自然な距離感が大人の恋なのかもしれないね」

「……恋って、むずかしいなぁ」

ケンジのぼやきに、全員が静かに笑った。

まとめ──大人になっても恋は語れる

夜が更けるにつれて、BAR「恋古都」の照明も少しだけ落ち着いた色に変わる。

グラスの氷がカランと音を立てたその瞬間、3人はなんとも言えない空気を共有していた。

ナナが、最後にこんなふうにまとめた。

「結局さ、恋って“どこにいても、いくつになっても、語れるもん”なんだよね。今も昔も、失敗も成功も、誰かに話すことでちょっとずつ整理されていくっていうか」

「それに──」とマリが続ける。「大人になると、恋って“未来の約束”というより、“今この瞬間をどう大切にできるか”の方が重要になってくるのよね。焦らないし、無理もしない。でも、心が動く瞬間を見逃したくないって、素直に思える」

「恋ってのはな──」とケンジがグラスを掲げて言う。

「振り返って笑えたら、それでいいんだ。泣いた日も、酔った夜も、全部まるっと含めてな」

「なによ急に名言っぽく決めて……。名言にモノ申すまたやる?」

ナナが照れ笑いし、マリも微笑みながらグラスを合わせる。

大人になった今だからこそ語れる、恋の話。

そして、大人になっても語りたい恋の未来。

BAR「恋古都」の静かな夜は、今日もまた、やさしく終わっていった。

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