夏の特別企画「呪いのサイト・デスラブ」第1話|呪いのはじまり

目次

シルクちゃんのデスラブ日和

「ねえ、知ってる?“逆立ちして死ぬ呪いのサイト”があるんだって」

ミユが編集部の一角でスマホを見ながらつぶやいた。

「また都市伝説?」

アカリが苦笑しながらお菓子の袋を閉じる。

「いや、今ちょっと話題になってるんだってば。恋愛メディア関係者が次々倒れてるって噂でさ。最後に開いてたのがその“呪いのサイト”なんだって」

「ちょっと怖いんだけど……」

ソウタもその会話に加わる。

「逆さまで亡くなってたって本当?」

「うん、しかも全員……」ミユは画面を見せる。「このサイトの記事を読んだって。やばくない?」

  • 「彼の寝言を全部書き起こして元カノに送ってみた」
  • 「好きな子に強気なアプローチしたら動かなくなった」
  • 「既読スルーされたので人生スルーの方法を教えることにする」

「うわぁ……ブラック通り越してホラーだね……」

アカリが顔をしかめる。その記事タイトルのどれもが、狂気じみた皮肉と不穏さを孕んでいた。

そのとき、編集部のドアが静かに開いた。

「……久しぶりね、ソウタくん」

現れたのは、ソウタにとって忘れられない人──ヒトエだった。

「ヒトエさん……!? なんでここに……」

「少し、話がしたくて」

──ヒトエ。かつて人気メディア「こいおと」の編集者だった人。

ソウタがまだ進むべき道が見えていなかった頃、文章を書くことに迷いながら投稿していた小さな原稿に、初めて真剣に向き合ってくれた人だ。

「この視点、好きだな」

あのときの声は、今でも忘れられない。

「ライターとして、書いてみない?」

そのひと言が、ソウタの人生を変えた。

書き方の基礎から、読み手の視点、表現の“余白”まで──すべてを教えてくれたのがヒトエだった。

ふたりは休憩スペースに場所を移した。

「あの“呪いのサイト”のことよ。あなたも耳にしたでしょう?」

「はい……編集部でもちょうど話してました」

「あれはただのネットミームじゃない。見た人の中に、奇妙な言動や幻覚が起きて……。中には命を落とした人もいる」

「そんな……」

「私はいま、フリーでその“呪いのサイト”について調べているの。でも、限界があってね。だから、あなたに協力してほしいの」

「僕に、ですか?」

「あなたなら、気づけると思った。──文章の“歪み”に」

「わたしも協力する!」

突然ミユが割り込んできた。どうやら、様子を見ていたらしい。

「ああいう不気味な記事って、変に惹かれるところあるじゃん?しかもライター視点で見ればヒントも多いと思うし」

ヒトエはミユをじっと見つめてから、柔らかく笑った。

「その好奇心、頼りにしてもいいかしら。でも深入りは禁物よ」

「大丈夫、ちゃんと気をつけるから」

ミユが明るく応じ、ソウタも小さくうなずいた。

──その夜。

ソウタのスマホに見知らぬページが表示された。

──「シルクちゃんのデスラブ日和」

黒背景に、血のような赤いフォント。目を引く記事が並んでいた。

  • 「彼の寝言を全部書き起こして元カノに送ってみた」
  • 「好きな子に強気なアプローチしたら動かなくなった」
  • 「既読スルーされたので人生スルーの方法を教えることにする」

手が勝手に動くように、リンクをタップしかけた瞬間。

スマホのスピーカーから、ゆがんだ童謡のような旋律が流れ始めた。

あいしてるって いってみて
そしたら さよなら してあげる
おやすみのキスは 逆さまで
こころと足が さようなら

「なんだこれ……」

操作が効かない。スクリーンが黒く歪み、目の奥がチカチカする。

記事の内容が強制的に頭の中に入ってきた。

翌朝。

ミユが編集部に駆け込んできた。

「見た……あのサイト?あたしも……見ちゃった」

ふたりは言葉を失った。記憶が曖昧になる。ふとした瞬間、自分が何をしているか分からなくなる。

「あの名前、“シルクちゃん”……聞き覚えない?」

ソウタがつぶやいた。どこかで、その筆名を見たような──。

真夜中に生まれた恋愛ホラーが、静かにその幕を開けていた。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次