友情に嫉妬ってアリ?──ミユ、ワニオとの距離で気づいた“心の居場所”

ミユが編集部のドアを開けた瞬間、ちょっとだけ胸がざわついた。
ワニオがミサキと向かい合って、なにやら楽しそうに話していたのだ。
ミサキは身振り手振りでワニオに何か説明していて、ワニオは相変わらず無表情だけど、どこか興味深そうに頷いている。

「……なんだろ、この感じ。」
ミユは自分の胸の奥に、ぽつんと浮かぶ“小さなモヤ”に戸惑った。
恋とかじゃない。絶対に。ワニに恋するなんて、そんなのない。
でも──大事な友達が、誰かと仲良くしているところを見ると、変な気持ちになるのって…普通?

ミサキが席を離れたあと、ミユはそっとワニオの隣に座った。
「ねぇワニオ。友情と愛情の境界線ってさ……どこにあると思う?」

恋に興味のないワニオに、あえて恋の話をぶつけてみる。
このモヤモヤの正体を、自分でも知りたいから。
そして、ワニオはワニオで、意外とこういう時に核心を突いてくるのだ。

そんなわけで今回は、ミユが“揺れた気持ち”をワニオと一緒にひも解いていく、
『関係性と嫉妬』トークをお届けします。

目次

ミユ「友情と愛情ってさ、どこが違うの?」

ミユ:ねぇワニオ。友情と愛情ってさ……どこから違うんだと思う?
さっきミサキと楽しそうに喋ってたじゃん? うちは別に怒ってないけど……なんか、モヤッとしたんよね。

ワニオ:ミユさん、まず前提として私は“恋愛の部署”に配属されていません。
ですが、人間の距離感には一定の法則があります。

ミユ:部署は関係ないでしょ! てか法則ってなに?

ワニオ:友情は“横並びの感情”。
愛情は“斜め前方向の感情”。

ミユ:ちょっと待って、方向……?

ワニオ:はい。友情は歩幅を合わせる関係です。
一方で愛情は「この人の未来を覗きたい」と思う関係です。

ミユ:……あ、なんかちょっと分かる。
友達は“今楽しい”けど、好きな人って“これからどうなるんだろ”って気になるっていうか。

ワニオ:そのとおりです。未来への興味が継続するのが愛情。
今の心地よさを共有するのが友情です。

ミユ:へぇ〜〜……てかワニオ、恋しないくせに説明だけバカうまいよね。

ワニオ:観察は得意ですので。

ミユ:(今、その観察力にやられてる気がする……)

ミユの胸の奥にある“モヤモヤの影”はまだ形をつかめないまま。
だからこそ、ワニオに聞きたくなる。
「これって友情? それとも…なんなの?」と。

ワニオが語る「人間の距離感の法則」

ミユ:でさ、その“未来を見るのが愛情”みたいな理論さ……
じゃあ友情って、ずっと横並びってこと?

ワニオ:正確には、“横にいてほしいかどうか”ではなく、
“横にいても不安にならない距離”です。

ミユ:んん? それどういう意味?

ワニオ:ミユさん、人間関係には“心の半径”というものがあります。

ミユ:出た。なんかまた難しいワード来た。

ワニオ:心の半径とは、気楽にいられる距離のこと。
友情はその半径内に自然と入ってくる存在です。
しかし愛情は──半径を広げてまで迎え入れる存在です。

ミユ:……あ、それ分かるかも。
友達には“うちの性格このままでいいや〜”って感じだけど、
好きな人にはちょっと良く見られたい、みたいな。

ワニオ:はい。愛情は“調整費”がかかります。

ミユ:ねぇその言い方やめて!? 経費みたいに言わないでよ!

ワニオ:では言い換えます。
友情は“自然体のまま成立する関係”。
愛情は“自然体に少し努力を加える関係”。

ミユ:……ほう……(めちゃくちゃ分かりやすい)

ワニオ:ミユさん、今日あなたは僕とミサキさんが話しているのを見て
“努力不要の友情”が脅かされた、と感じたのではありませんか?

ミユ:えっ……。

図星すぎて言葉が詰まる。
胸の奥でモヤモヤしていた霧が、少しだけ輪郭を持ちはじめた。

ワニオ:心の半径内にいる存在が他者と重なると、人間は少し不安定になります。
それは恋でも友情でも起こりうる、自然な反応ですよ。

ミユ:……そっか。
うち、ワニオを“心の半径”の中に入れてたからモヤッとしたのか……。

ワニオ:はい。ミユさんは私を“大切の予算”に計上済みです。

ミユ:だから言い方が経理なの!!

でも、ワニオの説明でようやく気づいた。
今日感じたモヤモヤは、恋じゃなくて──友達として大事に思ってる証拠。
それが分かっただけで、胸の奥がすこし軽くなる。

ミユ、ついにモヤモヤの“理由”に気づきはじめる

ミユ:……ねぇワニオ。
さっきのアレ、別にミサキにどうこう言いたいわけじゃないんよ。

ミユはストローをくるくる回し、言葉を選ぶように続けた。
導入で感じた“モヤ”──それを、今ようやく自分でも整理しようとしている。

ミユ:ミサキと話してるの見てモヤッとはしたけど、
なんかね……あの時の気持ちが、自分でもよく分かんくてさ。

ワニオ:感情の未分類ですね。

ミユ:未分類って言い方やめて!?
でも……まぁ……当たってるけど……。

ミユは少しだけ笑った後、ふっと真剣な顔つきになる。
その目は“怒り”でも“嫉妬”でもなく──ただ、自分を確かめるような揺らぎだった。

ミユ:うちはワニオと話すの好きやし、安心するし……。
だからたぶん、誰とかじゃなくて……なんか“うちらの空気”を他の人に触られた感じ?

ワニオ:それは嫉妬ではなく“関係の揺らぎ”ですね。

ミユ:揺らぎ……?

ワニオ:はい。人間は安心できる相手との距離が変化すると、
理由が分からなくても心がザラつきます。
ミユさんが感じたのは、関係の“微調整反応”でしょう。

ミユ:微調整……。なんかイヤに納得できるわ……。

ミユは胸の奥でくすぶっていた霧が少し晴れたような顔をした。
“嫉妬”と断言するには違う。 でも“ただの友情”と言い切るにも違う。 そんな、曖昧で優しい揺れ。

ミユ:なんか……ちょっとスッキリしたかも。 ワニオって、いつも説明うますぎてムカつくんだけど……ありがと。

ワニオ:どういたしまして。ミユさんの情緒整理は私の得意分野です。

ミユ:なんか上からなのよ!!

ワニオ「友情の嫉妬とは、感情の“居場所”です」

ワニオ:ミユさん。先ほどの“揺らぎ”ですが、
あれは恋愛感情とは別のものです。

ミユ:うん、それはなんか分かる。
恋とは違うんだけど……でも、何かがズレた感じはあったよ。

ワニオ:それは“友情の嫉妬”に分類されます。

ミユ:え、また嫉妬!?

ワニオ:正確には、嫉妬というより“居場所の揺れ”です。
人間は、自分にとって居心地の良い関係が他者と重なると、
説明できない違和感が生じます。

ミユ:……あー、それだ。めっちゃそれ。
うち、ワニオと話す時間ってさ、なんか安心するんよね。
ミサキがどうこうじゃなくて……その“安心の場所”触られた感じ。

ワニオ:人間関係における安心は、椅子のようなものです。
自分が座っている席に誰かが近づくと、自然と気配を感じます。

ミユ:うわ、その例えちょっと分かりやすすぎて悔しいんだけど……!

ワニオ:安心の席は誰にも奪われていません。
ただ“横に誰か来た”というだけで、人間は揺れます。

ミユ:なるほど……。
うち、ワニオの“隣に座ってる”って思ってたから揺れたんか。

ワニオ:はい。ミユさんにとって、私は“安心な居場所”のひとつです。

ミユ:……なんかそれ聞くと、ちょっと嬉しいかも。

ミユは照れ隠しのように笑い、ペットボトルのキャップをくるっと閉める。
胸の奥でずっと燻っていた感情に、ようやく名前がついた気がした。

ワニオ:友情の揺らぎは、関係が深い証拠です。
心が安心の居場所を持っているということですから。

ミユ:……うん。じゃあ今日のモヤは、悪いもんじゃなかったんだね。

ワニオ:むしろ健全です。安定するほど、揺れるものです。

ミユ:え、それまた名言っぽいんだけど……?
てかワニオ、恋愛興味ないのに人の心だけプロ級なのなんなん?

ワニオ:観察は趣味ですので。

ミユ:はい出た、趣味!もう!

揺れた気持ちは、友情の証拠だった

ミユ:……なんかさ、今日ワニオと話してて思ったんよ。

最初に胸がザワッとした時、うちはそれを“間違った感情”だと思ってた。
友情なのに嫉妬なんて、なんだろうって。でも──。

ミユ:あれって全部……うちがワニオとの“関係”を大事にしてる証拠だったんだね。

ワニオ:はい。嫉妬は愛情だけでなく、友情にも発生します。
大切な居場所が揺れると、人間は自然と反応するのです。

ミユ:……うん。なんか、ちゃんと分かったわ。
うち、ワニオと話す時間がなくなるのイヤなんよ。だからモヤったんだ。

ワニオ:それは良いことです。
安心できる相手を“失いたくない”と感じるのは、正常な感情ですから。

ミユ:そっか……。友情にも嫉妬があるって、あらためて認識できたかも。

ミユは照れたように笑って、少しだけ肩の力を抜いた。
胸の中にあった霧はほとんど消えて、代わりに温かい空気が残っている。

ミユ:てかワニオ、うちとの友情……ちゃんと大事にしてる?

ワニオ:もちろんです。
ミユさんは、私の“安定の指標”のひとつですから。

ミユ:……は? なんか変な言い方だけど……ちょっと嬉しいんだけど!?

ワニオ:表現の最適化は今後の課題にします。

ミユ:そういうとこ!! でも、ありがと。

友情は“軽いもの”なんかじゃない。
ときには心が揺れるし、嫉妬もするし、守りたくなる。
そこに恋があるかどうかじゃなくて── “大事にしたい気持ちがあるかどうか”。それだけで十分だった。

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