なんでもハラスメント!? 息苦しい世の中で笑って生きる方法

最近、編集部で雑談してても「それ、○○ハラですよ」とツッコまれることが増えた。パワハラ、セクハラ、マタハラ……ここまではまだ分かる。けど気づけば、飲み会の誘いは“アルハラ”、残業の相談は“タイハラ”、寒いダジャレは“オヤジハラ”。気を抜けば、呼吸してるだけで“エアハラ”になりそうな勢いだ。

昭和生まれの俺からすると、正直、生きづらい。言葉を選ぶ前に、まず地雷原の地図を広げないと会話に出られない。冗談で場を和ませようとしても「それ、今の時代はアウトです」と若いのに諭されると、こっちも笑うしかない。俺のキャラ、ほぼ丸腰じゃん、って。

でもね、ここで思考停止して「なんでもハラスメントだ、窮屈だ」で終わるのは簡単だ。少し立ち止まって考えてみると、今“ハラスメント”と名前がついて可視化されたことで、救われる人が確実に増えたのも事実なんだよな。俺だって若い頃、上司の「断れない誘い」に何度も付き合った。つらいのに、それを“普通”だと思い込んでいた。名前がつかない不快さは、だいたい我慢にすり替わる。

名前がつくことの効能はデカい。線が引けるし、対話の入口ができる。たとえば「飲みは好きだけど、強要はアルハラだからやめよう」「評価に私情を混ぜるのはパワハラの芽がある」と、共通言語で話ができる。曖昧だった“空気の圧”に言葉が与えられるだけで、対処の仕方が見えてくる。

一方で、名付けの副作用もある。ラベルが増えるほど、人は先にラベルを見る。相手の一言を丸ごと“○○ハラ”に押し込んでしまえば、そこから先の会話は止まる。良くない言動を止めるための言葉が、コミュニケーションを止めてしまう、本末転倒な場面だって起こる。

だからこそ必要なのは“使い分け”だと俺は思ってる。ハラスメントという言葉は、相手を殴るためのハンマーじゃない。危険を知らせる三角コーンであり、線を引くためのチョークだ。置くべき場面で置いて、どかすべき場面ではどかす。柔軟さが大切なんだ。

編集部でも、こういう工夫をしている。まずは「これは困った」と感じたとき、いきなりラベルで断罪しないで、事実ベースで伝える。「昨日の会議、話を三回さえぎられて不安になった」みたいに、具体と感情をセットで言う。すると受け手も守りに入らず、改善の議論に乗りやすい。逆に、本当に線を越えている時ははっきり名指しする。「それはセクハラです。やめてください」と。

“悪気がない”は免罪符じゃないが、“悪気はないけど無知だった”は学べば治る。ここを一緒くたにしないだけでも、職場の空気はずいぶん変わる。俺自身、若いメンバーに指摘されてハッとしたことが何度もある。ありがたい恥だ。恥をかける場があるのは、大人にとって案外ぜいたくだぞ。

もうひとつ付け加えるなら、笑いのリハビリも必要だと思う。笑いは人の距離を縮める特効薬だけど、雑に打てば副作用も強い。だからこそ“内輪の合図”じゃなく、“共有できるネタ”に寄せる。自虐や現象ネタに切り替えるだけで、同じ場を壊さずに温められる。ダジャレを封印しろ、とは言わない。打つ前に、せめて深呼吸はしよう、だ。

例えば俺の場合、「老眼でスマホの文字が読めん」なんて自虐をすれば、場は和むし若いやつも笑いやすい。だけど「お前もそろそろ結婚しないとな」なんて踏み込めば、一気にハラスメント認定だ。ここで重要なのは、自分のネタは自分で消化すること。他人の人生に土足で上がると、一瞬で空気が冷える。

さらに言えば、“笑い”も“注意”も、同じくらい「距離感」に左右される。親しい相手には許される冗談も、初対面には毒になる。つまり、ハラスメントを避けるコツは、結局「人との距離を測るセンス」なんだよな。俺もまだ修行中だが、これを持ってる人は恋愛でも仕事でも信頼されやすい。結局、モテるやつってそこが上手いんだ。

こう書くと、結局「気をつけろ」のオンパレードじゃないかと突っ込まれそうだが、俺が言いたいのは“息苦しさはゼロにはならないけど、呼吸法は手に入る”ってこと。ハラスメントという言葉は、俺たちの会話を縛るロープじゃない。むしろ、迷子にならないための地図だ。地図があると自由に歩ける。そういう種類の自由だ。

オチをひとつ。最近、後輩に言われた。「ケンジさん、それ“説教ハラスメント”です」……ぐぅの音も出ない。けどさ、この“説教”が完全禁止になったら、俺の存在価値が蒸発するんだよ。だから、お願いがある。“ハラスメント禁止”にも、ほどよい余白を。息苦しいのは確かだ。でも、この言葉がなかったら、俺たちはもっと困っていた。線を引く道具があるから、俺たちはもう一度、ちゃんと話し合えるんだ。

つまり結論。世の中はなんでもハラスメントになりがちだ——けど、その地図がない世界のほうが、俺たちは迷う。だったら、地図を片手に、笑い方を工夫して、前を向いていこう。俺も“説教ハラスメント”の頻度、月間3回までに減らす努力をします。たぶん。いや、きっと。

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