「楽しかったよ」って笑って、服を着て、玄関で手を振る。
玄関のドアが閉まったとき、静かすぎる部屋に、自分の鼓動だけが残っている。
それが、想像以上に重たかった。
一夜限りの関係。
名前を知らなくてもできる関係。
求められることに酔って、自分の価値を測るような夜。
私は、そういう関係を経験したことがある。
好きになった人に軽く扱われたくなくて、恋愛感情を持っていないふりをしたこともある。
でも──身体だけの繋がりが、本当の意味で私を救ってくれたことは、一度もなかった。
なぜ、そういう関係を求めてしまうのか
人は、孤独を埋めるために人を抱く。
それは別に、特別なことじゃないと思う。
「寂しい」「人肌が恋しい」「誰かに必要とされたい」──感情の一部としては、どれも正直だ。
でも問題は、それが“何かを満たしてくれるように見えて”、実際には何も変えてくれないってこと。
行為のあとに残るのは、あたたかさじゃなくて、“何かをすり減らした感覚”だった。
満たされないまま終わる夜
人と身体を重ねても、心がどこにも触れられないことがある。
名前を呼ばれないまま、ただの“行為”として終わっていく。
私はあるとき、夜が明ける前にひとりで帰ったことがあった。
その人が悪かったわけじゃない。ただ、何かが“足りない”と感じた。
……いや、足りないというより、自分の大切なものが置いてきぼりにされたような気がした。
「求められること」にすがっていた自分
あの頃の私は、「求められること=愛されていること」だと錯覚していた。
LINEの通知が来るたびに、期待して、すぐに既読にして。
でも、それが“ただの都合のいい誘い”だったと気づくまでに、何度も心を削った。
行為の中で、“価値”を与えてもらっているような気になっていたけれど、
終わったあとは、ますます自分に自信がなくなっていた。
「これって、私が本当に欲しかったもの?」
そう問い直す勇気を持てたとき、初めて私は、その関係から抜け出すことができた。
身体だけじゃ、心は埋まらない
これは、経験しないとわからない虚しさかもしれない。
恋人が欲しかったわけじゃない。ただ、誰かに“ちゃんと見てほしかった”。
一夜限りの関係が悪いとは思わない。
大人同士が同意のもとで過ごす時間に、善悪なんて持ち込むつもりはない。
でも、それが“虚しい”と感じるなら、無理して割り切る必要はないと思う。
誰かと繋がることで、逆に“自分が遠くなる”夜もある。
そんなときは、もう一度、自分に問い直してほしい。
「私は、ちゃんと大切にされたいんだ」
そう認めることは、甘えでも、わがままでもない。
最後に、あなたへ
もし今、あなたが“身体だけの関係”に揺れているなら、 その気持ちを否定しないでほしい。
虚しさを感じるのは、あなたが「心のある人」だから。
ちゃんと大切にされたい。
その気持ちがある限り、きっといつか、 “誰かのぬくもり”じゃなくて、“自分を誇れる恋”に、辿り着けると思う。