こいこと。編集部の休憩スペース。午後の光が机の角に落ちて、いつもより静かな時間。
ミユがスマホを置いて、ふっと笑った。
ミユ「ねえ、最近よく見るんだけどさ。“片思いしてるときがいちばん楽しい”って意見、どう思う? ちょっとわかるような、でもそれでいいの?みたいな」
リク「わかります。片思いって“確定していない状態”だから、想像も期待も動かせる。楽しいって感じる人がいるのは自然だと思います」
向かいの席で新聞を畳んだワニオが、視線だけ上げた。
ワニオ「僕は恋愛に興味はないですが、人間観察としてはわりと分かりやすい現象です」
ミユ「え、分析きた。恋愛しないワニの恋愛分析、だいたい当たるのなんで?」
ワニオ「片思いが楽しいのは、まだ“価格が確定してない市場”だからです。期待値だけで上がれる」
リク「なるほど……“関係が確定すると、現実の調整が始まる”。片思いの段階は、気持ちの自由度が高いんですね」
ミユ「うわ、それ言われるとちょっと切ない。でも、たしかに“楽しい”って言ってる人って、未来を見てるというより“今のドキドキ”を抱きしめてる感じある」
ワニオ「ただし、楽しいのは悪いことじゃないです。問題は、楽しいを理由に撤退ラインを消すこと」
ミユ「撤退ラインって言い方、ワニオすぎる」
リク「でも大事ですね。片思いを楽しみながらも、現実の行動に繋げるか、区切るかは選べる」
――というわけで今日のテーマは、「片思いが楽しい」は肯定しつつ、そこからどう自分を守って、どう恋を進めるか。
片思いが「楽しい」と感じる人の心理:ドキドキは“自由”から生まれる
ミユ「じゃあさ、具体的に聞きたい。片思いが楽しい人って、どういう心理なの? “付き合う前がピーク”って言う人もいるよね」
リク「大きく分けると3つあります。①想像の余白がある ②相手の反応が読めない刺激 ③“自分の気持ち”に集中できる。この3つが揃いやすいのが片思いです」
ワニオ「補足すると、片思い中は支出が少ない。会話の一言で一日が上がる。コストが低い」
ミユ「うわ、たしかに……“返信きた!”だけで今日勝ち、みたいな日ある」
リク「そういう“少ない出来事で気持ちが動く”のは、恋の初期特有ですね。だから楽しい」
ミユ「でもさ、その楽しいが長引くと、逆に動けなくならない? “このままのほうが幸せかも”って」
ワニオ「それが、次の論点です。楽しいは安全圏になりやすい」
「楽しい片思い」が動けなくなる理由:安全圏が心地よすぎる
ミユ「“楽しいは安全圏”ってさ、めっちゃわかる気がする。だって、片思いって、まだ何も失ってないじゃん。失恋すらしてない」
リク「そうですね。片思いは現実の摩擦が少ない。相手の嫌な面も見えにくいし、“理想の状態”を保ちやすい。だから、心地よくなりやすいんです」
ワニオ「確定すると、現実が始まります。相手の生活、価値観、気分。市場が急に現物取引になる」
ミユ「市場って言い方やめて(笑) でも、たしかに“現物”になると急に怖くなるよね。メッセージの雰囲気とか、会ったときの空気とか、全部リアル」
リク「その“怖さ”があるからこそ、片思いを楽しむ人ほど、関係を動かすことに慎重になります。楽しい時間が壊れるかもしれないので」
ミユ「つまり、楽しいって感じてる人ほど、“壊したくない”って思ってる可能性ある?」
リク「あります。好きな人のことばかり考える人もそうで、考える時間が多いぶん、理想が積み上がっていく。結果、動くほど怖くなる」
ワニオ「よくあるのは、“うまくいかない理由”を先に作って安心するパターンです。忙しいから、今は時期じゃないから、もう少し痩せたら、みたいな」
ミユ「わっ……刺さる。準備が整うまでって言いながら、ずっと整わないやつ」
リク「準備自体は悪いことじゃないんです。ただ、準備が行動の代わりになると、片思いは“楽しいまま停滞”してしまう」
ミユ「楽しいのに、停滞ってなんか切ないね。勝手に心だけ忙しいのに、現実は何も進んでない感じ」
ワニオ「それでも、人間はその状態を選びます。痛みが少ないから。ただ……長期保有すると、含み損が増えることもある」
ミユ「含み損て(笑) でも、“好き”がしんどくなる瞬間って、それかも。楽しいだけじゃなくて、苦しくなる」
リク「はい。だから大事なのは、“楽しい片思い”を否定しないまま、次の一手を用意することなんだと思います」
ミユ「なるほど……楽しいって気持ちは大事にしつつ、進むなら進む、休むなら休む、みたいな?」
ワニオ「撤退ラインと、エントリー条件を決める。それだけで恋はだいぶ楽になります」
ミユ「やっぱ恋愛の話してるのに、ずっと投資っぽいんだよなぁ」
リク「でも、ワニオさんの言い方って不思議と分かりやすいです。次は、その“次の一手”の話をしましょう」
「片思いが楽しい」をやめなくても、動いていい
ミユ「でもさ、“楽しい片思い”って聞くと、動かない自分を正当化してるみたいで、ちょっとモヤっとする人もいそうじゃない?」
リク「それ、ありますね。“楽しいからこのままでいい”って言葉が、実はブレーキになっているケースも多いです」
ワニオ「楽しいは、止まれじゃなくて、余裕があるのサインです」
ミユ「余裕があるから、動けるってこと?」
ワニオ「はい。余裕がない人は、そもそも楽しめません」
リク「つまり、“片思いが楽しい”って感じられている時点で、心はそこそこ安定している。それって、本当は悪い状態じゃないんですよね」
ミユ「たしかに。好きな人のことでワクワクできてる時点で、心が荒れてないもんね」
リク「そうなんです。だから大事なのは、楽しい=何もしなくていいと短絡的に結びつけないこと」
ミユ「“楽しいけど、ちょっとだけ踏み出してみる”でもいい?」
ワニオ「それが自然です。人間は、小さく動いた方が後悔しにくい」
ミユ「告白とかじゃなくても?」
リク「はい。話す回数を少し増やす、相手のことを一つだけ知る、それだけでも“停滞”は抜けます」
ミユ「あ〜、“一気に白黒つけなきゃ”って思いがちだけど、グレーのまま一歩進んでもいいんだ」
ワニオ「白黒は、最後に塗るものです」
ミユ「名言っぽいこと言うじゃん」
リク「片思いを楽しめている人ほど、自分のペースで進む選択肢を持っていい。それが今日の大事なポイントかもしれませんね」
それでも「片思いで終わらせたい人」は、どうすればいい?
ミユ「でもさ、正直に言うと……片思いのままで終わらせたい人も、絶対いると思うんだよね」
リク「いますね。告白して関係が変わるのが怖いとか、今の距離感が心地いいとか」
ワニオ「それは、逃げではありません」
ミユ「お、意外と肯定的」
ワニオ「人は、壊したくない関係を選ぶことがあります」
リク「たしかに。“進まない”選択って、ネガティブに見られがちですけど、自分で選んでいるなら問題ないんですよね」
ミユ「周りからはさ、“それ意味ある?”とか言われそうだけど」
リク「意味は、本人が決めるものです。他人が採点するものじゃない」
ワニオ「観察結果として。
片思いを“自分の時間”として扱える人は、消耗しにくい」
ミユ「どういうこと?」
ワニオ「相手の反応で一喜一憂しすぎない。
期待しすぎない。
自分の生活が主役」
リク「なるほど。“片思いに依存しない”ってことですね」
ミユ「それなら、片思いでも楽しいままでいられそう」
リク「逆に言うと、苦しくなっている片思いは、“終わらせたい”とは別物かもしれません」
ミユ「あ……“終わらせたい”と“動けない”は違うってことか」
ワニオ「はい。選んでいるか、止まっているかは、本人が一番わかります」
リク「だから、“片思いで終わらせたい”なら、自分なりのルールを決めるのがおすすめですね」
ミユ「連絡頻度とか、期待しすぎないとか?」
リク「そうです。自分が壊れない距離を保つこと」
ワニオ「片思いは、管理しないと増殖します」
ミユ「言い方こわいけど、ちょっとわかる」
「片思いが楽しい」と思える人は、すでに恋に振り回されていない
ミユ「なんかさ……今日の話聞いて思ったんだけど。
片思いが楽しいって言える人、もう十分うまくやってる気がする」
リク「僕もそう思います。
不安だけじゃなくて、楽しさを感じられている時点で、恋に飲み込まれていない」
ミユ「脈ありかな? 脈なしかな?って悩みつつも、
それを生活全部にはしてない感じね」
ワニオ「観察結果として。
楽しい片思いは、人生の一部です」
リク「だから、“片思いで終わらせたい”も、“いつか動きたい”も、どちらも正解なんですよね」
ミユ「無理に告白しなくてもいいし、
無理に我慢し続けなくてもいい」
リク「大事なのは、今の自分が苦しくないかどうか」
ワニオ「苦しくなったら、選択肢を変えればいいだけです」
ミユ「シンプルだけど、それが一番むずかしいんだよね」
リク「でも、“片思いが楽しい”と思えた経験は、
次の恋でも、きっと自分を助けてくれます」
ミユ「うん。片思いって、黒歴史じゃなくて、ちゃんと思い出でいいんだ」
ワニオ「はい。
恋は、楽しめた時点で失敗ではありません」
片思いが楽しいと感じる気持ちも、
前に進みたくなる瞬間も、
どちらもあなたのもの。
今の恋を、どう扱うかを決めるのは、いつも自分自身だ。


