こいこと5、結成前夜──街に流れた“謎の詩人プロデュース”の噂
「謎の詩人ナツメが、アイドルをプロデュースするらしい」──そんな噂が、静かに、でも確実に広がっていった。
ナツメ。詩を書き、気配で歩き、時々ドアからではなく“空気”から入ってくる人物。
その言葉は不条理、なのに何故か人の背中を押してしまう。街は半信半疑、でもちょっとワクワクしている。
噂は、こいこと。編集部へ
午後のコーヒーの香りが漂う編集部。
誰かがSNSのタイムラインを指差した。「これ、ガチ?」
アカリ: ついに来た〜! これ絶対うちスカウトされるやつでしょ!?
ミユ: はい優勝、未来のセンターは私で〜す☆
ミサキ(ダークヒロイン): ふふ……私の美貌を解き放つ刻、来たわね。(黒笑)
編集部の空気が、にわかにライブ前の楽屋みたいに熱を帯びる。
誰もが少し背筋を伸ばし、鏡を見て、気づかないふりで髪を直した。
そのときだった。
ドアは閉まったままなのに、空気がカーテンのように揺れ、誰かが“現れた”。
ナツメ: ……おはようさん。スカウトの続き、しに来たで。
編集部、静止。コーヒーの湯気だけが動いている。
選ばれたのは──まさかの……
ナツメは編集部の中央で一度だけ指を鳴らし、ゆっくりと視線を巡らせた。
アカリ:(小声)来る…これは来る…!
ミユ: 心の準備OK。センターの呼吸、壱の型☆
ミサキ: ふふ……トップアイドルと書いてミサキと読む(強欲)。
ナツメの指先が、ぴたりと止まる。
その先にいたのは──パソコンの前で原稿を直していた、地味目のメガネ女子。
ミカコ。三十路、腰痛持ち、編集担当。ドライで自立、いつもツッコミ係。
かなり「アイドルから遠い」席に座っている人間だった。
ナツメ: おった。ミカコのメガネが呼んどる。
ミカコ: ……はい? メガネが?
編集部の空気が一瞬で静かになる。
コーヒーの湯気だけが、まだ状況を理解していない。
アカリ: えっ、うちじゃ…ない!?
ミユ: いや待って、でもミカコさん、よく見ると美人……!
ミサキ: 美貌の定義、更新されたわね。
当の本人は、ゆっくりメガネを外してレンズを拭いた。
そして、ごく冷静に口を開く。
ミカコ: 三十路、地味、腰痛持ち、目立つの苦手な私が?
ナツメ: せや。レンズ越しに、まだ言葉になってへん恋が透けて見えた。
ミカコ: ……比喩が渋滞してますね。
アカリとミユは不満げに頬をふくらませるが、
その視線には「でも、ミカコさん案外イケるのでは?」という複雑な輝きも混じる。
アカリ: うちがステージで映えるのは既定路線だけど…今日は譲る!
ミユ: ミカコさん、腰はサポーターで保護すればOKです!
ミカコ: そういう問題かな……?(でも、ちょっと面白いかも)
ナツメはさらりと紙切れを差し出す。そこには「集合:都内某所スタジオ」とだけ。
余白はやたら広いのに、説明はやたら少ない。
ナツメ: とりあえず来い。なんとなくで始まる仕事は、だいたいおもろい。
ミカコ: “なんとなく”で始めるアイドル……(メガネ越しにため息)。
編集部の壁時計がコチリと鳴った。
気づけば、アカリもミユもミサキも、なぜか背中を押す側に回っていた。
アカリ: 行ってきなよ! レポは任せて!
ミユ: ビジュ担当は私が継承しておきます☆(何の)
ミサキ: ミカコさんを叩く奴はわたしがきっちり始末するので。
ミカコは無言で立ち上がり、腰にそっと手を当てる。
パソコンを閉じ、メガネをかけ直した。
──こうして、“最後のひとり”は決まった。
行き先は、都内某所のスタジオ。
そこで、彼女を待つ「顔合わせ」と「自己紹介」と、想像以上の“ざわめき”が待っている。
顔合わせ──5人の出会い
都内某所のスタジオ。
扉を開けると、すでに4人の少女が待っていた。
サナ: はじめまして!わたし、サナです。センターは絶対に譲りませんから!
クミ: あの…ここって、給食ありますか?(キョトン)
マキナ: わ〜!新しい仲間だ!よろしくねっ♡
ユリ: 合理的に考えると、このグループは…成立するのかしら。まぁ、よろしく。
いきなりキャラが濃い。 ミカコは腰に手を当てて、深くため息をついた。
ミカコ: ……えーっと、ミカコです。三十路、腰痛持ち、メガネ。
特技は原稿の締切を守らせること。趣味はツッコミです。
スタジオの空気が一瞬止まり──次の瞬間ざわめいた。
サナ: えっ…三十路!?
クミ: それって…お寿司の種類ですか?
マキナ: すご〜い!大人の魅力ってやつだね!
ユリ: …想定外。でも悪くはないわ。
年齢差、キャラ差、立場の差。
なのに、不思議と“バランス”が取れてしまう不条理。
その空気を切り裂いたのは、紫色のもやと詩の響きだった。
マネージャー登場──二足歩行の猫
「契約完了や」
ナツメが低く呟くと、天井からもやが渦を巻き、そこに黒白の猫が着地した。
……いや、猫ではあるが、スーツを着て、二足歩行。そして普通に喋った。
ネコメ: 俺がマネージャーだ。名前はネコメ。
今日からおまえら、プロやぞ。
スタジオに一斉に悲鳴が響く。
サナ: しゃ、しゃべったーー!?
クミ: ごはんはカリカリ派ですか?それともウェット?
マキナ: やばい、めっちゃカッコいい!スーツ似合ってる!!
ユリ: ……合理性ゼロ。でも、面白いわね。
ミカコ: ……猫がマネージャーって。もうツッコミ追いつかない。
ネコメはスーツの袖を直し、真剣な顔で言い放つ。
「じゃれ合ってる暇はない。ここからが本番だ」
5つのルール、発表
ナツメがふらりと現れ、白い紙を天井に掲げた。
ナツメ: こいこと5のルールや。これ忘れたら即脱退やで。
- 恋愛、上等。誰かを好きになる気持ちは、止めんといて。
- 揉め事、逃げるな。言葉にせんと伝わらん。
- 嘘つくくらいなら、黙っとけ。本音でぶつかるんや。
- “センター”は自分で名乗れ。待ってても誰もくれへん。
- ナツメの指示は基本無視してOK。理解できんときは流せ。たまに奇跡が起きる。
全員が一斉にツッコミを入れる。
ミカコ: 最後のルールだけ意味不明!
ユリ: 不合理極まりない…でも妙に納得できる。
クミ: 無視ってことは、宿題やらなくてもいいってこと?
サナ: センターは絶対私が名乗ります!
マキナ: なんかもう、楽しければいいんじゃない?♡
ナツメは詩人らしい微笑を浮かべ、煙のように消えた。
グループ名、決定の瞬間
ルール発表が終わり、スタジオには微妙な沈黙が流れていた。
サナ: ……で、私たちのグループ名は?
クミ: 「給食クラブ」とかどうですか?
ユリ: 却下。合理性ゼロ。
マキナ: 「ぴょんぴょんエンジェルズ」とかカワイイのがいい!
ミカコ: (真顔)検索したらすぐ埋もれそう。
そこで、ふらりと再び現れたナツメが呟いた。
ナツメ: ……名はまだ無い。けど、ワイの胸の奥から響いとる。
サナ: また詩人スイッチ入った…。
ナツメは天井を見上げ、詩のように宣言した。
「恋(こい)とことば(こと)。その交差点に立つ者──こいこと5や」
マキナ: わ〜!かわいい〜!
ユリ: 語感は悪くない。合理的な響き。
クミ: 5って、給食のおかずの数?
サナ: なんか燃える響きです!センターは譲りませんけど!
ミカコ: ……まぁ、悪くないですね。いや、結構いいかも。
こうして正式に──
「こいこと5」 は結成された。
合宿、始まる
ネコメが腕を組み、メンバーを見渡す。
ネコメ: よし。明日から合宿だ。泣こうが笑おうが、逃げられんぞ。
5人の声がハモる。
「ええええーーーっ!?」
こうして──
不条理アイドルグループ 「こいこと5」 は誕生した。
恋愛してもいい、猫がマネージャー、メガネに導かれた三十路もいる。
常識なんて必要ない。
次回、いよいよ“恋とアイドルの合宿”が幕を開ける?
多分続く!