「ねえ、好きな人にさ……好意って出した方がいいと思う?」
編集部のソファでスマホをいじっていたアカリが、ふと思いついたように顔を上げた。
アカリ「なんか最近そればっか考えちゃって。
好きなら出したほうがいいって言う人もいるし、
出しすぎるとナメられるって言う人もいるしさ」
その一言に、近くでコーヒーを飲んでいたミカコが、視線だけを向ける。
ミカコ「はいはい、また恋の永遠テーマ来ましたね」
給湯室側からは、ナナの笑い声が飛んできた。
ナナ「あ〜それ、何回も失敗して学んだやつだわ」
そして、少し離れた席で原稿を読んでいたミサキが、ゆっくりと顔を上げる。
ミサキ「……ちょっと待って。
好意を出すかどうかって話、下手すると地雷よ?」
アカリは目を丸くした。
アカリ「え、なにそれ。
ミサキさん的には、出さない派?」
ミサキは肩をすくめて、薄く笑う。
ミサキ「派閥で決める話じゃないわね。
出し方と、タイミングと、相手次第。
それ全部ズレると、一気に“重い女”完成よ」
その空気を、ナナが軽く叩く。
ナナ「ほら出た。ミサキの現実論。
でもさ、出さなすぎて何も始まらない恋も山ほど見てきたけどね」
気づけば、ただの雑談だったはずの話題は、
「好きな人に、どこまで好意を出すべきか」という、
なかなか答えの出ないテーマに変わっていた。
これは、
好意を出して後悔した人と、
出せなくて後悔した人が集まった、
ちょっと賑やかな座談会のはじまりだ。
好意は「出したほうがいい派」の言い分
アカリ「うちはさ、やっぱ好きなら多少は出したほうがいいって思うんだよね。
だって、何も出さなかったら相手も気づかなくない?」
テーブルに肘をつきながら、アカリは少し考える。
アカリ「もちろん、ガンガン行くとかじゃなくてさ。
でも、笑顔とか、話しかける頻度とか、
“あなたと話すの楽しいよ”くらいは出してもいいと思うんだよね」
それを聞いて、ナナが大きくうなずいた。
ナナ「わかる。
何も出さないで察してほしいって、結構むずいのよ」
ナナはグラスを置きながら、少しだけ苦笑いする。
ナナ「若い頃さ、好きなのに平然としてたことあるんだけど。
あとで聞いたら『全然脈ないと思ってた』って言われてさ」
アカリ「え、それツラいやつ……」
ナナ「ツラいよ。
だからね、最低限の好意は“翻訳”してあげないと伝わらないと思う」
少し間を置いて、ミカコが静かに口を開く。
ミカコ「まあ、好意を出す=重くなるって決めつけすぎな人も多いよね」
ミカコ「挨拶ちゃんとするとか、
話振られたらちゃんと反応するとか。
その程度でも、人によっては十分“好意”として受け取るし」
アカリは少し安心したように笑う。
アカリ「だよね。
好きって言わなくても、好きっぽさは出していい気がする」
そこまで聞いていたミサキが、ゆっくりとコーヒーを置いた。
ミサキ「……ここまでは、すごく綺麗な話ね」
その一言に、空気が少しだけ変わる。
好意を出しすぎて、うまくいかなかった話
ミサキ「綺麗な話の続き、していいかしら?」
そう言って、ミサキは小さく息を吐いた。
ミサキ「好意ってね、出し方を間違えると一気に“都合のいい存在”になるのよ」
アカリ「え、それは……どういう?」
ミサキ「たとえば、連絡はいつも自分から。
相手の都合には合わせるけど、自分の希望は言わない。
それを“優しさ”だと思って続けると――」
ミサキは指を軽く立てる。
ミサキ「相手は安心するだけで、恋には発展しない」
ナナが「あるある」と言いたげに笑った。
ナナ「それな。
好意を出しすぎると、“もう手に入った人”枠に入っちゃうことある」
ナナ「若い頃、好きな人の予定に全部合わせてたらさ。
気づいたら恋人じゃないのに彼女役みたいになってたことあるわ」
アカリ「それ、めっちゃ切ない……」
ミカコ「まあ、相手からしたら“楽”ではあるよね」
ミカコは淡々と言う。
ミカコ「でも、楽=好きとは限らない。
むしろ、恋って多少の緊張とか距離があったほうが動くことも多い」
ミサキ「そう。
だから私は、好意は出すけど、全部は見せない派」
アカリ「全部は見せない……?」
ミサキ「ええ。
“好きだけど、あなた次第よ”くらいが一番健全」
その言葉に、アカリは少し考え込む。
アカリ「え、好きなのに出し切らないって、むずくない?」
ナナ「むずいわよ。
でもね、恋ってだいたい難しいの」
好意を出すかどうかより、「自分が無理してないか」
ミカコ「さっきから聞いてて思うけどさ。
結局、好意を出すか出さないかって二択にするから混乱するんだよね」
アカリ「二択にしがちかも……」
ミカコ「でも実際は、どれくらい出すかとか、どの場面で出すかの話でしょ」
ミカコは少しだけ肩をすくめる。
ミカコ「それより大事なのは、
好意を出してる自分が、しんどくなってないかだと思う」
ナナ「あー、それはある」
ミカコ「相手に合わせすぎて疲れてるなら、
それはもう恋じゃなくて消耗だし」
ミサキ「逆に、好意を隠しすぎて苦しいのもアウトね」
ミサキ「“悟られたら負け”みたいになってると、
自分が何をしたいのかわからなくなる」
アカリ「じゃあさ……
ちょうどいい好意の出し方って、どう見つけるの?」
ミカコは少し考えてから答える。
ミカコ「簡単だよ。
相手の反応を見て、自分の気持ちを確認する」
ミカコ「出してみて、楽しいなら続ける。
しんどいなら、少し引く。
それを繰り返すだけ」
ナナ「それができたら苦労しないんだけどね」
ミカコ「まあね。
でも、“正解の態度”探すよりはマシでしょ」
アカリは小さく笑った。
アカリ「たしかに……
相手より、自分の感覚見るの大事かも」
好意を出す・出さないに「正解」はない
ナナ「結局さ、好意を出しても失敗するし、出さなくても後悔するのよね」
アカリ「うわ、それ一番リアル……」
ミサキ「だからこそ、どっちを選んでも“自分で選んだ”って思えるかが大事なのよ」
ミカコ「そうそう。
好意を出した結果ダメでも、何もしなかった後悔よりは納得できる人もいるし」
ナナ「逆に、出さないことで自分を守れる恋もある。
それも全然アリだと思う」
アカリは少し考えてから、ぽつりと言った。
アカリ「なんか……
好意を出すかどうかより、“自分がその恋で無理してないか”が大事なんだね」
ミサキ「ええ。
恋って、頑張りすぎると途端につまらなくなるもの」
ミカコ「楽しいなら続ければいいし、
苦しいなら一回距離置けばいい。
それでいいと思うよ」
正解を探すより、
相手の反応と、自分の気持ちを行き来しながら、少しずつ調整していく。
それが、
付き合う前の“ちょうどいい好意の出し方”なのかもしれない。



