【恋日記】夢も恋も欲張りたいの、だってわたしだもの♡【ミサキ視点・第5話】

目次

前回のあらすじ

「ねぇチョロ助、あんたの彼女であること、
わたしにとって最高のパスポートなのよ♡」

こいこと。編集部にちゃっかり潜り込み、
座談会にもちゃっかり参加して、
夢だった“ライターの世界”に、片足突っ込むことに成功。

もちろん、恋人生活もそれなりに楽しんでたわ。
チョロ助って優しいし、まじめだし、ちょっと不器用で……うん、
こういうの、嫌いじゃないのよね。

夢も恋も、ダブルで進行中。
──完璧なシナリオだったのに。

あたしが、チョロ助の記事をちょいっと“手直し”してあげたあたりから、
空気がちょっと、変わったのよね。

チョロ助、目つきがね……冷たくなったかも。
既読スルーも増えて、返信もそっけなくなって。

まさか──これって、
嫌われはじめてるってこと?

どうする、わたし!
このまま“夢だけゲット”じゃ、ちょっと物足りないのよ!!

座談会以降、こいこと。に出入りするわたし

「座談会、すごく楽しかったです♡」
なんて猫かぶりつつ、ちゃっかり名刺交換しちゃう自分が、
もう、好きすぎる。

あの日を境に、
わたしは“読者”から“関係者”になった。
──そう、こいこと。の、ね。

最初はリクの隣で静かに座ってただけなのに、
気づけばライターたちの輪に入り込んで、
ミユとアカリちゃんとは推し活トーク、ナナさんには恋の武勇伝を聞かされ、
ケンジさんには「目つきが鋭い。伸びるタイプだ」なんて謎の褒めをいただき。

正直、楽しかった。
だけど──楽しいだけじゃ、満足できないのが“ミサキ”なの♡

この流れ、逃すわけにはいかない。
わたしが欲しいのは、ただの仲良しじゃない。

ライター。 それも、ちゃんとした、“肩書きつき”のやつ。

だから少しずつ距離を詰めた。
編集部の出入りは自然体を装って、
差し入れを持っていったり、感想メールを送ったり、
「この間の企画、最高でした♡」なんて
メンバー全員に個別LINEしておいたり。

そういう地道な努力、わたし意外とできちゃうのよ。フフフ。

で、そろそろ満を持して──

わたしの、傑作コラムをお見せしましょうか。

ちょっと毒があって、ちょっと可愛くて、
“素直なだけの文章”じゃない。

 でも、それが“リアルな恋”ってもんでしょ?

評判のコラム──素直な文章なんてウソよ

編集部の空気が、なんだかざわついてた。

──なにか、起きた?
それとも、誰かの恋がバズった?

その答えを知ったのは、ナナの一言だった。

「このコラム、あんた書いたの?
……やるじゃん」

やるじゃん、いただきました♡

出したのは一本だけ。
内容は、恋の駆け引きについて。

「“好き”って言わせたほうが勝ち」とか、
「全部本音でぶつかるとか、正直なだけの恋は退屈」
とか、まぁ、わたしの中では当たり前の思想。

ちょっと毒を混ぜて、でも最後は共感で着地させる。
これが、わたし流の“リアルな恋愛語り”よ。

そしたらね。
これが意外と、刺さったらしいの。

編集長が「こういう視点、もっと欲しかったんだよね」とか言ってて、
一部の読者からも、「こういう本音、待ってました!」なんて声が。

ふふ、でしょ?

「素直」とか「まっすぐな気持ち」とか、
そういうのも悪くないけど──
世の中、そんなにピュアだけでやってけるわけ?

恋も文章も、
ちょっと捻って、ちょっと毒入れて、
それでこそ、味が出るのよ。

……それにしても、リクが静かだったのが、
少しだけ、気になった。

わたしのコラムが話題になったその日、
リク

はあまり笑わなかった。

──あら?もしかして、チョロ助、
ちょっとだけ、やきもち?

チョロ助が知らない──わたしが“特別視してる理由”

ねぇチョロ助、
わたしがあなたのこと、ちょっと特別扱いしてるって……気づいてる?

最初はね、ただの踏み台。
“リクと付き合えば、こいこと。に近づける”──それだけだった。

でも、あんたの文章を読んだとき、
なんかこう、ズルいくらい素直で。

まっすぐなのに、どこか寂しそうで。
なのにあたたかくて。

ああ、なんか、
……悔しいくらい、いいじゃん、って。

「この人、もっと書いてくれないかな」
そう思ったのは、プロ意識の一環よ。うん、たぶん。

でも最近のチョロ助は、ちょっと違う。

記事は迷子みたいだし、
読者のコメントもシビアで。

編集部でも「前の方がよかった」なんて声も出てて、
正直、聞いててムカついた。

……チョロ助の記事を貶していいのは、
このわたしだけなのに。

だから言ってあげたのよ。

「いまは不調なだけ。
リクの文章が素敵なの、わたしは知ってる」って。

ほんと、放っておけない子ね。

別に、期待してるとか、応援してるとかじゃない。
ただ、あんたにはもっと、
……ううん、なんでもない。

わたしが誰よりもわかってるだけ。

それだけ。

BAR恋古都にて──愛か才能か、あたしが選ぶのは

その夜、ナナさんとふたりで会うことになった。
場所はBAR恋古都。
薄暗い照明、グラスの中で氷が溶けてる音、あとちょっとした罪悪感──完璧な夜。

「最近どう? リクとは」

ナナさんが、カウンター越しに聞いてくる。
はいきた、地雷ゾーン。

「うまくいってるような、いってないような……」
わたしはグラスの中に逃げ道を探しながらつぶやいた。

ほんとはね、言いたかったの。
「チョロ助が最近すねててウザい」とか
「才能に嫉妬するなら黙ってろ」とか。

でも、それ言ったらあたしが“悪者”になっちゃうじゃない。

「最近楽しくて。文章書くのが、前よりもっと好きになってきて」
「でも、リクの顔をちゃんと見られてない気がして……」

──なーにセンチメンタルになってんのよ。あたしらしくない。

「罪悪感、ある?」
ナナさんの声が、やけに優しくて嫌になる。

「……あるかも」
ほんとは“ある”じゃなくて“あるあるある!”なんだけど、減らしといた。見栄。

だっておかしいじゃない?
あたしは夢に近づいてるのよ?
“こいこと。”に入りたくて仕方なかったあの頃から比べたら、今なんて夢のよう。

それなのに、どうしてこんなに心がざわつくの。
チョロ助が、あたしのコラムを見て少しだけ眉をひそめたとき、胸の奥がチクリとした。

「ミサキはさ、がんばり屋でしょ。全力で楽しむ人だよね」

──ナナさん、やめてよ。
あたしのこと、そんなふうに真っ直ぐ見ないで。傷がついちゃう。

「でも、リクみたいな繊細な人って、
自分と誰かを比べるクセがあるのよ」

ねえ、それってつまり──
“わたしのせい”ってこと?

「優しさで寄り添いすぎると、余計つらくなることもあるの」

わたしはずっと“隣にいた”つもりだった。
でも、もしかしたらそれは“追い越してた”のかもしれない。

「こないだ送ってくれたコラム、ほんと良かったよ。
……編集長に推薦しようかなって、ちょっと思ってる」

──うわ、来た。
ド直球の“夢かなうかもフラグ”。

このタイミングでそれ言う!?って思ったけど、
でも正直、すっごく嬉しかった。

ただ、その喜びの真下に、
“リクを置いていく感じ”がべったり張り付いてて──

「あたし、欲張りすぎたのかな」なんて、珍しく反省モードになった夜でした。

まあ、すぐに「でもま、あたしの魅力が悪いんでしょ♡」って思い直したけどね。

すべて手に入れるには、欲張りすぎかしら

あたしは、編集部でもすっかり顔なじみになった。

正式なメンバーではないけど、こいこと。編集部見習いって感じかしら?

ちょっとした企画を出せば「それ、面白いかも!」って言われるし、座談会にも呼ばれるようになった。
名言にモノ申す?はいはい、参加済み。
あたしの言葉、ちょっと毒があって、でも妙に刺さるらしくてさ──ファンまでついちゃったみたい。

絶好調。
まさに波に乗ってるって感じ。

でも──
相変わらず、チョロ助はくすぶってる。

文章はどこか弱々しくて、前みたいな勢いがない。
編集部では「ちょっと最近、リクくん元気ないよね」なんて声も聞こえる。

知ってる。
あたしが記事をリライトしたあの日から、彼のなかで何かが壊れたこと。

それでもあたしは、自分の文章を貫いた。
だってあのとき──あの夜、あの公園で。

「ミサキって、すごいね」
「何もない言葉から、ちゃんと“気持ち”をつくっていくんだもん」

リクがそう言ってくれたこと、今でも覚えてる。

あのときの顔。
あたしが書いた恋文を読んで、ちょっと悔しそうに、でも嬉しそうに笑ってた。

……なんなのよ、あの顔。
あんな顔するから、わたし、本気で好きになっちゃうじゃない。

「どうしようかしら」

夢はもうすぐ、手が届きそう。
でも、その手を伸ばせば──きっとチョロ助は、指の隙間から落ちていく。

「どっちもほしいのに」
そうつぶやいた瞬間、ちょっと笑えてきた。

──“強欲”と書いて、ミサキ。

そんなわたしの、恋と野望の分岐点。

さあ、どちらを選ぶべきか。
……いや、選びたくなんかない。
選ばずに済む方法、誰か教えてよ。

─つづく

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