【ミサキ様が通る!】取材で恋愛観を深掘りされたら、記者がまさかのデート希望?

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インタビュー依頼、舞い込む日

そのメールは、朝いちばんのコーヒーよりも刺激的だった。

――件名「人気企画『ミサキ様が通る!』取材のご相談」。

こいこと。編集部の共有アドレスに届いたその一通を、最初に見つけたのはミユだった。

「ねぇミサキ! なんか来てるよ、『ミサキ様が通る! 作者の方へのインタビュー希望』だって!」

テンション高めの声に顔を上げると、ミユが椅子をくるっと回して、モニターをこちらに向けてくる。画面には、恋愛系の別メディアのロゴと、丁寧すぎるくらいの文章。

――要約すると、「最近バズってるあなたの連載を取材させてください。企画の裏側や恋愛観をじっくり聞きたいです♡」ということらしい。

ふうん。
わたしの人気、ようやく世間がちゃんと自覚してきたみたいね。

「まぁ、人気者はつらいわね」

わたしがわざとらしく肩をすくめてみせると、向かいの席のナナさんがすかさずツッコミを入れてくる。

「はいはい、出たよ“自称・時代のヒロイン”。でもすごいじゃん、本当に取材依頼なんて来るんだね」

「自称じゃなくて“事実”ですよ。こいこと。のアクセス解析、最近ちゃんと見てます?」

ナナさんが苦笑いする横で、アカリは目をキラキラさせている。

「ミサキさん、マジですご。うちの看板企画やん……。インタビュー受けたら、うちの宣伝にもなるしアリちゃう?」

うんうん、その通り。こういうときに素直に褒めてくれるの、若い子の良さよね。

ふと視線を横にずらすと、リクが少しだけ複雑な顔をしてこちらを見ていた。
こいこと。にわたしを連れてきたのは、あのチョロ助。
でも今や、「ミサキ様が通る!」はわたし単独の看板企画。

――リクのことを考えると、ちょっとだけ胸がざわつく。けど、その感傷はあとでゆっくり味わえばいい。

「編集長には、わたしから OK 出しとくわ。取材なんて、こいこと。の宣伝にもなるしね」

「うわ、出た。即決女」
「迷う理由がないわ。だって、わたしの恋活は“見せてなんぼ”でしょ?」

そう、これはただのインタビューじゃない。
“ミサキ様ブランド”を外の世界に輸出するチャンス。

メールの最後には、こんな一文が添えられていた。

――「可能であれば、担当ライター本人に直接お話を伺いたく、インタビューの場を設けさせていただけませんでしょうか」。

直接、ね。
なるほど、わたしに会いたいのね。いいわ、その望み、叶えてあげる。

「というわけで、近々“インタビューされる女”ミサキ様が通ります。みんな、ちゃんと目撃者になっておくのよ」

編集部の空気が、呆れと期待と少しの嫉妬で、ふわっと揺れた気がした。

初対面のインタビュアー、その名はハルノ

取材当日。指定されたカフェは、いかにも“意識高い系メディアの人が選びそうな”場所だった。

白いタイル、木目テーブル、ラテの泡がハート型。
こういう演出、嫌いじゃないけど、狙いすぎると逆に薄っぺらいのよね。

入口をくぐると、すでにひとりの男性が席に座っていた。
年齢は30前後。柔らかい雰囲気の紺ジャケットにシャツ。
雰囲気イケメン……まではいかないけれど、「優しさの総合商社」みたいな顔だ。

彼が立ち上がり、丁寧に頭を下げる。

「はじめまして。『ラブレポート』のハルノと申します。今日はよろしくお願いします」

へぇ……礼儀正しいわね。いいじゃない。

「ミサキよ。よろしくね。じゃ、早速だけど、座りましょ」

取材が始まると、意外なほど話しやすい男だった。

「恋愛観」について聞かれる

「ミサキさんの連載、すべて読ませていただきました。観察力と切れ味がすごい。どうやってあの“言葉”を選んでいるんですか?」

やだ、この男……わたしの扱い、分かってるじゃない。

「言葉はね、刺さってなんぼよ。相手の胸に残らない“優しいだけの文章”なんて、恋愛記事じゃないわ」

ハルノは目を丸くし、次の質問へ。

「元カレ・リク」についても聞かれる

「ミサキさん自身の恋愛は……その、リクさんとの関係は創作ではなく、実話なんですよね?」

きたわね、この質問。外部メディアが一番触れたがるところ。

「ええ、本当にあった話よ。まぁ、今は同僚。互いに尊重しつつ、刺激し合える関係ってところかしら?」

ハルノが驚いたように笑う。

「すごいですね。普通、別れた相手と一緒に仕事なんてなかなか……」

「わたし、普通じゃないもの」

わざとウインクすると、ハルノは思わず吹き出した。

そして核心へ

「ミサキさんは……どういう恋を、今後していきたいですか?」

ふむ。これは、わたしの“本音”を引き出したい質問ね。

「飾らない人がいいわ。駆け引きより、誠実さ。派手なアプローチより、静かな熱意。まぁ、わたしを扱いこなせる自信があるなら、話は別だけど」

するとハルノは、少しだけ間を置いてから言った。

「……なるほど。じゃあ、僕にも……チャンス、ありますか?」

――へぇ、そう来るのね。

取材モードから、一瞬で“男の顔”になった。
インタビューに来たはずが、気づけばあなたが質問しているというわけ。

わたしはグラスの水を軽く揺らしながら、肩をすくめた。

「どうかしらね。食事くらいなら、考えてあげてもいいわよ?」

ハルノの表情がぱっと明るくなる。

――はい、落ちた。
だけど、これは“わたしの恋活”じゃなくて、“わたしのネタ活”。

「じゃあ取材の続きは、夜にでも……どうでしょう?」

ふふ、言うじゃない。

「いいわ。あなたの“素”も、取材させてもらうつもりで行くから覚悟しておきなさい」

わたしがそう告げた瞬間、ハルノの喉が小さく鳴った。

こうして、わたしとインタビュアーの“取材デート”が決まったのだった。

取材後の余韻──そして「これは恋? いえ、違うわね」

ハルノが帰ったあと、わたしはカフェの席にひとり残って、ストローをくるくる回していた。

――取材の続きは夜にでも。

言うじゃないの、あのインタビュアー。 取材対象にちょっと惹かれたって空気、全然隠せてなかったわよ?

でも、胸がときめいたかっていうと……それは違う。 ときめきじゃなくて、観察対象を見つけたときの高揚感。 わたしは恋じゃなくて“素材”を見る目をしていた。

「……やっぱり、わたしはライターなんだわね」

そうつぶやいた瞬間、スマホが震えた。

――ハルノ:
『今日はありがとうございました。夜のお店、ミサキさんの好きそうな雰囲気を探しておきます』

わたしは思わず笑ってしまう。

「わたしの好きそうな雰囲気? ふふ、言えるじゃない」

興味深い男ね。 頭が切れて、礼儀正しくて、取材対象を立てつつも自分のペースを崩さない。 恋活の相手としてはまだ未知数だけど──ネタとしては伸びしろ大。

ただし、一つだけ問題がある。

「……これ、わたしがインタビューされる記事のはずなのよね」

気づけば“逆取材”みたいになっているじゃない。 彼の恋愛観、価値観、弱点、全部、自然と出てきそうな空気。

つまり、

──美味しい。

少しだけ胸がざわつく理由

ただね、ほんの少し。ほんの、ほんの少しだけ。 別の感情が混じっていたのも確かなのよ。

あの真面目な目で質問されると、 “わたしの中身”を見ようとしてる感じがして──ちょっと落ち着かない。

「……リクほどじゃないけどね」

思わず名前が出てしまって、わたしは慌てて首を振る。

違う違う。いまはハルノ。 これは恋じゃなくて、新しい章の始まり……つまり“ネタ活”。

そう自分に言い聞かせると、自然と笑みがこぼれた。

「夜は夜で、楽しませてもらうわよ。取材も、デートも、その中間もね」

――ミサキ様、インタビュー回にして“出会い編”にもなるなんて。 さすがわたし、持ってるわ。

夜の“取材デート”、幕開け

夜になり、指定された店の前で足を止めた。 ハルノが選んだのは、落ち着いた照明の隠れ家ダイニング。 派手すぎず、地味すぎず、わたしの“自意識バロメーター”に絶妙に寄せてきている。

ほほう……この男、思っていたよりセンスがあるじゃない。

入口の扉が開き、ハルノが姿を見せた。

「こんばんは。お店、気に入ってもらえるといいんですが」

「悪くないわね。わたしを喜ばせようと努力した跡が見えるもの」

軽い冗談のつもりで言ったのに、ハルノは真剣に受け止めて少し照れたように笑った。

……やだ、反応かわいいじゃない。

席につくと、“インタビュー”が始まった

メニューを開くより先に、ハルノが口を開いた。

「続き、聞いてもいいですか。ミサキさんは――恋愛に何を求める人なんです?」

来た来た。 これ、普通のデートの会話じゃないのよね。

完全に“取材の続き”。 でもその目はもうライターじゃなくて、ひとりの男のそれだった。

「そうね……誠実さ、かな。でも表面的な優しさじゃなくて、ちゃんと中身のある誠実さよ。 あと、わたしを怖がらないメンタル」

ハルノは吹き出した。

「怖がる……ですか?」

「いるのよ、“美人だから攻撃的”“美人は男のステータスにうるさい”って決めつけてくるタイプ。 自分の偏見で勝手に怯えて、自爆していくの」

(そういえば今日の取材でも、この話が少し出たわね。美人への偏見は、ある意味で逆差別よ。)

ハルノは腕を組んで、ふむ、と考え込む。

「偏見……確かに世の中にはありますよね。でも、ミサキさんは美人ですけど、すごく気さくで……その……頭の回転も速くて……」

おや、それ褒めすぎじゃないかしら。 ただのリップサービス? それとも本気?

「ふふ。そんな褒め方されたら、わたしでも構えちゃうわよ?」

ハルノは焦って手を振る。

「いや、違うんです! 取材で見たままを言っただけで……!」

その必死さに、ちょっとだけ心が動いた。

ミサキ、思わず“本音”を落とす

「……でもね、誠実さって簡単じゃないの。 だって、嘘をつかないって意味じゃなくて、 “相手の気持ちをちゃんと尊重する覚悟”のことだから」

自分で口にして、少しだけ胸が熱くなった。 ああ、わたし……まだどこかにリクの影響が残ってるんだ。

ハルノは黙ってうなずいた。

「ミサキさん……その言葉、すごく胸に残ります」

「あら、メモしなくていいの? 取材対象の金言よ?」

「……そうですね。じゃあ、メモしときます」 と言ってスマホを取り出す姿が妙に可愛い。

その瞬間、気づいた。

――あ、この男、わたしが思っていたより“誠実寄りのやつ”ね。

楽しい夜のはじまり

食事が運ばれ、ワインが注がれ、会話は自然と弾んだ。 仕事の話、恋の話、人生観、くだらない笑い。

恋じゃない、でも友達とも違う。 “ネタ活系デート”とでも呼ぶべき空気だった。

――いいじゃない。 こういう未知数の男、嫌いじゃないわ。

そのとき、ハルノがふと顔をあげ、わたしを見つめた。

「……ミサキさん。こんなに話すのが楽しい夜は久しぶりです」

一瞬、胸がチクリとした。 それが恋の始まりか、ただの共鳴なのか。 わたし自身にもまだ判断はつかない。

だけど、ひとつ言えるのは――

この夜、記事としては最高に“おいしい”。

「ふふ、そう。なら続きは……次の取材で、ね?」

ハルノは照れ笑いしながら、「はい」とうなずいた。

取材は一旦終了。 でも、わたしたちのやり取りは──まだ続く予感しかしなかった。

翌日の編集部、続きが香る空気

翌日、編集部のデスクに腰を下ろすと、昨日の夜の余韻がまだ体に残っていた。 恋……ではない。 でも、“興味”という名のスパイスくらいは舌に残っている。

そんなタイミングでミユが駆け寄ってきた。

「ミサキ〜!昨日どうだったの?なんか顔が柔らかくない?」

「気のせいよ。 ただちょっと、美味しいワインと、そこそこ誠実な男に出会っただけ」

「えっ、なにそれ〜!気になる!」

ミユが目を輝かせ、アカリまでひょこっと顔を出す。

「ミサキさん、恋したんですか?♡」

「違うわよ。 恋にしたら安すぎるし、仕事だけにするには惜しい男ってだけ」

“惜しい”。 この言葉を口にした瞬間、わたし自身が少し笑ってしまった。

――ああ、本当に面倒くさいミサキ様ね。

記事にするか、また会うか──どちらでも美味しい

デスクのパソコンを開くと、昨日の取材メモが光る。

  • 美人への偏見は逆差別である
  • 誠実な男は“本音回収力”が高い
  • 恋活とネタ活の境界線は案外曖昧

うーん……全部いいネタね。 書くには十分すぎるほどの素材が揃っている。

でも、わたしは指を止めた。

――まだ書きたくない。

昨日の夜、ハルノが照れながら言った言葉が頭をよぎる。

「また、続きを……聞かせてもらえますか?」

恋? それともただの好奇心? そんなこと、まだ決めなくていい。

だって、“続き”を楽しめる相手なんて、そう簡単に転がっていないもの。

ミサキ、次の一手を企む

「ねぇミユ、アカリ」 と声をかけると、ふたりが楽しそうに振り返る。

「近いうちに飲みに行くわよ。 ちょっと話したいネタがあるの」

ミユは跳ねるように喜び、アカリは素直に笑う。

わたしは立ち上がり、髪をかき上げた。

――さて。 ハルノくんの“続きを”いただくか、 それとももっと美味しい展開を探すか。

恋でも仕事でも、わたしが主導権を握るのは当然よ。 だってこの連載のタイトルは――

『ミサキ様が通る!』なんだから。

次のターゲットは恋か、ネタか、どちらかしらね? 続きはわたしの気分次第。楽しみにしておいて♡

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