「特別扱いされたい」って変ですか?──ワニオのロジカル分析×ミユの本音

目次

ミユ、謎のモヤモヤを抱える

夕方の編集部休憩室。ミユはマグカップを両手で包みながら、どこか言いづらそうに視線を泳がせていた。

ミユ「ねぇワニオ…最近、なんかモヤっとするんだよね」

ワニオ「湿度ですか? エアコンの設定を確認しましょうか」

ミユ「ちがうよ!!気持ちのほうのモヤっと!」

ワニオは首を少しだけ傾け、分厚いまぶたの奥からこちらを観察するように見つめる。

ワニオ「ほう、では情動カテゴリの問題ですね。具体的には?」

ミユ「“特別扱い”ってなんなんだろって。あたし最近…それがちょっと分かんなくて」

ワニオ「特別扱い。人間が好む、選択的リソース配分のやつですね」

ミユ「もうちょいロマンある言い方してよ〜!」

笑いながらも、ミユの指先には少しだけ焦りが滲んでいた。 今日はその“特別扱い”の正体を、ワニオと一緒に解き明かすことにする。

ミユの本音──「特別扱いって…どこから?」

ミユ「なんかさ、“この人わたしを特別扱いしてくれてる?”って思う瞬間あるじゃん。」

ワニオ「観測者の期待値によって“特別扱い”は発生します。実体は概念です。」

ミユ「概念言うな〜!あたしは感覚で話してるの!」

ミユはテーブルの角を指でコツコツ叩きながら、少しだけ声を小さくする。

ミユ「……あたしね。最近ある人に“あれ、他の子と違う気がする”って思っちゃって。」

ワニオ「対象の名前は伏せますか?」

ミユ「伏せる!……というか、たぶん本人に言いたくないタイプのやつ。」

ワニオ「ふむ。では“他の人とは違う扱いを受けた気がする現象”。典型的には、①反応速度が速い、②優先順位が高い、③配慮の粒度が細かい、のいずれかが該当します。」

ミユ「あるわ。なんか“わたしだけに向けられてる気がする時間”みたいなの。」

ワニオ「時間というリソースは有限ですからね。特別扱いの指標としては最も信頼性が高い。」

ミユ「でもね、そのせいで逆にモヤるの。あたし特別扱いしてもらってるって思ってたのに、その人が他の子にも優しくしてたら…<あれ?あたし特別じゃなかった?>って急に不安になっちゃって。」

ワニオ「“比較”が発生したのですね。他者の存在はいつも、人間の自信を揺らします。」

ミユ「そうなの!その“揺れ”がなんか苦しくて。それって恋なのか、ただの自惚れなのか、自分でも分かんない…。」

ワニオは静かに頷きながら、マグカップを少しだけ回して置いた。

ワニオ「結論。ミユさんは“相手が自分を特別視しているかどうか”よりも、“自分はその人を特別視し始めてしまった”ことに戸惑っているのでは?」

ミユ「……え、そっち?」

ワニオ「はい。特別扱いが気になるのは、相手よりも自分の心が動いたときです。」

ミユはハッとしたように目を瞬かせた。

ワニオ流・“特別扱い”の3分類

ワニオ「では、ミユさんが今感じている“揺れ”を整理しましょう。」

ミユ「揺れの整理ってなにそれ……怖いんだけど。」

ワニオ「大丈夫です。科学的に怖くない範囲で分類します。」

ワニオはノートを開き、さらさらと三つの項目を書き出した。

  1. ① 意識してないのに出ちゃう“好意由来の特別扱い”
    相手が好意を自覚していなくても、無意識にミユを優先してしまうパターン。
  2. ② 善意と礼儀が暴走する“性格由来の特別扱い”
    誰にでも優しいタイプ。ミユに優しいのは、恋が理由とは限らない。
  3. ③ 気まぐれ・人懐っこさの“距離感バグ型特別扱い”
    深い意味はないが、その瞬間だけ妙に近い。

ミユ「……ねぇ、それ全部当てはまりそうなんだけど。」

ワニオ「だからこそ混乱するのです。特別扱いは“理由が一つとは限らない”から。」

ミユ「うわぁ〜〜〜……そういうのマジでわかんない。直感100%で生きてるあたしからしたら、なんで急に優しくされたり、急に素っ気なくされたり…意味分かんないもん。」

ワニオ「相手が特別扱いしているかより重要なのは、“ミユさんがその変化を気にしてしまっている”という事実です。」

ミユ「……またそっち?」

ワニオ「はい。心というものは、自分に関係ない変化には反応しません。」

ミユは不意に口元を押さえた。図星だった。

ミユ「……じゃあさ。もしあたし、その人の行動に一喜一憂して“揺れちゃってる”なら、それってもう——」

ワニオ「はい。“誰かを気にし始めた”という初期症状です。」

ミユ「症状言うな!」

ミユは笑いながらも、耳がほんのり赤い。

ミユの揺れに“名前”をつける時間

ミユ「じゃあワニオ的にはさ、あたしのこの“揺れ”…なんて名前になるの?」

ワニオ「名前、ですか。では適切なラベルを考えましょう。」

ミユ「ラベルって言い方やめて!なんか棚に並べられた気分!」

ワニオは一切気にした様子もなく、淡々と指を折っていく。

■ ワニオが挙げた“揺れの名前”候補

  • ① 選択的注意の偏り  → 相手の情報だけ拾いやすくなる状態。
  • ② 情緒的期待値の上昇  → 反応が欲しくて、勝手に期待してしまう状態。
  • ③ 承認欲求の局所集中  → 他の誰より“その人”に認められたい気持ち。
  • ④ 社会的比較による自己揺らぎ  → 他の人と比べて、急に自信がゼロになる時。

ミユ「……やだ、全部あたしじゃん。」

ワニオ「ええ。複合タイプですね。」

ミユ「その言い方ァ!!!」

ワニオはコーヒーをひと口飲み、少しだけ目を細めた。

ワニオ: 「でもまあ……それらの現象をまとめると、 ひとつの言葉に収束します。」

ミユ「えっ、なに?」

ワニオ: 「“好意の初期揺動(しょきようどう)”です。」

ミユ「……え?」

ワニオ「つまり“まだ自覚してないけど、心のどこかで好きが始まりつつある状態”ですね。」

ミユは口を半開きのまま固まる。

ミユ「え、ちょっと……それ、本当にそうなのかな。」

ワニオ「可能性は高いです。 好意は、言語化されるより先に“揺れ”として出ますから。」

ミユ「……うそ、やだ、あたし……そんな感じだったんだ……?」

ワニオ「安心してください。疾患ではありません。」

ミユ「だからその言い方やめて!」

ミユは照れたように顔を覆いながら、それでも笑っていた。

友情の“特別扱い”ってアリなの?

ミユ「……でもさ、“好意の初期揺動”って、全部が全部“恋の始まり”ってわけじゃないよね?」

ワニオ「もちろんです。人間関係には“友情領域の特別扱い”も存在しますから。」

ミユ「友情領域……?」

ワニオ「ええ。恋愛ではないけれど、“この人にはちょっとだけ多めに時間を使いたい”“この人には素直でいたい”という相手です。」

ミユ「それ、めちゃくちゃ分かる……!」

ワニオ「ミユさんの場合、
・一緒にいると自分のテンションを偽らなくていい
・多少ポンコツでも“まあいっか”と思ってもらえる気がする
・相手の価値観が自分の世界を広げてくれる
この三つが揃うと、その相手を“友情の特別枠”に入れがちですね。」

ミユ「うわ…なんか…図星すぎて“観察されてた感”すごいんだけど。」

ワニオ「観察は日課なので。」

ミユ「サラッと言わないで!?……でもさ、その“友情の特別枠”にいる人が、別の誰かにも優しくしてたら、やっぱりちょっとモヤっとしちゃうんだよね。」

ワニオ「それは、“自分の安心基地が共有される”感覚への違和感ですね。」

ミユ「安心基地……あたし、そんな感じで見てたんだ。」

ワニオ「人間は、恋愛だけじゃなく“安心できる相手”にも独占欲を持ちます。 それは必ずしも恋ではありませんが、かなり恋に近い位置にあります。」

ミユ「じゃあさ、友情で誰かを特別扱いするのって……アリなの?ナシなの?」

ワニオは少しだけ考えるように視線を落とし、それから静かに答えた。

ワニオ「アリだと思います。むしろ、友情は“特別扱い”があるから育つのでは。」

ミユ「……え?」

ワニオ「全員と同じ距離でいるなら、その関係は“群れ”であって“友達”ではありません。 “あなたは他の人とは少し違う”という態度が、友情を友情たらしめるのです。」

ミユ「……なんか、急に良いこと言うじゃん。」

ワニオ「感想ありがとうございます。」

ミユはストローをくるくる回しながら、ぽつりとつぶやく。

ミユ「じゃああたしの“特別扱いされたい”って気持ちも、そこまでワガママじゃないのかな。」

ワニオ「ええ。“自分が大事にしている人から、大事にされたい”という、ごく自然な欲求です。」

ミユ「……そっか。」

その言葉に、ミユの表情から少しだけ力が抜けた。 自分の中のモヤモヤが、ほんの少し“許された”気がしたからだ。

まとめ──特別扱いは、恋と友情のちょうど真ん中にある

ミユ「ねぇワニオさ……ほんとに、友情でも特別扱いってアリなんだよね?」

ワニオ「はい。特別扱いとは“距離を縮めたいと思える相手”にだけ発生します。」

ミユ「うわ……それ聞くとちょっと照れるかも。」

ワニオ「照れなくて大丈夫です。友情の一形態ですから。」

ミユ「そういう言い方やめて〜!なんか淡々としてる!」

ワニオは少しだけ視線を外に向けて、静かに言葉をつないだ。

ワニオ: 「……ただし。」

ミユ「ただし?」

ワニオ: 「ミユさんが誰かに“揺れる”とき、 それはもう“特別扱いされるかどうか”ではなく、 “その人を特別にし始めている”ということです。」

ミユ「…………。」

ワニオ「特別扱いは、相手からもらうものではありません。 自分が誰を大事にしたいかで決まります。」

ミユ「……そんなの言われたら、あたし……」

ワニオ「はい。ご自身で気付けるはずです。」

ミユはマグカップを握りしめたまま、ゆっくりと笑った。

ミユ「ねぇワニオ。 あたしさ、“特別扱いされたい”って気持ち、 ちょっとだけ好きになれたかも。」

ワニオ「良い傾向です。人間の感情は、否定するより理解した方が扱いやすくなります。」

ミユ「扱いって言うな!」

笑い声がカフェの隅に静かに響き、 ミユの胸の中にあったモヤモヤは、ようやく形を持ってほどけていった。

──“特別扱い”。 それは恋の入口かもしれないし、友情の証かもしれない。

でも少なくとも今は、 ミユにとってそれが“悪い揺れじゃない”と感じられるようになった。

それが、今日の一番の前進だった。

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