こいこと。編集部の片隅。 夕方の静かな時間帯に、またしても“あの2人”が向かい合っていた。
ひとりは、恋愛を数式みたいに整理しようとするロジカル男子・リク。 もうひとりは、恋愛に興味はないのに人心の観察は妙に鋭いワニ・ワニオ。
リク「今日のテーマは“脈あり・脈なしは本当に見抜けるのか”。 相談でもめちゃくちゃ多いし、ここらで一回整理しようと思うんだ。」
ワニオ「脈……。心臓の動きですね。」
リク「いや、そっちじゃなくて恋愛のほうね。」
ワニオ「なるほど。では、“心の動きの観察”ということですか。」
ワニオは相変わらずズレているようで、核心を突くような突かないような、 その絶妙なスタンスで椅子にちょこんと座っていた。
リク「人は誰かを好きになると行動が変わるんだけど、 それをどう読み取るかが難しいんだよね。」
ワニオ「行動……。たとえばミユさんは、好きな食べ物を見ると目がまるくなります。」
リク「それは“アイスが好き”ってだけね!」
理論派だけどどこかコミカル。それがこの2人の空気感だ。 今日もまた、恋をしないワニと恋に悩みがちな人間が、 “脈あり”という難問に挑む──そんな不思議な時間が始まった。
脈ありサインは“行動の方向”で読み取れる
リク「じゃあまず、“脈ありサインって何か”から話すね。 これ、色んな人が色んな定義をしてるけど……僕の中では一言で言えるよ。」
リク「“行動の方向が、特定の誰かに向くこと”。」
ワニオは目を細め、少し首をかしげる。
ワニオ「方向……。これは物理的な意味ではありませんよね。」
リク「うん。 たとえば連絡が続くとか、質問が増えるとか、会いたい気持ちが行動に出るとか…… そういう“選択”がひとつの方向に揃ってくるんだ。」
ワニオ「行動が“集まる”状態……。川の支流がひとつにまとまるような。」
リク「そうそう。すごく分かりやすい例えだよ。」
リクは続ける。
- 連絡が自然と続く
- 質問やリアクションが増える
- 話題を覚えている
- 会う理由をつくろうとする
リク「こういうのは全部、“あなたに興味がある”っていう行動の積み重ねなんだよね。」
ワニオ「なるほど。“方向性の一貫”が好意を示す、と。」
リク「逆に言えば、好意がないと行動がバラバラになる。 今日話す“脈なし”のところにも繋がるんだけどね。」
ワニオは顎に手を当て、真面目に考えるような仕草をする。
ワニオ「では、ミユさんがよく私の近くに来るのは“方向性”なのでしょうか?」
リク「あれは単純に“あなたが面白いから”じゃない?」
ワニオ「面白い……。“行動の方向”というより“好奇心の方向”ですか。」
リク「そう、それは脈ありとはまた別の話かな。 だから“特定の行動だけで判断しない”のが大事なんだ。」
脈ありの答えはひとつじゃない。 けれど“行動の方向”という視点があれば、見えないものが少しだけ見えてくる。
“脈あり行動”は擬態にもなる?──ワニオ視点の落とし穴
ワニオ「ひとつ、気になる点があります。」
リク「うん?」
ワニオ「“脈ありっぽい行動”の中には、その人の性格や習慣として出ているものもありますよね。」
リク「ああ、それはあるね。“誰にでも優しい人”とか、“テンション高めで距離感近い人”とか。」
ワニオ「自然界には、“危険から身を守るために周囲に合わせる生き物”が存在します。 人間もまた、“好かれるために誰にでも笑顔を向ける”という擬態を行います。」
リク「(例えのスケールが毎回ちょっと大きいんだよな……)」
リク「たとえば、 ・仕事柄、誰にでもフラットに優しい接客タイプ ・場を盛り上げるために距離を詰めるムードメーカー こういう人の行動は、“脈ありっぽく見える”ことが多いんだ。」
ワニオ「つまり、“あなたへの特別”ではなく、“その人のデフォルト設定”ということですね。」
リク「そう。そこを見誤ると、“自分だけ特別だ”って勘違いしちゃう危険がある。」
ワニオ「勘違いは、心にとって高低差のあるジェットコースターですね。」
リク「上がった分だけ、落ちるときも大きい……みたいな?」
ワニオ「はい。安全バーがあればいいのですが、人間の心にはついていません。」
リク「名言っぽいけど、ちょっと怖いなそれ。」
リクは少し笑いながら、ペン先を止めた。
リク「だから“行動だけ”じゃなくて、その人の他の人への接し方も一緒に見るのがポイントかな。 自分にだけ特別なのか、みんなに同じなのか。」
ワニオ「比較検証ですね。」
リク「そう。 『私だけに見せてくれている感じがするか』 『それとも、誰にでも同じテンションか』 ここを落ち着いて見ると、“擬態”かどうかは見抜きやすくなるよ。」
ワニオ「なるほど。 では、“アイスを前にしたミユさん”と“ケンジさんを前にしたミユさん”の様子を比較してみると——」
リク「それはアイスの勝ちだと思うからやめてあげて!」
2人の会話はどこかズレていて、どこか核心を突いている。 “脈ありサイン”は、見る角度を一歩間違えるだけで、簡単に誤解へと変わってしまうのだ。
脈なしサインは“心の省エネモード”で表れる
リク「じゃあ次は“脈なしサイン”について。 これはね……脈ありよりも分かりやすいことが多いんだ。」
ワニオ「心が動いていない状態……。“省エネモード”ですね。」
リクはホワイトボードにさらさらと書いていく。
- 返信が明らかに遅い or 必要最低限
- 会話のキャッチボールが続かない
- 予定を合わせようとしない
- こちらの提案に対して曖昧な返事が多い
リク「もちろん、忙しいだけとか、ただの照れとか……例外はあるけどね。 でも“相手に割くエネルギーが少ない”って共通点はあるんだ。」
ワニオ「なるほど。興味の差が、エネルギーの差になるわけですね。」
リク「そうそう。脈ありは“向かってくる”。 脈なしは“流れていく”。そんなイメージ。」
ワニオは顎に手を当て、何かを思い出したように口を開く。
ワニオ「では一つ、確認したいことがあります。 ミサキさんは私にもリクさんにも、編集部のみなさんにもよく話しかけます。 これは“方向の分散”……つまり脈なしの一例でしょうか?」
リク「あれは単純に“社交性が高いだけ”。 ミサキは誰にでも距離が近いタイプだから、脈あり判定には使えないんだ。」
ワニオ「つまり、“性格による行動”と“好意による行動”は分離して考える必要があるんですね。」
リク「そうそう! そこ混ざると勘違いルートに突っ込みやすいからね。」
恋の“脈なし”は、嫌われているわけではなく、 多くの場合はただ“その人の優先順位に入っていないだけ”。
この事実を冷静に受け止められるかどうかが、恋の体力を大きく左右するのかもしれない。
結論──“脈あり”はサインではなく“傾向の束”で読む
リク「じゃあ最後にまとめ。 脈あり・脈なしって、ひとつの行動だけで決まるものじゃないんだ。」
ワニオ「では、どう判断するのでしょうか。」
リク「“複数の行動が同じ方向に向かっているか”。 これが一番信頼できる基準だと思う。」
リクはペンを置き、指を折りながらまとめる。
- 連絡頻度が自然に増える
- 質問や興味が深まる
- 会いたい気持ちが行動に出る
- 表情や言葉が素直になる
リク「こういう“複数の要素”が揃ってくると、 そこに“好意の方向性”が見えてくるんだよ。」
ワニオ「なるほど。 行動がひとつにまとまるのが“脈あり”、 行動が散らばるのが“脈なし”……。」
リク「そう。サインはあくまでヒントであって、 決定打じゃないんだよね。」
ワニオは少しだけ考えこむように姿勢を正した。
ワニオ「リクさん。 私が思うに、人間は“自分でも気づかない心の動き”を行動に滲ませます。 それを完全に読み切ることは、どんな生き物にも不可能でしょう。」
リク「たしかに……だから脈あり判定は難しいんだよね。」
ワニオ「でも、その“判断しきれなさ”こそが人間の魅力だと思います。 心は揺れます。揺れるから、人は誰かを大切にしたくなるのです。」
リク「……ワニオ、それめっちゃ名言じゃん。」
ワニオ「そうですか? 私はただ、観察したことを述べただけですが。」
“脈あり”を探して悩む気持ちも、 “脈なし”に落ち込む気持ちも、 実はどちらも“心が揺れている証拠”。
その揺れを大切にできたとき、 恋はようやく動き始めるのかもしれない。

