山の紅葉が、まるでゆっくり燃えているみたいだった。
秋の温泉街。湯けむりの立つ坂道を、ナナとネネが並んで歩く。
双子の姉妹――けれど、性格も人生の歩き方も、まるで正反対だった。
ネネはナナの双子の妹で、「こいこと。」ライターのユウトの妻。
穏やかで控えめな彼女は、いつも誰かを見守るように微笑んでいる。
一方のナナは、情熱的でまっすぐ。感情を言葉にして生きてきたタイプだ。
ナナ:いや〜、久しぶりだね。こうして二人で旅行なんて、いつぶり?
ネネ:うん、ほんとに。お互い忙しかったもんね。
姉妹水入らずなんて、学生のとき以来かも。
ネネの声は静かで、風みたいにやさしい。
ナナはその横顔を見て、昔と変わらない穏やかさに少し笑った。
ナナ:ねぇ、こうして歩いてるとさ、やっぱり思うんだよね。
あたしたち、見た目は似てても中身は真逆だなって。
ネネ:ふふ、それは小さい頃からでしょ? お姉ちゃんは太陽、私は月みたいな。
湯けむりの向こう、旅館の灯りがほのかに揺れる。
今夜は、双子の姉妹が少しだけ“昔の時間”を取り戻す夜になる。
双子なのに、まるで正反対
温泉街の石畳を、カランコロンと下駄の音が響く。
湯けむりの向こうに並ぶ小さな土産物屋。
同じ顔をしていても、ナナとネネの歩き方にははっきり違いがあった。
ナナ:ネネってさ、小さい頃から落ち着いてたよね。
あたしなんてずっと走り回ってて、よく転んでたもん。
ネネ:お姉ちゃんは好奇心のかたまりだったもんね。
私が黙ってると、「なんでしゃべらないの?」って心配してくれてた(笑)。
ナナ:あれ心配してたんじゃなくて、寂しかったの!
静かすぎて、同じ部屋にいるのに遠い感じするんだもん。
ネネは笑いながら、小さな紙袋を抱え直す。
お揃いの旅館浴衣を着ていても、立ち居振る舞いはまるで違う。
ナナは感情を外に出すタイプ、ネネは静かに噛みしめるタイプ。
それでも、ふたりのあいだには言葉のいらない安心感があった。
ネネ:お姉ちゃん、昔から“恋も全力”だったよね。
泣いたり笑ったり、まるでドラマみたいで……。
ナナ:そういうネネは、いつも“静かな恋”してたじゃん。
目で伝える系というかさ(笑)。
ネネ:うん。多分、私って自分の気持ちを言葉にするのが怖いんだと思う。
だから、ユウトと出会ったときも、最初は話すより“空気を感じてた”感じ。
ナナ:あ〜、わかる。あの人、空気ごと包むタイプだもんね。
……ま、うちのライター仲間のときとは、ちょっと違う顔してるんだろうけど。
夕暮れの光が石畳を照らし、二人の影をやわらかく伸ばす。
話すテンポも、笑うタイミングも違うけれど、
姉妹の会話はゆるやかに温泉街の空気に溶けていった。
ネネの語る「ユウトとの日常」
夕食後、部屋に戻ると、窓の外には夜風と虫の音。
湯上がりの髪を乾かしながら、ナナはふと口を開いた。
ナナ:ネネ、ユウトくんとの暮らし、どう? あの人、仕事でも真面目すぎるとこあるじゃん。家でもそんな感じ?
ネネ:うん、変わらないよ(笑)。でもね、真面目さって、生活の安定には向いてるんだと思う。
派手なサプライズはないけど、ちゃんと“今日も平和だね”って思える。
ナナ:あ〜、それいいね。昔からコツコツ型だったもんね。
あたし、つい恋に刺激を求めがちだからさ……安定って、逆に尊いわ。
ネネ:高校の頃からずっと一緒にいると、恋が“特別な時間”じゃなくて“暮らしの一部”になってくる。
愛情って、燃やすよりも温めるほうが難しいけど、そこに学びが多い気がする。
ナナ:うん、わかる。長く続いてる関係って、忍耐とか努力じゃなくて“ペースを合わせる”ことなんだよね。
どっちかが我慢しすぎると、愛情が“形だけ”になるし。
ネネ:そうそう。うちはお互いに、やり方が違っても否定しないって決めてるの。
たとえば、私は計画派で、ユウトは直感派。ぶつかるより“見守る”ほうが長続きする。
ナナ:それ、仕事にも通じるね。
“正しい”より“尊重できる”ほうが強い。……やっぱりネネは大人だなあ。
ネネ:お姉ちゃんもね(笑)。感情をまっすぐ言葉にできる人って、実はすごく貴重だよ。
私はそういうところ、ちょっと羨ましいの。
ナナは少し照れくさそうに笑った。
湯けむりのような静かな時間。 長年知っているはずの妹の言葉が、今日はいつもより深く胸に響いた。
――長く続く関係のコツは、“相手を変えようとしない”こと。
ネネの穏やかな言葉は、恋の先にある学びとして、ナナの心に静かに残った。
姉と妹、それぞれの“愛のかたち”
露天風呂に続く木の渡り廊下を歩きながら、ふたりは外の空気を吸い込んだ。
夜風が少し冷たく、湯けむりが白く揺れている。
ナナ:ねぇ、ネネ。あんたの話聞いてると、“愛って静かなものなんだな”って思うわ。
あたしはどうしても、燃える方を選んじゃうタイプでさ。
ネネ:うん、そうだね。でも、お姉ちゃんの恋はいつも“生きてる”感じがする。
言葉に力があるし、相手の心を動かすのが上手。
ナナ:それはたぶん、下手なんだと思うよ。
ちゃんと伝えないと、壊れちゃう気がして。……あたし、昔から怖がりなのかも。
湯気の向こうで、ネネがやさしく笑った。
ネネ:お姉ちゃんは、恋を“炎”で考える人なんだね。
私は、“灯り”で考える。炎は勢いがあるけど、灯りは長く残る。
でもね、どっちも“温かさ”があるってことでは同じだと思う。
ナナ:……いいこと言うじゃん。
燃えるのも、灯すのも、誰かを思う気持ちには変わりないか。
ネネ:そうだね。愛のかたちは違っても、想う気持ちはちゃんと繋がってる。
それって、姉妹も同じだと思うよ。
木の椅子に腰を下ろすと、遠くで虫の声がした。
ふたりは黙って湯に足を浸し、空を見上げた。
月が水面にゆらめき、湯気と一緒に夜へと溶けていく。
ナナ:ねぇ、ネネ。
愛って、静かでもちゃんと熱を持ってるんだね。
ネネ:うん。きっと、それが“続く恋”なんだと思う。
――秋の温泉街。姉と妹の笑い声が、紅葉の風に溶けていく。
恋と結婚、情熱と安らぎ。
ふたつの“愛のかたち”が、静かに同じ夜を照らしていた。
姉妹の旅は、まだつづく
翌朝、旅館の窓から差し込む光が、畳の上を金色に染めていた。
湯けむりの残る空気の中、ナナとネネは静かに朝食をとっていた。
ネネ:なんか、ゆっくり話せてよかった。
昔みたいに語り合う時間って、なかなか作れないから。
ナナ:ほんとだね。
でも不思議だな、昔はあんたの“静かさ”がわからなかったのに、今はちょっと憧れる。
ネネ:ふふ、私は逆に、お姉ちゃんのまっすぐさが羨ましいよ。
同じ顔でも、違う生き方をしてるっておもしろいね。
食後のコーヒーの香りが部屋に広がる。
昨日の夜よりも少し柔らかい沈黙が流れ、ふたりの間に穏やかな空気が満ちていた。
ナナ:また来ようよ。次は春とかさ。桜の湯も、きっときれいだよ。
ネネ:うん、いいね。次はユウトも連れてこようか?
ナナ:……それはそれで、気まずいかも(笑)。
ふたりの笑い声が、旅館の廊下に小さく響く。
外では紅葉がひらりと舞い、秋の終わりを告げていた。
――恋も、家族も、人生も。
形は違っても、温め合える関係があれば、それだけで十分。
今日もまた、こいこと。の物語のどこかで、新しい会話が生まれている。

