【リクの恋日記・第5話】ラブラブ期──君を笑顔にしたくて、恋愛ライターが本気出してみた

ラブラブ期、はじまりました

「彼女を喜ばせる方法」「はじめてのおうちデートで気をつけること」——
最近の僕は、かつて自分が書いた恋愛コラムや、他のライターの記事を読み返す日々だった。

恋愛ライターとして誰かに読まれる記事を書くなら、自分自身も恋愛をちゃんと実践しないと説得力がない。
そう思って、今の僕は“ミサキをとにかく幸せにしたい”一心で行動していた。

花が好きだと聞けば、小さなブーケを買って帰り、
ちょっとした記念日には、ミサキの好きなスイーツを用意した。

「え、これ…わたしの好きなやつ…!」
驚きながらも満面の笑みを見せるミサキに、僕も思わず頬がゆるむ。

おうちデートでは、おしゃれなカフェ風ワンプレートを準備してみたら、
「リクって、そういうセンスあるんだね。見直しちゃったかも」
なんて言われて、少し照れくさかったけれど嬉しかった。

僕は恋愛ライターだけど、完璧な彼氏ではない。
でも、今こうして、彼女の笑顔を見るために動いている自分が好きだと思える。

この期間は、まさに“ラブラブ期”。
会うたびに新しいことを知って、お互いにどんどん距離が近づいていくのがわかった。

彼女の一言、しぐさ、笑い方——そのすべてに毎回ときめいてしまう自分がいて、
「あ、僕って今、本当に恋してるんだな」って実感する。

仕事帰りにミサキから「今日もお疲れさま」ってLINEが来るだけで、
疲れが吹き飛んで、胸がグッと温かくなる。

僕の中で、彼女の存在が少しずつ、でも確実に大きくなっている。
——そんな日々が、今はとても心地いい。

ミサキのコラム

「実はね……わたしも、ちょっとだけ書いてみたの」

ある日、ミサキがそう言って、僕にノートパソコンを差し出してきた。そこには、僕との出会いから付き合うまでのエピソードを綴った文章があった。

淡々とした文章なのに、不思議と感情がにじみ出ていた。
読み進めるほどに、ミサキのまなざしや、言葉の背景にある想いが伝わってきて、僕は思わず引き込まれてしまった。

「すごいね……お世辞抜きで、ちゃんと文章になってる。っていうか……」

僕はスマホから視線を上げて、目の前にいるミサキを見つめた。

「下手したら、僕より上手いかも」

ミサキは一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうに笑った。

「ほんと?うれしい……。わたし、文章書くの、ずっと好きだったんだ。
でも人に見せるなんて初めてだったから、ちょっとドキドキしてた」

その笑顔は、どこかはにかんでいて、それでいて誇らしげだった。
その瞬間、僕の中で“彼女”という存在に、“書き手”としての尊敬の気持ちが加わった気がした。

「こいこと。のライターに向いてるかもしれないね」

僕がそう言うと、ミサキは少し驚いたように目を丸くして、すぐに目を伏せた。

「……なれたらいいな。憧れてるんだ、こいこと。の人たち」

小さな声だったけれど、その言葉には静かな熱がこもっていた。

書くことへの憧れ

「ねえ、リクくん。“こいこと。”のライターさんたちって、どんな人たちなの?」

夕食後、ふたりでのんびりと映画を見ていたとき、不意にミサキがそんなことを言い出した。
僕は一瞬きょとんとした顔をしてしまったけど、ミサキは真剣そのものだった。

「どうしたの、急に?」
「だってさ、“こいこと。”の記事読んでたら、みんな自分の言葉でちゃんと書いててさ。自由に、自分らしくって感じがするの。そんなメディアってあんまりないよ?」

確かに、“こいこと。”はライターの個性を大切にしてくれる場所だ。書き手の言葉がそのまま息づくメディア。

「マリさんの記事とか、落ち着いてるけど芯があってさ。“大人の女性”って雰囲気がかっこいいんだよね」
「へえ。マリさん知ってるんだ」
「もちろん!あと、アカリちゃん!あの子、アイドルみたいにキラキラしてて。文章にもその感じ出てるし。読んでると元気になるの」

ミサキは勢いよく、まるで友達の話でもするように“こいこと。”のライターたちを語っていく。
僕は少し驚いた。ミサキがそこまで“こいこと。”を読んでくれていたなんて。

「そんなに好きなら、会ってみたら?」
「え、会えるの!?」
「ちょうど今度、座談会の企画があるんだ。ミサキも紹介したいし、よかったら参加してみない?」

「えっ……行きたい。行きたいに決まってるじゃん!」
嬉しそうに笑うミサキの声が、部屋の空気を少しだけ弾ませた。

彼女の目がきらきらしていて、まるで“こいこと。”に恋をしているみたいだった。
その姿がなんだか無邪気で、僕は少し照れくさくなってしまった。

過去を忘れて、未来への一歩

ある日、仕事用の資料を探して自室の引き出しを整理していたとき、ふと気づいた。

——あれ?

いつもなら、封筒に入れて保管していた元カノとのツーショット写真が見つからない。
別れた後も、なぜか捨てられなかった一枚だった。

「……あれ、どこにやったっけ」

軽い焦りと共に、いくつかのファイルやノートをめくる。けれど、見つからない。
以前ならもっと必死になって探したかもしれない。でも、そのときの僕は、不思議と落ち着いていた。

“あの写真が無くなっても、今の僕にはミサキがいる。”

そう思ったら、胸の奥にあった何かがふっと溶けていくようだった。

「あの頃は確かに大切だった。けど……今は、違うんだな」

もし写真が自ら消えていったのだとしたら、それは過去の自分からのメッセージかもしれない。
“前に進め”って、背中を押してくれてるような、そんな気がした。

ミサキと出会って、恋をして、今こうして一緒に笑っている。
それだけで十分だ。過去を抱えたままじゃ、今を全力で抱きしめられないから。

僕は立ち上がって、窓の外に目をやった。
夕暮れの空が、やさしいオレンジ色に染まっている。

「ありがとう、さよなら。——そして、これからよろしく」

心の中で、写真に向かってそっと言った。

ミサキの存在が、僕を未来へと進ませてくれた。
だから今度は、彼女の隣でしっかり歩いていきたい。そんな風に、思えた。

─第6話へ続く

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