甘すぎる過去に赤面した夜は、だし巻き卵|リクの誠実めし③

目次

過去の自分が、甘すぎる

編集部でミサキと話した。

仕事の話が中心で、空気は落ち着いていた。
変に気まずくなることもなく、
お互い、大人としてちゃんと会話ができていると思う。

別れ際も、普通に「おつかれさま」と言えた。

帰り道、
なんとなく胸をなで下ろす。

すっかり同僚として向き合えるようになった。

家に着いて、靴を脱いで、
ソファに腰を下ろす。

スマホを手に取ったのは、完全に無意識だった。

アプリを開いて、スクロールして、
そこで、指が止まる。

ミサキ。

トーク履歴は、当然そのまま残っている。

消す理由もなかったし、
見返す理由もなかった。

今日は、たまたまだ。

一番下に表示されているのは、
最近の事務的なやり取り。

でも、指が滑った。

スクロールが、止まらない。

少し前。
さらに前。

画面に並び始めたのは、
交際中のやり取りだった。

……。

……いや。

ちょっと待ってほしい。

「おはよ♡」

ハートが、ある。

しかも、俺だ。

「今日もリクの声聞けて嬉しかった♡」

絵文字が、やたら多い。

句点が、ない。

文が、やけに長い。

「ミサキのこと考えながら寝るね」

……誰だ、こいつ。

自分で打ったはずの文章なのに、
他人事みたいに感じる。

恥ずかしい。
とにかく、恥ずかしい。

顔が、熱い。

スマホを伏せる。

でも、数秒後に、また手に取る。

「好きだよ」
「大切にする」
「ずっと一緒にいたい」

いや、言い過ぎだろ。

当時は本気だった。
それは分かっている。

でも、今の自分が読むと、
甘さが過剰摂取だ。

誰かに見せたわけでもないのに、
一人で勝手に赤面している。

スマホを胸に抱えて、天井を見る。

過去の自分は、
必死だった。

不安で、
つなぎ止めたくて、
言葉を足し続けていた。

それを否定するのは、違う。

でも、もう同じ言葉は使えない。

そう思った瞬間、
胸の奥が、むずがゆくなった。

この感じ。

今日は、誠実めしが必要だ。

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恥ずかしさの正体

スマホを伏せたまま、しばらく動けなかった。

恥ずかしい。
でも、ただの黒歴史、という感じでもない。

当時の自分は、ふざけていたわけじゃない。
軽い気持ちで言っていたわけでもない。

あれは、全部本気だった。

「好きだよ」も、
「大切にする」も、
「ずっと一緒にいたい」も、

その時の自分なりに、
必死に選んだ言葉だった。

それを、今の自分が読んで、
笑ってしまうのは、なぜだろう。

少し考えて、
ようやく分かった。

恥ずかしいのは、甘い言葉そのものじゃない。

あの頃の自分は、
言葉で関係を保とうとしていた。

言えば大丈夫。
伝えれば安心してもらえる。

そう信じて、
不安を全部、文章に詰め込んでいた。

今は、少し違う。

言葉は大事だと思っている。
でも、言葉だけで何とかしようとは、もう思っていない。

たぶんそれが、
自分が変わった、ということなんだと思う。

過去の自分を否定したいわけじゃない。
むしろ、よくやっていたと思う。

ただ、同じやり方は、もう選ばない。

それに気づいてしまったから、
恥ずかしくなったんだ。

スマホを見て、
もう一度、伏せる。

この感情は、
消さなくていい。

笑ってしまうくらいが、ちょうどいい。

でも、このまま放っておくと、
変なところに引っかかりそうだった。

胸の奥に残った、
むずがゆさを、どうにかしたい。

こういう時、
だいたい答えは決まっている。

手を動かした方が、
ちゃんと向き合える。

僕はキッチンに立った。

今日の方針:甘くしない、でも冷たくしない

冷蔵庫を開けると、卵が目に入った。

こういう時、卵はちょうどいい。

主張が強すぎない。
でも、ちゃんと形になる。

さっきまで胸の中にあったのは、
過去の自分への恥ずかしさだった。

甘い言葉を並べて、
安心したくて、
関係を保ちたくて、

言葉を足して、足して、足していた。

それを「痛い」と言って終わらせるのは、簡単だ。

でも、あれはあれで本気だった。
当時の自分にとっては、必要だった。

だから今日は、否定しない。

ただ、
同じ味つけにはしない。

甘くしない。
でも、冷たくもしない。

出汁で整える。

味を足して押し切るんじゃなくて、
余白を残して成立させる感じ。

今日の誠実めしの条件を決めた。

・卵だけで完結させる
・砂糖は入れない
・出汁を効かせる
・巻きすぎない
・焦らない

言葉も、たぶん同じだ。

足しすぎると、
気持ちが溢れて、形が崩れる。

でも、何も言わないのも違う。

今日は、ちょうどいいところに落としたい。

僕は卵を取り出して、ボウルを出した。

だし巻き卵にする。
甘くしない、だし巻き。

本日の誠実めし:だし巻き卵(甘くしない)

ボウルに卵を割る。

数は、二つ。

多すぎない方がいい。

そこに出汁を加える。
思っているより、少し多め。

混ぜるけれど、
泡立てない。

勢いをつけると、
あとで後悔することが多い。

フライパンを温めて、油を薄く引く。

火は、弱め。

強くすると、
すぐ固まってしまう。

卵液を流し入れる。

じゅわっと音がする前に、
火を少し下げる。

表面が固まりきる前に、
手前から、そっと巻く。

完璧じゃなくていい。

少し崩れたくらいの方が、
今日はちょうどいい。

もう一度、卵液を足す。

巻いて、待って、
また巻く。

急がない。

焦ると、
形だけ整えようとして、
中が置いていかれる。

最後まで巻き終えて、
火を止める。

フライパンの中に、
だしの香りが残っている。

悪くない。

皿に移して、
少しだけ置いた。

余熱で、
中まで落ち着かせる。

誠実めしメモ(簡易)

・卵は二つ
・砂糖は入れない
・出汁はやや多め
・火は弱め
・巻きすぎない

甘さで押さない。
でも、何も足さないわけでもない。

実食:今の温度

箸で切ると、
中が少しだけ、ゆるい。

でも、崩れない。

口に入れると、
出汁の味が先に来る。

甘さはない。

でも、物足りなくもない。

食べながら、
さっきのLINEのことを思い出す。

あの頃の自分は、
必死だった。

言葉を足さないと、
不安でいられなかった。

今は、少し違う。

何も言わなくても、
平気でいられる時間が増えた。

それはたぶん、
誰かのおかげじゃない。

自分で、そうなった。

笑えるくらいが、ちょうどいい

食べ終わって、
もう一度スマホを見る。

さっきほど、顔は熱くならなかった。

恥ずかしさは、まだある。

でも、それでいい。

あれは、
確かに自分が書いた言葉だ。

必死で、
不器用で、
少し甘すぎたけど、

ちゃんと、好きだった。

今はもう、
同じ言葉は使わない。

でも、笑って思い出せるなら、
消す必要もない。

誠実めしは、
過去を美化するためのものじゃない。

切り捨てるためのものでもない。

今の自分の温度に、
そっと戻るためのものだ。

今日は、それで十分だった。

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