編集部の会議室。
窓際のテーブルに、リクが分厚いノートパソコンを置いた瞬間、ワニオが新聞を閉じた。
リク:最近、読者相談で「恋に踏み出せません」「脈あり・脈なしが読めません」って質問が増えてて……。
せっかくなら、データ的に整理したいなと思って。
ワニオ:なるほど。恋愛を“意思決定問題”として扱うわけですね。
僕は恋愛に興味はないですが、人間観察としては最高のテーマですよ。
リク:ですよね! ワニオさんの“感情を経済で語る”視点、読者にも絶対役立つと思うんです。
ワニオ:恋は投資。リスク、期待値、そして撤退ライン……。
これほどカオスな市場、他にないでしょう。
リク:(笑)でも確かに。恋は感情だけじゃなくて、行動パターンに規則性がありますから。
今日は「恋はロジックでどこまで語れるのか?」をテーマにしませんか?
ワニオ:いいですね。恋の市場分析会議、始めましょう。
――誠実ロジカルなリクと、恋に興味がないワニオ。
このふたりが語る恋愛の“理論”は、意外にも現実的で、どこか可笑しい。
恋は“タイミング”なのか“意思”なのか
リク:まず最初に考えたいのが、“恋に落ちる瞬間”ってどこで決まるのか、という点です。
心理学では、恋の発火点は接触頻度 × 親近感 × 安心感の掛け算だと言われるんです。
ワニオ:なるほど。つまり“案件に触れる回数が増えるほど、投資意欲が高まる”と。
リク:案件って……。まあ、たしかに似てますけど(笑)。
ただ、恋って“意思の強さ”より、実はタイミング要素がかなり大きいんです。
出会うタイミングがズレるだけで、進展しなかったりする。
ワニオ:市場でも同じですよ。優良株でも、見るタイミングを間違えれば価値がわからない。
恋愛市場においても、“好機”(チャンス)が存在するわけですね。
リク:そうなんです。だから「運命の人かどうか」って、結果論なんですよね。
そのとき心に余裕があるか、出会いを受け取る準備ができているか。そこがすごく大きい。
ワニオ:つまり恋は、偶然に見せかけて“心の市場状況”に左右されると。
安定期に入ったときほど、新規投資に積極的になる……興味深い。
リク:ただ、意思も重要です。
タイミングが良くても、「相手を理解したい」という小さな努力がなければ続きませんから。
恋は“偶然 × 意思”の両方が揃うと、一気に加速します。
ワニオ:恋はロジックと偶然のハイブリッド、と。
やはり恋愛は複雑系ですね。アルゴリズム化は難しい。
リク:(笑)でも、少し整理するだけで見える景色があると思うんです。
――恋はタイミングか、意思か。ふたりの議論は、まだ序章にすぎない。
脈あり・脈なしの“判断基準”
リク:恋愛相談で特に多いのが「脈あり・脈なしの見極め方」です。
結論から言うと、脈は“言葉より行動”を見たほうがずっと正確です。
ワニオ:感情市場における“実需”というやつですね。
どれだけ甘い言葉を並べても、実際に行動しない人は信用できない。
リク:そうなんです。例えば──
- 返信スピードより、話題が続くか
- 予定を合わせようとする意思があるか
- 気遣いが一貫しているか
こういう“継続性”のほうが大事なんですよね。
ワニオ:投資判断でも“継続性”は最重要です。
一瞬だけ盛り上がる銘柄より、安定して価値を出す銘柄が有利。
恋愛でも“短期的な熱”より“長期的な行動”を見るべきということですね。
リク:まさに。逆に脈なしは、行動に“途切れ”が出るんです。
急に返信が遅くなるとか、理由なく距離が空くとか。
本当に心が向いている相手には、ほぼ必ず“継続する行動”があるんですよ。
ワニオ:つまり、脈は“投資意欲の持続”で判断せよ、ということ。
後輩たちにこの基準を配布したいですね。効率が上がる。
リク:効率って言葉、恋愛ではちょっと寂しいですけど(笑)。
でも、無駄な片思いを減らす意味では合理的かもしれませんね。
ワニオ:僕から見ると、人間の恋愛は“情報不足で暴落しがち”なんです。
もっと相手の行動を観察すれば、傷つく回数は減るはず。
リク:……ワニオさんの恋愛観、やっぱり独特ですよね。でも、刺さる人多いと思います。
――恋の本音は、言葉ではなく行動に表れる。
理論派のふたりの意見が、珍しく完全に一致した瞬間だった。
愛情の“減価償却”とは何か
ワニオ:恋愛というものは、投資の世界で言えば“減価償却”に近いと僕は考えています。
リク:減価償却……恋の話してますよね?(笑)
ワニオ:もちろん。
愛情という資産は、時間が経てば“形が変わる”んです。
最初のトキメキという初期費用は、日常に溶けていく。
でも、それは価値を失ったのではなく、別の形に転換されただけなんです。
リク:なるほど……情動は転移する。
ときめきは安心や信頼に形を変えると言われます。
恋が冷めたように見えるのは、実は“安定に移行しただけ”のパターンもありますね。
ワニオ:そう。愛情が静かになるのを“劣化”と誤解する人が多いんですよ。
でも本当は、静かになって初めて見える価値がある。
リク:確かに。最初のテンションだけで関係を続けようとすると、摩耗しちゃいますよね。
愛情の本質は“変化を許せるかどうか”。
ワニオ:例えるなら、買ったばかりの家電が一番輝いて見えるのは当然です。
でも本当に価値が出るのは、“日常で静かに役に立つ状態”に変わってから。
恋愛も同じでは?
リク:……ワニオさん、恋愛興味ないって言ってませんでした?
ワニオ:興味はないですが、分析は好きです。
リク:(笑)でも、愛情が変化していくのを否定しない姿勢は大事だと思います。
安心や穏やかさも愛情の一形態であって、“大切にされてる証拠”なんですよね。
ワニオ:ええ。“トキメキの減価償却”を恐れずに、
“信頼の収益化”を喜ぶほうが、恋の幸福度は高まります。
――愛情は減るのではなく、育つ形が変わるだけ。
ふたりの理屈っぽい言葉は、どこか優しく響いた。
結論──恋はロジックの先にある
リク:ここまで“恋を理論で語る”ってテーマで進めてきましたけど……結局、恋って完全には説明しきれませんよね。
ワニオ:当然です。
もし完全に説明できるなら、恋愛市場はもっと安定しているはずですから。
リク:(笑)たしかに。みんなが迷うのは、予測不能で、だからこそ面白いからなんですよね。
ワニオ:恋とは“予測不能な変数”を抱えた人生のイベントです。
ロジックは役に立ちますが、最終的には“飛び込む勇気”の問題になります。
リク:うん。たとえば脈あり・脈なしを分析しても、最後の一歩は理屈じゃなくて気持ちが動かす。
理論は背中を押す“地図”みたいなもの。道を歩くのは自分ですから。
ワニオ:僕は恋愛に興味はありませんが、人間の“決断”としては非常に興味深い。
恋をするという行為は、合理性を超えた、実に“人間らしい投資”ですよ。
リク:……いまの、めっちゃ名言じゃないですか。
ワニオ:新聞のコラムに書いておきます。
リク:やめてください(笑)。
――恋はロジックで寄り添えても、動かすのはいつも心。
だからこそ難しく、だからこそ美しいのかもしれない。

