仕事終わりの夜。
ナナとミカコが向かったのは、少し大人な雰囲気の居酒屋だった。
看板には「ジビエ料理」の文字。
鹿肉、猪肉、山の幸。
普段の居酒屋とは少し違う料理に、ナナはすでにテンションが上がっている。
そして今日はもう一人、ゲストがいた。
グラスに赤ワインが注がれる。
ナナがグラスを掲げた。
ナナ:
はいはい、じゃあ今日もいきますか
ナナ:
今夜も乾杯!
ミカコ:
この企画ほんとに毎回飲むのね
ナナ:
当たり前でしょ
ナナ:
居酒屋トークなんだから
ミサキ:
まぁ、面白いからいいんじゃないかしら
ミサキ:
それにジビエって初めてだわ
ナナ:
でしょ!
ナナ:
今日は鹿肉らしいよ
ミカコ:
テーマより料理の説明の方が長い
ナナ:
うるさい
ナナ:
じゃあ今日のテーマいくよ
ナナ:
束縛してくる男
ミカコ:
出た
ミサキ:
あら
ミサキ:
それ、わたし少し語れるかもしれないわね

ミサキの元カレ、束縛がすごかった
ナナ:
あ、来た
ナナ:
絶対あると思った
ミカコ:
ミサキ、そういう男に好かれそうだもんね
ミサキ:
ちょっと
ミサキ:
どういう意味よそれ
ナナ:
いや、だってさ
ナナ:
ミサキ美人じゃん
ミカコ:
男からすると不安になるタイプ
ミサキ:
まぁ、否定はしないけど
ミサキ:
でもね
ミサキ:
その元カレ、最初は普通だったのよ
ナナ:
あーそれ怖いやつ
ミカコ:
だいたい途中から出てくる
ミサキ:
最初は優しいの
ミサキ:
「ちゃんと帰れた?」とか
ミサキ:
「遅いと心配だから連絡して」って
ナナ:
うんうん
ナナ:
そこまでは普通
ミサキ:
でもだんだんね
ミサキ:
GPSみたいな連絡になってきたのよ
ミカコ:
GPS
ミサキ:
「今どこ?」
ミサキ:
「誰といるの?」
ミサキ:
「写真送って」
ナナ:
うわぁ…
ミカコ:
それもう監視
ミサキ:
でしょ?
ミサキ:
しかもね
ミサキ:
男友達の話すると
ミサキ:
急に機嫌悪くなるの
ナナ:
めんどくさい男だなぁ
ミサキ:
最初は「愛されてるのかな」って思ったのよ
ミサキ:
でも途中から気づいた
ミサキ:
これは愛じゃないわね
ミサキ:
ただの束縛だわ
束縛する男って、だいたい同じパターン
ナナ:
でもさ、束縛する男ってさ
ナナ:
だいたい同じパターンじゃない?
ミカコ:
わかる
ミカコ:
最初は「心配してるだけ」って言うんだよね
ミサキ:
そうそう
ミサキ:
あのセリフ便利なのよ
ナナ:
便利って
ミサキ:
束縛を優しさに変換できるじゃない
ミカコ:
たしかに
ミカコ:
「心配してるだけ」って言われると、最初は強く言えない
ナナ:
でもだんだん増えてくるんだよね
ナナ:
連絡
ミサキ:
増えるわね
ミサキ:
朝から晩までよ
ナナ:
「おはよう」
ナナ:
「今何してる?」
ナナ:
「誰といるの?」
ミカコ:
そして既読が遅いと
ミカコ:
機嫌が悪くなる
ナナ:
あるある
ミサキ:
あれね
ミサキ:
相手を信用してないのよ
ミカコ:
それは思う
ミカコ:
束縛って、結局は不安の裏返し
ナナ:
でもさ
ナナ:
美人の彼女だったら不安になる気持ちもわかるけどね
ミカコ:
誰の話?
ナナ:
ミサキよ
ナナ:
こんな美人彼女いたら心配するでしょ
ミサキ:
まぁ、それは否定しないわ
ミカコ:
否定しないんだ
ミサキ:
でもね
ミサキ:
心配と束縛は別物よ
ミサキ:
そこを勘違いする男は多いわね
ナナ:
その違いって何?
ミサキ:
簡単よ
ミサキ:
相手の自由を尊重してるかどうか
ミカコ:
あー
ミカコ:
それはあるね
ミサキ:
本当に心配してる人って
ミサキ:
「気をつけてね」って言うだけなのよ
ミサキ:
行動を制限しようとはしない
ナナ:
なるほどね
ナナ:
束縛男は?
ミサキ:
行動をコントロールしたがるのよ
ミサキ:
「その友達と会うのやめて」
ミサキ:
「その店行くのやめて」
ミサキ:
「その服やめて」
ミカコ:
全部やめてほしいんだ
ナナ:
もう家から出るなレベルじゃん
ミサキ:
そうなのよ
ミサキ:
恋人じゃなくて監視員になるの
ミカコ:
それは疲れるわ
ナナ:
ちなみにミサキの元カレはどのレベル?
ミサキ:
かなり上級よ
ミサキ:
GPS入れろって言われたわ
ナナ:
うわ出た
ミカコ:
それはもう束縛というか管理
ミサキ:
でしょ?
ミサキ:
最初は冗談だと思ったのよ
ミサキ:
でも本気だった
ナナ:
怖っ
ミカコ:
それどうしたの?
ミサキ:
もちろん断ったわ
ミサキ:
わたし監視カメラじゃないもの
ナナ:
名言出た
ミカコ:
でもそういう男ってさ
ミカコ:
自分が悪いことしてる自覚ないよね
ミサキ:
ないわね
ミサキ:
むしろ
ミサキ:
「愛してるから」って言うのよ
束縛男の「愛してる」は信用していい?
ナナ:
出たよそのセリフ
ナナ:
「愛してるから心配なんだ」
ミカコ:
束縛男のテンプレ
ミサキ:
ほんとそれ
ミサキ:
でもね
ミサキ:
あれ半分は自分の不安よ
ナナ:
どういうこと?
ミサキ:
自信がないのよ
ミサキ:
彼女を信じられないんじゃなくて
ミサキ:
自分が選ばれ続ける自信がない
ミカコ:
あー…それはあるかも
ナナ:
つまり
ナナ:
取られるかもって不安?
ミサキ:
そう
ミサキ:
だから行動を制限したくなる
ミカコ:
でもそれって逆効果だよね
ナナ:
うん
ナナ:
束縛されるとさ
ナナ:
逆に気持ち冷めるよね
ミサキ:
冷めるわね
ミサキ:
恋人ってさ
ミサキ:
安心する存在じゃないと続かないのよ
ミカコ:
恋愛で監視されたくないもんね
ナナ:
刑務所じゃないんだから
ミサキ:
ほんとそれ
ミサキ:
束縛って、愛情じゃなくて支配なのよ
ミカコ:
なかなか強い言葉出たね
ナナ:
でもわかる
ナナ:
好きな人の自由は奪いたくないもんね
ミサキ:
そう
ミサキ:
本当に好きなら
ミサキ:
信じるしかないのよ

束縛する男と付き合うとどうなる?

ナナ:
ちなみにさ
ナナ:
ミサキはその束縛彼氏、どれくらい付き合ったの?
ミサキ:
半年くらいかしら
ミカコ:
思ったより続いたね
ミサキ:
最初は普通だったのよ
ミサキ:
むしろ優しい人だった
ナナ:
束縛ってだいたい途中からだよね
ミカコ:
そうそう
ミカコ:
だんだん強くなる
ミサキ:
そうなの
ミサキ:
最初はね
ミサキ:
「帰ったら連絡してね」くらいだったのよ
ナナ:
それは普通だね
ミサキ:
でもそのうち
ミサキ:
「今どこ?」
ミサキ:
「誰といるの?」
ミサキ:
「写真送って」
ミカコ:
あー出た
ナナ:
写真はキツい
ミサキ:
しかもね
ミサキ:
背景チェックするのよ
ナナ:
刑事じゃん
ミカコ:
それもう捜査
ミサキ:
で、ある日言われたの
ミサキ:
「男がいる飲み会は行かないでほしい」
ナナ:
うわぁ
ミカコ:
それはきたね
ミサキ:
そのとき思ったのよ
ミサキ:
あ、この人わたしと付き合うの向いてないなって
ナナ:
ミサキ基準だと確かに
ミカコ:
自由人だもんね
ミサキ:
自由っていうか
ミサキ:
普通の生活してるだけよ
ミサキ:
仕事して
ミサキ:
友達とご飯行って
ミサキ:
お酒飲んで
ミサキ:
それを全部制限されたら
ミサキ:
恋愛じゃなくて管理よ
ナナ:
それで別れた?
ミサキ:
ええ
ミサキ:
最後にこう言ったの
ミサキ:
「わたしを信じられないなら、付き合う意味ないでしょ」
ミカコ:
おお
ナナ:
かっこいい
ミサキ:
そしたら彼、こう言ったのよ
ミサキ:
「愛してるから心配なんだ」
ナナ:
また出た
ミカコ:
テンプレ
ミサキ:
だから言ってあげたわ
ミサキ:
「愛してるなら信じなさいよ」
ミサキ:
「無理なら、もっと暇な彼女探したほうがいいわね」
ナナ:
強い
ミカコ:
さすがミサキ
ミサキ:
まぁね
ミサキ:
わたしを束縛できる男なんて、この世にいないわ
束縛されない恋愛のほうが、たぶん長続きする
ナナ:
でもさ
ナナ:
束縛って若い頃はちょっと嬉しかったりしない?
ミカコ:
あー
ミカコ:
「大事にされてる感」ね
ミサキ:
最初はね
ミサキ:
でもあれ長く続くと
ミサキ:
ただのストレスになるのよ
ナナ:
それはわかる
ナナ:
社会人になると特にね
ミカコ:
仕事もあるし
ミカコ:
友達付き合いもあるし
ミカコ:
恋愛だけで生活してるわけじゃないしね
ミサキ:
そう
ミサキ:
恋愛は生活の一部であって
ミサキ:
人生の全部じゃない
ナナ:
いいこと言うじゃん
ミカコ:
さすがミサキ様
ミサキ:
まぁね
ミサキ:
恋愛は自由なほうが楽しいのよ
ナナ:
束縛するより
ナナ:
信じるほうが楽だしね
ミカコ:
そのほうが長続きする気もする
ミサキ:
そういう男のほうがモテるわよ
ナナ:
世の男性たち聞いてますかー
ミカコ:
束縛はほどほどに
ミサキ:
というか
ミサキ:
最初からしないほうがいいわね
ナナ:
じゃあその結論で
ナナ:
今日の締めいきますか
ミカコ:
鹿肉まだ残ってるよ
ミサキ:
それ食べたら帰りましょう
ナナ:
じゃあ最後に
ナナ:
束縛しない恋愛に
ミカコ:
乾杯
ミサキ:
それが一番いいわね
カチン、とグラスが軽く触れ合う。
夜の居酒屋には、今日もゆるい恋バナが流れていた。



