ミユとアカリがカフェでガールズトーク中に、謎の恋愛無関心キャラ・ワニオが乱入!?
「恋ってなに?」「そんなに面白いの?」と真面目にズレた質問が飛び交い、ふたりは困惑しながらも答えていく。
恋に不器用な“恋愛ビギナー”にも、きっと届く会話。ワニオ、ついに恋に目覚める…?
恋愛と無縁な彼の言葉に、あなたもちょっと考えてみたくなるかも──
カフェにて──偶然の再会と、あのシルエット
「ねぇねぇ、あの店員さん、ちょっと良くない?」
明るい午後の日差しが差し込むカフェの窓際。カフェラテを両手で包みながら、ミユが声をひそめる。
「え、どの人?」
アカリがグラスのアイスティー越しにキョロキョロと店内を見回す。
そんなふたりのテンションが最高潮に向かいそうなそのとき──
「……あっ」
アカリがふと、窓の外を見て声を上げた。
「ちょっと待って、あれ……ワニオくんじゃない?」
ミユがそちらを覗き込むと、確かに見覚えのある緑色のシルエットが、交差点の向こうでボーッと立っている。
「ほんとだー!あのボディライン、あのポシェット……間違いないっしょ!」
アカリが窓越しに手を振ると、ワニオはしばらく無反応だったが、やがてこちらに気づき、ゆっくりと首を傾けた。
そして、まるで導かれるようにカフェの扉が開いた。
「やあ。偶然ですね。ミユさんにアカリさん」
ワニオが、まったく感情の読めない顔でカフェに入ってくる。そんな彼を見て、ミユは小さく笑った。
「ワニオくん、もしかして……私たちの女子トーク、聞きに来た?」
「……観察対象として興味が湧いただけです」
予想外の乱入者を迎え、カフェ女子トークは、ちょっと不思議な三人会へと姿を変える。
女子の恋バナ vs ワニの無関心
「でね、最近ちょっと気になってる人がいてさ〜」
ミユがウキウキしながら話し始める。話題はもちろん恋バナ。
「職場の人?」とアカリ。
「ううん、カフェでよく会うお兄さん。たぶんフリーっぽいんだけど、いつも本読んでるの。で、毎回カプチーノ頼んでてさ、それがまた似合うのよ〜♡」
「それ絶対気になるやつ!目とか合ったりする?」
「一回だけ!でも目が合った瞬間、あたしパフェのイチゴ落としてさ、恥ずかしすぎて逃げた(笑)」
ふたりの笑い声がカフェの空気を弾ませる。
しかしその横で、ワニオはポテトチップスの袋をいじりながら、ぽつりとつぶやいた。
「……恋愛って、そんなに楽しいものなんですか?」
「えっ、楽しいよ!ドキドキするし、世界が明るくなる感じ?」
アカリが即答する。
「意味がわかりません。人間は、わざわざ自分を不安定にさせるものにハマるんですね」
「不安定って言い方やめて(笑)」ミユが吹き出しながらも、「でもまぁ、たしかに悩んだり落ち込んだりもするかもね。でもそれを含めて、いいのよ」と続けた。
「非効率ですね」
「うちら、効率のために生きてるんじゃないのよ〜」
「じゃあ何のために?」
ミユは一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに微笑んでこう言った。
「……誰かと心が通じる瞬間のため、かな」
ワニオは黙ったまま、ポテトを一枚、音もなく口に運んだ。
ワニオの疑問「なぜ人は恋に振り回されるのか」
「つまり、それは“誰かと心が通じる瞬間”が報酬だと。なるほど……まるでチョコをもらう訓練をされたイルカのようですね」
「た、例えが独特すぎる……」
アカリが少し引き気味につっこむと、ワニオは真顔のままうなずく。
「ワニの世界では、心が通じてもエサは出ませんから」
「ちょっと、どこの世界線の話よ(笑)」
ミユは笑いながらも、興味深そうにワニオを見つめる。
「でもさ、ワニオくんは恋愛に興味ないって言ってたけど、誰かのことを“いいな”って思ったこともないの?」
「“いいな”とは……? 環境が整っていて安全な巣穴とか、広い湿地のことですか?」
「違う違う、人間でいう“キュン”ってやつよ!心臓がふわってする瞬間ないの?」
ワニオは少し考えた後、静かに口を開いた。
「昔、道で落ちていたフランスパンにときめいたことなら……」
「パンに!?」
アカリが机をバンと叩いて笑う。
「ふわってしてたし、光も当たってて……おそらく焼き立て。あのとき、時間が止まったような気がしました」
「それはたぶん、恋じゃなくて食欲……」
ミユも呆れたように笑いながら、「でも、そういう“ときめきの瞬間”があったなら、ワニオくんだって恋できる可能性あるかもね」と優しく言った。
「ときめき……パン以外にも応用可能なのでしょうか」
「可能だと思う!たぶん!」
ワニオはうなずいたあと、ふいに真顔に戻る。
「では、恋とは“パン的感動体験”なのですね」
「うーん……それで理解されるのちょっと悔しいな(笑)」
ワニオ、恋愛トラブルの話にびっくりする
「恋ってね、嬉しいことばっかじゃないのよ」
ミユが言いながら、自分のスマホをいじっていた。
「私なんかさ、前に彼氏の浮気見つけちゃってさ。夜中の2時にチャリで突撃したことあるもん」
「え、こわ……」
アカリが思わずつぶやく。だがワニオはその言葉に真剣に反応した。
「深夜に自転車で?危険では? 周囲の明るさ、移動速度、心拍数……どれも生存率に影響を与える要因です」
「……いや、そういうことじゃなくて」
「でも、浮気ってそんなに許せないものなんですね」
「そりゃそうよ!信じてた相手に裏切られるんやもん……あ、いや、なんか関西弁出ちゃった(笑)」
アカリが照れ笑いしながらも、言葉を続ける。
「好きだからこそ、相手の言動が気になって、信じたいのに裏切られて、そんで傷つく……恋って、そういうもん」
「なるほど……信頼のリスク管理ですね」
「まあ、そうとも言えるけど……言い方!」
ワニオはしばらく考え込み、ぽつりと口にした。
「ワニ界では“相手が水辺にいない”だけで別れたと判断されるので、人間の関係性はとても複雑に思えます」
「うん、それも極端すぎる(笑)」
ミユが笑うと、ワニオは少し照れたように「すみません、文化的な差異を学習中です」と返した。
「でも、そういう気持ちに寄り添ってくれるのは嬉しいな」
アカリの言葉に、ワニオは真面目な顔で深くうなずいた。
「恋愛には……水辺以上の意味があると、学びました」
ワニオ、少しだけ恋に興味を持つ
「……ところで、ミユさんとアカリさんは、今恋してるんですか?」
ワニオの唐突な質問に、ふたりは顔を見合わせた。
「うーん、どうだろ?“推し”に恋してるって感じかも?」
ミユがにっこり笑う。
「うちは……恋、したいなって思ってる。今はまだこれからって感じだけど」
アカリは少し照れながら答えた。
「なるほど。“まだ始まっていないけれど、始まりたい気持ち”……」
ワニオがしみじみとうなずいた。
「自分には恋愛感情というものは理解できませんが、もしそれが“誰かを特別だと思うこと”なら……少しだけ、興味が湧きました」
「おお!ワニオくん、開眼か!?」
ミユが勢いよく前のめりになる。
「いや、目は開いてますけど」
「そういう意味じゃないよっ(笑)」
アカリが笑ってつっこむと、ワニオは少し首をかしげた。
「ではまた来ます。恋とは何か、もう少し調査が必要なようなので」
そう言ってベンチから立ち上がると、どこからか取り出したサングラスをかけて夕日を見つめた。
「恋とは、日没のようなものかもしれません。あたたかくて、でもどこかさびしい……」
「いや、うちら何も教えてないのに急に詩的〜〜!」
「でもちょっと、いいセリフだったかも」
ふたりが笑う中、ワニオはスーツケースをゴロゴロと引きながら帰っていった。