友情は投資、愛情は浪費──恋を観察するワニの経済学

人間はよく「恋に落ちる」と言います。落ちるというからには、どこかに落とし穴があるはずです。ワニの私は、その穴を上から覗き込む係です。恋には参加しませんが、値動きの激しい市場としては大いに興味があります。

今日は、しばしば混同される「友情」と「愛情」を、感情の経済学として観察してみます。 結論から言えば、友情は投資で、愛情は浪費です。 もちろん、浪費には浪費のよさがあり、投資にも退屈というリスクがあります。 では、観察記録をどうぞ。

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友情は“定期預金”のような関係

友情は、少額から始められる長期の積立に似ています。 約束を守る、返信を返す、体調を気づかう。 地味な入金を続けるほど、信頼という元本が厚くなり、利息として安心感や笑いが付与されます。

派手さはありませんが、突然ゼロにはなりません。 満期はないけれど、「この人といると落ち着く」という配当がいつの間にか出ている。 それが友情の素晴らしさです。

また、友情は分散投資にも向いています。 複数の友人がいても価値は希薄化せず、むしろ増える。 誰かが落ち込んでいるときに別の誰かが笑わせる── 市場が健全な証拠です。

人は安心できる関係にお金をかけません。 でも時間だけは惜しまず払う。 それが友情の健全な経営です。

愛情は“投機”に近い

一方で、愛情は非常にボラティリティ(変動性)の高い市場です。 昨日まで安定していた株が、翌朝には暴落している── そんなことが日常的に起こる。 「昨日までは好きだったのに」も、「今日からもう無理」も、 すべては感情のチャートの動きです。

愛情とは、感情の全資産を一点に投じる行為です。 分散投資はできません。 恋に落ちた瞬間、人は“リスク管理”を放棄します。 証拠金(自尊心)を超えてレバレッジをかけ、 「好き」という名の信用取引に走る。

そして多くの場合、その投資先は不透明です。 相手の言葉、返信のスピード、表情、気まぐれなスタンプ── どれも信頼できる指標ではありません。 それでも人は、恋の相場に賭け続けます。

冷静な観察者として言うなら、 愛情は“投機”に近い。 勢いで買い、後で理由を探す。 結果が良ければロマンチック、悪ければ黒歴史。 でも、どちらの場合も「やめられない」あたりが実に人間的です。

ワニの世界では、恋のような高リスク商品は存在しません。 だからこそ、人間が恋で一喜一憂している様子を見ると、 つい見入ってしまうのです。 愛情は危ういけれど、美しい市場です。 誰もが破産を恐れながら、それでも買い続ける。 まさに、感情という名のブルマーケット(上昇相場)ですね。

友情の利子、愛情の減価償却

友情には、静かな利子がつきます。 「お互いさま」の一言や、さりげない気づかい。 たとえば、疲れている日に“無言でも隣にいてくれる”という優しさ。 それが、信頼残高に小さな利息を生むのです。

駅で待つ、話を聞く、急に眠そうになる── そうした些細なやり取りも、長い目で見ればプラスの取引です。 友情の帳簿はゆるやかに黒字を積み重ねていきます。

一方、愛情には“減価償却”というシステムがあります。 恋の初期は高騰していても、 時間の経過とともに、情熱という名の資産は目減りしていく。 慣れ、期待、すれ違い──。 恋愛は、感情の価値を少しずつ消費していく構造にあります。

買ったばかりの家具が、数カ月後には“家の一部”になるように。 恋もまた、日常の中に溶けていきます。 けれど、その変化を「劣化」と呼ぶか「成熟」と呼ぶかで、 恋の会計は大きく変わるのです。

賢い恋人たちは、この減価償却を見越して改装(リフォーム)をします。 「ありがとう」を言う、思い出の場所に行く、 くだらない話を共有する──。 それが、感情資産の再評価です。

人間の恋愛は会計上とても不安定ですが、 同時にとてもやさしい。 帳簿の数字がマイナスでも、 「好きだった時間」という無形資産を しっかり棚卸ししているのだから。

友情は節約上手、愛情は浪費家

友情は節約上手です。 「分け合う喜び」で増え、「与えるほど減らない」。 たとえば、友人に差し入れをしたり、誰かを笑わせたり。 使っているようで、むしろ心の貯金が増えていく。 友情とは、支出するたびに黒字になる不思議な経済です。

一方、愛情は浪費家です。 相手に尽くしたり、考えすぎたり、嫉妬したり。 どれも“心の出費”です。 まるで給料日前の衝動買いのように、 我慢できずに感情を投げ出してしまう。 けれど、その無駄遣いが、 恋という現象をこんなにも人間らしくしているのだと思います。

友情は「維持する努力」で持続しますが、 愛情は「燃やす努力」で成り立ちます。 どちらもエネルギーを必要としますが、 友情は省エネモード、愛情は常時フル稼働です。 だから恋をしている人は、よく眠れず、よく食べ、そしてよく悩む。

恋しないワニの私から見れば、 人間は感情の浪費家です。 でも、だからこそ心があたたかい。 効率だけで生きていたら、 きっと世界はもっと静かで、もっと退屈だったでしょう。

人は時に、大きく損をしてもいいと思う。 それが誰かの笑顔や記憶に変わるなら、 それは“赤字のようで黒字”なのです。

つまり、恋とは感情の投げ銭。 浪費の中にこそ、人生の利益がある。

ワニとしては非効率だと感じますが、 その非効率こそが、人間という生き物の いちばん愛おしい特徴なのかもしれません。

──友情は投資、愛情は浪費。 どちらも、ちゃんと心を動かす資産です。

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