「恋愛経験がないんです」
こいこと。編集部に届く相談の中でも、この言葉は意外と多い。
年齢も性別もバラバラで、状況も違うのに、
なぜかみんな、少しだけ申し訳なさそうにそう言う。
まるで、恋愛経験がないこと自体が欠点であるかのように。
そんな話題が出た日の編集部。
デスクの端でコーヒーを飲みながら、リクがぽつりと口を開いた。
リク「恋愛経験がないってだけで、
最初から不利だと思い込んでる人、多いですよね」
その隣で、静かにうなずいたのはワニオだった。
恋愛には一切参加しないけれど、人間観察だけはやたら鋭いワニだ。
ワニオ「ええ。
ただ実際には、“経験がない”という事実より、
“経験がない自分をどう見ているか”のほうが、
人間関係に影響しているように見えます」
慰めでも、説教でもない。
けれど妙に核心を突くその一言に、リクは少し考え込んだ。
恋愛経験がないことは、本当に不利なのか。
それとも、人が勝手に作り上げた思い込みなのか。
理論派のリクと、恋愛に興味がない観察者ワニオ。
ふたりの会話は、
「恋愛経験」という言葉を一度ばらして考えるところから始まった。
恋愛経験が「ある・ない」で、本当に差は出る?
リク「正直に言うと、
“恋愛経験がない=何もわかってない”って見られがちなのは事実ですよね」
ワニオ「ええ。
ただそれは、能力の差というより、ラベルの問題に近い気がします」
リク「ラベル?」
ワニオ「“未経験”という言葉に、
人は勝手に“下手そう”“重そう”“面倒そう”を貼り付ける。
でも実際には、その中身を確認する前に判断しているだけです」
リクは少し苦笑しながら、頷いた。
リク「たしかに…
恋愛経験が豊富でも、相手の気持ちを考えられない人はいますし、
逆に経験がなくても、相手を尊重する姿勢が自然な人もいますよね」
ワニオ「そうですね。
観察していると、“恋愛経験がある人”より、
“人間関係の失敗をどう受け止めてきたか”のほうが、
その後の関係に強く影響しています」
リク「つまり、
“付き合った人数”より、“どう人と向き合ってきたか”」
ワニオ「はい。
恋愛は特殊な競技ではありません。
人間関係の延長線上にある現象、というほうが近いでしょう」
リクはメモを取りながら、静かにまとめる。
リク「恋愛経験がないこと自体より、
それを理由に自分を小さく見積もってしまうことのほうが、
よほどハードルを上げてしまうのかもしれませんね」
なぜ「恋愛経験がないこと」を気にしてしまうのか
リク「でも実際、恋愛経験がない人ほど、
“気にしないようにしよう”として、余計に意識してしまうことも多いですよね」
ワニオ「ええ。
それは多くの場合、自分の評価を“他人基準”で測ろうとする瞬間に起きます」
リク「他人基準、ですか」
ワニオ「たとえば、
“この年齢なら付き合った経験があって当然”
“周りはみんな恋人がいる”
そうした空気を、無意識に吸ってしまう」
リク「SNSとか、会話の中とかですね」
ワニオ「はい。
しかし観察していると、
恋愛のタイミングは人によって極端に違うという事実が見えてきます」
リク「早い人もいれば、遅い人もいる。
それだけなのに、遅い側に“理由”を求めてしまう」
ワニオ「そうです。
“まだ起きていない出来事”に対して、
人はなぜか“欠陥”という説明をつけたがる」
リク「なるほど……
恋愛経験がないこと自体より、
そこに意味づけをしすぎてしまうのが苦しくなる原因かもしれませんね」
ワニオ「ええ。
恋愛は資格制ではありません。
準備が整った瞬間に、始まるだけです」
リク「その“準備”も、
付き合った回数じゃなくて、
人と向き合おうとする姿勢だったりする」
ワニオ「まさに。
経験は後から必ず追いつきますが、
姿勢だけは、先に持っている人も多い」
恋愛経験がない人が、実は持っているもの
リク「ここまで話してきて思うのは、
恋愛経験がない人って、
“何も持っていない状態”ではないですよね」
ワニオ「はい。
むしろ、余計な成功体験や失敗パターンに縛られていない、
という見方もできます」
リク「過去の恋愛の“型”がない分、
相手をそのまま見ようとする人も多い」
ワニオ「観察していると、
経験が少ない人ほど、
相手の反応をよく見ています」
リク「慣れていないからこそ、雑にならない」
ワニオ「ええ。
恋愛経験が多い人ほど、
“前もこうだった”という推測で動くこともありますから」
リク「それって、便利なようで危ういですよね」
ワニオ「はい。
人は同じように見えても、
同じ反応をするとは限りません」
リクは少し間を置いてから、言葉を選ぶように続けた。
リク「つまり、恋愛経験がないことは、
スタートが遅れているというより、
スタートの仕方が違うだけなのかもしれません」
ワニオ「そうですね。
直線で進んできた人もいれば、
回り道をして、別の視点を持った人もいる」
リク「どちらが正しい、という話ではない」
ワニオ「はい。
ただ、恋愛経験がない人は、
“自分は遅れている”と決めつける必要はない、
それだけは観察していて確かです」
それでも一歩踏み出したくなったとき、どう考えるか
リク「じゃあもし、
“恋愛経験はないけど、誰かと向き合ってみたい”と思ったとき、
どう考えるのが現実的なんでしょう」
ワニオ「“経験がないから失敗する”と考える必要はありません。
経験があっても失敗はします」
リク「確かに……」
ワニオ「違いがあるとすれば、
失敗したときに“自分には向いていない”と結論づけてしまうかどうか、です」
リク「一度の結果で、全部を判断しない」
ワニオ「はい。
恋愛経験がない人ほど、
一回の出来事を“証明”に使ってしまいがちです」
リク「うまくいかなかった=向いていない、ではない」
ワニオ「ええ。
単に、その相手、その状況、そのタイミングではなかっただけ」
リクは少し考えてから、静かにまとめる。
リク「恋愛経験がない人がやるべきことって、
“経験を増やす”ことじゃなくて、
一回一回を必要以上に重くしないことなのかもしれませんね」
ワニオ「そう思います。
恋愛は実績評価ではありません」
リク「参加資格も、合格基準もない」
ワニオ「ただ人と人が、
その都度、関係を作っていくだけです」
まとめ|恋愛経験がないことは、欠点ではない
恋愛経験がないことは、
遅れでも、欠陥でもありません。
それはただ、
まだ起きていない出来事があるというだけの話です。
経験がないことを気にするより、
経験がない自分をどう扱っているか。
そこが変わると、
恋愛に限らず、人との関わり方も少し楽になります。
リクとワニオの結論は、とてもシンプルでした。
恋愛経験は、後からついてくる。
自分を下げる理由には、しなくていい。



