なぜ、あの人は謝らないのか
「どうして謝らないんだろう。」
明らかにミスをしている。
傷つける言い方をした。
約束を守らなかった。
それでも、謝らない。
言い訳をする。
論点をずらす。
あるいは、何もなかったように沈黙する。
謝るという行為は、
それほど難しいものだろうか。
編集部の静かな午後。
ノートを閉じながら、リクが言った。
リク:謝るだけですよね。
「ごめん」で済む話なのに、どうしてあんなに抵抗するんでしょう。
怒りというより、困惑に近い声だった。
ワニオはホワイトボードの前で、ゆっくりとペンを持つ。
ワニオ:謝罪は、事実の認定ではありません。
リク:……どういうことですか。
ワニオ:謝罪は、「自分が間違えた」という認識を外に出す行為です。
それは単なる言葉ではなく、自己像の揺らぎです。
リク:自己像……。
ワニオ:人は、間違いよりも「自分の物語」を守ります。
自分は正しい人間だ。
自分は誠実だ。
自分は責任ある人間だ。
その物語にひびが入る感覚を、
強く恐れる人がいる。
今日は、「謝れない人」を断罪するのではなく、
その構造を静かに分解してみよう。
謝れない=悪人なのか
リク:でも、謝らない態度ってやっぱり不誠実に見えますよね。
ワニオ:そう見えるのは自然です。
謝罪は関係を修復するための最短距離ですから。
リク:じゃあ、謝れない人は誠実じゃない?
ワニオ:必ずしもそうとは限りません。
謝罪は敗北ではないが、そう感じる人がいる
ワニオ:謝るという行為は、本来「事実の確認」に近いものです。
しかし一部の人にとっては、敗北の宣言に感じられます。
リク:負けた、ってことですか。
ワニオ:ええ。
立場が下がる。
評価が落ちる。
主導権を失う。
そのように解釈している場合があります。
リク:でも、実際はそんなに大きな話じゃないですよね。
ワニオ:客観的にはそうです。
しかし主観の中では、自己防衛が作動します。
ワニオはホワイトボードに小さく四角を描いた。
ワニオ:謝罪は、壁に小さなひびを入れる行為に似ています。
リク:ひび?
ワニオ:自分は正しい、という壁です。
完璧だと思っている壁ほど、ひびを怖がります。
リク:ひびが入ると、全部崩れる気がする。
ワニオ:ええ。実際には崩れませんが、
そう感じる人もいる。
謝れない人は、攻撃的に見えることがある。
言い訳を重ねる。
話をすり替える。
時には逆に相手を責める。
しかし構造としては、
攻撃よりも防衛に近い。
ワニオ:人は、自分の物語を守るために強く出ます。
リク:つまり、強さというより……。
ワニオ:壁の薄さを隠している場合もあります。
謝れないことは、必ずしも悪意ではない。
ただし、その結果が周囲を傷つけることもまた事実だ。
次は、その内側で何が起きているのかを見ていこう。
謝れない人の内側で起きていること

リク:防衛だとしても……
やっぱり理解しづらいです。
「ごめん」と言えば済む話なのに。
ワニオ:済む人にとっては、そうです。
ワニオ:しかし謝れない人の内側では、
もう少し別の計算が動いています。
自己評価が不安定
ワニオ:謝れない人は、
必ずしも自己肯定感が高いわけではありません。
リク:むしろ低い?
ワニオ:不安定、というほうが近いでしょう。
自分は正しい人間だと思いたい。
しかし、どこかで自信がない。
ワニオ:その状態で「間違い」を認めると、
行為だけでなく、存在そのものが否定される感覚になります。
リク:ミス=自分の価値が下がる、みたいな。
ワニオ:ええ。
行為と人格を切り分けられない状態です。
責任と存在を混同している
ワニオ:本来、謝罪は「行為」に対して行うものです。
リク:やったことに対して、ですよね。
ワニオ:しかし謝れない人は、
それを存在の否定として受け取ります。
「あなたは間違えた」
が、
「あなたはダメな人間だ」
に変換される。
リク:だから防衛が強く出る。
ワニオ:ええ。
事実よりも、自分の物語を守るほうが優先されます。
ワニオはペンを置いて言った。
ワニオ:人間は、現実よりも「自分の物語」が崩れることを恐れます。
リク:物語……。
ワニオ:自分は誠実だ。
自分は正しい。
自分は被害者ではない。
その物語に矛盾が生まれると、
強い違和感が起きる。
ワニオ:謝罪は、その物語に修正を入れる作業です。
リク:修正できる人と、できない人がいる。
ワニオ:ええ。
修正を「成長」と捉えるか、
「崩壊」と捉えるかの違いです。
謝れないのは、強いからではない。
多くの場合、崩れることへの恐怖が強いだけだ。
しかし、その恐怖は周囲には見えない。
見えるのは、言い訳と沈黙だけだ。
では、そのような人とどう向き合うべきか。
次は、距離の取り方を整理しよう。
謝れない人とどう向き合うか
リク:構造は分かりました。
でも……実際に向き合う側は、しんどいですよね。
ワニオ:ええ。
理解できることと、耐えられることは別です。
謝れない理由があったとしても、
受け取る側の消耗は消えない。
相手を変えようとしない
リク:「どうして謝らないの?」って、
つい問い詰めたくなります。
ワニオ:自然な反応です。
しかし、謝罪を強制すると防衛は強化されます。
リク:壁を叩くと、余計に硬くなる。
ワニオ:ええ。
謝罪は、内側からしか出てきません。
説得や圧力で引き出せたとしても、
それは形だけになりやすい。
ワニオ:相手を変えようとするより、
まず自分の期待を整理するほうが現実的です。
境界線を引く
リク:でも、何も言わずに我慢するのも違いますよね。
ワニオ:ええ。理解と許容は別です。
謝れない理由があっても、
結果として傷ついているなら、
それは事実だ。
ワニオ:「謝らないこと」は、その人の構造。
「それを受け入れるか」は、あなたの選択です。
リク:構造を知ることと、
我慢し続けることは違う。
ワニオ:ええ。
境界線は、相手を裁くためではなく、
自分を守るために引きます。
謝れない人は、防衛している。
しかし防衛の結果、関係が歪むこともある。
ワニオ:理解はできます。
ただし、理解したからといって消耗し続ける義務はありません。
リク:……少し距離を取ることも、選択肢。
ワニオ:ええ。
謝罪は強制できませんが、
関係の距離は選べます。
最後に、このテーマを静かにまとめよう。
まとめ|謝れない人は変われるのか
リク:結局、謝れない人は変われるんでしょうか。
ワニオ:可能性はあります。
ただし条件があります。
リク:どんな条件ですか。
ワニオ:自分の物語よりも、関係を優先したいと思えたときです。
謝れない人は、
「自分は正しい」という物語を守ろうとしている。
しかし関係を続けたい、
相手を失いたくない、
その気持ちが物語より強くなったとき、
修正が起きる。
ワニオ:謝罪は敗北ではありません。
物語の更新です。
リク:アップデート、みたいな。
ワニオ:ええ。
古い設定のままでは、関係は動きません。
ただし――
誰もが更新できるわけではない。
更新を拒む人もいる。
ワニオ:そのときは、相手を説得するより、
自分の立ち位置を見直すほうが早い。
リク:理解はできる。
でも、受け入れるかどうかは別。
ワニオ:ええ。
謝れない人は、悪人とは限らない。
多くは、壊れることを恐れているだけだ。
しかし、その恐怖が周囲を傷つけることもある。
理解することはできる。
ただし、消耗し続ける必要はない。
ワニオ:謝罪は相手の責任。
距離を決めるのは、あなたの責任です。
リク:……少し、整理できました。
正解は出さない。
断罪もしない。
ただ、構造を知るだけで、
少しだけ楽になることがある。
それが、この分析室の役割だ。



