【ミサキ様が通る!】盛りすぎ男子と出会ってしまった日──ミサキ様の人間観察は止まらない!

目次

マッチングアプリ、狩りのはじまり

「そろそろ新しい刺激が欲しいのよね」
ミサキ様、夜の部屋でスマホ片手に思案中。
リクとの恋愛が終わってからというもの、恋も仕事も安定しすぎていてつまらない。

「恋は刺激。恋愛ライターとして、平和ボケしてる場合じゃないわ」
そんな自分への言い訳を添えて、指先でアプリをインストールする。
マッチングアプリ──そう、恋とネタを同時に狩れる、現代の狩場。

プロフィール文は当然完璧。
“知的で芯のある女性を目指してます♡”
──いや、もう完成してるのよ?
けど、謙遜ってやつも必要でしょ。

数分後、通知が光る。
『いいね:レオさん(広告代理店/31歳/爽やかイケメン)』

「ふぅん……広告代理店。キラキラしすぎて胃もたれしそうだけど、まぁ悪くないわね」
写真を見る。 ……整いすぎてる。目の輝きが現実離れしている。
「加工アプリって、今や美容整形レベルね」

だけど、ミサキは鼻で笑った。
彼女は誰もが振り返るレベルの美人。 “外見で判断される側”の人生を、もう何度も経験している。
だからこそ、相手の容姿に興味はない。 「イケメンは見飽きたのよ。中身が面白ければ、盛り男子でも歓迎してあげる」

マッチして3分。レオからメッセージが届いた。 『ミサキさん、雰囲気素敵ですね。今度、コーヒーでもどうですか?』

ミサキの唇が、いたずらにゆがむ。 「デートまでのスピード感、悪くないわね。盛り男子、観察対象に認定よ♡」

実際に会ってみたら別人級

待ち合わせは、青山のカフェ。
ガラス張りで、コーヒー一杯がランチ一食分するような店。
──まぁ、わたしに似合う場所ってことでいいでしょ。

カウンター席でラテを飲みながら、スマホの画面を確認する。
『あと5分で着きます!』レオからのメッセージ。 アイコンの彼は、光をまとったような笑顔。 目がキラキラというより、ギラギラ。 「……大丈夫? 人間の瞳孔、ここまで光る?」

そして数分後。
カフェのドアが開いた。 現れたのは──うん、別ジャンルの人だった。

顔の骨格がまるで違う。
あのスッと通った鼻筋、どこいった?
顎のラインも、というか輪郭がまったく別人じゃない。

「ミサキさんですよね?」
にこやかに話しかけてきた彼の声は、妙に素直で温かかった。
思わずわたしは笑ってしまう。 「ええ、写真より現実的で助かるわ」
──口が勝手に。だって、あまりにも“人間味”が急に戻ってきたんだもの。

レオは少し照れたように笑って、「すみません、ちょっと盛ってまして」と言った。 「“ちょっと”で済む範囲、超えてたわよ?」
言葉には出さず、ラテを一口。 ミサキの視線は冷静に、でも興味深く彼を観察していた。
「ここまで別人になる技術、もはや才能ね。仕事変えたらどうかしら」

でも不思議。 見た目が違うのに、彼の話し方や笑い方に嫌味がない。 むしろ、そこに安心感すらある。 ──“イケメンじゃないのに惹かれる”。 これ、恋愛ライターとしての好奇心が騒ぐパターンよ。

「わたし、見た目で人を判断しないタイプなの」
そう言った瞬間、セルフツッコミが脳内で響いた。
(いやいや、あなたは“見た目を利用してきた側”の人間でしょ)

そう。わたしはずっと、美貌というラベルで生きてきた。 誰かが「きれい」と言えば、それだけで物語が始まる。 でも今日は違う。 “盛らない男”が、わたしの中のリアルを刺激している。

「……わたし、この人の裏側を知りたくなってきた」
そんな予感が、ラテの香りと一緒に胸の奥に漂っていた。

盛る男の心理を解剖

「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
レオがカフェラテの泡をスプーンでいじっているタイミングで、わたしは切り込んだ。
「なんで、そんなに盛ったの? 会えばバレるって、わかってたでしょ?」

レオは少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。 「……自信がなかったんです。最初の印象で落とさないと、中身を見てもらえないから」

一瞬、時間が止まったような気がした。
──あぁ、なるほどね。 “外見からしか評価されない”って、男にもあるんだ。

わたしは軽く息を吐いた。 「でもさ、そんな“仮面”で始まった恋なんて、バレた瞬間に終わるでしょ?」
「それでも……最初の一歩が欲しかったんです」
レオの言葉は妙に真っ直ぐで、嘘の味がしなかった。

「一歩ねぇ……」
わたしはグラスを傾けながら、窓に映る自分の顔を見た。 綺麗に整ったメイク、ツヤのある髪、計算された笑み。 全部“最初の一歩”のために作り上げてきたもの。 (……わたしも結局、同じようなもんじゃない)

「人って、“本当の自分”を見せるのが怖いのよね」 そう言うと、レオが小さくうなずいた。 「たぶん、誰だって“いいね”の中で生きてるから」

──まったく、恋愛市場もSNSも、似たようなもんね。 “盛る”ってつまり、“承認欲求のメイクアップ”。 わたしたち、全員フィルター越しの人生を生きてる。

「でもさ」
わたしはストローをくるくる回しながら笑った。 「あなたは盛っても、話すと意外といい男じゃない。
たぶん、盛らなかったほうがモテたんじゃない?」

レオは驚いたように目を見開いて、それから恥ずかしそうに笑った。 「……そう言ってもらえるの、初めてです」

──あら、照れてる。可愛いとこあるじゃない。
やっぱり、人間って“盛らない顔”のほうが魅力的に見えるのかも。

わたしは軽く髪をかきあげ、心の中でつぶやく。 (ま、わたしは“盛らなくても大丈夫なタイプ”だけど♡)

恋と仮面の話

カフェを出るころには、夕陽が街をピンク色に染めていた。
わたしはヒールの音を響かせながら、ガラスに映る自分をちらりと見る。

「……やっぱり、今日も完璧ね」
そうつぶやきながらも、心の中では少し笑っていた。
だって、あの“盛り王子”レオのことが、妙に印象に残っているから。

盛りすぎた男と、盛らなくても目立つ女。
──お似合いって言われたら、笑っちゃうけど。

でもね、今日のわたし、ちょっとだけ素直だった気がするの。 “盛る”ことを責めながら、同時に“盛る努力”を受け入れてた。 結局、人ってみんな仮面の一枚や二枚は持ってる。 問題は、どんな顔で“本気の恋”をするかよね。

信号待ちでスマホを開くと、レオからメッセージが届いていた。
『今日は楽しかったです。また、コーヒーでもどうですか?』

──おっと、早いわね。 でも嫌いじゃない、その“勢い”。

「さて……わたし、どうしようかしら」
ヒールのつま先で歩道を軽く叩きながら、わたしはにやりと笑う。 (記事にする? それとも、もう一度“人間観察”してみようか)

ふと、夜風が吹いた。
髪がふわりと舞って、頬をくすぐる。 わたしは前髪をかきあげながら、少しだけ空を見上げた。

──恋も人生も、だいたいは“加工アリ”。 でも、その中にある“素顔”を見抜ける自分でいたい。 それが、ミサキ様の恋の流儀。

そして心の中で、つぶやく。 「今日もわたし、よくできました♡」

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