なぜ人はダメな相手を好きになるのか?──リクとワニオの分析室

こいこと。編集部。

昼下がり。

コーヒーを飲みながら、リクが不思議そうな顔をしていた。

ミカコ:どうしたの。

リク:いや、ちょっと思ったことがあって。

リク:素敵な人なのに、「なんであんな人と付き合ってるんだろう」って思うことありません?

ミカコ:ある。

ミカコ:めちゃくちゃある。

リク:ですよね。

リク:優しいし、仕事もできるし、友達も多い。

リク:なのに、なぜか恋愛になると振り回される相手を選んでたりする。

ミカコ:周り全員が止めるやつね。

リク:そうそう。

リク:客観的には明らかに大変そうなのに、本人はすごく好きだったりするじゃないですか。

ミカコ:むしろ止めるほど燃えることもあるしね。

すると、向かいでお茶を飲んでいたワニオが静かに口を開いた。

ワニオ:人間は時々、暖房より花火を選びます。

リク:……はい?

ミカコ:始まった。

ワニオ:暖房は長持ちします。

ワニオ:部屋も暖かくなります。

ワニオ:しかし、人は暖房を見て歓声を上げません。

リク:花火は上げますね。

ワニオ:ええ。

ワニオ:強い刺激は、安定より印象に残ります。

ミカコ:なんか今回、嫌な予感しかしないんだけど。

リク:でも確かに気になります。

リク:どうして人は、時々「ダメそうな相手」を好きになってしまうんでしょうか。

ワニオ:それは恋愛の不思議ではありません。

ワニオ:人間の脳の仕様です。

ミカコ:今回はちょっと面白そうだね。

というわけで今回は、

理論担当:リク
観察担当:ワニオ
現実コメント:ミカコ

この三人で、

なぜ人はダメな相手を好きになるのかを分析していくことにした。

目次

なぜ「ダメな相手」ほど魅力的に見えるのか

安定より刺激が強く記憶に残る

リク:まず、「ダメな相手」って言い方は少し強いですけど、実際にはどういう人を指すんでしょう。

ミカコ:優しくない、誠実じゃない、振り回してくる。でもなぜか惹かれる相手、って感じかな。

リク:安定して幸せになれそうな相手ではないのに、心が持っていかれる。

ワニオ:人間は、安定よりも刺激を強く記憶します。

リク:刺激。

ワニオ:はい。毎日同じ温度で部屋を暖める暖房より、一瞬で夜空を照らす花火のほうが記憶に残る。

ミカコ:導入の話、ここにつながるんだ。

ワニオ:ええ。ただし、花火で冬は越せません。

リク:かなり刺さる比喩ですね。

ワニオ:気まぐれな優しさ、突然の連絡、予測できない態度。そういう不安定な刺激は、脳に強く残ります。

ミカコ:たまに優しい人って、ずっと優しい人より印象に残ることあるよね。

リク:普段冷たい人が急に優しくすると、特別に感じてしまう。

ワニオ:まさにそれです。安定した優しさは日常になり、不安定な優しさはイベントになります。

ミカコ:恋愛でイベント扱いされると厄介だね。

ワニオ:はい。人は時々、安心よりも感情が大きく動くことを恋だと誤認します。

手に入りにくいものは価値が高く見える

リク:もう一つありそうなのが、手に入りにくい相手ほど魅力的に見えることです。

ミカコ:あるね。簡単に好かれるより、なかなか振り向いてくれない人に執着しちゃうやつ。

ワニオ:希少性の錯覚です。

リク:希少性。

ワニオ:手に入りにくいものを、人間は価値が高いと判断しがちです。

ワニオ:恋愛でも同じで、相手の価値が高いから追っているのではなく、追っているから価値が高く見える場合があります。

ミカコ:うわ、それは嫌な真実だね。

リク:つまり、苦労している時間そのものが、恋を強く見せている可能性がある。

ワニオ:ええ。並んで買ったパンは、普通のパンより美味しく感じることがあります。

ミカコ:恋愛をパンにするな。

ワニオ:しかし構造は同じです。

ワニオ:時間、感情、労力をかけた相手ほど、人は「価値がある」と思いたくなる。

リク:だから周りから見ると「やめたほうがいい」と思う相手でも、本人には特別に見えるんですね。

ワニオ:はい。相手が特別なのではなく、そこに投入した感情が特別になっている場合があります。

ダメな相手を好きになる人の特徴

承認欲求が強い

リク:でも、同じ相手を見ても惹かれる人と惹かれない人がいますよね。

ミカコ:確かに。

ミカコ:みんながみんなダメな相手を好きになるわけじゃない。

ワニオ:はい。

ワニオ:その差の一つが承認欲求です。

リク:認められたい気持ち。

ワニオ:ええ。

ワニオ:特に「選ばれたい」という欲求が強い人は、不安定な相手に惹かれやすい。

ミカコ:なんで?

ワニオ:簡単です。

ワニオ:全員に優しい人に好かれるより、自分を選ばない人に選ばれるほうが達成感が大きいからです。

リク:ああ…。

リク:恋愛というより、攻略みたいになってる。

ワニオ:はい。

ワニオ:恋愛感情の中に、承認獲得ゲームが混ざることがあります。

ミカコ:だから振り向かない相手ほど燃えるんだ。

ワニオ:ええ。

ワニオ:相手を好きなのか、相手に認められたいのか分からなくなるのです。

自己肯定感が低い

リク:前回の「恋愛で自分を失う人」ともつながりそうですね。

ミカコ:わたしも思った。

ミカコ:自己肯定感の話。

ワニオ:はい。

ワニオ:自己肯定感が低い人は、対等な愛情を受け取るのが苦手です。

リク:対等な愛情を受け取るのが苦手。

ワニオ:ええ。

ワニオ:自分にはそこまでの価値がないと思っているため、安定した好意に違和感を覚えることがあります。

ミカコ:優しい人より、雑に扱う人のほうがしっくりくるみたいな。

ワニオ:そうです。

ワニオ:悲しい話ですが、人は自分が信じている自己評価に近い扱いを受けると安心します。

リク:だから周りから見れば素敵な相手がいても、自分から離れてしまう人がいるんですね。

ワニオ:はい。

ワニオ:幸せになれそうな関係より、慣れ親しんだ不安定さを選んでしまう場合があります。

恋愛に救いを求めている

リク:もう一つありそうなのが、恋愛に期待しすぎるケースです。

ミカコ:恋愛で人生変えたい人ね。

ワニオ:はい。

ワニオ:孤独、寂しさ、自己否定感。

ワニオ:そういった苦しさから救ってくれる存在として恋愛を見る人は少なくありません。

リク:でも、それって危険なんですか。

ワニオ:恋愛そのものは危険ではありません。

ワニオ:ただし、救命ボートを恋人一人に任せるのは危険です。

ミカコ:またスケール大きくなったね。

ワニオ:人生全部を救ってもらおうとすると、相手への期待も依存も大きくなります。

ワニオ:すると、相手を見るのではなく、自分を救ってくれそうな幻想を見るようになります。

リク:それが「なんであんな人を好きなんだろう」の正体の一つかもしれませんね。

本当に好きなのか、それとも執着なのか

夜中ベッドでLINEの返信を待ち続ける女性。

好きと執着の違い

リク:ここまで聞いていて思ったんですが、「好き」と「執着」って何が違うんでしょう。

ミカコ:それ気になる。

ミカコ:恋愛してる本人は区別ついてないこと多いし。

ワニオ:はい。

ワニオ:まず結論から言うと、好きは相手を見ています。

ワニオ:執着は自分を見ています。

リク:自分を見ている。

ワニオ:ええ。

ワニオ:好きという感情は、相手の幸せや意思も尊重します。

ワニオ:しかし執着は、自分が失いたくないものを握り続ける行為です。

ミカコ:だから別れ話になると違いが出るのか。

ワニオ:はい。

ワニオ:好きには悲しみがあります。

ワニオ:執着には恐怖があります。

リク:それは分かりやすいかもしれません。

ワニオ:相手を失うことが悲しいのか。

ワニオ:それとも、自分の価値や居場所を失うのが怖いのか。

ワニオ:そこに違いがあります。

ミカコ:恋愛相談って、後者も結構多い気がする。

ワニオ:少なくありません。

ワニオ:相手を愛しているのではなく、相手がいる自分を愛している場合もあります。

苦しいのに離れられない理由

リク:でも、頭では分かっていても離れられない人っていますよね。

ミカコ:むしろ、そのパターンが一番多いかも。

ワニオ:はい。

ワニオ:人間は投資したものを手放すのが苦手です。

リク:投資。

ワニオ:時間。

ワニオ:感情。

ワニオ:思い出。

ワニオ:努力。

ワニオ:それらを大量に投入した後は、「ここでやめたら無駄になる」と感じます。

ミカコ:ギャンブルみたいだね。

ワニオ:近い構造です。

ワニオ:負けているのに、次で取り返そうとする。

ワニオ:苦しいのに、次こそ変わると思う。

リク:だから抜け出せなくなるんですね。

ワニオ:ええ。

ワニオ:そしてもう一つあります。

リク:なんでしょう。

ワニオ:苦しさに慣れることです。

ミカコ:苦しさに慣れる?

ワニオ:はい。

ワニオ:長期間不安定な関係にいると、その状態が日常になります。

ワニオ:すると平穏な関係を退屈に感じることがあります。

リク:それってかなり怖い話ですね。

ワニオ:人間は環境に適応する生き物です。

ワニオ:良い環境にも適応しますが、悪い環境にも適応します。

ミカコ:だから周りが止めても本人だけ分からないのか。

ワニオ:はい。

ワニオ:ダメな相手を好きなのではなく、ダメな状態に慣れている場合があります。

リク:うわ……。

リク:今日はかなり核心に近づいてきましたね。

「優しい人が退屈」に見える理由

ダメな相手を好きになる理由を分析するリクとワニオとミカコ。

脳は刺激に慣れてしまう

リク:ここまで聞いていて思ったんですが、よくありますよね。

リク:「優しい人なのに恋愛対象にならない」って話。

ミカコ:あるあるだね。

ミカコ:いい人なんだけど、ドキドキしないとか。

ワニオ:人間の脳は刺激を好みます。

リク:やっぱりそこなんですね。

ワニオ:はい。

ワニオ:毎日同じ時間に来る電車は話題になりません。

ワニオ:しかし、一時間遅れた電車は強く記憶されます。

ミカコ:恋愛を電車にするな。

ワニオ:ですが構造は近いです。

ワニオ:安定した優しさは予測可能です。

ワニオ:予測可能なものは安心を生みますが、刺激は少ない。

リク:だから気まぐれな人のほうが印象に残る。

ワニオ:ええ。

ワニオ:脳は変化に反応します。

ワニオ:そのため、優しさより不安定さのほうが強い感情を引き起こすことがあります。

ミカコ:なんか理不尽だね。

ワニオ:恋愛は時々、合理性を休暇に出します。

リク:ワニオさん、たまに変な名言出しますよね。

安心と退屈は別物

リク:でも、「安心できる相手」と「退屈な相手」って本当は違いますよね。

ミカコ:全然違う。

ミカコ:むしろ長く付き合うなら安心のほうが大事だと思う。

ワニオ:はい。

ワニオ:ここで多くの人が混同しています。

ワニオ:安心は感情の安定です。

ワニオ:退屈は刺激の不足です。

ワニオ:別の概念です。

リク:なるほど。

リク:安心できるけど面白い人もいるし、刺激的だけど不安な人もいる。

ワニオ:その通りです。

ワニオ:しかし恋愛初期は刺激の影響が強いため、両者を混同しやすい。

ミカコ:若い頃の恋愛ほどそうかもね。

ワニオ:ええ。

ワニオ:ドキドキする相手が相性の良い相手とは限りません。

リク:これはかなり大事な話ですね。

ワニオ:はい。

ワニオ:ジェットコースターは楽しいですが、通勤には向いていません。

ミカコ:今日はずっと乗り物と花火で説明してるね。

ワニオ:人間は比喩でしか学ばない生き物だからです。

ダメな恋を繰り返さないために

恋愛以外の軸を持つ

リク:じゃあ、こういう恋愛を繰り返さないためにはどうしたらいいんでしょう。

ミカコ:まず恋愛だけにしないことかな。

ワニオ:はい。

ワニオ:恋愛以外の軸を持つことです。

リク:仕事、趣味、友人関係とか。

ワニオ:ええ。

ワニオ:人生の支柱が一つしかないと、その支柱が揺れた時に全体が崩れます。

ミカコ:前回の「恋愛で自分を失う人」ともつながるね。

ワニオ:そうです。

ワニオ:恋愛だけで人生を支えようとすると、相手への依存も期待も大きくなる。

リク:だから冷静な判断が難しくなるんですね。

ワニオ:はい。

ワニオ:恋愛は柱ではなく、部屋を彩る家具くらいがちょうどいい。

ミカコ:今日は珍しく優しい例えだね。

「ドキドキ」と「相性」を分けて考える

リク:これはかなり大事な気がします。

リク:ドキドキする相手と、相性が良い相手は別かもしれない。

ミカコ:若い頃に聞きたかったやつ。

ワニオ:人間は時々、興奮を相性だと誤認します。

リク:興奮を相性だと。

ワニオ:ええ。

ワニオ:ジェットコースターに乗ると心拍数は上がります。

ワニオ:しかし、それは結婚相手を見つけたからではありません。

ミカコ:当たり前だろ。

ワニオ:恋愛でも似た現象が起きます。

ワニオ:不安定さ、不確実性、追いかける苦しさ。

ワニオ:そうした刺激による高揚感を、「運命の恋」だと思ってしまうことがあります。

リク:でも本当に見るべきなのは。

ワニオ:一緒にいて安心できるか。

ワニオ:自然体でいられるか。

ワニオ:問題が起きた時に協力できるか。

ワニオ:つまり、生活の相性です。

ミカコ:恋愛より現実を見るってことだね。

幸せな恋愛は意外と地味

リク:ここまで聞いていて思うんですが、幸せな恋愛って意外と地味なんですね。

ミカコ:そうなんだよね。

ミカコ:ドラマみたいな事件はあまり起きない。

ワニオ:はい。

ワニオ:幸せな恋愛は、記事になりにくい。

リク:恋愛ライターとしては複雑ですね。

ミカコ:平和だからね。

ワニオ:平和な関係は刺激が少ない。

ワニオ:しかし、刺激が少ないことと幸せでないことは別です。

ワニオ:むしろ長期的な幸福は、穏やかな日常の中にあります。

リク:なんだか今日のテーマの答えが見えてきました。

ワニオ:ええ。

ワニオ:花火は綺麗ですが、毎日打ち上げると近所から苦情が来ます。

ミカコ:急に現実的になったね。

まとめ:人は相手ではなく「心の穴」に恋をすることがある

花火(刺激的な恋)か暖房(安心できる恋)どちらを選ぶべきか悩む女性。

リク:今日はかなり深い話になりましたね。

リク:「なんであんな人を好きになるんだろう」という疑問から始まったのに、最後は自分自身の話になっていました。

ミカコ:結局、相手だけの問題じゃないんだね。

ワニオ:はい。

ワニオ:恋愛は相手を見る行為ですが、同時に自分を映す鏡でもあります。

リク:だから同じ相手を見ても、人によって反応が違う。

ワニオ:ええ。

ワニオ:承認されたい人。

ワニオ:救われたい人。

ワニオ:孤独を埋めたい人。

ワニオ:それぞれ惹かれる相手が変わります。

ミカコ:なんか耳が痛いなあ。

ワニオ:人間は時々、相手を好きになるのではありません。

ワニオ:自分の心の穴に合う人を好きになることがあります。

リク:それが今回の一番大事な話かもしれませんね。

ワニオ:はい。

ワニオ:だから「なんであんな人を好きになったんだろう」と思った時は、相手を分析するだけでは足りません。

ワニオ:自分が何を求めていたのかを見る必要があります。

ミカコ:相手探しじゃなくて、自分探しになるんだ。

ワニオ:ええ。

リク:でも、それが分かると恋愛の見え方も変わりそうです。

ワニオ:変わります。

ワニオ:刺激と相性を区別できるようになります。

ワニオ:執着と愛情を区別できるようになります。

ワニオ:そして、花火と暖房も区別できるようになります。

ミカコ:ちゃんと回収したね。

リク:導入の話ですね。

ワニオ:はい。

ワニオ:花火は綺麗です。

ワニオ:ですが、暖房には向いていません。

ワニオ:幸せな恋愛を探すなら、夜空を見るだけではなく、部屋の温度も確認したほうが良いでしょう。

ミカコ:最後だけ妙に詩人なんだよね。

リク:というわけで今回は、

なぜ人はダメな相手を好きになるのかを分析してみました。

リク:また別のテーマでも、この三人で分析していきましょう。

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