初めての合コン当日。
大学の最寄り駅。
待ち合わせ場所には、すでにハルキの友人二人が来ていた。
友人A:お、来た来た。
ハルキ:お待たせ。
友人B:緊張してる?
ハルキ:……ちょっと。
友人A:顔に出てる(笑)
ハルキ:だって初めてだし。
友人B:まあ、飯食うだけだよ。
ハルキ:昨日まで編集部で散々予習したんだけどな。
友人A:予習?
ハルキ:初対面では無理に面白くしようとしない、とか。
友人B:何それ(笑)
ハルキ:ちゃんと教わったんだよ。
友人A:誰に?
ハルキ:編集部の人たち。
友人B:ハルキって、ほんと変わった知り合い多いよな。
友人A:そういえばさ。
ハルキ:ん?
友人A:今日、一人ちょっと可愛い子来るらしいぞ。
ハルキ:へぇ。
友人B:しかも、ちょっと変わってるらしい。
ハルキ:可愛いのか変わってるのか、どっちなんだよ。
友人A:両方じゃない?
友人B:友達が「天然っていうか、不思議な子」って言ってた。
ハルキ:へぇ……。
少しだけ気になった。
でも、それ以上は考えない。
昨日、ユウカに言われたばかりだ。
「今日モテようって頑張りすぎないこと。」
ナナには、
「普通に話せばいいよ。」
ケンジには、
「ちゃんと相手の話を聞け。」
そう言われた。
友人A:行こうか。
ハルキ:うん。
三人は駅前のレストランへ向かって歩き始めた。
初めての合コン。
少しだけ緊張。
少しだけ楽しみ。
そして、この日。
ハルキは、思いがけない再会をすることになる。

合コン会場で待っていたのは、まさかの知り合いだった
店員に案内され、ハルキたちは奥のテーブルへ向かった。
まだ女性陣は来ていない。
友人A:ちょっと緊張してきた。
友人B:さっきまで余裕そうだったじゃん。
友人A:店入ると違うんだよ。
ハルキ:分かる。
しばらくすると、入口のドアが開いた。
女性三人が店員に案内されながら歩いてくる。
友人B:来た来た。
ハルキも何気なく視線を向けた。
そして、一人の女性を見た瞬間、思わず声が漏れる。
ハルキ:……あ。
向こうも足を止めた。
ツムギ:……あ。
一瞬だけ、お互いに目を丸くする。
ハルキ:ツムギさん?
ツムギ:ハルキくん。
友人A:知り合い?
ハルキ:いや、知り合いっていうか……。
ツムギ:こいこと。編集部で、一度だけ。
ハルキ:そうそう。
友人B:すごい偶然だな。
ツムギ:はい。私も驚きました。
二人は編集部で顔を合わせたことがあった。
ソウタの相談にツムギが来ていた日。
言葉を交わしたのは少しだけ。
それでも、お互いの顔は覚えていた。
ツムギ:ハルキくんも初めてなんですか?
ハルキ:うん。ツムギさんも?
ツムギ:はい。友達に誘われました。
ハルキ:俺も似たような感じ。
自然と二人とも笑う。
友人A:じゃあ、とりあえず座ろうか。
六人は席につき、飲み物を注文する。
ハルキは少し肩の力が抜けていることに気づいた。
初対面ばかりだと思っていた場所に、一人だけ知っている顔があった。
それだけで、不思議と緊張は少し和らいでいた。

合コンが始まる|「無理に頑張らない」を思い出したハルキ
飲み物が運ばれてくる。
軽く自己紹介を済ませると、自然と会話が始まった。
友人A:みんな同じ大学なんですか?
女性A:私とツムギは同じ大学です。
ツムギ:学部は違いますけど。
友人B:ハルキたちも同じ大学なんだよ。
女性B:そうなんですね。
友人A:ツムギさんとは編集部で知り合ったって言ってたけど、何してるところなの?
ハルキ:恋愛の記事とか作ってる編集部で。
ツムギ:私は時々遊びに行ってます。
女性A:遊びに行ってるだけなの?
ツムギ:はい。
ハルキ:ツムギさん、普通にいるよね。
ツムギ:居心地がいいので。
友人B:なんか面白い関係だね。
テーブルに笑いが広がる。
ハルキは少し安心した。
昨日までなら、この空気をもっと盛り上げなきゃと思っていたかもしれない。
でも今日は違う。
「無理に面白いことを言わなくていい。」
ユウカの言葉が頭に浮かぶ。
「ちゃんと相手の話を聞け。」
ケンジの言葉も思い出す。
ハルキは隣のツムギを見る。
ハルキ:大学生活どう?
ツムギ:楽しいです。
ハルキ:サークルとか入ってる?
ツムギ:入ってないです。
ハルキ:意外。
ツムギ:一人でギター弾いてる方が好きなので。
ハルキ:ギター?
ツムギ:はい。アコースティックギターです。
ハルキ:え、俺も。
ツムギ:知ってます。
ハルキ:え?
ツムギ:編集部でケンジさんが話してました。
ハルキ:そうだった。
ツムギ:少し嬉しかったです。
ハルキ:何が?
ツムギ:同じ趣味の人がいて。
ハルキ:あ、それ分かる。
ツムギ:コードの話をしても伝わる人、あまりいないので。
ハルキ:Fコード押さえられる?
ツムギ:まだ苦手です。
ハルキ:俺も最初そこ苦戦したなあ。
気づけば二人は自然にギターの話を続けていた。
無理に話題を探している感じはない。
会話が止まることもある。
でも、不思議と気まずくはなかった。
女性B:二人とも本当にギター好きなんだね。
ツムギ:好きというか……。
ハルキ:いや、好きでしょ(笑)
ツムギ:そうなんでしょうか。
ハルキ:そこは迷わないでいいと思う。
ツムギは少し笑った。

「好きって、どういう感じなんですか?」ツムギの一言に少しだけ空気が止まる
食事も少し進み、会話は恋愛の話になっていた。
女性A:みんな恋人いるの?
友人B:俺はいない。
友人A:俺も。
女性B:ツムギは?
ツムギ:いません。
女性B:昔は?
ツムギ:一人だけ付き合ったことはあります。
友人A:へぇ。
女性A:どんな人だったの?
ツムギ:優しい人でした。
女性B:じゃあ何で別れたの?
ツムギ:好きが分からなかったので。
一瞬だけ、テーブルが静かになった。
友人A:好きが……分からない?
ツムギ:はい。
ツムギ:付き合えば好きになれると思ってたんですけど、よく分からなくて。
女性B:そんなことあるんだ。
ツムギ:あるみたいです。
友人A:今も?
ツムギ:今もです。
ハルキ:だから今日来たの?
ツムギ:はい。
ハルキ:恋人を探しに?
ツムギ:それより。
ツムギ:好きという感情を知りたくて。
ハルキ:……。
ツムギ:みんな普通に「好き」って言うじゃないですか。
ツムギ:私は、その感覚がまだ分からないんです。
友人B:初めて聞いたかも。
女性A:でも、それで合コン来るってすごいね。
ツムギ:実際に来たら分かることもあるかなと思って。
ハルキ:研究みたいだね。
ツムギ:少しだけ。
ハルキ:ツムギさんらしい。
ツムギは少し照れたように笑った。
ツムギ:ハルキくんは。
ハルキ:うん?
ツムギ:好きな人、いそうですね。
ハルキ:え?
ツムギ:そんな気がしました。
ハルキ:何で?
ツムギ:何となくです。
ハルキ:……いないよ。
ツムギ:そうですか。
ツムギはそれ以上聞かなかった。

終電前、ギター友ができた夜
気がつけば、あっという間に時間が過ぎていた。
時計を見ると、終電を考え始める時間だった。
友人A:そろそろ出ようか。
女性A:そうだね。
六人は会計を済ませ、店を出る。
夜風は思ったより涼しかった。
友人B:今日は楽しかった。
女性B:またみんなで集まりたいね。
友人A:今度は昼でもいいかも。
ツムギ:昼も楽しそうです。
駅まで歩きながら、自然と二つのグループに分かれる。
ハルキはツムギの隣を歩いていた。
ハルキ:ギター、どのくらいやってるの?
ツムギ:高校生くらいからです。
ハルキ:結構長いね。
ツムギ:気付いたら続いてました。
ハルキ:ライブとか出るの?
ツムギ:出ないです。
ハルキ:家で弾く感じ?
ツムギ:はい。
ツムギ:一人で弾いてる時間が好きです。
ハルキ:今度、一緒に弾いてみたいな。
ツムギ:いいですよ。
ハルキ:ほんと?
ツムギ:はい。
ハルキ:俺、アカリとシュウっていう友達と、よく一緒にいるんだ。
ツムギ:はい。
ハルキ:二人とも音楽好きだから。
ハルキ:もしよかったら、今度みんなでご飯でもどう?
ツムギは少しだけ考えてから、小さく頷いた。
ツムギ:はい。
ツムギ:アカリさんとは編集部で少しだけお話ししたことがあります。
ハルキ:え、そうなんだ。
ツムギ:ソウタくんのことで。
ハルキ:ああ、そうだったんだ。
ツムギ:今度は普通にお話ししてみたいです。
ハルキ:きっと気が合うと思うよ。
ツムギ:楽しみです。
駅の改札が見えてきた。
友人A:じゃあ今日はここで。
女性A:ありがとうございました。
ツムギ:ありがとうございました。
ハルキ:またね。
電車に乗り込み、窓の外をぼんやり眺める。
初めての合コン。
恋人はできなかった。
でも。
少し不思議で、話していて心地いい友達が一人できた。
ハルキ:……ギター友か。
そう呟くと、少しだけ笑った。


