金曜の夜。
駅から少し離れたイタリアンバルは、仕事帰りの人たちでほどよく賑わっていた。
店内にはワインの香りと、楽しそうな笑い声。
その窓際の席で、ミユはパスタをくるくる巻きながら深いため息をついた。
ミユ:……なんかさぁ。
ユウカ:ん?
ミユ:急に全部めんどくさくなる夜ない?
ミサキがグラスを置きながら、小さく笑う。
ミサキ:あるわね。
ユウカ:めっちゃある。
ミユ:よかったぁ……あたしだけじゃなかった。
ミサキ:どうしたの急に。
ミユ:なんか今日さ、LINE返すのもしんどくて。
ユウカ:あ〜……。
ミユ:別に嫌いになったとかじゃないの。
ミユ:でも、「返信考えるの疲れる……」みたいな。
ミサキ:ある意味、現代人の職業病ね。
ユウカ:わたし、ひどい時ほんと全部閉じるもん。
ミユ:え!? ユウカさんも!?
ユウカ:SNSもLINEも通知も全部(笑)
ミサキ:分かるわ。
ミサキ:人間関係って、元気ある時は楽しいのに、疲れてる時は急に“タスク化”するのよね。
ミユ:うわぁ、それ。
ユウカ:「返さなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」が増えるんだよね。
ミユ:しかも、そういう時に限って優しくできない……。
ミサキ:で、あとから自己嫌悪する。
ミユ:そうなの〜〜!!
店員が料理を運んでくる。
熱々のアヒージョと、湯気の立つパスタ。
その香りに少し空気がゆるむ。
ユウカ:でもさ。
ミユ:ん?
ユウカ:“誰とも関わりたくない日”ってあるの、別に悪いことじゃないと思うんだよね。
ミサキ:むしろ、ちゃんと疲れてるサインかも。
ミユ:あ〜……。
ミサキ:恋愛も人間関係も、“元気”かなり使うから。
ユウカ:特に気遣うタイプの人ほどね。
ミユ:なんか今日、“わかる”しか言ってない(笑)
ミサキ:まぁ、そういう夜ってあるのよ。
好きな人のLINE。
友達との会話。
SNSの通知。
本当は嫌いになったわけじゃない。
でも、急に全部めんどくさくなる夜がある。
今回はそんな、“人間関係の充電切れ”みたいな夜について、三人でゆるく本音を話してみることにした。
LINE返すのもしんどい夜
ミユ:LINEってさ、返したい気持ちはあるんだよ?
ユウカ:うん。
ミユ:でも、文章考えるのがもう無理な夜ある。
ミサキ:あるわね。たった一文なのに、妙に重いのよ。
ミユ:そう! 「おつかれ〜」って返すだけなのに、なんか気力いる。
ユウカ:わたし、そういう時は既読つけるのも怖い。
ミユ:わかる〜〜! 既読つけたら返さなきゃってなるもんね。
ミサキ:既読機能、便利な顔してまあまあ残酷よ。
ユウカ:見たことが相手に伝わるって、地味にプレッシャーなんだよね。
ミユ:未読のままにしてるのも罪悪感あるし。
ミサキ:返してない自分にも疲れるし、返さなきゃいけない関係にも疲れる。
ミユ:うわ、それすぎる。
ユウカ:しかもさ、嫌いな人ならまだ分かるじゃん。
ミユ:うんうん。
ユウカ:好きな友達とか、好きな人相手でも、返せない時あるんだよね。
ミユ:それがまた自己嫌悪なんだよ〜。
ミサキ:好きだからこそ雑に返せない、というのもあるわ。
ユウカ:あー、それある。
ミサキ:どうでもいい相手ならスタンプで済むのに、大事な人には変にちゃんとしようとする。
ミユ:で、ちゃんと考えすぎて返せなくなる。
ユウカ:結果、放置。
ミユ:そして罪悪感。
ミサキ:綺麗な悪循環ね。
ミユ:綺麗じゃない(笑)
ミユはフォークでパスタを巻きながら、少しだけ肩を落とした。
ミユ:でも、相手からしたら「無視された」って思うかもしれないじゃん。
ユウカ:そこなんだよね。
ミユ:だから余計に苦しい。
ミサキ:本当は、「今ちょっと返す元気ない」って言えたらいいんだけどね。
ユウカ:それ言える関係、かなり強いよね。
ミユ:たしかに。
ミサキ:人間関係って、“すぐ返すこと”より、“少し遅れても戻れること”の方が大事だったりするのよ。
ユウカ:それいいね。
ミユ:なんか救われる。
ユウカ:でも実際、毎回ちゃんと返せる人なんて少ないと思う。
ミサキ:みんな表では普通にしてるだけで、裏ではスマホを伏せて天井見てる夜があるのよ。
ミユ:急に映像浮かんだ(笑)
ユウカ:でも、ほんとそうかも。
返信したくないわけじゃない。
嫌いになったわけでもない。
ただ、その夜は少しだけ、人とつながる力が残っていない。
そんな時に必要なのは、無理に明るい返事を作ることではなく、自分の疲れに気づいてあげることなのかもしれない。
好きなのに、“恋愛モード”に入れない時

追加で頼んだポテトをつまみながら、ユウカが小さく笑った。
ユウカ:あとさ。
ミユ:ん?
ユウカ:好きなのに、“恋愛モード”に入れない時ない?
ミユ:あ〜〜〜〜。
ミサキ:あるわね。
ミユ:会いたい気持ちはあるのに、「準備して出かけるのしんど……」みたいな日ある。
ユウカ:そうそう。
ユウカ:恋愛って楽しい反面、気力めっちゃ使うんだよね。
ミサキ:感情も、気遣いも、期待も動くから。
ミユ:しかも好きな人相手だと、“ちゃんとした自分”出したくなるし。
ユウカ:それ。
ミサキ:恋愛って、“素”でいられるようで、実はかなりエネルギー使うのよ。
ミユ:わかる……。
ユウカ:元気な時は楽しいんだけどね。
ミユ:でも疲れてる時って、“返信”“予定合わせ”“会話”全部ちょっと重い。
ミサキ:そして自己嫌悪。
ミユ:もうそればっか(笑)
ユウカ:わたしさ、昔「好きなら会いたいはず」って思ってたんだよね。
ミユ:うん。
ユウカ:でも今は、“好き”と“元気”って別なんだなって思う。
ミサキ:それは本当にそう。
ミサキ:どれだけ好きでも、心が疲れてたら人と向き合う余力なくなる時あるもの。
ミユ:なんかそれ聞くと安心するなぁ。
ユウカ:若い頃って、「恋愛優先できない=冷めた」って思いがちだったけど。
ミサキ:実際は、“生活に飲まれてるだけ”の時も多いのよね。
ミユ:仕事とか、人間関係とか、地味な疲れとか。
ミサキ:そう。
ミサキ:大人って、恋愛以外でもHP削られてるから。
ミユ:急にゲームみたいになった(笑)
ユウカ:でもほんとそんな感じ。
ユウカ:HP赤い時に恋愛イベント来ると、「ちょ、待って」ってなる。
ミユ:あ〜〜〜〜〜。
ミサキ:それで無理して頑張ると、恋愛そのものがしんどくなるのよ。
ミユ:ある……。
ミサキ:“好き”を続けるには、“ちゃんと休めること”も大事なのかもしれないわね。
店の窓の外では、春の夜風が静かに街を流れていた。
好きなのに、会いたくない夜。
返信したいのに、スマホを閉じてしまう夜。
それは“愛情不足”ではなく、ただ少し、心の充電が減っているだけなのかもしれなかった。
仲良くなるほど、逃げたくなる時
店内の賑やかな声をBGMみたいに聞きながら、ユウカがワインを少し飲んだ。
ユウカ:わたしさ。
ミユ:うん。
ユウカ:人と仲良くなるほど、急に距離置きたくなる時ある。
ミユ:えっ。
ミサキ:……あぁ。
ミユ:それって、嫌いになるってこと?
ユウカ:違うんだよね。
ユウカ:むしろ逆。
ユウカ:大事になるほど、なんか怖くなる。
ミユが少しだけ真顔になる。
ミユ:うわ……なんかわかるかも。
ミサキ:人って、“どうでもいい相手”より、“大事な相手”の方が怖いのよ。
ユウカ:そうなの。
ユウカ:期待されたり、ちゃんと返さなきゃって思ったり。
ミユ:あ〜……。
ユウカ:「この人に嫌われたくない」が増えてくると、急に疲れちゃう時ある。
ミサキ:近づくほど、“失う怖さ”も増えるからね。
ミユ:それで距離置いちゃうのか。
ユウカ:うん。
ユウカ:別に嫌いじゃないのに、連絡減らしたくなったり。
ミユ:それ相手からしたら不安になりそう。
ユウカ:そうなんだよねぇ……。
ユウカ:だからあとで自己嫌悪する。
ミサキ:でも、それって冷たいんじゃなくて、“抱え込みすぎるタイプ”なのよ。
ユウカ:あー……。
ミサキ:ちゃんと向き合おうとする人ほど、人間関係で消耗する。
ミユ:たしかにユウカさん、適当に人付き合いできなそう。
ユウカ:できない(笑)
ミサキ:だから急に“オフ”必要になるのよ。
ユウカ:なんか全部止めたくなる夜ある。
ミユ:「誰とも話したくない……」みたいな?
ユウカ:そう。
ユウカ:でも数日すると、「さみしいな」ってなるの。
ミユ:人間むず〜〜〜。
ミサキ:矛盾してるのが普通なのよ。
ミサキ:“ひとりになりたい”と“誰かにいてほしい”って、同時に存在するから。
ユウカ:それだ。
ミユ:なんか今日、“めんどくさくなる夜”の正体ちょっとわかった気する。
好きな人。
仲のいい友達。
本当は大事にしたい。
でも、大事だからこそ疲れてしまう夜もある。
それは冷たさではなく、不器用なくらい真剣に人と向き合っている証拠なのかもしれなかった。
めんどくさい夜って、“心の充電切れ”かも

デザートのティラミスが運ばれてきた頃には、三人の会話も少しだけ落ち着いていた。
ミユ:でもさ、こういう“全部めんどくさい夜”って、どうしたらいいんだろ。
ユウカ:無理に元気出そうとしないことじゃない?
ミサキ:同感ね。
ミサキ:疲れてる時に「ちゃんと返さなきゃ」「明るくしなきゃ」ってやると、余計にすり減るのよ。
ミユ:あ〜……。
ユウカ:わたしは最近、“今日は人間関係の電池切れてる日”って思うようにしてる。
ミユ:電池切れ。
ユウカ:うん。自分が冷たいとか、薄情とかじゃなくて、ただ充電がないだけ。
ミサキ:感情にもバッテリーがあるのよ。永久機関じゃないんだから。
ミユ:ミサキが言うと急に名言っぽい。
ミサキ:事実よ。人間、好きな人にだって常に優しくできるわけじゃない。
ユウカ:そうなんだよね。
ユウカ:好きだからこそ、ちゃんと向き合いたい。でも今は無理、って日がある。
ミユ:それって、相手にどう伝えたらいいのかな。
ミサキ:関係性にもよるけど、短くていいんじゃない?
ミユ:短く?
ミサキ:「ごめん、今日はちょっと疲れてるから明日返すね」とか。
ユウカ:それ言える関係、いいよね。
ミユ:たしかに。言われた側も安心するかも。
ミサキ:黙って消えるより、ひと言ある方がずっと優しいわ。
ユウカ:でも、そのひと言すら無理な時もあるんだよね。
ミユ:ある……。
ミサキ:その時は、まず寝なさい。
ミユ:急にナナさんみたいなこと言う(笑)
ミサキ:睡眠はだいたいの感情トラブルを一段階マシにするわ。
ユウカ:わかる。夜に考えると全部終わりっぽくなるけど、朝になると少し戻る時ある。
ミユ:夜って、感情盛れるよね。
ミサキ:盛れるわね。だいたい悪い方向に。
ユウカ:だから、夜の自分の結論を信じすぎない方がいいかも。
ミユ:それ、めちゃくちゃ大事かも。
ミサキ:“全部めんどくさい”と思った夜は、人生を決める夜じゃなくて、休む夜でいいのよ。
ミユはスプーンでティラミスをすくいながら、小さくうなずいた。
ミユ:なんか、ちょっと気が楽になった。
ユウカ:よかった。
ミユ:明日になったら、普通にLINE返せるかもしれないし。
ミサキ:それでいいのよ。
ミサキ:人間関係って、毎日フル充電で向き合わなくても続くものだから。
急に全部めんどくさくなる夜。
それは、誰かを嫌いになった夜ではなく。
少しだけ、自分の心が休みたがっている夜なのかもしれない。


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