昨日、友達にLINEを送りました。
ちょっとした確認です。
別に大事な話ではありません。
で、返事が来ました。
「了解」
……。
「!」がない。
いつもは「了解!」なのに。
待って。
怒ってる?
あたし何かした?
昨日は会ってないから、昨日じゃない。
じゃあ一昨日?
いや、一昨日も会ってない。
先週?
あ。
待って。
先週あたし、あの話した。
もしかして、あれ?
でもあのとき笑ってたよね。
……笑ってたから大丈夫とは限らないか。
むしろ本当に怒ってる人って笑うことあるよね。
怖。
そこからのあたしは早かったです。
友達は前から少しずつあたしに不満を持っていた。
でも優しいから言えなかった。
昨日ついに何かが限界を超えた。
たぶん共通の友達にも相談している。
「ミユってさ……」から始まるグループLINEが、あたしの知らないところにあるかもしれない。
次にみんなで会ったとき、ちょっと空気が違う。
あたしは気づく。
でも聞けない。
少しずつ誘われなくなる。
編集部でも気まずくなる。
最終的に「こいこと。」を辞める。
知らない街へ引っ越す。
海の近くがいい。
そこで小さなカフェを始める。
常連のおばあちゃんに「あんた、何かあったね」と言われる。
あたしは少し笑って、窓の外の海を見る。
「昔の話です」
……。
いや待って。
現実ではまだ何も起きてないのに、あたしの頭の中ではもう謝罪会見どころか第二の人生まで始まっている。
LINE一通です。
「了解」
それだけ。
あ、待って。
これ昨日の話なんだけど。
あたし、「嫌われたかも」と思ったときの想像力が、たぶんちょっとおかしいです。
普段は冷蔵庫を開けて何を取りに来たか忘れるのに。
こういうときだけ、脳が本気を出します。
本当にやめてほしい。
使うところ、そこじゃないから。

嫌われたかも、の「かも」が仕事をしすぎる
「嫌われた」なら、まだ分かります。
つらいけど。
悲しいけど。
事実なら、もう向き合うしかない。
問題は「嫌われたかも」です。
かも。
この二文字、自由すぎません?
返信が短かった。
嫌われたかも。
目が合わなかった。
嫌われたかも。
いつもより声が低かった。
嫌われたかも。
SNSは更新してるのに、あたしへの返信はない。
はい。
嫌われました。
……まだ分かんないって。
でも、そのときのあたしには分からないんです。
「かも」が一回入ってくると、急に全部が怪しく見える。
あ。
SNSで思い出したんだけど。
前に好きだった人が、夜中に意味深な投稿をしたことがありました。
たしか、
「今日は忘れられない日になった」
みたいな感じ。
待って。
何があった?
誰といた?
忘れられないって何?
良い意味?
悪い意味?
もしかして、あたし関係ある?
その人と最後に話した日の会話を、最初から思い出しました。
あのとき、ちょっと意味ありげに笑ってた気がする。
いや。
笑ってた。
絶対笑ってた。
あれ、もしかして。
あたしのこと……。
翌日分かりました。
応援してるサッカーチームが、すごい試合をしたらしいです。
知らんがな。
いや、好きな人にとっては大事なんだけど。
あたしの脳内では一晩で恋愛映画が一本完成してたので、急にサッカー見せられても困る。
しかも試合結果まで調べました。
本当にすごい試合でした。
ちょっと感動しました。
……何の話だっけ。
あ、嫌われたかも、の話。
そう。
「かも」には、何を入れてもいいんです。
嫌われたかも。
怒ってるかも。
避けられてるかも。
本当は前から苦手だったのかも。
そして怖いのが、考えれば考えるほど、それっぽい理由が見つかること。
人間、数年生きてれば失言のひとつやふたつあります。
あたしはもう少しあります。
だから過去を掘れば、だいたい何か出てくる。
「あれかもしれない」
「いや、こっちかも」
「待って、あのときも変だった」
気づけば、あたしの人生が全部伏線になります。
すごい。
名作映画みたい。
嫌われた証拠は、まだ一個もないけど。

あたしの脳は、証拠よりストーリーを欲しがる
嫌われた証拠を探している。
あたしはずっと、そう思っていました。
相手の返信を読み返して。
前のLINEと比べて。
SNSを見て。
最後に会った日のことを思い出す。
冷静に状況を確認しているつもり。
探偵みたいでしょ。
まあ、探偵が同じLINEを32回読むかは知りませんけど。
でも最近、ちょっと気づいたことがあります。
あたし。
証拠を探してない。
自分が作ったストーリーに合う場面を集めてるだけかもしれない。
返信が遅い。
やっぱり嫌われてる。
返信が早い。
早く会話を終わらせたいんだ。
笑顔で話してくれた。
気を使ってる。
普通に話しかけてきた。
逆に怪しい。
無敵です。
何をされても嫌われます。
相手、勝ち目ない。
あ、これ書いてて思ったんだけど。
犯人を最初に決めてる刑事ドラマと同じじゃない?
刑事ミユ、現場に到着。
容疑者はあたし。
証拠は「了解」にビックリマークがなかったこと。
弱い。
かなり弱い。
普通なら捜査打ち切りです。
でも刑事ミユは諦めません。
過去のLINEを調べます。
半年前の会話から、少し短い返信を発見。
「これもですね」
誰に言ってるんだろう。
さらに三か月前。
あたしが送ったメッセージに、相手はスタンプだけで返信。
「なるほど」
何が?
そして刑事ミユは確信します。
犯人はあたし。
いや、犯人って何したの。
分からない。
でも有罪。
裁判へ。
裁判官もあたし。
検察もあたし。
被告人もあたし。
傍聴席にもたぶん、あたしがいます。
判決。
有罪。
罪名。
なんか嫌われるようなことをした罪。
雑。
そして被害者だけ、この裁判が開かれていることを知らない。
友達はたぶん、その頃ご飯食べてます。
ラーメンとか。
いいな。
あたしもラーメン食べればよかった。
でも、こういうときの脳って不思議です。
事実より、ちゃんとした物語がある方が安心する。
「たまたま返信が短かった」
これだと理由がない。
分からない。
だから怖い。
でも。
「あたしがあのとき余計なことを言ったから嫌われた」
こっちは物語になってる。
原因がある。
結果がある。
つらいけど、分かりやすい。
たぶんあたしは、分からないままでいるのが苦手なんだと思います。
だから勝手に物語を作る。
勝手に伏線を見つける。
勝手に最終回まで見る。
で。
だいたいバッドエンド。
せめて自分で作るなら、もう少し明るい話にすればいいのに。
監督の趣味が悪い。

友達の「大丈夫だよ」は信じないのに、自分の妄想は秒で信じる
こういうとき、あたしは人に相談します。
一人で考えても分からないから。
ちゃんと第三者の意見を聞こう。
冷静な人に話せば、きっと客観的に見てもらえる。
大事です。
客観性。
で、相談します。
「考えすぎじゃない?」
いや、でもね。
終わりです。
客観性、終了。
早かった。
あたしは相談したはずなのに、相手が「大丈夫だと思う」と言った瞬間、なぜか反論を始めます。
「でもいつもはビックリマークついてるんだよ?」
「忙しかったんじゃない?」
「でもSNSは更新してる」
「LINE返す気分じゃなかったとか」
「でも前は返してくれた」
「眠かったんじゃない?」
「でも投稿したの23時17分だよ?」
……。
怖いな。
23時17分まで覚えてる人と話したくない。
あたしだけど。
前にナナさんにも似たような相談をしたことがあります。
一通り話を聞いたあと、ナナさんは言いました。
「で、ミユは大丈夫って言ってほしいの? 嫌われてるって言ってほしいの?」
あたしは答えました。
「大丈夫って言ってほしい」
「じゃあ大丈夫」
「でもさ」
「帰れ」
ひどい。
いや。
今なら少し分かります。
あたし、安心したくて相談してるのに、安心する準備ができてないんです。
「大丈夫だよ」と言われたら、証拠が欲しい。
なんで大丈夫なの?
本当に?
何パーセント?
似たケースは?
過去の統計は?
急にリクさんみたいになる。
たぶんリクさんはもっとちゃんとしてる。
ごめんなさい。
でも、自分の不安には何も聞きません。
「嫌われたかも」
どうぞ。
「みんな裏であたしの話してるかも」
どうぞどうぞ。
「最終的に海辺でカフェやるかも」
いらっしゃいませ。
安心には証拠を求めるくせに、不安は顔パスで入れてしまう。
あ。
顔パスって今も言う?
なんか急に昭和っぽくない?
ケンジさんに聞こうかな。
いや、聞いたら絶対昔話始まるからやめよう。
……何の話だっけ。
そう、不安。
たぶん不安って、あたしの中ではすごく信用があるんです。
長い付き合いだから。
何度も来てるし。
見慣れてる。
だから入口で止めない。
でも安心は、知らない人みたいに扱う。
身分証ありますか。
予約されてますか。
どなたの紹介ですか。
めちゃくちゃ警戒する。
逆じゃない?
これ。
書いてて今、普通に思いました。
逆だよね。
次から気をつけよう。
……。
たぶん。

本当に嫌われたことも、もちろんある
ここまで読んで、
「全部ミユの考えすぎなんじゃない?」
と思った人。
違います。
聞いてください。
本当に嫌われたこともあります。
……自信満々に言うことじゃないけど。
友達と少しずつ疎遠になったこともある。
好きだった人の気持ちが、あたしから離れていったこともある。
後から考えて、
「あのときの違和感、当たってたんだ」
と思ったこともあります。
これが困る。
一回でも当たるとね。
あたしの中の刑事ミユが、急に偉そうになるんです。
「ほら見ろ」
って。
お前、前の事件もほぼ勘だっただろ。
でも当てた実績がある。
刑事ミユ、まさかの続投です。
前に、すごく仲が良かった友達と疎遠になったことがあります。
ケンカしたわけじゃない。
どっちかが何かひどいことをしたわけでもない。
たぶん。
少なくとも、あたしはそう思っています。
最初は返信が少し遅くなりました。
会う回数が減って。
予定を合わせようとしても、なかなか合わなくなった。
その頃のあたしは、ずっと考えていました。
何かしたかな。
あの話が嫌だった?
連絡しすぎた?
逆に連絡しなさすぎた?
一回、ちゃんと聞いた方がいい?
でも聞いたら重い?
考えて。
考えて。
考えて。
結局、その子とは今ほとんど連絡を取っていません。
理由は、今もよく分からないです。
あたしが何かしたのかもしれない。
向こうの生活が変わっただけかもしれない。
ただ、仲良くする時期が終わったのかもしれない。
分かりません。
前のあたしなら、この「分かりません」がすごく嫌でした。
だから理由を作ろうとした。
きっとあのときのせい。
あたしが悪かった。
嫌われた。
そう決めれば、話は終わるから。
でも。
何百回考えても、その子との距離は戻りませんでした。
好きだった人の気持ちが離れたときもそう。
返信の時間を調べても。
言葉の意味を考えても。
SNSを見ても。
友達に相談しても。
離れるときは、離れました。
考えれば嫌われないなら、あたしはたぶん今頃、世界中に好かれてる。
本当に。
かなり考えてきたので。
世界人口って今何人だっけ。
まあ、全員いけると思う。
でも無理でした。
嫌われることもあった。
離れていく人もいた。
理由が分からないまま終わった関係もある。
それは今でも、ちょっと寂しいです。
ただ。
あの頃のあたしが夜中に一人で開いた裁判。
あれで誰かとの関係を救えたことは、たぶん一度もありません。
刑事ミユ。
そろそろ異動かもしれない。

それで、「了解」の話なんだけど
あ。
そうだ。
「了解」の話。
覚えてます?
最初のLINE。
ビックリマークがなくて、あたしが嫌われて、友達を失って、「こいこと。」を辞めて、海辺でカフェを始めた話。
始めてないけど。
翌日。
普通にLINEが来ました。
「昨日ごめん! 電車乗り換えるとこで!」
以上。
……。
乗り換え。
電車の。
あたしが一晩かけて友情を終わらせている間、あの子は電車を乗り換えていました。
たぶん階段とか上ってた。
ホームも確認してた。
急いでた。
だから「了解」って打った。
以上。
グループLINEはなかった。
編集部も気まずくならない。
あたしも辞めない。
海辺のカフェは開店前に閉店しました。
常連のおばあちゃん、ごめん。
存在してないけど。
しかも。
「昨日ごめん!」
ビックリマーク。
戻ってる。
二個も。
よかった。
……いや、よくない。
あたしの昨日の三時間、何だったの?
返して。
誰に言えばいいんだろう。
友達?
違う。
友達は電車乗り換えてただけ。
じゃあ電車?
電車も悪くない。
時間通り走ってた。
たぶん。
あたしです。
全部あたし。
「嫌われたかも」と思ったあたしが、勝手に三時間かけて「嫌われた」に育てました。
育てなくていいものを、大切に育ててしまった。
水まであげた。
日当たりのいい場所に置いた。
立派に育ちました。
翌朝、枯れました。
乗り換えだったので。
こういうこと、あたしはたぶん何回もやっています。
相手の機嫌。
返信の短さ。
ちょっとした表情。
小さな違和感を拾って。
家に持って帰って。
じっくり眺める。
なんなら拡大する。
そして勝手に名前をつける。
「嫌われた」
本当はまだ、何なのか分からないのに。
だから。
次からは少しだけ待とうと思います。
すぐ育てない。
水をあげない。
日当たりのいい場所にも置かない。
一晩くらい、その辺に置いておく。
翌日になったら。
だいたい電車を乗り換えてただけかもしれないから。

たぶん次も、あたしは勝手に映画を作る
ここまで書いたので。
次からあたしは変わります。
返信が短くても気にしない。
ビックリマークの数なんて数えない。
SNSの更新時間も見ない。
嫌われたかも、と思っても。
すぐに結論を出さない。
完璧。
成長しました。
このコラムを書いた意味がありました。
……。
さっき、スマホを見ました。
好きな人からLINEが来ていました。
「おやすみ」
……。
絵文字がない。
いつもあるのに。
待って。
いや。
待とう。
今のあたしなら分かる。
まだ何も起きてない。
眠かったのかもしれない。
急いでたのかもしれない。
電車を乗り換えてたのかもしれない。
寝るのに?
いや、分かんない。
帰りの電車かもしれないし。
とにかく。
落ち着こう。
これ、現実? それともミユ監督最新作?
一回だけ考える。
たぶん、それくらいでいいんだと思います。
考えすぎない。
不安にならない。
妄想しない。
そんな人には、たぶんなれない。
だってあたしです。
冷蔵庫を開けて何を取りに来たか忘れるのに、三年前の好きな人の「うん」がいつもより素っ気なかったことは覚えている女です。
脳の保存場所がおかしい。
でも。
勝手に映画を作るなら。
せめて、まだ予告編しか見ていないうちに結末を決めるのはやめたい。
「嫌われたかも」は、まだ「かも」です。
犯人も決まってない。
裁判も始まってない。
海辺のカフェの物件も探さなくていい。
一晩待つ。
できれば寝る。
無理なら推しの動画を見る。
そして翌日。
続きを見る。
それでも嫌われていたら。
そのとき考えます。
刑事ミユを呼び戻すかは、ちょっと検討します。
ちなみに。
さっきの「おやすみ」の話。
まだ返信してません。
何て返そう。
いつも通りでいいよね?
絵文字つける?
つけすぎたら変?
ハートは重い?
待って。
これ。
もう始まってない?
ちなみに次回作は、好きな人の「おやすみ」に絵文字がなかった夜です。たぶん超大作になります。


