「でも」「いや」が口ぐせの人、いるよね
仕事帰り。
駅から少し歩いた路地裏にある町中華酒場。
餃子の焼ける音と香ばしい匂いが店いっぱいに広がっている。
瓶ビールとレモンサワーが運ばれ、三人はいつものように乾杯した。
ナナ:
ねぇ、今日さ。
ナナ:
会社でまた思ったんだけどさ。
ミカコ:
また何かあった?
ナナ:
何を話してもさ。
ナナ:
「でも。」
ナナ:
「いや。」
ナナ:
から入る人っているじゃん?
ユキノ:
あぁ……いるね。
ナナ:
別に意見が違うのはいいの。
ナナ:
でも毎回それだと、「もう話さなくていいや」ってならない?
ミカコ:
なる。
ミカコ:
内容より先に、話す気がなくなる。
ユキノ:
本人は普通に話してるつもりだったりするんだよね。
ナナ:
それも分かるんだけどさ。
ナナ:
なんか毎回ジャブ打たれてから会話始まる感じ。
三人とも思わず笑う。
ミカコ:
例えがボクサーなんだよ。
ナナ:
だって本当にそんな感じなんだもん。
ナナ:
「このラーメンおいしいね。」
ナナ:
「でも、○○の店の方がおいしい。」
ナナ:
「最近忙しくてさ。」
ナナ:
「いや、それくらい普通でしょ。」
ナナ:
一回くらい、「そうなんだね。」って言ってくれてもいいじゃんって思う。
ユキノ:
今日はなかなか共感する人が多そうなテーマだね。
ミカコ:
じゃあ今日は、否定から入る人って何を考えてるのか。
ミカコ:
そこを少し掘ってみようか。
否定から入る人は、何を考えているの?

熱々の焼き餃子が運ばれてきた。
ナナがひとつ頬張りながら、首をかしげる。
ナナ:
でもさ。
ナナ:
あれって何なんだろうね。
ナナ:
わざと感じ悪くしてるのかな?
ミカコ:
私は違うと思う。
ユキノ:
私も。
ミカコ:
もちろん意地悪な人もいる。
ミカコ:
でも、ほとんどは癖なんじゃないかな。
ナナ:
癖?
ミカコ:
例えば、「でも」が口ぐせになってる人。
ミカコ:
本人は会話を続けてるつもり。
ミカコ:
でも受け取る側は、「否定された」と感じる。
ユキノ:
家庭や職場で、それが普通の話し方だった人もいるよね。
ユキノ:
意見を言う前に一度反対する文化というか。
ナナ:
なるほど。
ナナ:
本人は普通だから、気づいてないんだ。
ミカコ:
もう一つある。
ナナ:
なになに?
ミカコ:
「自分の意見を早く言いたい人」。
ミカコ:
相手の話を最後まで受け取るより、「私はこう思う」が先に出てくる。
ユキノ:
悪気というより、待てないんだね。
ミカコ:
そう。
ミカコ:
だから最初の一言が「でも」になる。
ナナ:
あー、いるいる。
ナナ:
相談してるのに、途中でもう自分の話始める人。
ユキノ:
それで相談した側は、「聞いてもらえなかった」って感じちゃうんだよね。
ミカコ:
否定から入る人って、話すのは得意でも、聞くのは少し苦手なのかもしれない。
ナナ:
それ、今日一番納得したかも。
ナナ:
「否定が嫌」っていうより、「ちゃんと聞いてくれてない」が本音なのかもしれないね。
「正しいこと」と「話したくなる人」は違う

店員が熱々の麻婆豆腐をテーブルに置く。
湯気と山椒の香りに、三人が思わず箸を伸ばした。
ナナ:
でもさ。
ナナ:
否定から入る人って、言ってること自体は正しかったりしない?
ミカコ:
する。
ミカコ:
だから余計に難しい。
ユキノ:
「正しいことを言われてるのに、なんか疲れる。」ってあるよね。
ナナ:
そうそう!
ナナ:
間違ってないのに、もう話したくなくなる。
ミカコ:
それはね。
ミカコ:
人は内容だけじゃなく、受け止めてもらえたかで会話を覚えてるから。
ユキノ:
例えば私が、
ユキノ:
「今日すごく忙しかった。」って言ったとして。
ナナ:
うん。
ユキノ:
最初に
ユキノ:
「いや、それくらい普通だよ。」
ユキノ:
って返されたら、もう続きを話す気持ちが少しなくなっちゃう。
ミカコ:
でも、
ミカコ:
「大変だったね。」
ミカコ:
そのあとに
ミカコ:
「でも、無理しすぎない方がいいよ。」
ミカコ:
なら、同じ内容でも全然違う。
ナナ:
ほんとだ。
ナナ:
後者なら普通に聞ける。
ユキノ:
最初に一回受け止めてもらえるだけで、人って安心するんだよね。
ミカコ:
だから私は、
ミカコ:
「何を言うか」より、「どんな順番で言うか」の方が大事だと思ってる。
ナナ:
順番かぁ。
ナナ:
確かに、「でも」を「そうなんだね」のあとに持ってくるだけで印象変わるもんね。
ユキノ:
会話って勝ち負けじゃないからね。
ユキノ:
相手に伝わることより、相手が話したくなることの方が大切な場面も多いと思う。
ナナは餃子を頬張りながら、大きくうなずいた。
ナナ:
「正しい人」より、「また話したい人」の方が、私は好きだな。
相手を変えるより、自分が疲れない距離を選ぶ

空になったお皿が下げられ、代わりに熱々の焼売が運ばれてきた。
三人は少しだけゆっくりした口調になる。
ナナ:
じゃあさ。
ナナ:
そういう人とは、どう付き合えばいいんだろう。
ミカコ:
私は変えようとは思わないかな。
ナナ:
あきらめるってこと?
ミカコ:
ううん。
ミカコ:
人の話し方って長年の癖だから、こっちが何とかしようと思うほど疲れる。
ユキノ:
「なんで分かってくれないの?」って思い始めると、お互いつらくなるしね。
ナナ:
確かに。
ナナ:
何回も同じことでモヤモヤするくらいなら、自分が距離感を考えた方が早いか。
ミカコ:
そう。
ミカコ:
仕事なら必要な話だけにする。
ミカコ:
プライベートなら、深い相談はしない。
ミカコ:
それも立派な付き合い方だと思う。
ユキノ:
逆に、すごく仲のいい友達なら、一度だけ伝えてみるのもアリかも。
ナナ:
どうやって?
ユキノ:
「たまに最初に否定されてるように感じて、ちょっと悲しくなることがあるんだ。」って。
ユキノ:
責めるんじゃなくて、自分の気持ちとして話す。
ミカコ:
それで気づく人もいると思う。
ナナ:
気づかない人もいそうだけどね(笑)
三人が笑う。
ユキノ:
それでも変わらなかったら、それがその人なんだと思う。
ミカコ:
だから無理に付き合い方を変える必要はない。
ミカコ:
相手を変えようとするより、自分が心地よく話せる距離を選ぶ。
ナナ:
それなら、自分も相手も無理しなくて済むね。
ユキノ:
会話って、正しさを競うものじゃなくて、お互いが安心して話せる場所を作るものだから。
ナナは静かにグラスを持ち上げ、小さく笑った。
ナナ:
今日はなんか、人付き合いが少し楽になる話だったかも。
まとめ|最初のひと言が、会話の空気を決める

店を出ると、夜風が昼間の暑さを少しだけ忘れさせてくれた。
三人は駅へ向かってゆっくり歩く。
ナナ:
今日話して思ったけどさ。
ナナ:
私、「否定される」のが嫌だったんじゃないんだね。
ナナ:
ちゃんと聞いてもらえてない感じが、嫌だったんだ。
ミカコ:
たぶん、そういう人は多いと思う。
ミカコ:
人は意見より先に、「受け入れてもらえたか」を感じ取るから。
ユキノ:
だから最初のひと言って大事なんだよね。
ユキノ:
同じ意見でも、伝える順番が違うだけで、相手の受け取り方は大きく変わる。
ナナ:
「でも。」じゃなくて、まずは「そうなんだね。」か。
ナナ:
それだけで会話って、ずいぶん優しくなる気がする。
ミカコ:
もちろん、意見が違うことは悪いことじゃない。
ミカコ:
大事なのは、相手の話を一度受け止めた上で、自分の考えを伝えること。
ユキノ:
そして、もし相手がいつも否定から入る人なら。
ユキノ:
無理に変えようと頑張るより、自分が心地よく話せる距離を選ぶことも、自分を大切にする方法だと思う。
駅前の信号が青に変わる。
三人は自然と歩き出した。
ナナ:
よし。
ナナ:
明日はまず、「そうだね。」って言ってみようかな。
ミカコ:
それだけで、職場の空気が少し変わるかもしれないね。
ユキノ:
乾杯は終わっちゃったけど。
ユキノ:
明日の会話が、今日より少し心地よくなりますように。



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