夏の午後。
大学の近くにあるファミレスで、アカリ、ハルキ、シュウの三人はドリンクバーを片手にだらだらと時間を潰していた。
テーブルの上には、食べ終わったポテトの皿。
シュウが残った一本に手を伸ばしたところで、スマホを見ていたアカリがふと思い出したように口を開いた。
アカリ:もう夏休み終わる学校もあるんだね。
ハルキ:そりゃ八月も終わるし。
アカリ:早くない?
シュウ:大学生になってから夏休みの感覚変わったよね。
アカリ:高校のときとか、夏休み終わるのめっちゃ嫌だった。
ハルキ:みんな嫌だろ。
アカリ:でも新学期って、ちょっと楽しみでもなかった?
ハルキ:そう?
アカリ:久しぶりに友達に会えるし。
シュウ:好きな人にも?
アカリ:……まあ、それもある。
ハルキ:そこが本題じゃん(笑)
アカリ:いや、でもさ。新学期ってたまにいなかった?
シュウ:何が?
アカリ:夏休み前と別人みたいになってる人。
ハルキ:あー。
シュウ:いるね。
アカリ:髪型変わってたり、なんか急に垢抜けてたり。
ハルキ:めちゃくちゃ日焼けしてるやつもいる。
シュウ:逆に髪切りすぎて、誰だか分からない人とか。
アカリ:いるいる(笑)
アカリは笑ってから、ストローでアイスティーを混ぜた。
アカリ:でも、それが好きな人だったら結構事件じゃない?
ハルキ:事件?
アカリ:だって一ヶ月くらい会ってなくて、久しぶりに学校行ってさ。
アカリ:教室に好きな人いるじゃん。
シュウ:うん。
アカリ:なんか前よりかっこよくなってたら……。
アカリは少し考えた。
アカリ:困る。
ハルキ:なんで困るんだよ(笑)
シュウ:そこから聞こうか。
夏休みが終わるのは嫌だった。
それでも、新学期だけは少し楽しみだった。
久しぶりに会う友達。
そして、夏休み中には会えなかった好きな人。
大学生になった三人が、中学や高校の頃を思い出しながら話す。
今回は、そんな夏休み明けの恋の話。
夏休み明け、好きな人が別人になっている

ハルキ:でも一ヶ月くらいだろ? そんな変わる?
アカリ:変わるって。中高生の一ヶ月なめちゃダメだよ。
シュウ:何目線なの(笑)
アカリ:いや、ほんとに。夏休みって変わる人いたじゃん。
ハルキ:まあ、髪型はあるな。
シュウ:髪切ったり、伸びたり。
アカリ:そうそう。あと男子って急に背伸びてなかった?
ハルキ:夏休みだけで?
アカリ:分かんない。でも久しぶりに見ると「こんな背高かったっけ?」ってなる。
シュウ:久しぶりだからじゃない?
アカリ:それもあるのかな。
アカリはドリンクバーから持ってきたアイスティーを一口飲む。
アカリ:好きな人なんて特にそうじゃない?
ハルキ:何が?
アカリ:久しぶりに見ると、なんか三割増しくらいになる。
ハルキ:増しすぎだろ(笑)
シュウ:でもちょっと分かる。
アカリ:でしょ?
シュウ:毎日見てた人を一ヶ月くらい見なくなるじゃん。久しぶりに会うと「あ、こんな感じだった」ってなる。
ハルキ:それ三割増しなの?
シュウ:アカリの三割は知らない。
アカリ:そこは乗ってよ(笑)
ハルキ:女子も結構変わってたけどな。
アカリ:たとえば?
ハルキ:髪伸びてたり。
アカリ:普通。
ハルキ:髪切ってたり。
アカリ:普通。
ハルキ:じゃあ何を求めてんだよ(笑)
シュウ:急に大人っぽくなってる子とかいなかった?
ハルキ:あー、それはいたかも。
アカリ:いるよね。
ハルキ:でも制服は同じなんだよな。
シュウ:そう。別に何が変わったのか分からないのに、雰囲気だけ違う。
アカリ:それそれ!
アカリ:あれ何なんだろうね。
ハルキ:知らん(笑)
シュウ:夏休みに何かあったんじゃない?
アカリ:その「何か」が気になるんだよ。
ハルキ:何かって?
アカリ:分かんないけど。
シュウ:恋とか?
アカリ:それは嫌。
ハルキ:早い早い(笑)
アカリ:だって好きな人の話でしょ? 夏休み中に知らないところで恋とかされてたら嫌じゃん。
ハルキ:知らないところって、別にアカリに報告する義務ないだろ。
アカリ:分かってるよ!
シュウ:夏休み明けに好きな人がちょっと大人っぽくなってて、「何があったの?」ってなるのは分かる。
アカリ:そうなの。
アカリ:しかも聞けないじゃん。
ハルキ:「夏休み何してた?」でいいじゃん。
アカリ:それが普通に聞けるくらい仲良かったら苦労してないの。
ハルキ:ああ、そういう片思いか。
シュウ:同じクラスだけど、休みの日に連絡するほどではないとか。
アカリ:そうそう。学校ではちょっと話す。でも夏休みに二人で遊ぶとかは全然ない。
ハルキ:なるほど。
アカリ:だから一ヶ月分、何も知らないわけ。
シュウ:その間に髪型変わって、ちょっと雰囲気変わって。
アカリ:そう! それで教室入ったらいるの。
ハルキ:好きな人が。
アカリ:いるの。
シュウ:二回言った(笑)
アカリ:だって久しぶりなんだもん。
ハルキ:なんか中学生みたいになってきたな(笑)
アカリ:中学とか高校の話してんだからいいでしょ。
シュウが笑いながら、残っていたポテトを一本つまむ。
シュウ:でもさ。
シュウ:それで前よりかっこよくなってたら、普通は嬉しくない?
アカリ:……嬉しいけど。
ハルキ:けど?
アカリ:ちょっと困る。
ハルキ:だから何に困るんだよ(笑)
アカリ:そこには理由があるんだって。
かっこよくなってると、嬉しいのに困る

ハルキ:で、何に困るの?
アカリ:だからさ。自分が「かっこよくなった」って思うってことは、他の女子も思うかもしれないじゃん。
ハルキ:ああ。
シュウ:ライバルが増える。
アカリ:そう!
ハルキ:まだ増えたか分かんないだろ(笑)
アカリ:でも嫌じゃん。夏休み前まで普通だったのに、新学期になったら急に女子から「○○くん、なんか変わったよね」とか言われ始めるの。
シュウ:ありそう。
アカリ:でしょ?
ハルキ:でも本人からしたら、勝手に髪切っただけかもしれないぞ。
アカリ:それでも。
ハルキ:理不尽だなあ。
アカリ:理不尽なのは分かってる(笑)
アカリは笑いながら、グラスの氷をストローでつついた。
アカリ:なんていうかさ。
アカリ:自分は前からいいと思ってたのに、急にみんなに見つかった感じ。
シュウ:あー。
ハルキ:「私の方が先に知ってた」みたいな?
アカリ:そうそう。
ハルキ:別にアカリのものじゃないけどな。
アカリ:分かってるって(笑)
シュウ:でもその感じ、ちょっと分かるよ。
アカリ:シュウ分かってくれる?
シュウ:好きな人じゃなくてもある。自分だけが知ってた店とか曲が急に流行ると、ちょっとだけ複雑。
ハルキ:それと同じなの?
シュウ:たぶん違う(笑)
アカリ:でも近い近い。
ハルキ:女子って面倒くさいな。
アカリ:男子だって同じでしょ。
ハルキ:何が?
アカリ:夏休み明け、好きな女子がめっちゃ可愛くなってたら。
ハルキ:それは嬉しいだろ。
アカリ:で、周りの男子も「あの子可愛くなったよな」って言い始めても?
ハルキ:……。
シュウ:考え始めた。
ハルキ:ちょっと嫌かも。
アカリ:ほら!
ハルキ:いや、嫌っていうか。
アカリ:何?
ハルキ:なんでお前ら急に気づいたんだよ、とは思うかもしれない。
アカリ:同じじゃん(笑)
シュウ:結局二人とも面倒くさい。
ハルキ:シュウはないの?
シュウ:どうだろ。
シュウは少し考える。
シュウ:私は、久しぶりに会って変わってるの結構好きかも。
アカリ:好きな人でも?
シュウ:うん。
ハルキ:なんで?
シュウ:自分が知らない時間があった感じするじゃん。
アカリ:え、それちょっと寂しくない?
シュウ:ちょっとね。
シュウ:でも「何してたんだろ」って知りたくなる。
アカリ:なるほどね。
ハルキ:俺は普通に聞けばいいと思うけど。
アカリ:だから、それができない片思いもあるの。
ハルキ:また怒られた(笑)
シュウ:でもさ、逆はどうなの?
アカリ:逆?
シュウ:好きな人が変わってるのは嫌なのに、自分が変わったら気づいてほしくない?
アカリが一瞬黙る。
アカリ:……それは気づいてほしい。
ハルキ:勝手すぎるだろ(笑)
アカリ:だってそれは別の話じゃん。
シュウ:どう別なの?
アカリ:知らないけど、別なの(笑)
三人の笑い声が、夏のファミレスに混ざった。
自分の変化には、気づいてほしい

ハルキ:じゃあさ、どのくらいの変化なら気づいてほしいの?
アカリ:どのくらいって?
ハルキ:髪バッサリ切ったら、そりゃ気づくだろ。
アカリ:そういうのじゃないんだよね。
ハルキ:じゃあ何だよ(笑)
アカリ:ちょっと髪型変えたとか。
シュウ:難易度上がった。
アカリ:あと、なんか雰囲気変わったとか。
ハルキ:さらに上がった。
アカリ:それくらい気づいてほしいじゃん。
ハルキ:無理だって(笑)
シュウ:でも好きな人だけ気づいてくれたら嬉しいよね。
アカリ:そう! それ!
ハルキ:シュウまでそっち側に行った。
アカリ:別に「可愛くなったね」とかまで言わなくていいの。
ハルキ:いいんだ。
アカリ:「なんか変わった?」くらい。
シュウ:それ言われたら?
アカリ:「別に?」って言う。
ハルキ:面倒くさっ(笑)
アカリ:違うじゃん! 「そうなの、気づいた?」とか言ったらめっちゃ待ってたみたいじゃん。
シュウ:待ってたんでしょ?
アカリ:待ってるけど、それを知られたくないの。
ハルキ:もう分かんねえよ(笑)
ハルキが呆れたように笑う。
アカリはストローをくわえながら、少し考えた。
アカリ:でも新学期初日って、ちょっと気合い入れてなかった?
シュウ:私はそこまで。
アカリ:えー。
シュウ:アカリは絶対やってそう。
アカリ:まあ……多少は。
ハルキ:何するの?
アカリ:前の日にちゃんと髪やったり。
ハルキ:前の日に?
アカリ:トリートメントとかあるじゃん。
ハルキ:そこから準備するのか。
シュウ:新学期に命かけてる。
アカリ:かけてない(笑)
アカリ:でも久しぶりにみんなに会うんだから、ちょっとはちゃんとしたくない?
シュウ:それは分かる。
ハルキ:俺は朝起きられるかしか考えてなかったな。
アカリ:男子も絶対いるって。夏休み中に髪型変えて、新学期ちょっと意識してる人。
ハルキ:いたかもな。
シュウ:ハルキは?
ハルキ:俺?
アカリ:好きな子いたとしてさ。夏休み明けに会うなら、ちょっとかっこよくして行こうとか思わない?
ハルキ:……髪くらいはちゃんとするかも。
アカリ:ほら。
ハルキ:でもそれ好きな子関係なくない?
シュウ:ほんとに?
ハルキ:ほんとだよ。
アカリ:怪しいなあ。
ハルキ:何で取り調べ受けてんの、俺(笑)
シュウが笑いながらドリンクを飲む。
シュウ:でも新学期って、相手の変化にはすぐ気づくのに、自分の変化にも気づいてほしいんだね。
アカリ:好きな人だからね。
ハルキ:さっきまで変わってたら困るって言ってたのに。
アカリ:それとこれとは別。
ハルキ:便利な言葉だな(笑)
シュウ:でも、気づいてもらえなかったら?
アカリ:普通にへこむ。
ハルキ:本人は何も知らないのに。
アカリ:そういうもんなの。
シュウ:片思いって忙しいね。
アカリ:忙しいよ。
ハルキ:夏休み明けただけなのにな(笑)
たった一ヶ月くらい。
相手が少し変わっただけで気になって、自分の小さな変化には気づいてほしくなる。
そして、いざ新学期が始まると。
夏休み前まで普通にできていたことまで、なぜか少し難しくなったりする。
久しぶりだと、前より話せなくなる

シュウ:でも私、新学期って見た目よりそっちの方があったかも。
アカリ:そっち?
シュウ:久しぶりに会うと、なんか話しにくくなるやつ。
アカリ:あー! ある!
ハルキ:仲良かったのに?
シュウ:仲良い友達なら普通だよ。
アカリ:好きな人とかね。
シュウ:そういう人。
ハルキ:夏休み前は話せてたんだろ?
アカリ:話せてたよ。だから困るの。
ハルキ:なんで一ヶ月会わないだけでリセットされるんだよ(笑)
アカリ:知らないよ。でもされるの。
シュウ:初日の朝とか特にね。
アカリ:そう! 教室入って好きな人いるじゃん。
ハルキ:またその場面(笑)
アカリ:だって大事なんだって。
シュウ:目が合う。
アカリ:そう。
シュウ:「おはよう」って言えばいいだけ。
アカリ:そうなの。
ハルキ:じゃあ言えよ(笑)
アカリ:それが言えないんだよ!
ハルキ:意味分かんないって(笑)
アカリ:こっちだって意味分かんないよ。
アカリは笑いながらテーブルに突っ伏した。
アカリ:夏休み前だったら普通に「おはよー」とか言ってたのに。
シュウ:久しぶりだから、ちょっとタイミング分からなくなるんだよね。
アカリ:そうそう。
ハルキ:じゃあ向こうから「おはよう」って言ってきたら?
アカリが顔を上げる。
アカリ:それは嬉しい。
ハルキ:言われたら普通に返せる?
アカリ:返せるよ。
シュウ:ほんとに?
アカリ:……たぶん。
ハルキ:怪しい(笑)
アカリ:でも絶対嬉しいじゃん。「あ、普通に話していいんだ」ってなる。
シュウ:分かる。
ハルキ:別に夏休み前から話してたなら、普通に話していいだろ。
アカリ:だから理屈じゃないの。
シュウ:一ヶ月分の空白があるんだよ。
ハルキ:一ヶ月分の空白(笑)
アカリ:でもその表現ちょっと分かる。
シュウ:その間に相手が何してたのか知らないし。
アカリ:髪型変わってるかもしれないし。
シュウ:ちょっと雰囲気変わってるかもしれない。
アカリ:もしかしたら彼女できてるかもしれない。
ハルキ:急に最悪の想像するじゃん。
アカリ:するでしょ!
シュウ:夏休みに好きな人と全然連絡取ってなかったら、ちょっと考えるかも。
アカリ:だよね。
ハルキ:でもそれ、新学期に会えば分かるじゃん。
アカリ:だから会うのが楽しみだし、怖いんだよ。
ハルキ:忙しいなあ。
シュウ:さっきも言ったけど、片思いって忙しいね(笑)
三人で笑う。
少しして、ハルキがポテトの空になった皿を見ながら言った。
ハルキ:でも俺、中学のとき一回あったな。
アカリ:何が?
ハルキ:夏休み前まで結構話してた女子と、新学期になったらなんか話さなくなった。
アカリ:え、なんで?
ハルキ:分かんない。
シュウ:好きだった?
ハルキ:いや、普通に友達。
アカリ:ほんとに?
ハルキ:なんで疑うんだよ(笑)
シュウ:で、そのまま?
ハルキ:いや、一週間くらいしたら普通に戻った。
アカリ:じゃあ何だったの?
ハルキ:だから分かんないって。
シュウ:そういうのあるよね。
アカリ:ある。別にケンカしたわけでもないのに。
シュウ:久しぶりだから、最初だけちょっと距離感がおかしくなる。
ハルキ:人間って面倒くさいな。
アカリ:ハルキもなってるじゃん(笑)
ハルキ:そうだった。
アカリは窓の外を眺めた。
アカリ:でもさ。
アカリ:新学期の最初に好きな人と普通に話せたら、それだけで結構いい一日じゃなかった?
シュウ:ああ、それは分かる。
ハルキ:そんなもん?
アカリ:そんなもんだよ。
アカリ:「おはよう」だけでもね。
夏休みの間、一度も会わなかった。
何をしていたのかも、誰といたのかも知らない。
それでも新学期の教室で、久しぶりに「おはよう」が言えたら。
一ヶ月あったはずの距離が、少しだけ元に戻った気がした。
休みが終わるのは嫌。でも、会えるのはちょっと楽しみ

シュウ:そう考えると、新学期って変な日だね。
アカリ:何が?
シュウ:学校始まるのは嫌なのに、ちょっと楽しみ。
アカリ:あー、それ。
ハルキ:俺は普通に嫌だったけど。
アカリ:友達に会えるじゃん。
ハルキ:友達なら夏休みも会うし。
アカリ:全員とは会わないでしょ。
シュウ:学校でしか話さない人って結構いるもんね。
アカリ:そうそう。別に遊ぶほど仲良くないけど、毎日ちょっと話してた人とか。
ハルキ:ああ、それはいたな。
シュウ:そういう人に久しぶりに会うの、ちょっと楽しい。
アカリ:で、その中に好きな人がいると。
ハルキ:結局そこに戻る(笑)
アカリ:今日その話してるんだから戻るでしょ。
アカリは空になったグラスを持ち上げた。
アカリ:おかわり取ってこよ。
シュウ:私も。
ハルキ:俺、コーラ。
アカリ:自分で行け。
ハルキ:ついでじゃん。
アカリ:やだ。
シュウ:私取ってくるよ。
ハルキ:シュウ優しい。
アカリ:甘やかさなくていいのに。
二人がドリンクバーへ向かい、しばらくして三人分の飲み物を持って戻ってくる。
ハルキ:ありがと。
シュウ:うん。
アカリ:でも私、新学期初日は結構好きだったな。
ハルキ:そんなに?
アカリ:教室入ったときの感じとか。
シュウ:久しぶりーってなるやつ。
アカリ:そう。みんなちょっとテンション高いの。
ハルキ:夏休み何してたとか聞かれるな。
シュウ:宿題終わった?とか。
アカリ:先生来るまでずっとしゃべってたり。
ハルキ:始業式めんどくせーって言ったり。
アカリ:そういうの。
三人とも、少しだけ懐かしそうに笑った。
シュウ:あと教室入ったら、最初に探さない?
アカリ:誰を?
シュウ:好きな人。
アカリ:……探す。
ハルキ:探すんだ(笑)
アカリ:探すでしょ。
シュウ:私も好きな人いたら探すと思う。
ハルキ:男子も探すんじゃない?
アカリ:ハルキも?
ハルキ:なんで俺だけ具体的に聞くんだよ。
アカリ:いいじゃん。中高のとき好きな子いたんでしょ?
ハルキ:まあ、いたことくらいあるよ。
シュウ:探した?
ハルキ:……いたら見るくらいはするだろ。
アカリ:探してんじゃん(笑)
ハルキ:うるさいな。
シュウ:みんな一緒だった。
アカリは楽しそうに笑った。
アカリ:それで見つけたらさ。
ハルキ:うん。
アカリ:ちょっと安心するんだよね。
シュウ:ああ。
アカリ:別に何かあるわけじゃないんだけど。「いる」ってだけで。
ハルキ:なんとなく分かる。
アカリ:で、髪型変わってたりしたら大事件。
ハルキ:最初に戻った(笑)
シュウ:一周したね。
アカリ:だって大事件なんだって。
ハルキ:はいはい。
アカリ:何その言い方。
ハルキ:でもまあ。
ハルキは少し考えてから、ストローに口をつけた。
ハルキ:休み明けに好きな人が前より可愛くなってたら、学校行ってよかったとは思うかも。
アカリ:でしょ?
シュウ:単純(笑)
ハルキ:アカリに言われたくない。
アカリ:私はもっと複雑だから。
ハルキ:自分で言うなよ(笑)
窓の外では、まだ夏の日差しが道路を照らしている。
夏休みが終わるのは嫌だった。
宿題は終わっていないし、朝は早くなるし、また毎日学校が始まる。
それでも。
夏休みの間、一度も会えなかった人がいるなら。
新学期も、そんなに悪いものではなかったのかもしれない。
教室のドアを開けて。
久しぶりにその人を見つける。
少し髪が伸びていたり、日焼けしていたり、なんとなく大人っぽく見えたり。
そして思う。
――やっぱり、好きかも。
そんな夏休み明けも、きっとある。



コメント