午後の編集部。
ミユがスマホを眺めながら、ふと思いついたように顔を上げた。
ミユ: ねえ、自分がその人のこと好きだって、いつ気づく?
ミカコ: また急だね
アカリ: でもそれ、めっちゃ気になる
ミサキ: 好きって、気づく瞬間あるわね
ミユ: でしょ? 最初から「あたしこの人好き!」って分かる時もあるけど、あとから「あれ? もしかして好き?」ってなる時もあるじゃん
ミカコ: 私はそっちの方が多いかも
アカリ: え、ミカコさん気づくの遅そう(笑)
ミカコ: どういう意味?
アカリ: 好きなのに「別に普通だけど」とか言ってそう
ミユ: 分かる(笑)
ミカコ: 二人とも失礼だな
ミサキが小さく笑いながら、テーブルの上のカップに手を伸ばす。
ミサキ: でも、自分で気づいてない好きってあると思う
ミユ: あるよね!
アカリ: じゃあ今日それ話そうよ。みんな何で気づくのか
ミカコ: もう始まってるけどね
そんな一言から、いつもの休憩時間が少しだけ恋バナの時間に変わった。
会いたいって思ったら、もう好き?

ミユ: あたしはね、理由なく会いたいって思ったら、かなり怪しいと思う
アカリ: わかる! 用事ないのに会いたいってやつ
ミカコ: でも友達でもあるでしょ。普通に会いたい人
ミユ: 違うの。会いたいの種類が違うの
ミカコ: 種類?
ミユ: 友達なら「あ、今度ご飯行こ」くらいじゃん。でも好きな人って、今日会えないかなとか、ちょっとだけでも会いたいなとか思わない?
アカリ: それある。なんなら学校で見かけるだけでもちょっと嬉しい
ミカコ: 若いなあ
アカリ: ミカコさんもあるでしょ(笑)
ミカコ: まあ……会えたら嬉しい人くらいはいるけど
ミユ: ほら出た!
ミカコ: だから、それだけで好きとは限らないって
ミサキ: でも、「会えたら嬉しい」から「会いたい」に変わった時って、ちょっと大きいかもね
ミユ: あ、それ分かる
ミサキ: 偶然会えたら嬉しい、じゃなくて。自分から会う理由を探し始める感じ
アカリ: うわ、それ好きじゃん
ミカコ: アカリは判定が早いね
アカリ: だってさ、「この授業終わったらあの人いるかな」とか考えてたら、もう好きでしょ
ミユ: うん。しかも別に話さなくてもいいの。姿見たいだけとか
ミカコ: そこまで行くと分かりやすいかもね
ミユ: あと、別れたあとすぐ「また会いたいな」って思うやつ
アカリ: あるある
ミサキ: 一緒にいる時間より、離れた後の方が気づくこともあるわね
ミユ: そう! 帰り道にもう会いたいの
ミカコ: それはかなり好きだね
ミユ: やっと認めた(笑)
会いたい理由なんて、別にない。
でも、理由がなくても会いたい。
それは案外、自分でも気づいていなかった気持ちが顔を出す瞬間なのかもしれない。
他の女性にモヤッとしたとき

ミカコ: 私は、嫉妬で気づくことあるかも
ミユ: えっ、ミカコさんが嫉妬!?
ミカコ: 私だってするよ
アカリ: なんかちょっと意外
ミカコ: なんで私だけ感情ない人みたいになってるの
ミユ: で、どんな時?
ミカコ: 別に好きだと思ってなかった人が、他の女性とすごく楽しそうに話してて。なんか嫌だなって思った時
ミユ: それもう好きじゃん!
ミカコ: そうやってすぐ決めるな(笑)
アカリ: でもめっちゃ分かる。好きって自覚する前の嫉妬ってある
ミユ: SNSもあるよね。女の子と写ってるの見て「誰?」ってなるやつ
アカリ: ある! しかも別に彼女でもないのに勝手に気になる
ミカコ: 面倒だね、恋愛って
ミユ: ミカコさん今日ちょいちょい外から見てない?
ミカコ: 当事者になると面倒だから
ミサキ: 嫉妬って、自分で隠してた気持ちが見つかることあるわ
アカリ: 隠してた気持ち?
ミサキ: 好きって認めてない時って、「別に気にならない」って自分に言い聞かせることあるでしょ?
ミユ: あるある
ミサキ: でも他の人が近づいた瞬間に、思ってたより嫌だったって気づく
ミカコ: 自分の気持ちより先に、反応が出る感じね
ミサキ: うん
アカリ: でも嫉妬したら絶対好きなの?
ミユ: お、急に冷静
アカリ: だって「自分より仲良くしてるのが嫌」みたいなのって、友達でもあるじゃん
ミカコ: そういう嫉妬もあるね
ミサキ: 嫉妬だけで決めなくてもいいと思う。でも、その後ずっと気になるなら、何かはあるのかもしれない
ミユ: その子誰なんだろ、どんな関係なんだろ、今日も話してるかな……
ミカコ: 急に具体的だね
ミユ: 想像力です(笑)
アカリ: それもう好きだって
ミユ: ですよね
好きだと気づく瞬間は、いつも嬉しいとは限らない。
少しモヤッとして、少し悔しくて。
その感情をたどった先に、「あ、あたしこの人好きなんだ」が待っていることもある。
気づいたら、その人のことばっかり話してた

アカリ: うちは、友達に言われて気づくのあるかも
ミユ: 何て?
アカリ: 「最近その人の話ばっかじゃない?」って
ミユ: あーーー! ある!
ミカコ: 自覚ないの?
アカリ: ないない。普通に今日こんなこと言ってたとか、こういうことあったとか話してたら、友達に「またその人?」って言われる
ミユ: で、その瞬間ちょっと恥ずかしくなるんだよね
アカリ: そう! え、そんな話してた?って
ミカコ: 周りの方が先に気づいてるやつね
ミユ: あとさ、何かあった時にその人に言いたくならない?
アカリ: なる!
ミカコ: 嬉しいこととか?
ミユ: そう。今日こんなことあったとか、これ面白かったとか、これ美味しかったとか
ミサキ: 何かあった時に、最初に思い浮かぶ人って大きいわ
ミユ: それそれ
ミサキ: すごく大きな出来事じゃなくてもいいんだと思う。コンビニで面白いもの見つけたとか、空がきれいだったとか
アカリ: あ、この人に送ろってなるやつ
ミカコ: 日常の中に普通に入り込んでるってことか
ミサキ: うん。気づいたら、その人に見せたいものが増えてる
ミユ: それちょっといいな
アカリ: 好きって、ずっとドキドキしてる感じだけじゃないんだね
ミカコ: 毎日それだと疲れるでしょ
ミユ: ミカコさん、現実(笑)
ミカコ: でも、何食べても何見ても全部その人思い出すレベルなら、さすがに気づくでしょ
ミユ: いや、それでも「仲良いからかな?」って言い張る人いるよ
アカリ: いるいる
ミサキ: 気づきたくない時もあるからね
三人が少しだけ静かになる。
ミユ: ……それはあるかも
ミカコ: 好きだって認めると、何か変わりそうな時とかね
アカリ: 友達のままがいいとか?
ミカコ: そういうのもある
ミサキ: でも、気持ちって名前をつけなくても、ちゃんとそこにあるんだよね
ミユ: 今日ミサキちょっと詩人だね
ミサキ: そう?
その人のことを考えようとしているわけじゃない。
なのに、気づけば会話の中に出てくる。
何かを見つけるたびに、伝えたいと思う。
そんな小さな積み重ねの方が、派手なドキドキより先に恋を教えてくれることもある。
気づいたときには、もう好きだった

ミユ: なんか話してたら、好きって気づく前からもう好きな気がしてきた
ミカコ: 後から名前つける感じはあるかもね
アカリ: 好きって認めた瞬間、今までのこと全部「あれもそうだったんだ!」ってならない?
ミユ: なるなる!
アカリ: あの日会えて嬉しかったのも、LINE待ってたのも、あの子と話してるの見てモヤったのも
ミカコ: 急に伏線回収始まるんだ
ミユ: 恋の伏線回収(笑)
ミサキ: でも本当にそんな感じかもしれないね
アカリ: ミサキさんは、好きっていつ気づく?
ミサキは少し考えてから、穏やかに笑った。
ミサキ: 気づいた時には、もう遅いくらい好きになってるかも
ミユ: うわ、ミサキっぽい
ミカコ: 遅いって?
ミサキ: 好きかな、どうかなって考えてるうちは、まだ余裕があるでしょう?
アカリ: うん
ミサキ: 私はたぶん、その人がいないと寂しいとか、誰かに取られたくないとか思ってから、「あ、好きなんだ」ってなる
ミユ: 結構深く行ってから気づくんだ
ミサキ: そうかも
ミカコ: でも人によるよね。最初から一目で分かる人もいるし、何か月も経って気づく人もいる
アカリ: うちは気づくの早い方かも
ミユ: アカリは顔に出そう
アカリ: 出ないし!
ミカコ: 出そう
ミサキ: 出そうだね
アカリ: みんなして(笑)
ミユ: でもさ、結局「この瞬間なら好き確定!」みたいなのはないのかもね
ミカコ: ないでしょ。人によるし
ミサキ: 気づいた瞬間に恋が始まるわけじゃなくて、気づいた時にはもう始まってるのかもしれないわね
ミユ: あ、それ好き
アカリ: なんか今日の締めっぽい
ミカコ: じゃあ終わりでいい?
ミユ: 待って待って。まだあたしの話あるから
ミカコ: で、ミユは誰の話してたの?
ミユ: え?
アカリ: 確かに。最初から妙に具体的だったよね
ミサキ: 会いたいとか、LINEとかね
ミユ: いやいやいや、一般論! 全部一般論!
ミカコ: 一般論にしては詳しかったけど
ミユ: 恋バナ好きだから詳しいの!
慌てて否定するミユを見て、三人が笑う。
好きだと気づく瞬間は、人によって違う。
会いたいと思った時かもしれない。
嫉妬した時かもしれない。
気づいたら、その人の話ばかりしていた時かもしれない。
でもきっと、その瞬間まで何もなかったわけではない。
小さな「会いたい」や「話したい」が積み重なって、ある日ようやく自分がそれに気づく。
恋って、そんなふうに始まっているのかもしれない。


