午後の編集部。
ミユがスマホを眺めながら、ふと思いついたように顔を上げた。
ミユ: ねえ、この前さ、自分がその人のこと好きだって気づく瞬間の話したじゃん?
ナナ: したね。会いたいとか、嫉妬するとか
ミユ: そうそう。じゃあ逆にさ
リク: 逆?
ミユ: 相手が自分のこと好きなんじゃない?って気づく瞬間ってある?
ナナが少しだけ考えるようにコーヒーのカップを置いた。
ナナ: ああ、好意に気づく瞬間ね
ケンジ: 恋愛で一番危ないやつだな
ミユ: なんでいきなり危険なの(笑)
ケンジ: ちょっと優しくされただけで、「あいつ俺のこと好きだろ」って始まるやついるだろ
リク: 勘違いは確かに怖いですね
ミユ: そういう自信満々な話じゃないって! なんかさ、「あれ? もしかして?」ってなる時あるじゃん
ナナ: それならあるかも
ミユ: でしょ? なんか自分にだけちょっと違うとか
リク: でも、好意なのか、その人がもともと優しいだけなのか判断難しくないですか?
ミユ: リクくん、始まる前から全部否定しないで(笑)
リク: 否定してないです。慎重なだけです
ケンジ: まあ、本人より周りの方が先に気づくこともあるけどな
ナナ: 「あの人、あなたにだけちょっと違くない?」って言われるやつね
ミユ: あー、それ言われた瞬間から急に意識し始める!
リク: それまで何とも思ってなかったのに?
ミユ: だって言われたら気になるじゃん。「え、そうなの?」って
ナナ: そこから相手の行動全部チェックし始めるんでしょ
ミユ: する(笑)
ケンジ: 恋愛の現場検証が始まるわけだ
ミユ: 事件みたいに言わないで
相手がよく話しかけてくる。
自分のことを妙に覚えている。
用事がないのに連絡が来る。
目が合うと、少しだけ様子が変わる。
ひとつだけなら気のせいかもしれない。
でも、それがいくつか重なった時。
「もしかして」と思う瞬間は、確かにある。
そんな、相手の好意に気づく瞬間についての恋バナが始まった。

自分だけ、ちょっと扱い違わない?

ミユ: あたし、一番分かりやすいのは「自分にだけちょっと違う」だと思う
ナナ: 例えば?
ミユ: 他の人には普通なのに、あたしにはめっちゃ話しかけてくるとか
ケンジ: あとは、何かと近くにいるとかだな
リク: でも、それがたまたま話しやすいだけってこともありますよね
ミユ: またそれ(笑)
リク: いや、可能性の話です
ナナ: リクは今日ずっとブレーキ役ね
ミユ: 恋の芽を片っ端から踏まないでよ
リク: 踏んでないですって(笑)
ケンジ: でもまあ、特別扱いって本人より周りの方が気づきやすいんだよ
ナナ: それはある。本人は普通だと思ってても、周りから見ると明らかに違う時あるもん
ミユ: 「あの人、ミユと話す時だけ笑ってない?」とか言われたら、もう無理
リク: 何が無理なんですか
ミユ: 意識しちゃうに決まってるじゃん
ナナ: それまでは何とも思ってなかったのにね
ミユ: そうなの。言われた瞬間から全部意味ありげに見えてくる
ケンジ: 昨日までただの挨拶だったのに、今日から「もしかして」になるわけだ
ミユ: そうそう(笑)
リク: でも、それ危なくないですか?
ナナ: また現実に戻す
リク: だって、周りに言われたことで自分がそう見始めるだけかもしれないですし
ミユ: それも分かるけどさ
ケンジ: 一個だけじゃ判断しない方がいいってことだな
リク: はい。話しかけてくる、近くに来る、よく目が合う。そういうのが重なってたら、少し意識するかもしれません
ミユ: お、リクくんちょっと恋愛側に来た
リク: ずっとこっち側です(笑)
ナナ: あとさ、他の人には頼まないことを自分には頼むとかもない?
ミユ: ある! なんであたし?ってやつ
ケンジ: 逆もあるな。何かあるたびに手伝ってくれるとか
リク: 困ってる時にすぐ気づいてくれると、ちょっと思いますね
ミユ: それ絶対好きじゃん
リク: だから確定しないでください(笑)
ナナ: でも結局、「他の人にもやってる?」って見るよね
ミユ: めっちゃ見る
ケンジ: 比較対象が出た瞬間、恋愛って急に分かりやすくなるからな
ミユ: 他の人には普通、自分にはちょっと特別。それが見えたら、かなり気づくかも
リク: 少なくとも「自分に興味を持ってくれてるのかな」とは思いますね
ナナ: そのくらいの受け取り方が一番ちょうどいいかも
一度だけ優しくされた。
一度だけ目が合った。
それだけなら、たぶん何とも言えない。
でも「自分にだけ」が少しずつ増えていくと、相手の気持ちがちらっと見えることもある。
やたら自分のことを覚えている

ナナ: 私は、前に一回だけ話したことを覚えてるとちょっと思うかも
ミユ: あー、それ分かる!
リク: 例えば?
ナナ: 好きな食べ物とか、苦手なものとか。こっちは軽く話しただけなのに、「前これ好きって言ってたよね」って出てくると、ちゃんと覚えてたんだって思う
ケンジ: 興味ない相手の細かい情報って、そんなに保存しないからな
ミユ: ケンジさん、人間をメモリみたいに言う(笑)
ケンジ: 容量には限界があるんだよ
リク: でも、小さいことを覚えていてくれると、少なくとも自分に興味は持ってくれてるのかなとは思いますね
ミユ: 誕生日とか覚えてたらかなり強くない?
ナナ: それは関係性にもよるけどね
ケンジ: 今はSNSが勝手に教えてくれる場合もあるしな
ミユ: そういう夢のない補足いらない(笑)
リク: あとは、ちょっとした変化に気づくとかもありますね
ナナ: 髪切った?とか?
リク: はい。いつもと雰囲気違いますね、とか
ミユ: それ言われたら絶対ちょっと意識する!
ナナ: でも女性同士だと普通に気づいたりするよ
ミユ: 男性から言われるとちょっと違うの
ケンジ: また種類が違う理論か
ミユ: 違うって(笑)。普段そこまで細かいこと言わない人に気づかれると、「見てたんだ」ってなるじゃん
リク: それは確かにありますね
ナナ: でも、よく見てる=好きとも限らないでしょ
ミユ: ナナさんまでリクくん側に行った
ナナ: だって仕事できる人とか、普通に人の変化よく見てるし
ケンジ: 接客業の人なんか特にな
ミユ: じゃあ何なら好きなのよ!
リク: 一個ずつ確定させようとするから難しくなるんですよ(笑)
ナナ: そうそう。覚えてる、変化に気づく、それで自分にはよく話しかける、とか。重なったら「もしかして」になるんじゃない?
ミユ: 単品じゃなくてセットなんだ
ケンジ: 恋愛セットメニューだな
リク: その言い方はちょっと嫌ですね(笑)
ミユ: でもさ、自分が好きな人のことって覚えてない? 何好きとか、前何言ってたとか
ナナ: まあ、覚えるね
リク: 僕も覚えてると思います
ミユ: ほら!
ケンジ: 好きな相手の情報は、勝手に優先保存されるんだよ
ナナ: 今日ほんとにメモリの話するね(笑)
ケンジ: 分かりやすいだろ
ミユ: じゃあ、「前これ好きって言ってたよね」って言うの、片思い中なら意外とアリかもね
リク: 自然に覚えてるなら、いいと思います
ナナ: わざとらしく全部覚えてるアピールすると怖いけどね
ミユ: 「3年前の6月12日に言ってたよね」とか?
ケンジ: それは好意より記録係だな
ふと話したことを覚えている。
小さな変化に気づく。
それだけで恋とは言えないけれど、誰かへの興味は、意外とそういう細かいところに出るのかもしれない。
用事がないのに連絡が来る

ミユ: あたし、用事ないLINEってかなり怪しいと思う
リク: また怪しいって言ってますね(笑)
ナナ: でも分かるよ。特に意味もないのに連絡くるやつでしょ
ミユ: そうそう。「今なにしてる?」とか、「今日こんなことあってさ」とか
ケンジ: 人間、話したい相手には話す理由を作るからな
リク: まあ、好きな人だと、特に用事がなくても話すきっかけを探すことはあると思います
ミユ: お
ナナ: 出たね
リク: 何ですか(笑)
ミユ: リクくん、それ経験談?
リク: 一般論です
ケンジ: 一般論って言うやつほど具体的なんだよな
リク: ケンジさんまで(笑)
ナナ: でも、連絡の内容より頻度かもね
ミユ: どういうこと?
ナナ: 一回だけ「何してる?」なら別に何とも思わないけど、それが何度も続くとか。会話終わったのにまた向こうから始まるとか
ミユ: あー、それはちょっと思う
リク: 話を続けようとしてる感じですね
ケンジ: 会話が終わりそうになるたびに薪を足してくるやつだ
ミユ: 恋の焚き火みたいに言わないで(笑)
ナナ: でも結構分かりやすいよね。興味なかったら、無理に会話続けないし
リク: 人にもよりますけど、少なくとも「もっと話したい」とは思ってそうですね
ミユ: それもうかなり嬉しくない?
ナナ: 片思い中ならね
ミユ: あと、会おうとするのもあると思う
リク: ご飯に誘うとかですか?
ミユ: うん。でもさ、めっちゃちゃんとしたデートじゃなくても、「このあと暇?」とか「近くいるなら会わない?」とか
ナナ: 用事作って会う感じね
ケンジ: 好きな相手には、人間ちょっとだけ無理して予定空けるからな
リク: それはあるかもしれません
ミユ: また経験談?
リク: だから一般論ですって(笑)
ナナ: 今日はその言葉便利だね
ミユ: でも片思いしてる側も、こういうの使えるかもね
リク: 使う?
ミユ: 好きっていきなり言えなくても、ちょっと連絡増やすとか、会うきっかけ作るとか
ナナ: それくらいなら自然でいいんじゃない?
ケンジ: 好意ってのは、全部隠したままじゃ相手も気づきようがないからな
リク: ただ、返事が薄いのにずっと送るのは違いますけどね
ミユ: そこ大事
ナナ: 相手も会話続けてくれるなら、少しずつ距離縮めるくらいがちょうどいいよね
ケンジ: ドアをノックするくらいにしとけ。蹴破るな
ミユ: 急に強盗みたいになった(笑)
リク: でも例えは分かりやすいですね
ナナ: 好きな人と話したい。
ナナ: 好きな人には会いたい。
ナナ: 結局、好意ってそういう単純なところにも出るんじゃない?
ミユ: うん。なんかそれが一番分かりやすいかも
特別な用事があるわけじゃない。
それでも話したいし、会いたい。
好意は案外、そんな小さな「理由のない行動」に出るのかもしれない。
目が合う、照れる、なんか変

ナナ: あと、目が合うのもあるよね
ミユ: ある! しかも何回も!
リク: それは確かに少し気になりますね
ケンジ: 一回なら偶然。三回くらい続くと、ちょっと話が変わる
ミユ: そうそう。こっちが見たら向こうも見てて、目合った瞬間そらすとか
ナナ: それ、分かりやすい人はほんと分かりやすいよね
リク: でも、見てる理由が好意とは限らないですけどね
ミユ: リクくん、最後までそこ守るね(笑)
リク: 大事なので
ケンジ: まあでも、好きな相手の前だけ妙に変になるやつはいる
ナナ: 変になる?
ケンジ: 普段めちゃくちゃ喋るのに、その人の前だと急に静かになるとか。逆に普段静かなのに、そこだけ頑張って喋るとか
ミユ: あー、あるある
リク: 緊張して普段通りじゃなくなることはありますね
ナナ: なんか自分と話す時だけ、ちょっとテンション違うとかね
ミユ: それ気づいたらめっちゃ意識するなあ
ケンジ: 好きな相手の前で平常運転できるやつばっかじゃないからな
リク: でも逆に、すごく自然に接する人もいますよ
ミユ: だから難しいんだって(笑)
ナナ: 結局さ、一個のサインで見るんじゃなくて、「なんか自分にだけ違う」が積み重なると気づくんじゃない?
リク: 僕もそれだと思います
ミユ: よく目が合う。話しかけてくる。前の話覚えてる。用事なくても連絡くる
ケンジ: それだけ並んだら、さすがに何かあるかもな
ミユ: でしょ!
リク: ただし、好き確定ではないです
ナナ: もう分かったって(笑)
四人が笑う。
ミユ: でも片思いしてる側からしたら、ちょっと参考になるよね
ナナ: 好意って、隠し切るより少し出た方が伝わるってことね
ケンジ: そうだな。好きなのに完全無表情、連絡もしない、会おうともしないじゃ、相手は超能力者じゃないんだから分からん
ミユ: それはそう(笑)
リク: 無理にアピールしなくても、話しかける回数を少し増やすとか、相手の話を覚えておくとか、それくらいでも伝わることはありそうですね
ナナ: 相手が心地よく受け取ってくれてるならね
ミユ: 好きバレって怖いけど、全然バレないのも困るもんなあ
ケンジ: 恋は多少漏れてるくらいがちょうどいい
ミユ: 好意を水漏れみたいに言わないで(笑)
ナナ: でもちょっと分かる
リク: 伝えようとしすぎず、隠しすぎず、ですかね
ミユ: じゃあリクくんは、好きな人には用事なくても連絡するし、よく話しかけるし、細かいこと覚えてるんだ?
リク: そこだけ全部つなげないでください(笑)
ナナ: 今日いちばん分かりやすい好意サイン出たね
ケンジ: 本人が一番気づいてないやつだな
リク: だから一般論ですって
午後の編集部に笑い声が広がる。
相手の好意に気づく瞬間は、たぶんひとつじゃない。
自分にだけ少し違う。
小さなことを覚えている。
理由がなくても話しかけてくる。
目が合った時、なんとなくいつもと違う。
そんな小さな違いが重なって、ある日ふと「もしかして」と気づく。
そして片思いする側も、全部を隠し切らなくていいのかもしれない。
少し話しかける。少し覚えている。少し会いたい気持ちを見せる。
好意って、そのくらいの小さなところから、案外ちゃんと伝わっていくものなのかもしれない。




コメント