昼休み。
編集部。
ナナはお弁当を食べ終え、コーヒーを飲みながらスマホを眺めていた。
ナナ:最近また格闘技ハマってるのよね。
試合動画。
選手インタビュー。
トレーニング風景。
次々と画面をスクロールする。
すると。
派手なゲーム広告が流れた。
巨大な敵。
ド派手な必殺技。
一発逆転。
ナナ:へぇ。
ナナ:これ面白そうじゃない。
すぐにダウンロード。
ナナ:午後の仕事まで少し時間あるし、一本だけやるか。
ゲーム開始。
……。
……。
……。
ナナ:ん?
木を切る。
石を集める。
畑を耕す。
ナナ:……。
もう一度広告を思い出す。
巨大な敵。
ド派手な必殺技。
そして現実。
木。
石。
畑。
ナナ:ちょっと待ちなさいよ。
ナナ:広告のゲーム、どこ行ったの?
木を一本切る。
石を拾う。
畑を耕す。
ナナ:違う違う違う!
ナナ:わたし今、世界救うつもりでダウンロードしたのよ!
ナナ:なんで農業始めてるの!
昼休み終了まであと三分。
ナナはスマホを閉じ、大きくため息をついた。
ナナ:……ムカムカする。
午後。
編集部。
ナナは席に着くなり、近くにいたミユとアカリを呼び止めた。
ナナ:ちょっと聞いてよ!
ミユ:どうしたの?
アカリ:なんか怒ってる(笑)
ナナ:昼休みに面白そうなゲーム見つけたの。
ナナ:広告では巨大な敵をバッサバッサ倒してたのよ。
ナナ:「これ絶対面白い!」って思って始めたら……。
アカリ:うんうん。
ナナ:木を切ってた。
アカリ:あーーーっ!(笑)
ミユ:あるあるある!(笑)
ナナ:全然あるあるじゃないのよ!
アカリ:石は?
ナナ:集めた。
ミユ:畑は?
ナナ:耕した。
アカリ:フルコースじゃん!(笑)
ナナ:わたしは世界を救いに行ったの!
ナナ:なんで立派な農家になってるのよ!
編集部に笑い声が響く。
ナナ:……今日はもうダメ。
ナナ:今夜は姉御めしで酒飲むしかない。

今日の姉御めし「高級もどき海鮮丼」
仕事帰り。
スーパー。
ナナは鮮魚コーナーの前で立ち止まった。
ナナ:今日は海鮮食べたいわねぇ。
マグロ。
サーモン。
ぶり。
うに。
いくら。
ナナ:……。
値札を見る。
ナナ:いやいやいや。
ナナ:どこの世界線なのよ?この値段。
もう一度見る。
ナナ:マグロ一パックで今日の晩酌終わるじゃない。
ゆっくり鮮魚コーナーを離れる。
その隣。
練り物コーナー。
ナナの足が止まる。
カニかま。
ナナ:カニっぽい。
うなぎ風かまぼこ。
ナナ:うなぎっぽい。
いくら風。
ナナ:いくらっぽい。
三つを見比べる。
ナナ:……。
ナナ:あんたたち、本物にはなれなかったのね。
少し沈黙。
ナナ:でも今日は、あなたたちに賭ける。
三人まとめてカゴへ。
ナナ:今日のスタメン決定!
夜。
自宅。
炊飯器を開ける。
ナナ:よし。
ご飯。
ドン。
カニかま。
バサッ。
うなぎ風。
ポン。
いくら風。
パラパラ。
醤油。
ドバーーーッ。
ナナ:完成!
ナナ:切らない。
ナナ:飾らない。
ナナ:今日は勢いで食べる。
冷蔵庫からビール。
プシュッ。
ナナ:お疲れ、わたし。
乾杯。
一口。
……。
もう一口。
……。
ビール。
もう一口。
ナナ:あれ?
ナナ:普通にうまいじゃない。
カニじゃない。
うなぎでもない。
いくらでもない。
でも。
ちゃんと海鮮丼を食べてる気分になる。
ナナ:広告もそうだけど。
ナナ:「それっぽい」って、意外とバカにできないのよね。
そう言いながら、もう一度ビールを流し込んだ。

広告は違った。でもゲームは悪くなかった。
翌日。
昼休み。
編集部。
ナナはスマホをじっと見つめていた。
ミユ:あれ?
ミユ:昨日のゲームじゃない?
アカリ:アンインストールしたんじゃなかったの?
ナナ:……悔しくてね。
ナナ:昨日は腹が立ちすぎて、ちゃんと遊んでなかったのよ。
ナナ:もう一回だけやってみようと思って。
ゲーム開始。
木を切る。
ナナ:はいはい、木ね。
石を拾う。
ナナ:石ね。
畑を耕す。
ナナ:はいはい、農家ね。
アカリ:もう受け入れてる(笑)
すると。
新しい建物が完成する。
仲間が増える。
少しずつ街がにぎやかになる。
ナナ:……。
さらに十分後。
ミユ:ナナさん?
返事がない。
アカリ:ナナさん?
ナナ:ちょっと待って。
ナナ:今、小麦が収穫できる。
編集部が笑いに包まれる。
ミユ:昨日あんなに怒ってたのに(笑)
ナナ:……なんかね。
ナナ:広告と違うのは今でも腹立つ。
ナナ:でもゲーム自体は、これはこれで面白い。
アカリ:でしょ?
ナナ:昨日の海鮮丼もそうだったわ。
ナナ:カニじゃない。
ナナ:うなぎじゃない。
ナナ:いくらでもない。
ナナ:でも普通にうまかった。
ミユ:確かに(笑)
ナナ:このゲームも同じ。
ナナ:広告とは違う。
ナナ:でも面白い。
ナナ:……なんか悔しい。
アカリ:昨日から悔しがってばっかり(笑)
ミユ:じゃあ昨日のご飯もゲームも、どっちも”悪くない”だったね。
ナナ:そういうこと。
ナナ:見た目だけで決めつけると、損することもあるってことね。
そう言いながらナナは、また木を一本切った。
アカリ:まだ切るの!?(笑)
ナナ:今日は森を育てる日なのよ。
編集部に笑い声が響いた。



